インタビュー

対話による介入「オープンダイアローグ」とは?

 KAZOCが取り組むオープンダイアローグとは、「開かれた対話」による精神科のクライシス(精神症状の悪化に起因する危機)介入の手法です。「対話」の場を重視することで良好な治療成績をあげています。第3回は、オープンダイアローグの具体的な内容について、渡邊さんに伺いました。

対話を繰り返すリフレクティング・プロセス

渡邊:
オープンダイアローグは、フィンランドの西ラップランドという地方にあるケロプダス病院だけで行われている取り組みです。そこが、エビデンスが桁違いの論文を出したことで注目されました。
日本では統合失調症患者への向精神薬の投与率は99%といっても言い過ぎではなく、治療=薬のイメージですが、それがケロプダス病院の論文では投与率25%だというのです。また、統合失調症は国際水準でいうと100人に1~2人は発症すると言われていて、文化的な影響や男女差もないとされていますが、これが一万人に一人という発症率だというのです。ということは、統合失調症の症状が投薬治療をせずに半年以内に症状が消失しているということになる…もう衝撃的でしたね。
どのようにして実践していくのでしょうか。
渡邊:
オープンダイアローグでは、ファミリーセラピーという構造を取っていて、一対一ではなく、家族の中に支援者が複数名で入っていきます。対話を促進するために必要であれば、親せき、学校の先生、職場など外の人も参加し、リフレクティング・プロセスという方法で対話を繰り返すのが特徴です。
当初は、ファシリテーターを置いて家族に話をさせて、それをマジックミラーの外側から見ている専門家が、家族の問題点を修正するための質問を遠隔でファシリテーターに伝えるという方法でした。しかし、ノルウェーの精神科医トム・アンデルセンが、片方だけが見えていて、もう片方が見えていないのはどうなのかと考えて入れ替えを行うようになりました。
今度は家族の話を元に専門家が話をする場面を、家族が見ることになったわけです。自分たちの会話がどう解釈されているのかを知ることで、何かが変化する、構造が変わるということで実践と研究が進み、そこで起きているのは対話が促進されるということであるということがわかりました。
次に、対話であればもっとフランクなほうがいいとマジックミラーがなくなり、ただの日常会話の中で時折、専門家同士がパッと向き合って専門的な話をして、また元に戻るようなやり方になっていきました。
こうした対話の繰り返しが薬以外の治療方法になり、それが統合失調症の発生率を下げているというのです。
患者さんと家族が直接話をすると、ケンカも起こりそうですね。
渡邊:
ケンカもありますね。だけど、みんなに気づきがあるんですよね。
人と話していることを外的対話、話を聞いて自分の頭で考えることを内的対話とすると、対話が二層構造になっていると考えられます。ファシリテーターは、家族という内側の構造と家族以外の外側の構造を出入りしながら、外的対話と内的対話にアプローチしていく。その時ファシリテーターは家族構造の何かを掴んで出たり入ったりするような…。
これがすごく難しくて、何かとはいったい何なんだ…という話になるんですけど(笑)、論文では「LOVE(愛だ)」と言っているんですよ。愛だと。
困難を抱えている家族の中に入り込むときに持ち込むものが愛だとすると、それは血族や恋愛の愛ではなく、母性の愛でもなく、セクシャルなものでも自己愛でもなさそう…。社会的なもののようですが、日本ではあまりその文化がないのかもしれませんね。

オープンダイアローグの実際

実際にどのような会話のやりとりをされていくのでしょうか。
渡邊:
例えば、引きこもりの息子さんがいてお母さんはどうにかしたい、本人はたまに暴力をふるってしまうんだけど、というような状況の場合、まずは二人の話を聞きますが、この時の話は説明なんですね。
僕らがやりたいのは、探索、つまり内的対話に持っていきたいので、それが始まるようにリフレクティングをします。二人の前で専門家の一人が「こんなに長い間、家にいざるを得ない状況だったら、とんでもなく大変な体験だったんじゃないかと思います」などと本人について話をします。もう一人はお母さんにピントをあてて、「息子さんがこういう状況ですごく大変だったと思う…」と話をしたとします。
すると、それを聞いた本人たちの中で、「暴力はまずかったな」とか、「本当に辛かったな」とか、何かしらの気づきが生まれるので、それをすくい取りながらリフレクティングを繰り返すという感じです。
繰り返すことで、患者さんや家族はどうなっていきますか。
渡邊:
最初は感情が出てきて早口だったり、ケンカになったりもすることもあります。しかし、対話を進めていくと、お互いに自分で考える内的対話が増えてくるので、最後のほうはアウトプットとしてはゆっくりで、外的対話がスローになります。
オープンダイアローグの勉強をしている人たちの属性によって、いろんな見方もあります。研究領域だと心理分析的なテクニカルな捉え方をするだろうし、僕らのような在宅領域だと生活に密着してくるような捉え方になるだろうし、いろいろな解釈があってまとまっていない。エビデンスとしてはしっかりあるんですけど、説明のつかないところもありますね。
精神科医の斎藤環さんが言っていたんですが、起こってしまったこと、過去はもう変わらない。でもメモリの容量は小さくすることはできると。トラウマ体験は心のメモリをめちゃくちゃ食うけれど、それを語り直すことによって容量に占める割合は小さくなっていく、それが大事なんですよと。
対話とか語りにはそういうところがある気がします。変化ではあるけれど、変容ではないんですね。
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株式会社Neighborhood Project 代表取締役
訪問看護ステーションKAZOC 作業療法士・精神保健福祉士
渡邊 乾
都内の精神科病院に就職し、日本の精神科医療の現実を知る。その後、浦河べてるの家、イタリア・トリエステの活動を視て地域支援を志す。2013年に精神科訪問看護ステーションKAZOC(かぞっく)を開設。当事者研究、ハウジングファースト、オープンダイアローグなどの先進的な手法を取り入れ、精神疾患を持った人たちの在宅生活を支援している。
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