コラム

採用力を上げる「求人パンフレット作成」のすすめ

第4回は、引き続き組織の『採用力』を上げるために取り組むべき「採用デザイン力」について紹介していきます。前回も書きましたが、この「採用デザイン力」はどんな組織でも注力すれば最も効果が出やすい要素です。今、採用について課題を感じているのであれば、ぜひ参考にして取り組んでみてください。

求人パンフレット作成のすすめ

まず、応募者側の立場に立って就職(転職)活動を考えてみます。
一般的には、いくつかの求人広告サイトから職種や地域などの条件で絞って検索し、出てきたリストを上から順に見ていきます。ヘッドコピーや写真、事業所名などから、少し興味を持ったところは詳細情報に入ってみていく・・・。さらに興味を持ったところは、事業所のサイトも検索してみていく。そんな中で、自分に合っている職場かを吟味して、1~5事業所に絞って面接などの応募行為へと移っていきます。あるいは、紹介会社に登録して、担当者に希望条件を伝え、提案を受けたいくつかの事業所から応募先を選んでいきます。つまり、まずは数ある求人広告の中から面接候補先として選ばれることが重要で、そこに選ばれなければ適切な人材に巡り合うこともありません。
そこで提案したいのが、採用活動のコンセプトブック的な「求人パンフレット」を作っておくことです。求人パンフレットとは、事業所のビジョン、仕事内容、給与などの条件、職場環境などの情報をA4用紙5~10枚程度にまとめた小冊子です。求人広告サイトや紹介会社が提供する求人情報では、情報量が限られていたり、魅力が伝承されなかったりして、自事業所の情報が正しく求職者に伝わらない可能性があります。競合他社との優位性を訴求すること、関心を持ってくれた応募候補者に、伝えきれていなかった情報を過不足なく伝えることが目的です。
先に述べたとおり、応募者は複数の候補先から選定しますので、この段階で何らかの魅力を訴求して、他の事業所より頭一つ抜けることができれば応募者数が増加します。また、求人パンフレットを作っておけば、求人広告サイトの登録ごとに考えないといけないメッセージや情報の素材として活用できるので、メッセージや情報を一から作らなくてよいですし、作成者によるメッセージのブレを無くすこともできます。紹介会社には求人パンフレットを渡すだけで、紹介会社に作成してもらうこともできますし、自事業所のサイトにそのまま掲載することもできます。

訴求力のある求人パンフレットの作り方

自事業所のビジョン・特長は何か?入職したらどんな仕事で、どんな1日か?どんなスキルが得られるか?勤務時間や給与などの条件は?どんな職場環境で、どんな仲間か?などの具体的な情報を応募者に伝えて、実際に働いたときのイメージを伝えることがこのパンフレットの目的です。他にも、仕事で得られるスキル、1日のスケジュール、研修制度、給与などの条件、スタッフの紹介、よくある質問をQ&A形式で紹介しておくこともお薦めです。応募者にPDFファイルで送ったり、面接時に渡したり、さまざまな場面で活用することができます。
私が事務長を務める訪問看護ステーションの求人パンフレットを下記のQRコード・URLからダウンロードできるので、以下に紹介する作成のポイントも参考にして、自事業所オリジナルの求人パンフレットを作ってみてください。
  求人パンフレットサンプル https://bit.ly/3pURpPa

求人パンフレット作成のための10のポイント

①他の訪問看護ステーションの求人原稿を参考にする

数多くの事業所の求人広告の中から惹かれる求人広告を5ヶ所くらい選んで参考にしながら作ることをお薦めします。共感するフレーズを参考にしたり、日頃から管理者自身が口にしている言葉などに置き換えたりして、自事業所を紹介する文章を作っていきましょう。

②『裏付け』のある表現に努める

一般的な求人原稿は「患者さんに寄り添い」や「スタッフ同士は仲良く」といった美辞麗句が並びがちですが、それでは求職者の心には届きません。例えば「毎週○曜日はケースカンファレンスを行って……」や「○○の専門医による直接の指導……」と言った具合に、文章の中に具体的な『裏付け』を表現するように努めれば、ぐっと伝わる良い文章になります。「ママさんナース3名在籍」などの数字で表現するのも良いでしょう。

③読みやすさとデザイン、写真の質を上げていく

デザインなどに過度に凝る必要は無いですが、読み手となる応募者の気持ちを考えた適切な文量やレイアウト、職場やスタッフの写真を掲載して雰囲気を伝えようとする姿勢は、必ず読み手に伝わります。作ってはスタッフや色々な人に見てもらい、アドバイスをもらってさらに修正して、ということを繰り返して求人パンフレットを磨き上げていきましょう。

④求職者が魅力に感じるポイントを載せる

ビジョンも重要ですが、「衛生要因」的な押さえどころも重要です。応募者がどんな点を重視しているかを理解して発信しましょう。ちなみに当院の選定理由は、①医師がいる(往診同行から始められる、医師と相談できる)、②学べる環境、③職場の雰囲気、④ワークライフバランスという順です。自事業所の魅力を理解しておき、求人パンフレットにも盛り込みましょう。

⑤学べる環境を謳う

真面目な人を採用したい場合は、学べる環境であることが条件になります。これは医療業界の一つの法則です。逆の見方をすると、学べる環境をつくることができれば、真面目な人材を採用しやすくなるでしょう。制度になっていなくても、学びにつながる要素を丁寧に集めて発信することを検討してみてください。

⑥歓迎感を伝える

文章で歓迎していることを表現することも良いですが、それ以外にも歓迎感を伝える方法がいろいろあります。スタッフ何名かで職場について話し合っている座談会の様子を掲載したり、新人さんの感想を載せたりすることもよいでしょう。
採用パンフレットは、組織的な協力が有るかないかで完成度は大きく異なります。組織的に協力体制がある職場の求人パンフレットは見るだけで歓迎感が伝わるでしょう。

⑦良いことも悪いことも事実を伝える

自事業所の魅力や特長を発掘して、少しだけ背伸びした程度の表現が良いでしょう。過度に装飾することは逆に信頼を失います。良いことも悪いこともフラットに伝え、悪いことは改善に向けて実際に行動に移すこと、行動に移していることを伝えることが重要です。

⑧地域の医療機関・訪問看護ステーションに負けない条件を検討する

医療機関の求人は、地域内での人材の取り合いといった側面がありますので、自事業所の特長や給与などの条件は、地域のほかの事業所よりも魅力的になるように、できるだけ多くの地域の競合他社の求人情報と比較しながら負けない条件を検討しましょう。

⑨条件は具体的に、わかりやすい表記に

給与などの条件表記はいろいろな書き方がありますが、基本情報や手当の詳細に加えて、「入職2年目の年収例○○万円……」などのように、年収表記もすることが望ましいです。評価制度や昇給の有無についても記載しましょう。

⑩デザインのプロに依頼する

原稿作りは自身で行ったとしても、求人パンフレットのデザインによって見え方が大きく異なります。コンテンツがある程度そろったら、デザインをうまくまとめてくれるプロのデザイナーに依頼するのもよいでしょう。クラウドワークス(https://crowdworks.jp/)などを使えば5~10万円できれいにまとめてくれます。

魅力的な組織づくりが優れた採用活動につながる

「事業所の魅力を伝える」というニュアンスで書いてきましたが、それは過度に装飾することではありません。自事業所のビジョンを語り、魅力や特長を発掘して、少しだけ背伸びした程度の姿を応募者に伝えるという意味です。採用活動とは、事業所と応募者が双方理解する活動です。望ましいのはお互いが正しく理解した相思相愛であって、現実と異なる過度の装飾によって誘引し、無理につなぎとめることではありません。未熟で発展途上の訪問看護ステーションであれば、注力すべきは本当に良くして行くために行動に移すことです。
今回の求人パンフレットの作成をする中で、自事業所の良いところと、悪いところに気づくこともあるでしょう。最も優れた採用活動の根っこは、真に魅力的な組織になることであることを忘れないでください。
株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 シニアマネージャー/医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 事務長
村上典由
 【略歴】
兵庫県出身。甲南大学経営学部卒業。広告代理店での勤務を経て、阪神大震災を機に親族の経営する商社、不動産管理会社などの経営再建と清算業務に従事。2001年からMBOにより飲食店運営会社を設立し副社長を務める。2009年より株式会社メディヴァに参画。「質の高い医療サービスの提供」を目指して在宅医療の分野を中心に医療機関・企業・自治体などの支援を行なっている。医療法人社団プラタナス桜新町アーバンクリニックの事務長を兼務。2015年度政策研究大学院大学医療政策短期特別研修修了。

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