特集

脊髄性筋萎縮症

脊髄性筋萎縮症/難病を知る

今回は、発症する年齢によってさまざまなタイプに分類され、予後も異なる脊髄性筋萎縮症について解説します。ALSとの違いを理解する必要があります。

病態

脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう:SMA)は、進行性で筋力低下や筋萎縮が起こる運動ニューロンの疾患です。

運動ニューロンのうち、上位運動ニューロンは、脳の大脳皮質運動野から出た指令を、脳幹や脊髄に伝えます。下位運動ニューロンは、脳幹や脊髄に伝わった指令を、末端の筋肉に伝達します。SMAは、脊髄の細胞の変性により、下位運動ニューロンが障害される疾患です。

よく知られる筋萎縮性側索硬化症(ALS)も、運動ニューロンの障害が原因です。ALSは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの、両方が障害される疾患です。

幼児期に発症するSMAの多くは、遺伝性の要因が主です。それに対して、成人期の発症例では遺伝子変異がない例が多く、複数の要因がかかわっていると考えられています。

疫学

SMAはI~Ⅳ型に分類されます。Ⅲ・Ⅳ型では生命予後は良好です。それぞれの特徴は以下のとおりです(個人差があります)。

I型(重症型、ウェルドニッヒ・ホフマン病)

●出生直後から生後6か月ごろまでに発症
●急激に運動機能の低下が進行する
●筋緊張の著明な低下
●支えなしに座位をとれない
●奇異呼吸(吸気時に胸部がへこみ呼気時に膨らむ)
●舌の線維束性収縮(舌の細かい震え)
●嚥下障害(経管栄養療法が必要)
●呼吸筋の筋力低下(人工呼吸器が必要)

Ⅱ型(中間型、デュボビッツ病)

●1歳6か月ごろまでに発症
●座位は保てるが、支えなしに起立や歩行ができない
●舌の線維束性収縮、手指の振戦
●成長にしたがって関節拘縮と側彎が生じる

Ⅲ型(軽症型、クーゲルベルグ・ウェランダー病)

●1歳6か月以降に発症
●よく転ぶ、歩けない、立てない
●小児期以前に発症した場合、側彎がみられる

Ⅳ型(成人期以降発症)

●成人期から老年期にかけて発症
●軽度の筋力低下
●発症年齢が遅いほど進行は緩やか
●認知機能低下や呼吸器の症状はみられない

治療・管理など

症状に合わせた対症療法を行います。Ⅰ・Ⅱ型では嚥下障害がみられるため、経管栄養療法が選択されることがあります。呼吸不全には、マスクによる非侵襲的陽圧換気(NPPV)も有効ですが、Ⅰ型ではほぼ全例で気管切開下陽圧換気(TPPV)が必要になります。

以前は上記のような対症療法のみでしたが、最近ではSMAの病因となる遺伝子の作用発現を抑制する遺伝子治療薬も登場しています。

Ⅰ~Ⅳのどの型であっても、筋力低下や関節拘縮に対するリハビリテーションが有効です。また、必要に応じ、装具導入を検討する必要があります。

リハビリのポイント

●筋力低下や関節拘縮を評価し、理学療法を計画する。必要ならば装具の導入も検討する
●呼吸障害に対してNPPVやTPPVが選択される
●嚥下障害では嚥下の補助も検討する
●車いすを選択するときは上肢の筋力も評価する。小児では上肢の筋力が弱いため、電動車いすが適していることがある
●側彎がある場合は手術が選択されることもある

看護のポイント

●患者により症状・重症度はさまざまなので、それぞれに合わせた対症療法を行う
●座位保持、起立、歩行の状態や転びやすさなど、運動機能を観察する
●栄養状態、嚥下困難や哺乳困難がないか、観察する
●呼吸状態の変化を観察する
●寝たきりの場合は、褥瘡の有無等、皮膚状態を確認する

など

次回は亜急性硬化性全脳炎について解説します。

**

監修:あおぞら診療所院長 川越正平
【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。

記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
※1 厚生労働省『令和元年度衛生行政報告例 統計表 年度報 難病・小児慢性特定疾病』2021-03-01
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450027&tstat=000001031469&cycle=8&tclass1=000001148807&tclass2=000001148808&tclass3=000001148810&stat_infid=000032045204&tclass4val=0
・難病情報センター『脊髄性筋萎縮症(指定難病3) 病気の解説(一般利用者向け)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/135
・国立精神・神経医療研究センター『脊髄性筋萎縮症』
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease28.html

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