コラム

看取りの作法 ~ 最期の1週間

在宅医が伝える在宅緩和ケア

訪問特化型クリニックの医師が、在宅緩和ケアのtipsをご紹介します。第1回は、汎用性が高く、かつ頻度も高い「予後1週間以内の看取りの流れを家族に説明する」です

ごあいさつ

はじめまして。杉並PARK在宅クリニック 院長の田中公孝と申します。

私は、家庭医の専門研修を修了した後、自身が地域包括ケアや人生の終末期に関心があること、またさまざまな社会課題とも深くかかわっていることから、在宅医療をメインのキャリアとして選びました。最近では、2021年4月に東京都杉並区西荻窪で訪問特化型のクリニックを開業し、地域で通院困難となり、さまざまな課題をかかえる高齢者のご自宅を日々訪問しながら、地域の多職種連携や地域づくりについて考えつつ、診療を行っています。

かれこれ8年以上在宅医療に携わってきた私がこれまで在宅医療を通じて獲得してきた在宅緩和ケアのtipsを、NsPaceの場をお借りしてご紹介できたらと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

看取りのプロセスをお伝えする

がん末期の患者さんが

「食事がまったくとれなくなってきた」
「寝ている時間がかなり長くなってきた」

という状態は、予後が数日と予測できる段階です。

そのような報告を受けると、私は臨時訪問し、

「亡くなるまでの期間、いわゆる予後が週の単位から日の単位に移行してきた可能性があります。おそらく、あと1週間以内くらいかもしれません。」

という話をします。

ご家族に、

  • 1週間前になると寝ている時間が長くなり、食事をとらなくなる
  • 尿が少なくなったり、血圧が下がってきたり、手足が冷たくなってきたりする
  • 手足をバタバタさせて、いわゆる混乱しているような状態になる

こと、

  • 1〜2日前になると下顎呼吸というものが出てきて、やや苦しく見えるような呼吸をする

ことをお伝えします。

心構えを提供する

なぜこのような説明を1週間前の時点でするかというと、ここから先はご家族が不安になる症状が日の単位で出てくるため、心構えとして、また、観察項目としてお伝えするといった意図があります。

というのも、これを説明しておかないと、毎回毎回の変化にご家族は驚き、不安を募らせ、このままでいいのかと苦悩してしまいます。人は、これから起きることを、あらかじめ知っていれば冷静になれるという特徴に気づいてからは、こうした一般的な看取りの流れをご説明して、心構えをしてもらいます。

看取りまでのプロセスに関する説明をしっかり聞いてもらったご家族からは、

「先生に聞いたとおりの流れになりました。」

「このまま様子をみていて大丈夫なんですよね。そうすると明日、明後日くらいでしょうか?」

という語りが聞かれ、もし下顎呼吸が出現してきても

「いまの呼吸が下顎呼吸というものでしょうか?」

といった冷静な語りが聞かれるようになります。

看取りのパンフレット

説明の際には、OPTIMから出ている「これからの過ごし方について」、通称我々が「看取りのパンフレット」と呼んでいる資料を見てもらいながら説明していきます。
口頭の説明だけでは、ご家族もその場だけで覚えきれない、または理解しきれない可能性があるため、説明した後は資料をお渡しし、あとでじっくり読んでもらうことにしています。

OPTIM(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)「これからの過ごし方について」

http://gankanwa.umin.jp/pdf/mitori02.pdf

私はこのパンフレットをあらかじめ印刷して持ち歩き、診療の合間に連絡を受けてもすぐに臨時訪問していつでも使えるようにしています。

在宅緩和ケアの役割

予後が約1週間になると、さまざまな症状が現れます。

たとえば、夜中にせん妄状態になるときや、つらそうで見ていられないというご家族の場合は、まだご本人が薬を飲めそうであれば鎮静目的でリスペリドンの液を内服してもらうこともあります。下顎呼吸になる手前では、内服中止の判断も必要になってくるでしょう。

ただ、そういった様子も自宅看取りの予定どおりの流れです。基本的には、勇気を持って見守ってもらうようにお話をしています。

さらに不安が強いご家族の場合は、看取り直前に一度往診をし、おそらく明日明後日にはお亡くなりになるだろうというお話をします。

苦しそうなのが心配というご家族の場合は、酸素の設置をすることもあります。

もちろん、こうした鎮静薬や酸素、麻薬なども、緩和ケアとして重要な手段ではありますが、この後起こりうる状況を具体的に説明して、ご家族と目線合わせをすることが在宅緩和ケアの肝となるプラクティスだと考えています。

訪問看護師への期待

看取りに非常に慣れた訪問看護師さんは、ご自身たちで用意したパンフレットをもとに看取りの流れを説明されます。

そんな看護師さんがいる場では、私は予後をご家族にお伝えするのみで、その後の細やかな説明はお任せできます。頓用薬のタイミングもある程度任せています。

在宅医としては、こうした看取りの流れを説明できる訪問看護師さんがより増えていくと、同時に担当できるがん末期患者さんを増やすことができます。

まだ訪問看護歴の浅い看護師さんであってもぜひベテランの訪問看護師さんに聞きながら、積極的にトレーニングをしてもらえることを期待します。

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著者:田中 公孝

2009年滋賀医科大学医学部卒業。2015年家庭医療後期研修修了し、同年家庭医療専門医取得。2017年4月東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げにかかわり、医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、市や医師会のICT事業などにもかかわる。引き続き、その人らしく最期まで過ごせる在宅医療を目指しながらも、新しいコンセプトのクリニック事業の立ち上げを決意。2021年春 東京都杉並区西荻窪の地に「杉並PARK在宅クリニック」開業。

杉並PARK在宅クリニックホームページ
https://www.suginami-park.jp/

記事編集:株式会社メディカ出版

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