特集

Dr.高山が直伝 在宅のノロウイルス感染症対策(後編)

急性胃腸炎を引き起こす病原体の中でも、特に問題になるノロウイルス。この悩ましい感染症について、在宅ケアでの対策を考えてみましょう。後編では、具体策を解説します。

在宅患者が発症しているとき

接触予防策

訪問スタッフは、厳格な接触予防策をとってケアにあたります。
すなわち、手袋と、袖まであるガウンを着用します。

ケアが終了したら、丁寧なガウンテクニック(汚染された外側を触れないこと)に従って手袋とガウンを脱ぎ、家庭の洗面台をお借りして、流水による手洗いを行ってください。

汚染時の処理方法

環境が嘔吐物や排泄物で汚染された場合には、乾燥して飛散する前に処理することが大切です。

家庭における嘔吐物や排泄物の処理方法  

1.処理しようとする人は、使い捨ての手袋・マスクを着用する
2.嘔吐物や排泄物をペーパータオルなどで静かに集めて、ビニール袋に入れる
3.嘔吐物や排泄物で汚染された場所を塩素系消毒薬で浸すように拭き、その後、水で拭く
4.使ったペーパータオル・手袋・マスクをビニール袋に入れ、全体が浸る量の塩素系消毒薬をかけてから、しっかり縛って廃棄する
5.最後に、流水と石鹸でよく手を洗う

訪問スタッフだけでなく、できれば家族にも指導してください。

器材の取り扱い

血圧計のマンシェットや、聴診器といった、ノンクリティカル器材については、可能なら本人専用として、次の利用者と共用しないことが望ましいでしょう。

大切なことなので繰り返しますが、エタノールで清拭してもノロウイルスは不活性化できません。どうしても共用せざるを得ない場合には、次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒してください。

家庭で適切な濃度の溶液を作製する方法は、前編でお伝えしたとおりです。

いつまで必要か?

こうした対策の実施期間については、いまだ考え方は定まっていません。

厳格な立場をとろうとすると、ウイルスが排出されている可能性のある2週間以上は続ける必要があることになってしまいます。しかし、排出されていることと、感染性があることは必ずしも一致しないと考えられます。
米国CDCのガイドラインでは、ウイルス排出が「高水準」である期間は隔離を行なうことが望ましいとし、その期間について「通常は症状が軽快した後の24~72時間」という考えを示しています2)

ちなみに、沖縄県立中部病院の在宅チームでは、少し長めにとって「症状が軽快してから5日間」を接触予防策の期間としています。
3~5日間の範囲で、現実的かつ可能な対策を、事業所ごとに決めていただくのがよいと思います。

なお、症状を認める在宅患者のケアを担当した訪問スタッフは、急性胃腸炎の接触者とみなします。これはスタッフの家族に症状を認めているときも同様です。
接触後3日間は事業所の責任者が症状を確認し(自己申告はあてになりません)、症状出現があれば、すぐに就業停止としてください。

同居する家族が発症しているとき

非常に悩むところです。正直なところ、ノロウイルスの家庭内における感染拡大を確実に防ぐことは困難だと思います。
特に、(在宅患者さんが寝たきりではなく)トイレを家族と共用している場合には、感染してしまう可能性はさらに高まります。

とはいえ、腎不全など基礎疾患がある在宅高齢者にとって、急性胃腸炎は命にかかわりかねない感染症です。現実的な範囲での対策について、家族に提案していきたいところです。

食事の準備

まず、症状のある家族は、在宅患者に提供する食事の準備にかかわらないことが原則です。
ほかの家族にがんばっていただくか、ヘルパーさんに集中的に入っていただくなどの対応を、訪問看護師から提案していただければと思います。

どうしても症状のある家族が食事の準備をしなければならないときは、すべての手順において手袋を着用し、サラダなどの生モノの提供は避けること。85℃以上かつ1分以上の加熱調理を原則とします。

食器を共用しないことも大切です。特に、症状のある家族が箸をつけた惣菜を、在宅患者が後から口にしないよう、あらかじめ取り分けておくよう指導しましょう。

手洗い

もう一つ大切なことは、こまめに手を洗っていただくことです。特に、トイレの後ケアを開始する前には、石鹸を使って丁寧に洗うように伝えます。

また、風呂については症状がある家族が在宅患者よりも後に入り、リネン類は共用しないようにします。

症状のある家族がトイレや風呂を使用した後には、次亜塩素酸ナトリウム溶液で清拭するほうがよいかもしれません。

ただし、どこまでやれるかは家族次第です。現場で続けられず、破綻することが明らかな対策を、専門家として提案すべきではありません。ある意味、それは責任転嫁ともいえます。
家族に挫折感や罪悪感を残すことがないよう、家族ごとに「可能な感染対策のレベル」と「対策疲れに陥らない期間」を見極めてください。

訪問スタッフが発症しているとき

嘔気や下痢、発熱などの症状を認める場合は、診断が確定しているか否かに関わらず、症状が消失するまで仕事を休んでください。

感染対策が励行できることを前提として、症状が消失すれば就業は可能です。すなわち、ケアの前に手を洗い、手袋を着用するなど接触予防策を行ってください。
こうした対策は、少なくとも症状が消失してから5日間は徹底するようにします。

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執筆者
高山義浩
沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 副部長

記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】

1)Gerald,LM.et al.Mandell,Douglas,and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases.6th ed.London,Churchill Livingstone,2004.
2)CDC.Immunization of health-care workers:Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)and the Hospital Infection Control Practices Advisory Committee(HICPAC).MMWR.46(RR-18),1997,1-42.
3)CDC.Prevention and control of influenza.MMWR.53(RR-6),2004,1-40.
4)CDC.Updated norovirus outbreak management and disease prevention guidelines.MMWR.60(RR-3),2011,1-15.

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