特集

脊髄小脳変性症

脊髄小脳変性症とは、小脳を中心とした神経系の障害によって、運動失調症をきたす複数の疾患を、まとめて指す呼び方です。

病態

脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)とは、単一の疾患名ではなく、主に小脳の障害による運動失調症をきたす疾患の総称です。
例えば、多系統萎縮症の一部に、運動失調症を呈するものがあり、それらは脊髄小脳変性症に分類されます。

小脳失調とは

小脳は、平衡感覚や運動、姿勢を制御しています。姿勢、手足の動きのバランスをとる、体中の複数部位の動きが協調するよう同時にコントロールする、といった運動調節機能を担っています。

小脳が障害されると、小脳失調が現れます。小脳失調とは、スムーズな動きができなくなり、歩行時にふらつく、手が震える、ろれつが回らないなどの症状です。

小脳失調があっても、その原因が特定の要因によるもの(脳梗塞・脳出血や脳腫瘍、感染症、自己免疫疾患、栄養素欠乏、薬剤性など)は、脊髄小脳変性症とは呼びません。

脊髄小脳変性症には、小脳失調だけではなく、脊髄病変もしくは錐体路障害がある場合もあります。

疫学

脊髄小脳変性症の患者数は全国で3万人超と推定されています。

脊髄小脳変性症は、遺伝性のものとそうでないものに大きく分けられます。
全体の3分の2が、遺伝性ではない脊髄小脳変性症(孤発性)です。多系統萎縮症と、皮質性小脳萎縮症の2つが、孤発性脊髄小脳萎縮症です。

残り3分の1が遺伝性の疾患で、代表的なものにマシャド・ジョセフ病(SCA3)や、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)などがあります。遺伝性の脊髄小脳変性症では、多くの疾患で、原因となる遺伝子が明らかになっています。

受給者証所持者数

2019年度末時点での、脊髄小脳変性症の受給者証所持者数は約2.7万人です。そのうち、70歳以上が約1.4万人と、過半数を占めています。(※1)
なお、制度上、脊髄小脳変性症と多系統萎縮症とは、別の指定難病として認定されています。

症状・予後

脊髄小脳変性症の代表的な症状には、立ち上がりや歩行時にふらつく、手を動かそうとすると震えてうまく使えない、舌がもつれてうまく話せないといったものがあります。体は動かせるのですが、いくつもの動きを協調させることが困難になり、スムーズな動きができなくなるためです。

小脳失調よりも、足の突っ張りや歩行障害などの症状が目立つ、脊髄病変がある疾患もあります。
脊髄後索病変があると末梢神経障害の合併、大脳基底核に病変があるとパーキンソン症状や不随意運動の合併がみられます。このような病型は多系統障害型と呼ばれます。

脊髄小脳変性症の予後は疾患によりかなり異なりますが、症状の進行は非常に緩やかで、急激に悪化することはありません。
疾患によっては、進行すると嚥下障害や呼吸や血圧の調節障害などが現れることがありますが、多くの場合はコミュニケーションをとることは十分できます。

治療法

疾患により治療法は変わります。症状に応じて対症療法が行われます。
小脳失調に対しては、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)製剤などが使用されます。
また、足の突っ張りなどの神経症状には筋弛緩薬が使用される場合もあります。

小脳失調を中心とする脊髄小脳変性症では、集中的なリハビリテーションもバランスや歩行の改善に効果があるとされています。

リハビリテーションのポイント

●環境整備や福祉用具の検討など、症状や生活習慣に合わせた対策をとる
●本人の歩行能力とバランス能力に応じたプログラムを計画する
●基本動作訓練と組み合わせ、ADLに関連した作業療法も検討する
●嚥下障害に対し、食形態や食事姿勢、食器の見直しなども含めて摂食嚥下リハビリを検討する 
など

看護の観察ポイント

●小脳失調以外は患者によって症状が異なるため、疾患名や症状の見通し、ADLへの影響などを、医師に確認する
●転倒予防策など環境整備の状況を確認する
●どのくらいの頻度・どんな状況で転倒するのか確認する
●日常生活やセルフケアに支障をきたす症状の有無を確認する
●症状の変化を確認する
●患者が、家族・介護職など周囲と意思疎通を十分に図れているかを確認する
●患者・家族が不安やストレスを抱えていないかを確認する

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監修:あおぞら診療所院長 川越正平
【略歴】
東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。

記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】

※1 厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病.令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.
○難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4879
○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4880
○「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018』東京,南江堂,2018,297p.

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