特集

大脳皮質基底核変性症

神経系には多くの難病があり、その実態や症状が似通ったものが多く、確定診断が難しいといわれます。大脳皮質基底核変性症も、そうした難病の一つです。

病態

大脳皮質基底核変性症(だいのうひしつきていかくへんせいしょう:CBD)は、その名前のとおり、大脳皮質と、脳の深部にある基底核の神経細胞が壊死し徐々に減少していく疾患です。

そのため、大脳皮質の障害による症状と、筋肉の強張りなど、パーキンソン病に似た症状が一緒に現れます。
大脳皮質の障害による症状は、思う通りに手足が動かせないなどです。大脳皮質には、運動を調節する機能があるためです。

また、症状に左右差があることも特徴です。

神経細胞内に、異常化したタウタンパク質が蓄積し、神経細胞の壊死をきたします。根本の発症原因は不明です。
アルツハイマー病や進行性核上性麻痺などでも同様の現象がみられます。

近年の研究から、CBDの症状は非常に多彩であることがわかってきています。症状に左右差のないタイプ、進行性核上性麻痺のような症状がみられるタイプ、失語や認知機能障害が主体となるタイプなども報告されています。

疫学

正確な発症頻度はわかっていませんが、推定で人口10万人あたり2~8人程度と、ごくまれな疾患と考えられています。
発症年齢は40~80歳代が中心で、平均は60歳代です。発症に男女差はありません。遺伝性も確認されていますがごく一部で、一般的には遺伝はしません。

症状・予後

大脳皮質基底核変性症でまず特徴的なのは、パーキンソン病に似た症状と、大脳皮質障害による症状を併発することです。

パーキンソン様症状

●筋強剛
●動きがゆっくりになる・少なくなる
●ジストニア(手足の筋肉の緊張が持続して力が入ったままの状態になる)
●手足の振戦(震え)
●ミオクローヌス(手足がぴくつく)
●進行すると、姿勢保持障害(体のバランスが取りにくく、転倒しやすい)

大脳皮質症状

●肢節運動失行(単純な動作がスムーズにできず、ぎごちなくなる)
●構成失行(描画、立方体の構成など空間的把握が困難になる)
●高次脳機能障害(失語、半空間無視など)
●他人の手徴候(片側の手が、他人の手のように勝手に動く)
●把握反射(手に触れたものを反射的につかむ)
●認知機能障害

初期に自覚しやすいのは、片側の手(または足)の動きがぎこちなくなることや、動きの緩慢さなどです。

加えて、症状に左右差がみられる点も特徴です。典型例では、まず片側の手が思うように動かせないなどの症状が出て、それが同じ側の足に広がり、反対側の手足にも進行していきます。画像でみると、大脳の萎縮の程度にも左右差があります。

進行すると、構音障害、嚥下障害、眼球運動障害がみられることもあります。

予後は悪く、発症から5~10年ほどで寝たきりになり、誤嚥性肺炎や、寝たきりに伴う全身衰弱が死因の多くを占めます。

治療・管理など

治療のポイントとしては、生命を脅かす重大な合併症、たとえば転倒・骨折や誤嚥性肺炎の予防や治療が中心となります。

在宅のCBD患者で特に注意したい点があります。CBDは、病期の早い段階から高次脳機能障害も進行し、認知症に近い位置づけとなります。そのために、胃瘻造設の適応になりづらい、といったことが課題になり得ます。 ですから、早期からの意思決定支援が、より重要だといえます。

リハビリテーションのポイント

できるだけ長く身体機能やADLを維持できるように、症状に応じて行います。運動療法では、パーキンソン病進行性核上性麻痺に準じてリハビリが計画されます。

●筋力の維持のための運動
●病状の進行につれ体が固くなるため、緩和するためのストレッチ
●動きのぎこちなさを改善する目的での訓練
●拘縮を防ぐための関節可動域訓練
●嚥下機能低下がある場合は、嚥下機能訓練の検討や、食形態の見直しを考慮する
●言語障害がある場合は、言語訓練を検討し、コミュニケーション方法を考慮する
●転倒しやすいため、環境を観察し、手すりの設置など対策を検討する
●けが防止の環境整備(家具の角を保護材で覆う、物を整理するなど)
●左右の手足に症状の差があるため、補助具も有効 
など

看護の観察ポイント

●ADLや身体機能の変化
●日常生活への支障
●転倒の頻度や状況などの確認
●家庭環境の転倒リスク
●嚥下機能の変化
●ADLやコミュニケーション状態、精神状態の変化
●半側空間無視の徴候(食卓上の同じ側の食べ物を必ず残すなど)の有無
●家族や介護職とコミュニケーションがとれているか
●認知症を疑う症状出現の有無
●家族の身体的・精神的負担の程度 
など

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監修:あおぞら診療所院長 川越正平

【略歴】
東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。

記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】

○難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『大脳皮質基底核変性症(指定難病7)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/142
○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け) 』『大脳皮質基底核変性症(指定難病7)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/291
○「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会『大脳皮質基底核変性症』『認知症疾患診療ガイドライン2017』東京,医学書院,2017,289-94.

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