インタビュー

女性が働きやすい社会を後押しするフェムテック

産婦人科医の稲葉可奈子先生に、訪問看護師として働く女性の健康について語っていただきました。

女性の健康課題をテクノロジーで解決

皆さん、「フェムテック(Femtech)」という単語を聞いたことはあるでしょうか。今、働き方改革を進める企業などで注目されている話題のキーワードです。
フェムテックとは、女性(Female)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、女性が抱える健康課題を、テクノロジーを活用することで解決するサービスや商品全般を指します。

女性は月経、妊娠、出産、更年期など、一生にわたり女性特有の健康課題を抱えて生きています。これまでは、そうした健康課題 ── とくに月経などは、あからさまに話題にすべきことではないと、タブー視されてきました。女性特有の心身の不調は「理解されなくてもしかたがない」とあきらめる傾向が世界的にありました。

特に日本では、女性の社会進出が遅れたこともあり、かつては仕事を続けながら出産・育児をすることが困難な環境にありました。現在ではかなり制度面が整ったとはいえ、それでもたとえば、産婦人科を受診することに関して、とてもハードルが高いと感じている女性は多いようです。

でも、女性の社会進出が進んできたことを背景に、女性自身も自らの健康に対する意識が変わってきたのではないでしょうか。そこに登場したのがフェムテックです。

女性の意識の変化と同時に、テクノロジーの進化の追い風もあって、フェムテック市場は拡大し、基礎体温や月経周期を管理するアプリを活用する女性も増加しています。

日本でも増えつつあるフェムテックアイテム

フェムテックは欧米がリードしており、すでに数多くのフェムテック関連アプリやデバイスが発売されていますが、遅れをとっていた日本でも少しずつ増えてきています。

フェムテックがカバーする領域はとても広く、「月経」「妊娠/不妊」「産後ケア」「更年期」「婦人科系疾患」「セクシャルウェルネス」などにカテゴライズされています。日本でフェムテックアプリの分野に先鞭をつけたのは、2000年に登場した生理日管理アプリでしょう。

直接的なフェムテックではありませんが、女性が働きやすい社会を後押しするアイテムも注目を集めています。

最近では、月経カップがそうですね。経血をカップで受けるもので、カップを折りたたんだ状態で膣内に挿入し、無感覚ゾーンでカップを広げて使用します。経血をトイレに捨てたら、再び膣内に戻します。

また、大手ファストファッション企業が開発元とコラボして販売している生理用ショーツも話題です。
ショーツと生理用ナプキンが一体化したもので、普通の日用だとおおよそタンポン2本分くらいの吸収力があります。ナプキンの代わりとしてだけでなく、おりものが多くておりものシートが必要なときや、尿漏れでパッドが必要な場合にも活用できます。「月経ショーツ」というよりも「吸水ショーツ」ととらえていただくと、活用の幅が広がります。

訪問看護師の仕事では、生理中や尿漏れが気になっても、トイレに行くタイミングを自由にとりにくいものです。こういったアイテムも考慮できると思います。

女性の健康課題に社会全体で取り組む時代に

フェムテックに限らず、女性が働きつづけやすい環境づくりは、今後社会全体で取り組むべき問題です。

私が啓発活動に取り組んでいる子宮頸がんワクチンも、女性の健康課題解決ツールのひとつと考えてもらいたいですね。小学6年~高校1年の3月までは無料で接種できます。安全性も確認されているので、娘さんをお持ちの方は、ぜひ一度、親子で話し合ってみてください。

日本産科婦人科学会のサイトなど、信頼のおける情報源にあたることが重要です。私が代表を務める「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」でも、子宮頸がん予防やHPVについてわかりやすいパンフレットや動画を作っています。ぜひご覧ください。

フェムテックは女性だけのものではありません。女性の健康課題は、妊娠や不妊がそうであるように、男性にも大いにかかわりがあるのです。

同時に、女性が健康課題に悩むことなく快適に働ける就労環境は、男性社員にも、企業にも、歓迎されるものでしょう。

そのため、近年は企業が女性特有の健康課題に対してアプローチする動きが高まっています。たとえば、「女性向けの健康相談サービス」を福利厚生として導入している企業もあります。これからの時代は、性差や個人を越えて、社会全体でヘルスリテラシーを向上させる必要があるのではないでしょうか。

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稲葉可奈子
(産婦人科専門医・医学博士)
京都大学医学部卒業後、東京大学大学院で博士号取得。現在は関東中央病院産婦人科勤務。四児の母として子育てをしながら、子宮頸がんの予防や性教育など、正しい知識の啓発も行っている。

記事編集:株式会社メディカ出版

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