特集

前頭側頭葉変性症

前頭側頭葉変性症は、人格変化をきたすことが多い難病です。記憶障害など認知症に特徴的な症状がある場合は、前頭側頭葉型認知症ともいわれます。

病態

前頭側頭葉変性症は、認知症の原因疾患の一つとしても知られます。名前のとおり、大脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が変性し、失われていく疾患です。

前頭葉は、情報の整理・判断、理性や行動抑制にかかわる脳の司令塔です。
側頭葉は、感情と、視覚・聴覚・言語機能にかかわります。
前頭側頭葉変性症では前頭葉と側頭葉が萎縮するため、認知機能障害をはじめ、人格変化や行動障害、失語症、運動障害などの、広範囲の症状がみられます。

神経細胞の変性は、異常なたんぱく質の細胞内への蓄積によるものとされていますが、なぜそうした現象が起こるのかはわかっていません。

欧米では前頭側頭葉変性症において3~5割の頻度で家族内の遺伝が認められていますが、日本ではほとんど確認されていません。

疫学

40歳から64歳までの若年期に発症することが多いのが特徴です。65歳未満に発症する若年性認知症のなかでは、前頭側頭葉変性症の割合が高いことが知られています。

国内には1.2万人程度の患者がいると推定されていますが、診断が難しいこともあり、前頭側頭葉変性症と診断がついていない人も多いと考えられています。2019年度末時点での前頭側頭葉変性症での受給者証所持者数は1,000人程度です。年齢別にみると60歳代がピークです。

症状・予後

若年での発症が多く、人格変化・行動障害や言語障害が主な症状です。

人格変化・行動障害の症状例

●社会的に不適切な行動をとる、礼儀やマナーが失われる、衝動的に行動するなど抑制がきかなくなる。そのため、万引きや盗み食いなどの反社会的行動をとることもある
●周囲や自分への関心の低下、自発性の低下
●共感や感情移入ができなくなる
●同じ行動や言葉を繰り返す(常同行動)。いつも同じ時間に同じ行為を行う(時刻表的生活)、毎日必ず決まったコースを散歩する(常同的周遊)など
●食事や嗜好の変化。過食になり、濃い味つけや甘いものを好むようになる
など

言語障害の症状例

●富士山の写真を見ても、山であることはわかっても富士山と認識できない(意味記憶障害)
●信号機を見ても「信号機」と呼称できないなど、言葉の意味や物の名前などの知識が失われる(意味性失語)
など

認知機能障害もみられますが、発症年齢が若く、物忘れよりも上記の二大症状が主体になるため、認知症(前頭側頭葉認知症)とは気づかれず、診断が遅れることも少なくありません。

そのほかに、震え、動作緩慢、関節拘縮、易転倒性などのパーキンソン症状や、筋力低下、筋萎縮、四肢の突っ張りなどの運動ニューロン障害を伴うケースもあります。これらの症状は嚥下機能障害や寝たきりにもつながります。運動ニューロン障害では呼吸筋麻痺が出ることもあり、注意が必要です。
症状はゆっくり進行し、報告によると発症からの平均寿命は行動障害型で約6~9年、意味性失語型では約12年です。

治療・管理

根本的な治療法はありません。治療は対症療法が中心です。
行動障害には、抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が一部有用との報告があります。
認知機能障害に対しては、アルツハイマー型認知症に使用されるコリンエステラーゼ阻害薬は、一部の症状を悪化させることもあるため、服用中は観察が必要です。
行動異常に関しては、これまでの生活様式や維持されている機能を生かすことで軽減できる場合もあります。患者それぞれの症状への理解を深め、家族が適切な対応方法を学ぶことは負担軽減のうえでも有用です。

若年での発症が多いため、仕事や育児、経済面など、さまざまな部分に影響がおよびます。複数の社会資源の調整が必要で、行政も含め多職種との連携が重要です。

リハビリテーションのポイント

●筋力低下や転倒しやすさなどがある場合は、機能維持を目的としたリハビリも大切
●転倒しやすい場合は、室内の物を片づける、家具などの角にカバーを付けるなど、けが予防策を講じる
●嚥下機能障害には嚥下リハビリや食形態の工夫などが有効

看護の観察ポイント

●転倒しやすいなど運動障害の有無
●転倒によるけがを防ぐ環境整備
●症状の変化・新たな症状の出現
●日常生活やセルフケアで本人や家族が必要としている支援
●嚥下障害、誤嚥性肺炎を疑う症状
●家族の疾患に対する理解度
●家族の介護負担
など

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監修:あおぞら診療所院長 川越正平

【略歴】
東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。

記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『前頭側頭葉変性症(指定難病127)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4841
〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『前頭側頭葉変性症(指定難病127)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4840
〇「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会編.『前頭側頭葉変性症』『認知症診療ガイドライン2017』東京,医学書院,2017,263-80.
〇祖父江元ほか監修.『前頭側頭葉変性症の療養の手引き』島根,「神経変性疾患領域における基盤的調査研究」班,2017,71p.

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