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言葉が理解できない

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第4回は、痛みを訴えない患者さんの行動の理由を考えます。

事例背景

70歳代男性。
がんの多臓器転移で、緩和治療に移行。家族の「家で過ごさせたい」との意向から、自宅に戻り、訪問診療・訪問看護を開始した。以前から認知症もある。
訪問時、家族に様子をうかがうと、昼夜問わず落ち着かない様子があり、ベッド上をぐるぐる回ったり、服を脱ぎだしたりするという。ときおり腹部をさする様子はあるが、看護師が痛みやそのほかの症状を聞いても返答がない。

なぜ患者さんは問いかけに答えないのか?

この患者さんは認知症が進行して、失語がみられています。

認知症が進行すると、言葉を見つけることや、理解することが難しくなります。そのため自分の言いたいことを相手に伝えることができず、また、相手が話している内容が理解できなくなります。この患者さんも、問われている内容が理解できず、痛みを感じていても「痛い」という言葉が見つけられず、表現できないでいる可能性が考えられます。

また、認知症が進行すると、注意を集中することが難しくなります。そのため、自分に向けて問い掛けられていることに、気づいていないのかもしれません。

認知症の初期では、同じことを何度も言う、つじつまの合わない会話をするなどから、周囲から冷たい対応をされがちです。そのため認知症患者はとても傷つき、人とかかわる意欲が削がれてしまうことがあるのです。人とコミュニケーションをとらないと言語機能はいっそう速く低下しますし、顎関節の拘縮や声帯の萎縮、肺活量の低下を引き起こし、ますます発語が困難になります。

さらにこの患者さんの場合、がんの進行や転移により、疼痛や倦怠感、悪心などで、体力や意欲を消耗していると考えられます。このような身体的苦痛により、発語に対する意欲も低下し、問い掛けに答えない状態と考えられます。

失語への対応

話し掛けるときの環境を整える

この患者さんは、認知症のため集中力が低下しています。また、加齢により、視力や聴力も低下している可能性があります。

そこで、言葉が聞き取りやすいよう、周囲の雑音、動くものなど、患者さんの集中力の妨げになるものを取りのぞき、より静かで落ち着いた環境を提供する必要があります。

当然のことですが、看護師は患者さんが話し掛けやすい態度で接することが重要です。

自己紹介をする

認知症が進行すると、人物の見当識障害が出現します。また記憶障害のために、病気や治療、訪問看護のことを、覚えていることができません。そのため、自分に話し掛けている人が看護師であることを理解することが難しくなります。

まず、自分(看護師)が誰であるのか、名札を示しながら自己紹介し、「苦痛を伝えてもよい人」と認識してもらう必要があります。

ゆっくり落ち着いて、短くはっきり伝える。なるべく簡単に「はい」「いいえ」で答えられるような質問をする

認知症が進行すると、言語の理解力も低下します。そのため、なるべくわかりやすい言葉で伝える必要があります。患者さんがふだん使用している言葉や、方言などで話しかけることが有効な場合もあります。

また、失語による喚語困難から自分の伝えたい言葉が出てこない場合があるので、痛みなどの重要な質問では「はい」「いいえ」で答えられるように問うとよいでしょう。

表情・しぐさ・動作などの非言語的コミュニケーションで伝える

知覚は、認知症が進行しても最後まで残る能力だといわれます。そのため、話し掛ける際には肩に手を置くなど、患者さんの注目を得られるような動作が有効です。

顔の表情や声の調子など、メリハリをつけて話し掛けることで反応がみられる場合もあります。

また、痛みについて聞く際も、腹部をさすり、顔をしかめる動作が通じることもあります。看護師が行ったジェスチャーを、認知症の患者さんが真似した場合、痛みのサインの可能性が考えられます。

痛みのサインを見きわめ、共有する

これらのコミュニケーションをとっても、発語が望めないことも考えられます。その際は、患者さんの表情や行動から、痛みのサインを見きわめなければなりません。

顔をしかめる、痛みが出現する部位をさするなどは、一般的な痛みのサインです。脱衣や落ち着かない様子は、痛みが強く身の置き所がないため生じている可能性があります。

他にも、痛みの行動や反応として、閉眼している、口をかたく結ぶ、うめく、体を丸めて臥床する、介助への抵抗をするなどがみられます。

これら痛みのサインを、多職種チームとご家族とで共通認識することが重要です。

こんな対応をしてみよう!

この患者さんの場合、落ち着かず、ベッドから起き上がって服を脱いだり、ベッド上をぐるぐる回ったりする行動がみられています。ご家族と相談し、こんな行動を見かけたら、医師の指示のもとレスキューを使用してみましょう。しばらく行動がおさまるようであればレスキューの効果があったと考えてよいと思います。

どんな状態のときにレスキューを使用し、どんな反応がみられたか、ご家族の協力も得てしばらく重点的に観察してもらい、その情報から、痛みのサインやレスキューの効果について把握できると思います。そこから得た情報を家族指導に生かせると、療養生活がスムーズに送れるでしょう。

こんな対応はDo not!

× 「痛いなら痛いってちゃんと言ってください」と患者さんを叱責する
× 「何も訴えがないなら、痛みや苦痛はない」と考えて放置する
× ベッド上で動くと転倒・転落の危険があるため身体拘束を行う

執筆
梅﨑かおり(うめさき・かおり)
帝京科学大学 医療科学部 看護学科
 
監修
堀内ふき(ほりうち・ふき)
佐久大学 学長
 
記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
〇三村將ほか.『認知症のコミュニケーション障害:その評価と支援』三村將ほか編著.東京,医歯薬出版,2013,180p.
〇北川公子.『認知機能低下のある高齢患者の痛みの評価:患者の痛み行動・反応に対する看護師の着目点』老年精神医学雑誌.23(8),2012,967-77.

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