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性的行動がある場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第7回は、ひわいな言動がみられるようになった患者さんの行動の理由を考えます。

事例背景

70歳代男性。パーキンソン病と認知症があり、訪問看護を利用している。

先日、誤嚥性肺炎を発症し、入院となった。入院加療で肺炎は軽快したため、自宅へ戻り、訪問看護を再開。
入院加療中から、ひわいな言動が目立つようになっており、訪問を再開した訪問看護師が、体を触られた。

なぜ患者さんは、ひわいな言動を繰り返すようになったのか?

認知症と性的脱抑制

認知症の患者さんは、ときに社会的な規範を脱して性的な行動を示すことがあります。ひわいなことを言ったり、異性の体を触ったり、性行為を迫るなどの行動がみられます(性的脱抑制)。

しかし、性的な言動は、性的な快楽だけを目的としたものとは限りません。人とのつながりやスキンシップを求め安心したい、自尊心を傷つけられたくないといった思いも背景にあります。

体調悪化や環境変化からくる不安やストレス、焦燥感などが、こういった言動としてあらわれる場合があります。

パーキンソン病と誤嚥性肺炎

パーキンソン病は、進行すると、嚥下障害を起こすリスクが高まります。パーキンソン病の症状、上肢の振戦・強剛、舌運動や咀嚼運動の障害、顎の強剛、流涎、口渇、嚥下反射の遅延、喉頭挙上の減弱、喉頭蓋谷や梨状窩への食物貯留、食道蠕動運動の減弱などが要因です。
さらに、パーキンソン病のある高齢者は、誤嚥性肺炎を繰り返しやすくなります。食物が気道に誤って入り、あるいは、知らない間に細菌が唾液とともに肺に流れ込み、細菌が増殖しやすいためです。
誤嚥性肺炎は、発熱、咳、喀痰、息苦しさなどの症状を呈します。しかし、特に高齢者の誤嚥性肺炎は、症状の訴えはなく、何となく元気がないなどのこともあります。

高齢者は予備力が低下しているため、容易に肺炎などによる低酸素状態に陥りやすく、身体的変化に不安を感じることがあります。

環境変化の影響

高齢者の生理的な変化として、環境などへの適応力が低下します。生活リズムや環境・人間関係が変化することで、不安な気持ちなどが心身に大きな変化をもたらすこともあります。この患者さんは慣れない入院生活を経験し、不安や不満が生じたとしても無理はないと思われます。

性的な行動の理由は患者さんによってさまざまです。この患者さんのように、相手の体に触ろうとする行為は、寂しさや不安、不満などから起こったと考えられます。

患者さんをどう理解する?

患者さんの言動に対して、看護師が強い口調で「いやらしい」「やめてください」などと言ってしまうと、本人のプライドを傷つけ、より言動が悪化する可能性があります。話題の方向を変えるなどプライドを傷つけないような配慮が必要です。看護師が騒いでしまうと、かえって本人を面白がらせる結果になりえます。

ただ、体を触るなどの行為がエスカレートする可能性がある場合は、あいまいな態度をとったり、聞き流したりせず、毅然とした態度で注意することが必要なときもあります。さりげなく短い言葉で注意することが効果的です。また、2名以上の職員でかかわり、個室内にて1人で対応することを避ける、男性看護師がケアにあたるのもよい対応です。

リラックスした雰囲気で、本人の昔の思い出、楽しかったことやつらかったことなどを聴くのもよいでしょう。時間を使ってじっくり話を聴くことは、大変なようですが、結果として本人の精神的安定にもつながり、性的な行動をとる原因が見つかる手がかりになることがあります。

そのほかの対策として、日中の運動量を増やして夜間ぐっすり眠れるようにする、趣味などの別の物事に打ち込ませることで性的欲求不満をそらすなども有効と思われます。

たとえば、今回の場合は「タッチして合図しなくても大丈夫ですよ、ご用があったら名前で呼んでくださいね」といったように、さりげなく話題の方向を変えて、プライドを傷つけないように配慮します。

執筆
浅野均(あさの・ひとし)
つくば国際大学医療保健学部看護学科 教授

 
監修
堀内ふき(ほりうち・ふき)
佐久大学 学長

 
記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
1)松下正明ほか監.『個別性を重視した認知症患者のケア』改訂版.東京,医学芸術社,2007,166p.
2)鷲見幸彦監著.『一般病棟で役立つ!はじめての認知症看護』東京,エクスナレッジ,2014,213p.
3)川畑信也.『これですっきり!看護・介護スタッフのための認知症ハンドブック』東京,中外医学社,2011,128p.
4)清水裕子編著.『コミュニケーションからはじまる認知症ケアブック』第2版.東京,学研メディカル秀潤社,2013,173p.
5)日本認知症ケア学会編.『改訂・認知症ケアの実際Ⅱ:各論』東京,ワールドプランニング,2008,300p.
6)三好春樹.『目からウロコ!間違いだらけの認知症ケア』東京,主婦の友社,2008,191p.
7)服部英幸編.『BPSD初期対応ガイドライン』東京,ライフ・サイエンス,2012,171p.
8)日本神経学会監.『認知症疾患治療ガイドライン2010』東京,医学書院,2011,256p.

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