コラム

人は一人では生きられない 〜妻との話〜

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、病気になる前からの、いちばんの理解者とのお話。

positiveに生きられるのも周りのおかげ

人は一人では生きられない。当たり前の話です。誰しもがそうなのですが、ALS患者である私は特にそうです。誰かの助けがないと一日たりとも生きられません。日々、家族やヘルパーさんや医師、看護師、PT、ST、薬剤師さんなど、さまざまな人が助けてくれるおかげで、こんなにも楽しく生活することができています。私を支えてくれるすべての人に、心から感謝しています。

特に妻にはどれだけ感謝してもしきれません。

私自身がいくらpositiveに生きようとしても、周りの人がそれを応援して支えてくれないかぎり不可能です。妻は、私が病気になってからの6年間、いやもっと前から、ずっと私のいちばんの理解者であり、ずっと側で支えつづけてくれています。

朝からサーフィンをしてバスケをして

私と妻は大学の同級生です。大学生のころからの付き合いで、研修医の時に結婚したので、かれこれもう20年近い付き合いになります。私は昔から無茶をする性格で、妻にはさんざん迷惑をかけてきました。

大学生の時、私はバスケ部の主将をしており、毎日バスケばかりしながら、台風が近づいてくるとサーフィンに出かけるという生活を送っていました。医師になってもその生活はあまり変わりませんでした。仕事が早く終わったら(まぁ早く終わる日はほとんどないのですが……)バスケのクラブチームの練習に出かけ、波がいい日は朝5時からサーフィンをして職場に行きました。

30歳のある休日、朝からサーフィンをして、そのままバスケのクラブチームで試合を2試合するという、いつもどおりの無茶をしていたら、左のアキレス腱が切れました。

整形外科の友人と一緒のチームだったので、一瞬で診断がついて、そのまま翌日手術をする予定になりました。怒られるかな〜と思いつつ、そのことを妻に伝えると「大丈夫!? 迎えに行くね」と言って、いっさい怒らずに看病してくれました。

こりない私は、手術が終わったらすぐにリハビリをして、バスケとサーフィンを再開しました。

また……(笑)

33歳のある日、仕事終わりにバスケをしていたら、今度は右のアキレス腱を切りました。また整形外科の友達たちと一緒にいたので、一瞬で診断がついて、そのまま翌日手術をする予定になりました(笑)。

今度こそ絶対怒られるな〜と思いながら、妻に電話すると「また切ったの!?」と呆れられながら、「じゃあ私が麻酔してあげるよ」と言って翌日妻が麻酔をかけてくれました(妻は麻酔科医です)。

そんな感じでいつも、私がやらかしてしまっても、起きてしまったことはしょうがないと考えて、すぐに一緒に前を向いてくれます。

いいよ。一緒に行こう

34歳でALSと診断されたときもそうでした。お互い激しく動揺しましたが、どうすればいいのかをともに考えて、全力でサポートしてくれました。

ALSと診断されて間もないころ、神経内科の先生に「寒いと症状が強く出るので、暖かくしてください」と言われました。いろいろ考えた末、海と自然が大好きで都会が嫌いな私は「せめて仕事ができる間は、暖かい奄美大島に移住する!!」と本気で言いはじめました。

反対されるかと思ったら、妻はあっさりと「あなたが行きたいならいいよ。一緒に行こう」と言ってくれました。

すぐに家族三人で奄美大島に行き、勤務先の病院と面接して働くことを決めました。

そのまま不動産屋に行き、家も決めて、息子の幼稚園まで決めて移住する準備が整った時に、「医局に戻って来てくれ」と大学の教授から連絡がありました。奄美大島の病院の院長にも教授から連絡があったらしく、泣く泣く移住を諦めて医局に戻りました。今思うと、医局に戻って同僚たちがサポートしてくれたおかげで、限界まで診療を続けることができたのですから、医局に戻ってよかったなと思います。

私は何ができるのか

そんな、いつでもサポートしつづけてくれる妻に対して、私は何ができるのか? どうしたら妻を幸せにできるのか?

病気になる前は、そんなことは考えていませんでした。ただ当たり前に一生懸命仕事をして、一緒に子育てをして、お互い支えあって生きていくだけでした。

いろいろ考えました。考え抜いた結果は、今までとあまり変わりませんでした。

今の自分にできる仕事を一生懸命して、息子にはそんな父親の姿を見せることで、父親の役目を少しでも果たせるのではないかと思いました。

頼まない努力

妻とはどんな状態になっても、「介護する人→される人」の関係にはなりたくありません。あくまでも、日常のささいなことを話したり、一緒に音楽を聴いたり、テレビを見たり、子供の成長を二人で話し合いながら見守っていく「夫婦」の関係でいたいと思っています。

妻は、頼んだらいろいろやってくれます。しかし、頼むことが多くなるほど「夫婦」の時間が短くなっていき、妻の負担が増えていきます。だから私にできる誠意は「頼まない努力」をすることなのだと思います。

ヘルパーさんのいる時間帯に、体位変換や排泄や入浴や口腔ケアなど、日常で必要な動作はすべて終わらせて、妻しかいない時間帯は、ムセたときの吸引などの必要最低限の処置のみお願いするように心掛けています。

それでも間違いなく妻には大きな負担をかけてしまっていますが、それが私なりの、妻とうまくやっていく方法ではないかと思っています。

コラム執筆者:医師 梶浦智嗣

 記事編集:株式会社メディカ出版

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