コラム

「自己効力感」は育てられる

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第5回は、自己効力感を育てる方法をお話しします。

頭のイメージに合わせて体は動く

前回、「自己効力感」とは「自分には何かを成し遂げる能力がある」と信じられる力であることを紹介しました。

この力があると、未来に向けて挑戦する、行動する、学習する、成長する、といったことが、成功しやすくなります。これをチームのみんなが持っているならば、きっと雰囲気が良く、お互いに良い影響を与えあうことは想像に難くありません。

人間は、頭でイメージしたことが実現するように体が動きます。失敗をイメージすれば失敗するように、成功をイメージすれば成功するように、体が動き、言葉が出てきます。

ですから、まず日常でできることは、できるだけネガティブなことを考えないことです。こう書くと「出たよ、またポジティブ信仰か」と思う人がいるかもしれませんが、それもすでにネガティブな発想かもしれません(笑)。

ネガティブなことが思い浮かんだら、頭の中でポジティブなことに置き換える習慣をつけるのです。どうしたらよいのかって?

ポジティブに変換する

漫才のぺこぱさんっていますよね。彼らの漫才にもそのヒントがあります。

「もうだめだ!」⇒「もうだめだと思ったところがスタートだ!」
「大変だ!」⇒「大したことじゃない、まだできることがあるはずだ」
「もうヘトヘトだよ」⇒「よくがんばった。今夜はぐっすり眠れるだろう」

……みたいな変換を彼らはしていますよね。無理やり感もありますが、逆にギアを入れる感じが面白いです。このギアチェンジにフッとした笑いが入るのも、実は気分転換になっていいのです。

私にはいつでも上機嫌の友人がいます。彼はたとえば仕事で理不尽な場面にあって「なめてんのかー!」と思ったら、すかさず「なめられたろかー!」って変換をするそうです。「しばいたろか!」と思ったときは「しばかれたろうか!」って変換する。子どもがイタズラしたときは「怒るよ!」じゃなくて「踊るよ!」って言うそうです。意味がわからないですよね。でも笑えてきます。

これって自分の「怒り」の感情を「笑い」に変換しているのです。「怒り」はネガティブですが「笑い」はポジティブです。自分の感情をコントロールすることって大事です。

自己効力感をつくる要因

自己効力感を唱えたアルバート・バンデューラは、自己効力感をつくりだす要因として、①成功体験 ②代理体験 ③言語的説得 ④生理的情緒的高揚 ⑤想像的体験 ── の5つを挙げています。

成功体験

何といっても「成功体験」が、いちばん自己効力感を育てます。大切なのは、その「成功の質」です。たやすい成功体験を重ねても、失敗するとすぐ落胆してしまいます。忍耐強い努力を重ね、打ち克った体験を持つと、逆境にも負けない自己効力感が育ちます。この積み重ねが大切なのです。

この粘り強さには、ぺこぱさんのような切り替えの発想が大事。「この失敗が次の成功のもとになるだろう」と切り替えて粘り強く成功体験につなげることです。

言語的説得

もしあなたのメンバーが努力や成長の姿を見せたときは、そこにきちんと着目して「あなたは〇〇を乗り越えましたね」「〇〇できたのはあなたの実力ですよ」「あのときあきらめずに〇〇しつづけたことが成功につながりましたね」と、言葉にして伝えてあげてください。これが、③の「言語的説得」になります。人に言われて初めて自分の能力に気がつくことがあるからです。

生理的情緒的高揚

そういう上司がいるチームで「私には上司の△△さんがいるからきっと大丈夫!」と思いはじめたら、しめたものです。メンバー自身が「だんだんいい方向になってきた。あともう少し頑張ろう」と思えたら自己効力感が芽生えはじめています。こういうドキドキワクワクの高揚感が、④の「生理的情緒的高揚」です。

自己効力感のある上司はこうしてメンバーを見守り、声を掛けながら、自己効力感も育てていくのです。そのときに大切なのは、言葉や表情やジェスチャーを使ったコミュニケーションです。

想像的体験

ポジティブな表情・言葉・ジェスチャーは、成功をイメージさせます。そのイメージができると、心と体が成功するように動き出します。うつむかず胸を張って前を向きます。するとますます成功に近づきます。

だから、自己効力感の強いチームはムードが明るいです。メンバーは自分の成功や成長を実感しながら、ほかのメンバーの成功や成長にも関心を持ち、見守ったり励ましたりすることができるような、相互作用も生まれていきます。

そして、自分やメンバーたちの成功がイメージできるようになる。「このチームで自分も頑張ればきっとうまくいく」と思えるようになれば、それが⑤の「想像的体験」です。

残る②「代理体験」については次回お話しします。

松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタント

NPO法人いきいきライフ協会理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会所属。
1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。
国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦まっチャンネル」で検索。
 
記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
〇Albert Bandura.本明寛ほか翻訳.『激動社会の中の自己効力』東京,金子書房,1997,368p.

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