新型コロナに関する記事

災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待
災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待
インタビュー
2024年2月27日
2024年2月27日

災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待/福永興壱先生インタビュー

在宅酸素療法(HOT)や在宅人工呼吸療法(HMV)の黎明期にかかわってこられた慶應義塾大学 福永興壱先生。今回は、HOT患者さんやHMV患者さんにとって不安の大きい大震災をはじめとした災害発生時において訪問看護師さんに期待することについてうかがいます。 >>前編はこちら在宅呼吸管理の進歩で「自宅に帰りたい」を実現/福永興壱先生インタビュー 慶應義塾大学医学部 呼吸器内科 教授福永 興壱(ふくなが こういち)先生1994年に慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学大学病院研修医(内科学教室)、東京大学大学院生化学分子細胞生物学講座研究員、慶應義塾大学病院専修医(内科学教室)、独立行政法人国立病院機構南横浜病院医員、米国ハーバード大学医学部Brigham Women’s Hospital博士研究員、埼玉社会保険病院(現:埼玉メディカルセンター)内科医長、慶應義塾大学医学部呼吸器内科助教、専任講師、准教授を歴任。2019年6月に教授に就任し、2021年9月より同大学病院副病院長を兼任。2023年現在、日本で結成されたコロナ制圧タスクフォースの第二代研究統括責任者を務める。 東日本大震災発生時は患者さんの安否を確認 ―今年も新年早々、わが国では大きな震災に見舞われました。近年、毎年のように全国で自然災害が発生しています。在宅で酸素療法(HOT)や在宅人工呼吸療法(HMV)を受ける患者さんにとって災害は大きな不安要素ですが、例えば東日本大震災のとき、先生はどのような対応をされましたか。 患者さんにとってもっとも深刻なのは「停電」の問題です。HOTもHMVも電源の確保が必要不可欠です。電気の供給が止まってしまうと、生命に直結しますから。 東日本大震災が起こったときは、東北だけでなく、関東でも数時間にわたる停電が何度も起こりました。あのとき、当院では患者さん一人ひとりに電話をかけて、状況確認を行いました。当院の患者さんのすべてが在宅医療を受けているわけではないからです。特に心配だったのは、外来に月1回来られる患者さんたちのこと。電話をかけると、皆さん、すごく安心してくださいました。 また、物資面でも医療機器メーカーさんと連携して対応しました。当院の患者さんのリストを作成し、それをメーカーさんに渡したところ、酸素流量から必要な容量を計算して、患者さん一人ひとりに酸素ボンベを届けてくれたんです。心強かったですね。患者さんも、「メーカーの人が酸素ボンベを届けてくれるから」と伝えると安心されていました。 日ごろの病状把握が災害時のトリアージにつながる ―自然災害が発生したとき、在宅で療養されている患者さんに対して訪問看護師さんが果たせる役割や、日ごろから意識してかかわってほしいこと、期待することを教えてください。 先ほどお話しした患者さん一人ひとりへの電話での状況確認の際、月1回外来にいらっしゃる患者さんもその電話で安心してくださったのですが、訪問看護を利用している患者さんはより重症な方が多く、訪問看護師の皆さんはもっと密接に患者さんにかかわっていると思います。だからこそ、災害時に訪問看護師の皆さんとコンタクトをとれることが患者さんの安心感につながるはずです。災害時に迅速に患者さんとコンタクトをとる方法を日ごろから考えていただくことが重要なのかなと、あのときの経験で思いました。 また、HOTを受ける患者さんの状態にもレベルがあります。例えば、動かなければ何とかSpO₂ 90%以上を保てる方もいますよね。患者さんの病状が分かる訪問看護師さんであれば、コンタクトをとるときに「今はあまり動かないで静かにしていましょう」と安静を促すことができます。一方、高流量の酸素療法を受けている患者さんであれば、酸素は命綱ですから、いち早く酸素ボンベを持って行かないといけません。 訪問看護師さんは、われわれ以上に患者さんの病状を把握していると思います。担当患者さんが多くても、日々の病状によってトリアージすることが可能になるのではないでしょうか。既に実施されている方も多いと思いますが、日ごろから病状を把握していることが「緊急時のトリアージにつながる」、そういう観点で普段から備えていただけると、患者さんも安心されるのではないかと思います。 COVID-19で感じた大学の一体感 ―2020年には新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界規模で流行しました。先生はCOVID-19に対する診療チームのリーダーをされていたとうかがっています。そのときのことも教えてください。 COVID-19のときは、慶應義塾大学全体で、それこそ臨床と研究が協働してCOVID-19に立ち向かいました。診療チームでは、呼吸器内科が先頭に立って、内科、外科、救急科、麻酔科など、さまざまな診療科が連携して患者さんに対応できる体制を整えていきました。 振り返ってもすばらしかったと思うのは、精神科の先生たちが「心のケアチーム」をつくってくれたことです。今でこそ「心のケア」は当たり前のように普及していますが、患者さんだけでなく、看護師をはじめとする医療従事者に対しても専門家がしっかりと心のケアにあたってくれました。 有用な医療情報に積極的にアプローチを ―最後に訪問看護師さんに向けてメッセージをお願いします。 結核病棟を持っていた国立病院で働いていたころ、そこで初めて在宅医療や訪問看護に触れ、地域医療の重要性を実感しました。現在のようなシステム化されていない時代の肺がん患者さんを、その病院の医師や地域の訪問看護師さんは非常にきめ細かくケアされていて、疼痛コントロールや酸素量の調整など、最期の看取りまでかかわっていらっしゃいました。そのときに初心にかえったというか、やはり医療は一気通貫なんだ、こうして成り立つのだと感動した覚えがあります。 在宅での看護は、病院のように整った環境で行う看護以上の大変さがあると思っています。在宅には患者さんの「生活」があります。そのため、訪問看護師さんは患者さんの生活を理解できないといけない、そう考えています。その一方で、在宅酸素療法の指導や援助もそうですが、近年、訪問看護で実施される医療処置の件数は年々増加しています。在宅での看護力が高まっている証だと思いますが、新たに学ぶことも増えてきているのではないでしょうか。生活を支えるケアだけでなく、高度な医療的ケアを実践するには最新の知識と技術が必要だと思います。 近年、デジタル化が急速に進み、手軽にアクセスできるWeb情報も増えています。さまざまなところで発信されている有用な医療情報に積極的にアプローチし、現場での問題解決に活用していただきたいと思います。学び続けることで自分の心の負担も減らせるでしょうし、レベルアップにも役立つ。それが結果的には患者さんのケアにつながっていくはずですから。取材・執筆・編集:株式会社照林社

管理者のみなさんへのエール
管理者のみなさんへのエール
特集
2022年12月13日
2022年12月13日

管理者のみなさんへのエール

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。最終回は、第8回・第9回に続き、医療法人ハートフリーやすらぎの大橋奈美さんから、訪問看護管理者のみなさんへのエールです。 お話大橋奈美医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師) 感染した利用者さん宅への訪問 私たちの事業所がある大阪市住吉区には、41の訪問看護ステーションがあります。そのうち、新型コロナウイルス感染症の感染者や濃厚接触者への訪問を積極的に行なっていたのは、わが事業所を含めて2ヵ所のみだと承知しています。私たちがコロナ禍で苦しむ以上に、利用者さんは苦しんでいます。訪問を拒む理由はありません。だから私たちは感染者への訪問を躊躇しませんでした。 多くのステーションが感染者への訪問を断るため、私たちの事業所には、新規の利用者さんが次々に紹介されました。入院できずに自宅療養を強いられているケースが多く、利用者さんはストレスを募らせています。そのストレスが怒りに変わり、訪問したスタッフに「何で入院させてくれへんの?」と暴言を吐く利用者さんもいます。 そこで私たちは、2名体制で訪問することにしました。2名であれば、もしもの場合でも110番通報が可能です。もちろん、そこまでに至ることはなく、おおむね利用者さんの怒りは翌日には静まり、「昨日は取り乱してすんません」と謝られる場合がほとんどでした。 加えていえば、「感染した利用者さんへの訪問は、むしろ安全だった」というのが今の実感です。なぜなら、感染者や濃厚接触者には、厳重なPPEで臨めるからです。さらに、感染者への訪問には、それなりの加算がつき、経営面でも好材料となったことを報告しておきます。 愚痴を言いたくなったら とはいえ、コロナ禍での訪問業務には、やはり、通常とは違うストレスを伴います。管理者ならなおさらで、愚痴の一つも言いたくなるのではないでしょうか。ただし、ステーション内での愚痴は厳禁です。懸命に頑張っているスタッフの士気を下げてしまいます。 愚痴は利害関係のない相手に漏らしましょう。管理者へのおすすめの愚痴相手は、ほかのステーションの管理者です。私は、管理者同士が集まる機会を設けています。 愚痴を漏らして、ほかの管理者が「あるある、うちもそうやねん」と反応したとき、「うちだけじゃ、ないねんな」と悩める管理者は解放されます。 規模の大きさは武器 管理者との愚痴の言い合い、聞き合いを通じて感じることがあります。特にコロナ禍においては、規模の小さなステーションの管理者ほど、悩みが深いということです。「もしスタッフに感染者が出たら、やり繰りできない」と顔を曇らせます。そのストレスが、感染対策だけではなく、スタッフの一挙手一投足への愚痴となっているようです。いつもなら笑って見過ごせることも、許容できず、スタッフへの不満となるわけです。 私は、「そうやなあ。その気持ちわかるわ」と受けとめた後、「でも、スタッフが10人を超えたら、把握でけへんよ」と続けました。私たちのステーションは常勤看護師が21名います。統括所長である私は、スタッフを信じて任せるしかありません。 規模が大きければ、スタッフの代替やサポートも容易です。私たちのステーションでは、一時期、スタッフの8名が感染または濃厚接触者になったことがありました。でも、何とかなりました。規模の大きさはさまざまな面でメリットが大きいのです。 人を増やすには これも私の感想なのですが、辞めるスタッフが多いステーションは、所長や管理者がスタッフに厳しすぎる傾向が強いようです。 離職者の多いステーションの管理者が、「私、褒められへんわ」と言いました。 私は、「褒めんでもかめへんよ」と返し、「ありがとうは言えるやろ」と続けました。 「ゴミを捨ててくれてありがとう、自転車を並べてくれてありがとう、吸引チューブを替えてくれてありがとうで、ええねん」 そんな「ありがとう」で、スタッフは自分が認められたと思えます。すると事業所の雰囲気は明るくなり、笑い声があふれ、自然にスタッフは定着し、増員もやりやすくなります。 スタッフに任せる 私はスタッフから、「大橋さんって、いつも丸投げする」とよく指摘されます。もちろん、丸投げではなく、最終のチェックは忘れず、不具合があれば責任をとる覚悟のもとに任せるわけなのですが、「丸投げする」と指摘したスタッフには、こう返します。 「せやねん、あんたやから、丸投げしていいかなと思ったんやわ」 すると、多くの場合、責任感を持って業務に向き合ってくれます。そして、業務が遂行できたのを見届け、「やっぱり、あんたに任せてよかったわ」と必ず伝えます。 コロナ禍で苦しむ管理者には、「どうぞ、これからもスタッフを大切にしてください」との言葉を贈りたいと思います。事業所やあなたが苦しいとき、助けてくれるのは、あなたに大切にされたスタッフたちなのです。 記事編集:株式会社メディカ出版

安心感をどう作るか⑧ コロナ禍のスタッフマネジメントで印象に残ったこと
安心感をどう作るか⑧ コロナ禍のスタッフマネジメントで印象に残ったこと
特集
2022年11月29日
2022年11月29日

安心感をどう作るか⑧ コロナ禍のスタッフマネジメントで印象に残ったこと

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、第8回に続き、医療法人ハートフリーやすらぎの大橋奈美さんです。 お話大橋奈美医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師)  直行直帰を巡って コロナ禍で実施したあることに対して、スタッフが予想しなかった反応を示しました。 新型コロナウイルス感染症拡大の第1波から第3波まで、私たちの訪問看護ステーションでは、常勤看護師21名のうち、約半数を直行直帰としました。たとえ事業所内でクラスターが発生しても、少なくとも半数は、継続して業務ができるようにしたのです。 直行直帰組からは、「いちいち事業所に行かなくていいので、楽ちんや」とか、「残業がないから、いいわ〜」などの感想が返ってくると思っていました。 ところが、直行直帰をしていたスタッフは、予想外の言葉を口にするようになります。 「すごく心がしんどい」 あるスタッフは、「すごく心がしんどい」と打ち明けました。「いつステーションに行けますか?」「直行直帰は、いつまで続くんですか?」いつもの勤務形態に戻ることを切望する声が次々に聞こえてきます。「うつになりそうです」とまで言うスタッフもいました。 ことあるごとに、オンライン会議やチャットアプリのビデオ通話で「みんな元気?」「はい、元気です」などとやりとりをしているのですが、「一日でも早くみんなに会いたい」が本音のようでした。 訪問看護師の孤独 コロナ禍での業務経験を積むにつれ、PPE(個人防護具)の着用や手洗い・消毒などの感染予防を徹底さえすれば、それほど恐れる必要がないことはわかってきました。しかし、重症化リスクの高い利用者さんや高齢のご家族に感染させないように、細心の注意を払う必要があります。さらに、利用者さんのお宅でPPEを着用するときは、利用者さんを感染者扱いしているように思われない配慮が求められますし、玄関の外でPPEを着けると、「あそこの家は感染者がいる」と、いわゆる「コロナ差別」を誘発することにもつながりかねません。 ふだん以上に、気疲れするのがコロナ禍の訪問です。「仲間と話したい」と思っても、直行直帰では、それがかないません。多くのスタッフは、孤独感を深めます。 そんな直行直帰組が何よりも欲していたのは、仲間との何気ない会話です。会議やミーティングなどの改まった席ではなく、トイレで手を洗っているときや、昼食後の歯磨きのときに交わす「大変やね」「それ、わかるわ。そうや、大変やわ」「もう少し頑張れへんといけませんね」「そうやなあ、しんどいなあ」などの何気ない会話がどれほど大切なのかを、コロナ禍で痛感することになりました。 サポートできないもどかしさ 統括所長である私も、直行直帰組には、サポートがなかなか届かないもどかしさを感じていました。 たとえば、いつもなら朝礼でうつむいているスタッフを目にしたら、「家で何かあったの? 大丈夫? しんどいんとちゃうの?」などと声を掛けます。すると、うつむいていたスタッフの顔が、自然に上がってくるのです。ところが、直行直帰では、そんなサポートができません。 そこで、直行直帰組には、ビデオ通話で「頑張って〜、一人じゃないよ〜」と懸命に呼びかけました。通話している私のそばに事務所通勤組が集まってきて、「私たちも応援してるよ〜」と声を掛けます。それを聞いたスタッフは、「涙が出ました」と後で話してくれました。でもやっぱり、ステーションに行くことで感じる温もりにはかないません。 築き上げてきた「温もり」の大切さ 私は、何よりもスタッフを大事にしてきました。「さすが〜」「知らんかったわ」「すごいなあ」「センスいいわ」「そうやなあ」の〈さしすせそ〉を常に心掛けながら、スタッフに接してきました。 午前の訪問から帰って来て、「こうしたけど、よかったでしょうか?」と心配するスタッフには、「ええやん、それでええで、私も同じようにしたわ」と笑顔で応じました。その言葉を聞いて、スタッフは午後の訪問に元気良く出掛けます。 もちろん、所長だけではありません。先輩や仲間が、温かく声を掛けあいます。私たちのステーションには、たわいない会話や冗談が飛び交う日常がありました。それが、掛け替えのない財産なのだと、コロナ禍が続く今、しみじみと噛みしめています。 第4波以降、直行直帰を中止しました。 「あと1週間(直行直帰が)続いたら、私、病んでいたかもしれません」とあるスタッフが言い、「脅さんといて」と私が答えます。「マジだったんです」「申し訳なかったなあ、次から(直行直帰は)せえへんから」 本当にスタッフは宝物です。 ー第10回に続く記事編集:株式会社メディカ出版

安心感をどう作るか⑦ 人が辞めない事業所の雰囲気づくり
安心感をどう作るか⑦ 人が辞めない事業所の雰囲気づくり
特集
2022年11月15日
2022年11月15日

安心感をどう作るか⑦ 人が辞めない事業所の雰囲気づくり

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、医療法人ハートフリーやすらぎの大橋奈美さんです。 お話大橋奈美医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師) 職員を最優先に 私たちの医療法人には、24時間支援診療所、訪問看護ステーション(機能強化型Ⅰ)、居宅介護支援事業所、ナーシングデイがあります。そのなかで、私は、職員の安心と幸せを最優先にした姿勢を貫いています。極端な言いかたを許してもらえば、「利用者さんよりも職員を大切にする」という姿勢です。 大切にされている職員だからこそ、利用者さんやご家族を大切にすることができます。 退職率は低いが、若い職員も多い 常勤看護師は、現在21名です。コロナ禍での看護師の退職の増加が話題になりましたが、辞める人が少ないのが私たちのステーションの特徴です。一方で、看護師の平均年齢は30代前半と比較的若いのも特徴です。毎年新人の応募者が殺到し、採用試験は3次まで行っています。 なぜ、職員が辞めずに新人の応募も多いのか、思い当たる理由を九つ挙げていきます。 ①事業所内で雑談が多い 当ステーションで飛び交う話は、仕事の話よりも雑談のほうが多いかもしれません。ほかのステーションの管理者さんと話をすると、雑談が少ないところほど、辞める人が多い傾向がある感じがします。たとえば、トイレで一緒になった職員にはこんな声を掛けます。 「その髪、あの女優さんみたいで、かわいいなあ」「言いすぎでしょう?」「ははは、褒めすぎたわ」 そんな雑談の積み重ねが、「悩み相談」をしやすい柔らかな雰囲気を生み出します。 ②利用者宅でも柔らかな雰囲気を継続 冗談が飛び交う柔らかな雰囲気は、訪問の際、利用者さんにも伝わります。たとえば、新人と先輩が一緒に訪問したとします。 「わしもなあ、どの道その道、あの世に行く道や。この子にわしの血管に打たしてやって、この子が点滴を上手になるのがわしの役割や」 利用者さんも新人を育ててくれるのです。 ③「ありがとう」と何度も言う 職員に対し、感謝の気持ちを一日に100回以上伝えていると思います。ステーションが運営できるのは、職員の働きがあるからです。その感謝の気持ちを「あいうえお」の言葉で表します。すなわち、「ありがとう、いいね、うれしかったわ、ええやん、おおきに」です。 ④褒めるだけの職員面接 年に2回、人事考課の面接があります。そこでは、その職員がやって来たことを具体的に褒め、注意に類することは一切言いません。 注意に関しては、当ステーションの管理職や先輩たちが、現場でそのつど行います。 「褒める」ことは、「認める」ことでもあります。管理職を私が認めれば、管理職は自然に部下を認めます。 ⑤自分で目標を考えてもらう 人事考課の面接で私が心がけていることは、自分で目標を立ててもらうことです。 「自分の弱みは何だと思う?」「ターミナルケアで、家族にいろいろ言われると、何もできなくなることです」「どないしたらええのやろ?」「何かをしようとするよりも先に、家族の話にもっと耳を傾けるように努力します」 自分の考えた目標だからこそ責任を持てるのだと思います。次のような言い方に比べてモチベーションがあがるのは確実です。 「あんたってなあ、ターミナルケアで、家族に高圧的に言われたら、何もできへんよなあ」 ⑥好き嫌いを認める 利用者さんだって、合う看護師と合わない看護師がいるように、看護師だって、相性の悪い利用者さんがいます。私は、それを認めています。苦手や弱みを克服するよりも、得意や強みを伸ばすほうが、のびのびと働けます。 ⑦毅然とした姿勢を示す瞬間も 職員に感謝する一方で、毅然と姿勢を示す瞬間もあります。「ニコニコ笑顔」が当ステーションの文化であり、苦虫をつぶしたような顔をしている職員には、「どんなことが家であったのか知らんけど、そんな表情ゆるさへん」などと、すぐに注意を飛ばします。 ⑧一人では何もできないと自覚する 本音で語り合え、思いを共有できる仲間を一人確保するところからステーションづくりを始めました。その後、何があっても揺るがない仲間が、三人、四人と増えていきました。 ⑨できる方法を考える できない言い訳よりも、できる方法を考えるよう徹底しています。たとえば、新型コロナに感染した利用者さん宅に「訪問したい」という職員がいました。こちらが、「行くな」と止めても、「助けたい」と職員は言います。これ以上止めたら、モチベーションが下がります。そこで私は、次のように言いました。 「よっしゃ、わかった、行きたいんやな。じゃあ、安全に訪問できる方法を考えようや」 * 利用者さんを助けたいと申し出る職員たちを、私は誇りに思っています。そんな職員を守り、大切にするのが私たち管理者の役目です。 ー第9回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

感染予防対策とコストのバランスをどう考えるか
感染予防対策とコストのバランスをどう考えるか
特集
2022年11月1日
2022年11月1日

安心感をどう作るか⑥ 感染予防対策とコストのバランスをどう考えるか

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の野崎加世子さんによるお話の最終回です。 お話野崎加世子岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山 管理者 「事業継続」という責任 コストを考えるときに、いつも頭に浮かぶのは、一人の利用者さんの言葉です。 その方は、ある訪問看護ステーションを利用していたのですが、そこが閉鎖されてしまい、私たちが引き継ぎました。利用者さんは「昨日まで来ていた看護師さんは、どうして来られなくなったの?」と嘆き、「自分が死ぬまで、あの看護師さんに来てもらおうと思っていたのに……」と暗い表情で続けます。 そんな利用者さんの嘆きを聞くにつれ、閉鎖の理由がなんであれ、事業の継続は私たちの重い責任だと、あらためて襟を正しました。 コロナ禍は終わりがみえず、PPE(個人防護具)の購入費など、感染予防対策のコストがかさんでいます。加えて、ロシアのウクライナ侵攻の影響や円安の進行により、燃料費、光熱費、衛生資材、事務機器・用品などの相次ぐ値上げにより、確実にコスト負担が増えています。 削れるもの、削れないもの 支出抑制を考えるとき、「何もかもコスト削減」では、現場の士気は低下してしまいます。管理サイドの意思決定に不満を抱くスタッフも増えるでしょう。 訪問看護ステーションの「ハート」を示す意味でも、コストを削れるものと削れないものとに分けることが重要です。 削れないものは、コロナ禍においては、感染予防対策が該当します。私たちのステーションでは、基本的にN95マスクをつけて訪問します。使い捨てエプロンを使用することも多く、それらの費用負担はとても大きいのが現状です。しかし、利用者さんとスタッフの安全・安心のためには出費を惜しみません。「何としても、利用者さんもスタッフも守る」。それが、ステーションのハートです。 コスト削減のプロが示す「見えるデータ」 一方、削れるものについては、コスト削減のプロフェッショナルである事務スタッフが大きな力を発揮してくれます。 私たち看護師は、「だって利用者さんのために必要だから、しかたがない」と考えがちです。そんな私たちに向けて、事務スタッフは冷静に、データを提示してくれます。 たとえば、「2年前に比べてガソリン代が○%増えていますよ」とデータを「見える化」してくれるのです。そんな形で示されたら、対策をとらないわけにはいきません。 たとえば、ガソリン代 私たちの訪問エリアは広大で、山間僻地もあります。片道50km(往復100km)の利用者さん宅にも訪問します。ガソリン代が1割増えただけでも、出費はばかになりません。私たちのステーションは規模が大きく、ガソリン代の増加分は、パート社員1人分の人件費に匹敵しました。 そこで、訪問の順序を見直すなど、移動距離が短くなるように知恵を出し合いました。並行して、市にもガソリン代の補助を根気強く要請しました。その際には事務スタッフが作ってくれたデータが抜群の説得力をもちました。結果として、片道20km以上の訪問には、補助金が出るようになりました。 ケチケチ作戦とスケールメリットの創出 ガソリン代だけではありません。小まめな消灯、裏紙使用、洗濯物を一定量ためてから洗濯機を回すなど、あらゆる場面でケチケチ作戦を行いました。 仕入れコストにも着目しました。サテライトを含めて、事業所単位で行っていた仕入れを一本化し、スケールメリットを狙いました。私たちのステーションが比較的大規模といっても、病院のスケールにはかないません。そこで、事業所をまとめることで、仕入れの単位を大きくしました。その結果、自動車保険や火災保険にも、このスケールメリットを生かすことができました。 経営規模の小さい訪問看護ステーションならば、地域でまとまって共同仕入れを行う方法も十分に検討に値すると思います。 「その気」になってもらうための、あの手この手 コスト削減で重要なのは、スタッフに「その気」になってもらうことでしょう。そのためには、事務スタッフを含めて、それぞれの専門性に最大限の敬意を払うことです。それに加えて、管理職が上から目線をやめることではないでしょうか。 「いろんな物が値上がりして大変だよね」と家計の話題からもっていったり、職員が相談に来たときは、仕事の手をとめて、しっかり向かい合って聴いたりするなど、スタッフと同じ目線に立つことが大切だと考えています。特に年に2回行う個人面談では、スタッフの話を聴くことに全力を傾けます。 コスト削減よりもケアの質に目が向くのは、看護師として素晴らしいことだと思います。だからこそ、何としても事業が継続できるように、あの手この手でコスト削減を行っています。 * 次回は、医療法人ハートフリーやすらぎの常任理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師)、大橋奈美さんにお話しいただきます。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年10月18日
2022年10月18日

安心感をどう作るか⑤ 感染症版BCPの作成

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第6回は、第4回・第5回に続き、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の野崎加世子さんです。 お話野崎加世子岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山 管理者 BCP(業務継続計画)の作成が、診療報酬・介護報酬上でも、強く求められるようになりました。今回は、そのうちの感染症版BCPについての話ですが、感染症版BCPについては、厚生労働省のHPで「新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」が発行されており、私たちの訪問看護ステーションでも、それを参考にBCPを策定しました。そのプロセスで最も重視したのは、「自分たちのこととしてBCPを作成する」という強い姿勢です。 自分たちのBCP 私たちの訪問看護ステーションでの感染症版BCPは、「感染対策委員会」と「BCP委員会」の共同で策定しました。これは、同BCPの策定は、「感染症対応マニュアル」の刷新と切り離せないという考えかたによります。 その過程で重視したのは、管理職などの委員会のメンバーだけではなく、すべてのスタッフが、「自分のこと」「自分の課題」として積極的に策定に参画するということでした。「自分が感染したらどうするか?」「自分が濃厚接触者になったらどうするか?」「そのとき、自分の家族はどうするか?」「自分が担当している利用者への訪問はどうするか?」「自分のチームのメンバーが訪問に行けなくなったらどうするのか?」そのようにスタッフに問いかけていきます。 事業の継続を個人目線でみれば、「今の仕事が続けられるかどうか」です。それは、「いかにして、自らの生活と利用者の健康を守るか」という真剣な問いであり、感染症版BCPの策定に参画することで、「他人事ではない」といった当事者意識が芽生えます。 しかし、そうした問いに関する回答は容易ではありません。スタッフの考えかたと事業所の方針とを合わせながら、具体的な回答を見つけ出すプロセスで、当事者であるスタッフは、「安心」を手にします。 具体的なシミュレーション もしも○○となった場合にはどうするか?──感染症BCPの策定プロセスは、具体的なシミュレーションの積み重ねです。たとえば、このように決めていきます。 チーム5人で訪問看護を行なっていたとします。うち1人が濃厚接触者になって訪問から離脱した場合は、チーム内で補い合い、現行のサービスを維持します。 2人が濃厚接触者になった場合は、ほかのチームから応援し、現行のサービス量を何とか保ちます。 3人が濃厚接触者になり、チーム内の戦力が2人になった場合には、現行のサービス量の維持は困難になるものと考えます。そこで、訪問の回数を調整したり、ご家族でできるところをお願いしたりします。ふだんから、もしものときにご家族の協力をどこまで得られるか、セルフケア能力をアセスメントしておくことが重要となります。また、かかりつけの診療所などにも協力を求め、訪問診療時に家族ケアを行なってもらうなど、あらゆる可能性を視野に入れた計画を立てます。 法人としての対応 感染または濃厚接触者になった場合の休業の扱いについても、法人として確定しておく必要があります。私たちの事業所では、「業務命令」として自宅待機してもらう観点から、感染したり、濃厚接触者になったりした場合には、「特別休暇」扱いとして給与を支給します。 スタッフは、それを知ることで、安心して働くことができます。 自然災害版BCPとの違い 自然災害版と感染症版のBCPは、共通点が少なくありませんが、明らかな違いもあります。その一つは「予防」の視点です。 自然災害に対して、私たちはきわめて非力です。ところが感染症の場合は、感染予防を行うことで感染拡大を未然に食い止めることができます。この点が、感染症対応マニュアルとセットで考えることが求められる理由です。 地域連携の内容も自然災害版BCPとは異なります。自然災害では、地域がまるごと被害を受けることが想定されます。一方、感染症の場合は、いわゆる「無傷」の事業所が数多く温存されていることが想定できます。そうした認識に立ち、感染拡大時の事業所連携の内容を平時から詰めておくことが重要です。 実際、私たちの地域でも、ほかの訪問看護ステーションが新規の受け入れを休止した際に、私たちの事業所が新規受け入れを代替したことがありました。また、訪問看護ステーションどうしはもとより、介護系サービスとの連携も考慮しておく必要もあるでしょう。 BCPの策定では、国からいわれたからではなく、「自分たちと利用者の安心のために作る」という積極的な姿勢が、もしものときの有効性を担保します。「事業所をつぶさないために作ろうよ」。それが私たちの合い言葉です。 ―第7回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

特集 会員限定
2022年10月11日
2022年10月11日

【セミナーレポート】vol.1 現場で感じる3つのメリット/訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは

2022年7月22日(金)に行ったNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは」では、田中公孝先生を講師に迎え、医療・介護領域におけるICTの必要性や活用方法などを教えていただきました。その内容を3回に分けてレポート。第1回の今回は、ICTの基礎知識やもたらすメリットをご紹介します。 【講師】田中 公孝 先生杉並PARK在宅クリニック 院長日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/難病指定医2017年より東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに携わるかたわら、医療・介護分野におけるICTの普及活動に従事。市や医師会のICT事業にも参加する。2021年春には杉並PARK在宅クリニックを開業し、区内の医療現場でのICTによる多職種連携を牽引している。 目次▶ チャットツール感覚で便利に使える「ICT」 ・杉並区では「バイタルリンク」を導入▶ コロナ禍で多職種連携の質が低下 ・杉並区における多職種連携の継続、強化への取り組み▶ 【導入メリット1】職種間で目線を合わせやすくなる ・薬局や訪問入浴とのICT連携も視野に入れたい▶︎ 【導入メリット2】写真による状況把握ができる▶︎ 【導入メリット3】休みの間の状況を細かに把握できる --> ▶︎ チャットツール感覚で便利に使える「ICT」 ICTとは、「 Information and Communication Technology 」の略称で、日本語では情報通信技術と訳されます。要するに、インターネットを利用したコミュニケーションのことですね。具体的には、「チャットツール」をイメージしてもらえるといいと思います。コミュニケーションという観点では、形式こそ異なるものの、メールなどと変わりません。ただし、メールはアドレスを知らないと連絡できませんが、ICTならアカウントがあればアドレスを知らない人同士でも情報を共有できます。 そんなICTの位置づけは、「対面」と「電話・FAX」の中間と考えてください。対面でのやりとりでは、細かな情報を共有しやすいですよね。ICTも対面には及びませんが、電話やFAXよりも気軽に「緊急で報告するほどではないけれど伝えておきたい情報」を共有できます。とはいえ、電話もやはり必要です。ICTでは、相手が情報を確認するのが数時間後や翌日になってしまうこともあるので、緊急性が高い場合は電話がベストでしょう。 杉並区では「バイタルリンク」を導入 私のクリニックがある杉並区では、帝人ファーマ株式会社の医療・介護多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」を使用しています。ICT導入にあたっては、やはりセキュリティの問題が気になるかと思いますが、「バイタルリンク」は厚生労働省がガイドラインで定めるセキュリティ基準をクリアしています。また、オンライン会議を簡単に開始できる機能(参加用のURLを共有する機能)が備わっているのも魅力。退院時カンファレンスや担当者会議などにも、もっと活用していくべきだと考えています。 ▶︎ コロナ禍で多職種連携の質が低下 近年、医療現場において多職種連携の強化は大きな課題です。しかし、新型コロナウイルスの流行により、その機会が減っているという危機的状況にあります。杉並区でもこの2〜3年は地域の連携会が非常に少なくなっていますし、おそらくどの市区町村でも同じ状況でしょう。 今や現場での連絡方法のメインは電話・FAXになり、対面のやりとりは激減しています。他職種の方との連携においても、緊急度が高いときや「ニュアンス」を確認するときにしか電話は使わず、FAXにいたっては、サインをもらうなどの用途がほとんど……という方も多いはず。つまり今、「対面」「電話・FAX」のコミュニケーション手段しか持っていない場合、多職種連携の質はコロナ前よりも低下している可能性が高いのです。 杉並区における多職種連携の継続、強化への取り組み 杉並区では、コロナ禍で多職種連携の質が低下するリスクを受け、昨年から地域福祉部委員会内にICT小委員会を設置。ICT普及に向けた取り組みを推し進め、連携の維持、強化を目指しています。また、多職種が参加するオンライン会議を実施し、感染状況が落ち着いたタイミングでは対面での会合開催も検討しています。なお、困難事例については、綿密に話し合いを行わないと職種ごとに目線がずれてしまいがち。オンライン会議を積極的に行ったり、短時間に収めるなど気をつけながら対面で打ち合わせをしたりといった工夫をしないと、連携の質が低下してしまう実感があります。 ▶ 【導入メリット1】職種間で目線を合わせやすくなる ICTの特徴は、職種を問わず、利用者さん全員に情報を一網打尽に流せること。これにより「情報を知らない人」をつくりにくくできます。この「情報を知らない人」には医師も含まれます。医師が2週間に1回しか訪問しないケースでは、前回の訪問時の最新情報がすでに古くなっていることもざらにあるので、訪問看護師さんにはぜひICTに最新情報を書き込んでほしいですね。 というのも、訪問看護師さんとご家族とで話し合った情報を医師が把握していないと、医療判断が「押しつけ」になってしまうケースが少なくありません。事情をよく知っている看護師さんが患者さんのご家族に「先生が来たら●●を伝えると良いですよ、▲▲してほしいと言ってくださいね」などとアドバイスをし、看護師さんから聞いたことをご家族が医師に伝える……という、『ご家族を通じての医師への情報伝達』を試みた経験がある方も多いかと思うのですが、これではニュアンスまで伝わらないことがほとんど。結果的に医師が、ご家族や担当看護師さんの思いに反する判断をしてしまうリスクがとても高いんです。今後はICTを活用して、クリニックと訪問看護が直接コミュニケーションを図るのが望ましいと考えます。また、訪問看護師さんからさまざまな情報が共有されることで、生活をベースにした医療提案を実現しやすくするというメリットもありますね。 訪問看護師さん側も、自分たちだけで抱えていていいものか迷う情報をICTに流し、そこに医師から「いいね」がつけば、自分たちだけが責任を負う状態ではないという安心感を得られるでしょう。 薬局や訪問入浴とのICT連携も視野に入れたい 薬局が最新の薬の処方状況や管理方法などの情報をICTに書き込んでくれれば、より連携の質が向上するはず。現段階ではこうした対応をしてくれる薬局はまだ少ないですが、引き続き薬局業界への啓発を行い、よりよい連携の形をつくっていければと思います。それから、訪問入浴やヘルパーの方々も、ぜひICTに入ってほしいところ。利用者さんの最新の状況を受け、医師や訪問看護師さんが「入浴は控えて清拭にしてください」などの指示を出せれば、関係者の負担を軽減できます。 ▶︎ 【導入メリット2】写真による状況把握ができる 訪問看護におけるICTのメリットとして、「写真による情報伝達」が挙げられます。ICTに写真や書類を添付すれば、情報共有の量、質ともに向上できます。例えば、私のようにクラウドカルテを利用していれば、その情報をコピーアンドペーストもしくはスクリーンショットすれば、迅速にデータを共有することが可能です。また、逆に訪問看護師さんからの写真報告を受けて、医師がフィジカルアセスメントをすることもできます。触診はできなくても「百聞は一見にしかず」で、遠隔での診断の質は確実に向上するでしょう。それから、利用者さんの居住環境の把握にも役立ちますね。「連絡帳はここ、薬はここに保管する」などといったルールも、ICTで写真を共有すれば確実に認識できます。これがFAXだと、「黒く塗りつぶされてしまって見えない」ということが起こりかねません。 ▶︎ 【導入メリット3】休みの間の状況を細かに把握できる 土日や夜間など、休みの間の利用者さんの状況を無理なく把握できることも、大きなメリットのひとつ。訪問看護ステーション内での情報共有に役立つのはもちろん、医師にとっても有益です。たとえば、訪問看護師さんから「(休みの間に)緊急で対応しましたが、様子を見ても問題ないと判断して退出しました。ご報告まで」などとICTに記録があれば、医師は「次回出勤時にフォローアップしておこう」と判断できます。自分が休んでいる間の利用者さんの状況はぜひとも知りたいですが、やはり電話は緊急のときのみにしてほしいもの。こういうシーンでも、ICT活用のメリットを実感しますね。 次回は、「vol.2 ICT活用の成功事例」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年10月4日
2022年10月4日

安心感をどう作るか④ 地域の関係機関との連携

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第5回は、前回に続き、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の野崎加世子さんです。 お話野崎加世子岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山 管理者 非常事態になってから「連携しましょう」と慌てても、うまくいくはずはありません。今回のコロナ禍において、それがよくわかりました。紆余曲折はありましたが、非常時における関係機関との連携は、日ごろからの関係が生きてきます。 コロナ禍以前の連携 私たちの訪問看護ステーションは、今から30年近く前の1994年に開設されました。行政の保健婦(当時)が、訪問指導に家々を回っていた時代で、一人で100人の患者さんを担当する人もいました。そんな保健婦たちが、「私たちだけでは手が回らない。これからは、地域の看護婦(当時)の手で、質の高い訪問看護を提供する必要がある」と声を挙げ開設に至りました。そんな経緯もあり、行政との連携は当初から良好でした。 やがて、介護保険制度が始まり、ケアマネジャーや介護サービスの事業者たちの連携が欠かせなくなりました。連携なしには訪問看護ステーションは営めません。そう感じていた私たちは、医療職だけではなく、介護職の人たちとの連携を大切に育ててきました。ところが、感染拡大が足元にひたひたと迫るにつれ、状況は変わります。 情報の枯渇や分断 私たちの地域では、施設感染から火がつきました。デイサービスなどは、次々に休止となります。感染者や濃厚接触者が出たことの情報連絡が遅れて入ってくることもありました。「感染対策をしっかり行なっていたのか?」「早くに連絡が欲しい」という陰口も聞こえます。まさに、お互いの信頼が薄れた状況にみえました。 情報の枯渇や分断は、偏見につながるばかりか、感染対策上もマイナスです。感染者が出た施設を、事実を知らされないままに利用していたら、その利用者さんが使っているほかのサービスに感染が及ぶ恐れがあります。このような状況を行政に伝えるとともに、現場から連携を取り戻していくことにしました。 一緒に訪問して、温度差を解消する たとえば、ヘルパーさんと看護師が訪問すると、感染対策に対する意識や方法にかなりの温度差があることがわかりました。「そんなに防護しなければならないんですか!」と驚いたヘルパーさんもいました。利用者さんにとっても、家に来る専門職の防護服に違いがあるのは不安です。そこで、ヘルパーさんと一緒に訪問し、利用者さんごとに感染対策の方法を揃えることから始めました。 利用者さんが発熱した場合、ヘルパーさんは訪問を控え、訪問看護師は完全防護で訪問するなどの差はあるものの、それぞれの事業所が、自分たちの感染対策のありかたを真剣に考えはじめたのは、大きな成果だと考えています。それを足がかりに、平常から重視してきた「連携」を回復していきました。 本気で「共通言語」を重視する コロナ禍において、右往左往しながらも連携を回復できたのは、何といっても、平常からの関係づくりが重要です。そのなかで、私たちが最も力を入れてきたのは、「共通言語」による情報交換です。 「介護職との共通言語づくりの大切さ」とは、よく耳にする言葉ですが、私たちは、「誰もがわかる言葉」で、「ゆっくりと丁寧」に、「具体的に話す」ことにこだわりました。 尿量が減少した利用者さんの情報をヘルパーさんから入手しようと思ったとします。「少なめになったら知らせてください」では曖昧すぎます。おむつを使用している利用者さんであれば、「濡れている面積がいつもの半分以下なら連絡してください」などと具体的にお願いします。 リスペクトと「感謝」が連携の秘訣 言葉遣いを丁寧にするのは、いうまでもありませんが、「多くのヘルパーさんは、自分たちよりも長い時間利用者さんにかかわっているのだ」とリスペクトすることが、連携の秘訣だと考えています。 そして、リスペクトの延長線上にあるのが「感謝」です。「ヘルパーさんがいち早く教えてくださったので、入院せずにすみました。ありがとうございます」などと感謝を必ず返します。 スタッフへの浸透と「正直」であること 重要なのは、そうした関係づくりをすべてのスタッフが体で覚えることです。私たちのステーションでは、新人教育を3ヵ月、その後はチーム内でのOJTで、連携の大切さと連携の相手に対する姿勢を徹底的に教えます。現場で実際に痛い目に遭うことで、「どうすればよかったか」を自分の体に染み込ませることができます。 もう一つ大事にしているのは、「正直に開示すること」です。スタッフレベルでいえば、「訪問の車両をこすった場合には正直に報告する」といったレベルから始まります。 正直さは、事業所運営でも同様です。スタッフや利用者さんに感染者や濃厚接触者が出た場合には、包み隠さず情報を開示します。そうした誠実さが事業所間の信頼につながり、信頼に基づく「強い連携」へと成長します。そして、お互いに信頼できる関係性は、過度に感染を恐れずに、スタッフが安心して働ける環境にもつながります。 ―第6回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年9月20日
2022年9月20日

安心感をどう作るか③ 心理的安全性が安心して働ける職場を作る

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の野崎加世子さんです。 お話野崎 加世子岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山 管理者 2020年1月、新型コロナウイルス感染症がまだまだ遠い所の出来事だったころ、職員の一人に「利用者さんに感染者が出たら、訪問するのですか?」と尋ねられました。 今までとは違う怖さ 職員の質問に、管理者の私は「いつもどおりの感染対策で」と答えられませんでした。以前のSARSやMERSとは何かが違う感じがありました。看護師になって43年、訪問看護を続けて30年、私自身の看護師歴のなかで、初めて味わう怖さでした。 特に流行初期のころ、新型コロナウイルス感染症はその正体がわからず、得体の知れない不気味さがありました。 感染対策チームを立ち上げる 感染拡大が避けられないものになりはじめた2020年3月、「新型コロナウイルス感染対策チーム」を立ち上げました。 私たちのステーションは、利用者が500人を超える大規模事業所です。居宅介護支援事業所、重度の方を対象としたナーシングデイなどを併設し、60人の職員がいます。感染対策チームは、当初管理者だけがメンバーとなりましたが、現場の声を反映させるために、各事業所の代表も加わりました。 主な活動は、国や自治体などからの通達の確認や最新情報の収集です。また、感染管理認定看護師を招いて、全事業所の感染対策について具体的な意見をもらいました。 最新情報を全職員に届ける そうした情報を感染対策チームは、「新型コロナウイルスニュース」として全職員向けに発行。職員は、各自に配布されたタブレット端末ですぐに確認することができます(タブレットは情報発信、周知のツールとして非常に有効でした)。 ニュースには、ほかの感染症との違い、濃厚接触者の新定義、訪問時や職場での感染対策、PPE(個人防護具)の正しい装着法などの最新情報を掲載しました。これにより、「正しく恐れる」ことができるようになりました。また、法人の考えかたや、濃厚接触者に対する処遇方針などを掲載することで、「組織は、職員の安全を最優先に考えてくれる」という安心感を届けることもできました。 不安の中身を知る 一口に「不安」といっても、その種類や度合いは、職員一人ひとりで違います。そこで、日本赤十字社の「COVID-19対応者のためのストレスチェックリスト」を活用し、「不安の見える化」を行いました。すると、「怖い、怖い」と口に出している職員よりも、黙って仕事をしている職員のほうが、多くのストレスを抱えていることがわかりました。 自分の素直な気持ちを口に出せない職場は、「心理的安全性」の低い職場です。それは、私たちの目指す職場ではありません。職員の本当の気持ちを知るために、全職員と1対1の面談を行いました。一人あたり20〜30分。面接時の距離、換気、時間など感染対策を行いながら、1対1で行った面接には、とても意義があったと感じています。 「訪問したくない」と言える雰囲気 面談で配慮したのは、「訪問したくない」「とても怖い」など、自分の気持ちをオープンにしてもいいんだという雰囲気づくりです。 訪問したくない理由は、人それぞれです。家族に小さい子どもがいる、年老いた親の介護をしているなど、はっきりした理由もあれば、漠然と「怖い」と思う人もいます。感染したくない、感染させたくない……。看護師だって人間です。「看護師だから『怖い』と言ってはいけない」ということはありません。 「発熱など感染の疑いのある利用者宅に訪問したくないと職員が言った場合は、私たちが訪問しよう」と管理職どうしで合意していました。その覚悟のうえで職員の言葉に耳を傾けたから、職員は胸の内を話せたのだと思います。 「心理的安全性」の高い職場 不安や恐怖心は、変化します。身近な人が感染すれば、他人事ではなくなります。「看護師さんがいる家だから」と、地域で差別的な扱いを受ける職員も出てきました。 ストレスチェック、個人面談、さらには、アンケートを繰り返しながら、いつでも不安な気持ちを口にすることができる雰囲気、まさに、「心理的安全性」の高い職場づくりを心がけていきました。 そんなある日、一人の看護師が訪問で濃厚接触者となりました。そのころは2週間の自宅待機です。その職員は、「みんなに迷惑をかけて申し訳ない」と言います。でも、「謝る必要なんかない」とほかの職員たちは思っています。 私は、ほかのチームに応援を要請したことや、その職員が担当していた利用者さんの様子を電話で伝えるとともに、地元で評判の饅頭を自宅玄関先にそっと置きました。 チームの仲間も、代わる代わる買い物を代行するなどして自宅待機を支えました。その姿を見て、ほかのチームも心強い仲間の存在を感じたことと思います。安心して働くことができる、そんな職場風土は、私たちにとって、かけがえのない財産になりました。 ―第5回に続く  記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年9月6日
2022年9月6日

安心感をどう作るか② スタッフに安心感をもって訪問してもらうための工夫

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんによるお話の最終回です。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  「迷い」は「不安」につながります。スタッフが迷うことなく訪問に臨むためには、「判断基準」の共有が欠かせません。第1回では、安心できる仕事環境整備について述べましたが、今回はもう少し掘り下げて具体的な事柄をお伝えします。 PPE使用についてのスタッフの遠慮 スタッフに迷いが最も見受けられたのは、PPE(個人防護具)の着用についてでした。新型コロナウイルス感染症が拡大しはじめたころ、テレビや新聞などのメディアは、感染対策用品の不足を連日伝えていました。 それもあり、巷では、マスクが店頭から姿を消し、トイレットペーパーさえも、奪い合いが起こりました。医療現場も同様です。特に在宅は病院に比べPPE不足が顕著でした。 私たちの事業所では、先手先手のPPEストックを心がけていましたが、それでも、PPEの入手は潤沢にはいきません。たとえ入手できても、価格がつり上がっていました。 そうした状況のなか、スタッフは事業所のことを心配したのでしょう、PPEの使用に迷い、特に高額なN95マスクの装着には、遠慮がみられるようになりました。 躊躇なくPPEを使うために PPEの利用を控えてしまっていては、スタッフ自身、そしてスタッフがかかわる利用者や家族を感染から守ることはできません。何よりも、そのときの状況に適合した「感染対策マニュアル」のアップデートが急務でした。 そこで、まずは、所長の私と副所長とで、PPE使用の判断基準のベースを作りました。 ベース作りにあたっては、厚生労働省、日本看護協会、東京都看護協会などが発信する信頼できる情報に毎日目を通すとともに、メディアの報道にもアンテナを張りました。たとえば、スーパーコンピュータ「富岳」による、マスクごとの飛沫の拡散検証結果を見ることにより、N95マスクの有効性を知ることができました。 私と副所長は、PPEの在庫や調達予定なども加味しながら、ベース作りを急ぎました。 わかりやすさと実行のしやすさ 迷わず・躊躇なくPPEを使うための判断基準には、わかりやすさと実行のしやすさが必要です。 たとえば、訪問先で向かい合う相手(利用者・家族)に症状がある、または、症状がなくても、小児・認知症・呼吸困難などでマスクができない場合には、N95マスクをもれなく使用するなどの判断基準を、できるかぎり具体的に示しました。 判断基準の合意と共有 判断基準は、納得のもとに利用してもらう必要があります。「判断基準」をトップダウンで守ってもらうのではなく、スタッフから現場感覚にあふれる意見をもらいながら、場面ごとに「これでいいよね」と合意を行い、納得のもとに共有していきました。 感染対策は、タイムリーさと迅速さが求められますが、スタッフ全員による共有の作業は、きわめて重要だと思っています。 利用者情報の入手 判断基準を実際に使用する際は、利用者情報を、正しく・速く入手することが大切です。 まずは、利用者宅に手紙を送り、PPEの使用に理解を求めるとともに、発熱などの場合には事前に知らせてほしい旨を伝えました。もちろん、利用者に発熱があるからといって訪問しないわけではないことを申し添えます。症状に応じた感染対策を行うことは、利用者自身や家族を守ることにもなる点を強調しました。 他職種からの情報入手も効果的です。「訪問したら、家族に○○という症状があった」といった報告は、PPE要否を判断するのに貴重な情報となりました。 N95マスクを躊躇なく使用する たとえ判断基準を整備しても、ケチケチの基準では、スタッフの迷いは軽減できても、不安を消し去ることはできません。 訪問看護ステーションのなかでも、私たちの事業所は、おそらくN95マスクの使用頻度は高いほうだと思っています。利用者にも納得してらい、できるかぎりの対策を行うことを心がけました。 その結果、訪問した後に、たとえ相手が陽性になったとしても、「訪問したスタッフは濃厚接触者に該当しない」ことが、しばしばありました。判断に迷う場合は保健所に連絡し、該当の有無を確認することもあります。 濃厚接触者についての情報も常に刷新 コロナ禍では、濃厚接触者の定義が何度か変わりました。管理者として、厚生労働省や東京都の最新情報を継続的に入手し、私たちの事業所における濃厚接触者の基準を常に刷新していきました。 そうした積み重ねにより、感染をむやみに怖がることはなくなりました。スタッフは、「これさえ押さえておけば安心なんだ」と、不安がらずに訪問を行うことができます。そして、管理者である私自身も、「これでいいんだ」という安心感を抱くことができるようになりました。 * 次回は、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の管理者、野崎加世子さんにお話しいただきます。 記事編集:株式会社メディカ出版

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