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HOT・NPPV・HFNC・CPAPの特徴を解説。在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法の基礎知識
HOT・NPPV・HFNC・CPAPの特徴を解説。在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法の基礎知識
特集
2024年3月26日
2024年3月26日

NPPV・HFNC・CPAPの特徴を解説。在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法の基礎知識

本シリーズでは、安心して確実な在宅呼吸ケアを行えるようになるために、ケアのポイントはもちろん、機器のしくみや管理方法、トラブル対応にいたるまで、酸素療法や人工呼吸療法のエキスパートがわかりやすく解説。今回は、HOT(在宅酸素療法)と在宅人工呼吸療法について、NPPV(非侵襲的陽圧換気)やTPPV(気管切開下陽圧換気)、HFNC(ハイフローセラピー/高流量鼻カニュラ酸素療法)、CPAP(シーパップ療法/持続陽圧呼吸療法)も含め各療法の特徴を概観していきます。 増えてきた慢性呼吸不全に対する在宅医療 近年では疾患があっても住み慣れた自宅や施設で病院と同じような医療的ケアを受けて過ごしたいという患者さんが増加しています。そのような患者さんの意思や希望を尊重し、できるだけ入院の機会や期間を減らして患者さんやご家族のQOL向上をめざすのが在宅医療です。慢性呼吸不全をきたして在宅医療を利用する患者さんも多く、その原因となる主な呼吸器疾患は次に示すとおりです。 慢性閉塞性肺疾患(COPD):在宅医療を受ける慢性呼吸不全の中でも最も多くみられる疾患の1つ。比較的長期間にわたって徐々に進行することが多い間質性肺炎:労作時にかなりの高流量酸素投与が必要になるケースが多い肺結核後遺症:近年は罹患率や外科的治療の減少などにより少しずつ減少傾向にある肺がん:原発性や転移性の肺がんは在宅療養期間が上記の疾患と比較して短いものの主要な疾患の1つ神経筋疾患:非常に長期間の在宅療養となる これらの疾患患者さんに対して行われている各治療法を概説します。 在宅酸素療法とは 在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)は、主には慢性呼吸不全状態の疾患に対する酸素を吸入する治療として最も頻繁に行われています。対象疾患はCOPD、間質性肺炎、肺結核後遺症、それに肺がんや慢性心不全などの患者さんにも適応があります。図1は2010年の報告にはなりますが、在宅酸素療法を導入している患者さんで最も多い疾患はCOPDで全体の45%を占めていました。 図1 在宅酸素療法の疾患別内訳 日本呼吸器学会肺生理専門委員会,在宅呼吸ケア白書COPD疾患別解析ワーキンググループ編.「在宅呼吸ケア白書 COPD(慢性閉塞性肺疾患)医療担当者アンケート調査」,日本呼吸器学会,2010.をもとに作成 適応基準 適応基準は、安静時の室内空気吸入下で動脈血液ガスの酸素分圧(PaO2)が55Torr以下、または60Torr以下で睡眠時や労作時に著しい低酸素血症をきたす場合です。 使用する酸素供給装置 在宅酸素療法には主に「酸素濃縮器」を使用する方法と「液体酸素」を使用する方法があります。酸素濃縮器は空気から窒素を吸着して約90%以上の酸素濃度に濃縮する装置です。3L/分程度から10L/分ほどの高流量の酸素を流せるものや、通常の設置型と充電して持ち運んで使用できるポータブルタイプなど、さまざまなものが提供されています。 液体酸素は、自宅に液体酸素の入った大きなタンクを設置し、酸素チューブを介してタンクから直接酸素を吸入する方法であり、外出時には小型の容器に液体酸素を移して持ち運ぶことができます。 使用するデバイス 在宅酸素療法で使用されるデバイスで最も一般的なものは鼻カニュラです。これは比較的手軽に負担なく装着できますが、患者さんの一回換気量や呼吸回数の影響を受けやすく、同じ酸素流量でも患者さんの呼吸状態により吸入気の酸素濃度が異なってしまうことに注意が必要です。また6L/分以上の流量では鼻粘膜への刺激が強くなるため、一般的には5L/分までの流量となっています。より高流量の酸素投与が必要な場合にはリザーバー付きカニュラや開放型酸素吸入システムを使用することもあります。 酸素流量の設定 酸素流量の設定は、一般的にはPaO2≧60〜80Torr(SpO2 90〜95%)を目標とします。しかし、COPDや肺結核後遺症などにしばしば認められる慢性II型呼吸不全、つまりCO2貯留傾向にある患者さんに対しては、換気状態を維持してCO2ナルコーシスを避ける必要があります。やや低めの目標設定が必要となるため、酸素流量や吸入デバイスの選択にも注意を要します。 在宅人工呼吸療法とは 在宅人工呼吸療法(home mechanical ventilation:HMV)とは、在宅で人工呼吸器を使用して換気の補助を行う治療法です。HMVにはNPPVとTPPVの2つの方法があります。 在宅NPPVとは NPPVとは「non-invasive positive pressure ventilation」の略で、非侵襲的陽圧換気を意味します。 慢性呼吸不全患者さんのうち、呼吸困難や下腿浮腫などの肺性心の兆候があり、低酸素血症に加えて慢性的なCO2貯留傾向を示す患者さんに対しては、継続的な補助換気(人工呼吸療法)が必要となる場合があります。その中で導入が比較的容易で侵襲度が低いNPPVは第一選択であり、気管内挿管や気管切開をすることなくマスクを介して換気を行うことができます。 マスクは鼻マスクや口鼻マスク(フルフェイスマスク)を使用します。徐々に病状が進行してきた安定期(慢性期)に導入する場合と、II型呼吸不全の増悪によって入院時にNPPVを導入してからそのまま在宅に移行する場合などがあり、導入基準は疾患によって少し異なります。CO2貯留の程度と低酸素血症、増悪の頻度などによって導入が検討されます。実際に導入されている対象疾患はCOPD、肺結核後遺症、神経筋疾患が主なものとなります。 一方で自発呼吸が弱い、もしくはない場合や認知症で協力や理解が得られにくい場合、顔面の外傷、皮膚障害などでうまくマスク装着ができない患者さんに対しては適応外となってしまいます。 在宅TPPVとは TPPVとは「tracheostomy positive pressure ventilation」の略で、気管切開下陽圧換気を意味します。気管を切開し、確実に空気を肺に送り込むことができるので、自発的な呼吸が十分できない場合に導入されます。 以前は病院で気管内挿管による人工呼吸管理を受け、抜管が困難となった症例に対して気管切開を施行し、そのまま在宅に移行していたケースが多くみられました。NPPVが保険適応となってからは大多数の症例が在宅NPPVで対応できるようになってきたため、在宅TPPVの患者さんの数は減少しています。 しかし、筋力低下や球麻痺が進行する神経筋疾患患者はNPPVでは対応することができず、TPPVを施行せざるを得ません。したがって現在では在宅TPPVを施行している患者さんの8割近くは筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)や筋ジストロフィーといった疾患が主体となっています。 NPPVとTPPVの違いについては、表1に簡単にまとめました。 表1 NPPVとTPPVの比較表 *【VAP】ventilator-associated pneumonia:人工呼吸器関連肺炎 在宅ハイフローセラピーとは 在宅ハイフローセラピーとは在宅で行う「高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula oxygen therapy:HFNC)」のことです(図2)。 通常の鼻カニュラであれば6L/分以上の流量で鼻粘膜への刺激が強くなり、FiO2(吸入気酸素濃度)の上昇はあまり期待できません。より高流量の酸素投与を行うためには、ほかのデバイスへの変更を要しますが、マスクは口元まで覆われるため飲食がしにくく、患者さんが閉塞による不快感を訴えることもしばしばです。 一方、ハイフローセラピーは、専用の鼻カニュラを介して加温加湿した高流量の空気と酸素の混合ガスを投与する方法の1つで、さらに高流量の酸素投与が可能になります。メリットは次のとおりです。 口を覆わないことによる快適性PEEP*効果が得られる解剖学的死腔のウォッシュアウト一定の酸素濃度を投与できる十分な加温加湿による気道クリアランスの維持 など 在宅ハイフローセラピーは病院内での使用とはやや異なり、今のところ適応はPaCO2が一定の範囲のCOPD患者さんに限られています。 *【PEEP(Positive End Expiratory Pressure)】気道内圧が低下する呼気の終わりにも一定の陽圧をかけて、呼気時に肺胞や末梢気道がつぶれないようにすること 図2 在宅ハイフローセラピーの装置の例と鼻カニュラの装着イメージ (画像提供:Fisher & Paykel Healthcare 株式会社) (画像提供:レスメド株式会社) CPAPとは CPAPとは「continuous positive airway pressure therapy」の略で、「シーパップ療法」、「持続陽圧呼吸療法」と呼ばれます。 主に閉塞性睡眠時無呼吸に対する代表的な治療法です。鼻マスクもしくはフルフェイスマスクを装着して気道内に陽圧をかけて気道の閉塞を防ぐことにより、睡眠時に生じる無呼吸を抑制して低酸素血症を改善します。日中の眠気をはじめとした自覚症状の改善や合併症の予防・改善、生命予後の改善、交通事故リスクの軽減、心疾患イベントの減少などの効果が認められています。 CPAPはほかの治療法とはやや異なり、比較的若く、ご自身で機器の管理が可能な患者さんに導入されるケースがほとんどです。ただし、導入された患者さんが高齢になった場合、訪問看護で対応する必要性が多くなることが考えられます。 * * * ここまでご紹介してきた呼吸器関連の治療法は、どれも訪問看護で対応する必要性があるものばかりです。各治療法の位置づけは図3のようなイメージです。また、訪問看護に関連する診療報酬(在宅療養指導管理料)を表2にまとめましたので、こちらもご参照ください。 次回以降の連載で、各治療法についてのさらに詳しい解説や患者さんの観察・アセスメント、治療継続のためのポイントなどについての看護師、医師、臨床工学技士といった専門的な立場からお話しする予定です。より理解を深めていただき実際の現場で安心して確実なケアを行っていただけることを願っております。 >>シリーズ一覧はこちら「訪問看護と酸素・人工呼吸療法」https://www.ns-pace.com/series/hot-hmv/ 図3 呼吸器関連の治療法の位置づけ HMVの実施方法にはTPPVとNPPVがある。HFNCはNPPVとHOTの中間的な治療法として位置づけられている。睡眠時無呼吸症候群の治療に使われるCPAPは人工呼吸療法に含まれない。*1【HMV】home mechanical ventilation:在宅人工呼吸療法*2【TPPV】tracheostomized positive pressure ventilation:気管切開下陽圧換気*3【NPPV】noninvasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気*4【HFNC】high flow nasal cannula:高流量鼻カニュラ酸素療法*5【HOT】home oxygen therapy:在宅酸素療法*6【CPAP療法】continuous positive airway pressure therapy:シーパップ療法、持続陽圧呼吸 表2 在宅での呼吸管理に関連する在宅療養指導管理料 監修・執筆:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 呼吸器内科 主任部長呼吸ケアセンター センター長編集:株式会社照林社

食中毒の原因・応急処置・注意点を解説
食中毒の原因・応急処置・注意点を解説
特集
2024年3月26日
2024年3月26日

【食中毒予防】梅雨の時期は要注意!食中毒の原因・応急処置・注意点を解説

細菌やウイルス、有害物質等が付着したものを食べることで、下痢・嘔吐などの症状が出る食中毒。梅雨の時期は高温多湿により食中毒の原因菌が増えやすいため、より一層の注意が必要です。特に小さな子どもや高齢者は免疫力が低いため、食中毒が重症化するリスクが高いとされています。 今回は、梅雨の時期に特に気を付けたい食中毒の原因や応急処置、注意点などについて解説します。訪問看護の現場でも、利用者さんやそのご家族から食中毒について質問されることもあるでしょう。その際に答えられるように、食中毒について基本的な知識を再確認しておくことをおすすめします。 食中毒の原因と分類 食中毒の原因は、ウイルスや細菌、植物をはじめとした自然毒、寄生虫、化学物質などさまざまですが、大半を占めるのが「ウイルス性食中毒」と「細菌性食中毒」です。 ウイルス性食中毒は、ウイルスが付着している食品や人の手を介して感染します。主な原因はノロウイルスです。細菌性食中毒には、サルモネラ菌やカンピロバクターなどが増殖した食品を摂取することによって生じる「感染型」、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌などの細菌から産生された毒素を食品とともに摂取することによって生じる「毒素型」に分けられます。 そのほかフグ毒や貝毒、毒キノコ、ジャガイモの芽といった「自然毒食中毒」、農薬やヒスタミン、油脂の酸敗といった「化学性食中毒」、魚介類、生肉、野菜に寄生している虫による「寄生虫」に分類されます。 食生活において、特に注意が必要なのは細菌性食中毒でしょう。自然毒についても、十分な知識なく有毒な山野草を口にすることで食中毒になるケースがあるため気を付けたいところです。 食中毒になりやすい食べ物・飲み物 どのような飲食物でも食中毒になる可能性がありますが、特に次のようなもので多数発生しています。 飲みかけのペットボトル 飲みかけのペットボトルには、人の口腔内や鼻腔、皮膚などに存在する黄色ブドウ球菌が付着しています。短時間で飲みきるのであれば問題ありませんが、時間を置いたり細菌が増えやすい高湿度な環境に放置したりすると、食中毒になるリスクが高まります。これは、食べかけのお弁当やおにぎり、パンなどにもいえることです。また、製造過程で黄色ブドウ球菌が付着し、それを食べた人が食中毒になる場合もあります。 黄色ブドウ球菌が作る毒素は強力で、加熱では除去できません。食中毒になった際の症状は吐き気や腹痛などで、汚染された食品を口にしてから30分~6時間程度で発症します。 鶏肉等の生焼け肉 鶏肉や豚肉、牛肉などの生焼け肉には、サルモネラ菌やカンピロバクターなどが付着しています。牛肉は表面にしか細菌が付着していないため、中まで火が通っていなくても問題ないとされています。しかし、調理工程で細菌が付着するリスクもあるため、食中毒を防ぐという観点からは中まで十分に火を通すことが大切です。 食中毒になった際の主な症状は、食後数時間から数日後に現れる吐き気や腹痛、下痢、発熱などです。 生野菜 生野菜には、腸管出血性大腸菌のO157やO111などが付着している可能性があります。また、十分に加熱されていない肉に細菌が付着しており、生肉に触れた手や包丁、まな板などが生野菜に触れることが原因で食中毒になるケースも少なくありません。細菌は十分な加熱によって死滅するため、うっかり生肉を触った手で生野菜に触れた場合は加熱調理しましょう。 腸管出血性大腸菌による食中毒は、食後12~60時間に激しい下痢や血性下痢(下血)が腹痛とともに現れます。重症化によって亡くなるケースも珍しくないため、より一層の注意が必要です。 魚介類 十分に加熱していない魚介類には、ノロウイルスや腸炎ビブリオ菌、貝毒等による食中毒のリスクがあります。ノロウイルスによる食中毒は冬季に流行すると知られていますが、ウイルス自体は1年を通して存在しており、夏場にも発生しています。なお、貝毒は熱に強く、十分に加熱しても無害にはなりません。貝毒は2~4月、6~8月に発生しやすいため、この時期を中心に国によって貝毒検査が行われています。 ノロウイルスは牡蠣やアサリ、シジミといった二枚貝、腸炎ビブリオ菌は魚介類全般に見られます。いずれも熱に弱いため、十分に加熱することで食中毒を防ぐことができます。ノロウイルス食中毒になった場合は、食後1~2日程度で下痢・吐き気・腹痛・発熱などの症状が現れます。 有毒植物 有毒植物については、厚生労働省が定期的に注意喚起しています。食用と間違えやすい有毒植物には、ニラと似たスイセン、ギョウジャニンニクと間違えやすいバイケイソウ、ジャガイモやタマネギと似たイヌサフラン、サトイモと似たクワズイモなどがあります。 嘔吐や下痢のほか、頭痛やめまい、手足のしびれなど全身に症状が現れます。イヌサフランについては重症の場合は死亡することもあるため、より一層の注意と速やかな対処が必要です。 食中毒の応急処置 食中毒を疑う症状が現れた場合は、脱水症状を防ぐために水分を補給しましょう。また、吐き気や嘔吐がある場合は、食べ物が気道に詰まらないように横向きに寝かせます。下痢止めは、食中毒の原因菌やウイルスの排泄を阻害し、症状を悪化させるおそれがあるため、自己判断で使用してはいけません。また、解熱鎮痛剤も同様です。 激しい嘔吐や呼吸困難、意識がもうろうとする、血便や激しい下痢が続くなどした場合は、医療機関を受診しましょう。 食中毒を防ぐために普段から注意しておくこと 食中毒を防ぐために、利用者さんには以下のような行動を奨励しましょう。 手洗いを徹底する食べかけのものは冷蔵や冷凍はせず、食べきるか廃棄する食材の賞味期限や保存方法を守る劣化や変色が見られる場合は適切に処分する食品を再加熱する際は、十分に加熱する 上記の中でも、食べかけのものを保存するケースに気をつけましょう。特に認知症の方は冷蔵庫にいつから入れていたものかわからないものを口にしてしまうことがあります。「もったいない精神」によって変色しているものを口にする可能性もあるため、注意しておきましょう。 * * * 食中毒は、不衛生な調理方法をした場合だけでなく、保存方法の問題や不十分な再加熱によっても起きる可能性があります。また、誤って有毒植物を口にしてしまうこともあるでしょう。食中毒は身近なトラブルのため、梅雨の時期はより一層の注意が必要です。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省.「食中毒」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html2024/3/21閲覧〇農林水産省.「食中毒の原因と種類」https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomo_navi/featured/afp1.html2024/2/12閲覧〇日本訪問看護財団.「有毒植物による食中毒防止の徹底について 」https://www.jvnf.or.jp/newinfo/2023/230413rouken-tsuchi.pdf2024/2/12閲覧

訪問看護の呼吸ケア
訪問看護の呼吸ケア
特集
2024年3月12日
2024年3月12日

訪問看護の呼吸ケア 安定期を長く過ごすための療養法・支援方法 基礎知識

在宅酸素機器や在宅人工呼吸器を使用し、在宅で療養する人が増えています。訪問看護師が安心して確実なケアを行えるようになるために、本シリーズでは日々酸素療法や人工呼吸療法にかかわる医療・看護のエキスパートがケアのポイントはもちろん、機器のしくみや管理方法、トラブル対応などをわかりやすく解説します。今回は、慢性呼吸器疾患をもつ利用者さんが安定期を長く過ごすために、訪問看護師が知っておきたい心の持ちようや療養法・支援方法の基礎知識を確認しましょう。 安定期を長く過ごせるためのケアが大切 慢性呼吸器疾患は、増悪、軽快を繰り返しながら緩徐に進行し、それに伴い呼吸困難が増強します。慢性呼吸器疾患患者さんにおいて、呼吸困難は、身体的側面だけでなく精神的・社会的・スピリチュアル的問題を生じさせます。日常生活活動を制限し、役割や趣味、生きがいなどの喪失をきたすため、疾患の治療および呼吸困難の改善を図る医療とケアは重要です。 呼吸困難を軽減する医療としては、例えば慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)であれば、ガイドラインに基づいた吸入療法などの疾患特異的治療、在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)、非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV)、呼吸リハビリテーションなどがあります。看護ケアとして、患者さんがこれらの治療法や療養法の必要性を理解し、生活に取り入れてセルフマネジメントできるように支援します。 慢性呼吸器疾患患者さんが安定期を長く過ごせるかどうかは、在宅で医療や療養法などをいかにセルフマネジメントできるかにかかっており、訪問看護師の役割はきわめて大きいです。導入編となる今回は、慢性呼吸器疾患患者さんへの支援を行う看護師の心の持ちようと、患者さんの療養生活についてお伝えしましょう。特に、患者さんから「もっと教えてほしい」というニーズのある「息切れを軽くする日常生活動作の工夫」や「呼吸訓練」1)など含めいくつかの必要な療養法や支援について説明します。 なおHOTやNPPVなどの個別の療法については、本シリーズの後発記事で解説します。 >>シリーズ一覧はこちら「訪問看護と酸素・人工呼吸療法」https://www.ns-pace.com/series/hot-hmv/ 看護師が支援を行う上での心の持ちよう 心の持ちようとして皆さんにお伝えしたい内容は次の3点です。 呼吸困難は「呼吸時の不快な感覚」で、主観的な症状です。患者さんが「呼吸困難がある」と言えばSpO2がよくても呼吸困難はあるのです。呼吸困難は身体的側面だけでなく精神的・社会的・スピリチュアル的な側面を併せもった多面的なものであり「Total Dyspnea」といわれています2)。呼吸困難の原因を多面的にアセスメントしていくことが大切です。私たちは、呼吸困難のある患者さんが治療や療養法などのセルフマネジメント能力を身につけることは、患者さんにとって「大きな仕事」であることを理解し、心から応援する気持ちで支援します。患者さんは自己の価値観に基づいて行動しています。すぐにアドヒアランス不良とレッテルを貼るのではなく、患者さんの考え方や価値観、病いに伴う個人の体験の理解が必要であることを認識し、患者さんの療養法や行動の意味を理解します。 患者さんの支援に必要なスキル 患者さんの支援に必要なスキルとして、患者理解、パートナーシップの構築、アドヒアランス・自己効力感へのアプローチがあります。 患者さんを理解する 患者さんの病いの体験やライフヒストリーなどの語りを対話で促進します。しっかりと聴いて、病いの解釈や価値観、患者さんが行っている療養行動の意味や病いとともに生活する中での苦悩を理解します。 パートナーシップを構築する 尊重する、信じる、謙虚な態度、聴く姿勢を示す、ともに歩む姿勢を見せる、熱意を示す、心配を示すなどの「患者教育専門家として醸し出す雰囲気」といわれる態度で接することが大切です3)。患者さんが望む生活に即したテーラーメイドの療養法をともに考える姿勢を大切にしましょう。 アドヒアランス、自己効力感の維持・向上へのアプローチを行う 自己効力感へのアプローチでは、成功体験、代理的経験、言語的説得、生理的・情動的状態の4つの情報を活用すると有効です。具体的に説明します。■ 成功体験自分で「達成できた」という成功体験をもつことです。酸素濃縮装置、携帯用酸素ボンベの取り扱いなど、小さな目標を立てて段階的に行い、自分で「できた」という成功体験を積み重ねていきます。■ 代理的経験自分と同じ状況にある人の成功体験や問題解決方法を知り、疑似的な成功体験をもつことです。例えば、HOT導入により生きがいである畑仕事ができなくなると感じている患者さんに、酸素を使って畑仕事を継続しているほかの患者さんの状況を紹介します。それにより、自分も「できる」という自信をもつことです。■ 言語的説得専門性に優れた信頼できる人から、励まされたり、褒められたりすることで自信を高めることです。例えば、「あなたなら、きっと酸素をうまく使って趣味のゲートボールをすることができますよ」と力強く話すことで、患者さんは「信頼している人からできると言われたのでできそうな気がする」と自信を高めます。■ 生理的・情動的状態課題を実行したときに生理的、心理的に良好な反応を自覚することです。適切な酸素流量の使用により、息切れの軽減を実感してもらいます。それとともに、モニタリングを行い、脈拍やSpO2が安定していることを視覚的に提示し、息切れが少ない状態を称えることで、患者さんは自信を高めます。 療養法を生活に取り入れるための試行錯誤するプロセスを称賛しながら保証し、「待つ姿勢」を大切にします。患者さんが呼吸困難のある中、がんばっておられることに私たちは気づくことが大切です。そして、少しでも行動変容が見られたらポジティブフィードバック、つまり承認・称賛します。 呼吸ケアに必要な療養法と支援 息切れを軽くする日常生活動作の工夫を伝える 日常生活動作(activities of daily living:ADL)の工夫としては、図1のような息切れを増強させる4つの動作、すなわち「上肢挙上動作」「息を止める動作」「反復動作」「体幹前屈姿勢」を控えていただくことが大切です。4つの動作をいきなり説明するのではなく、どのようなときに息切れがあるのか、そのときの動作要領はどのようなものかを患者さんに振り返っていただきます。その後で息切れを増強させる動作を行っている場合は、その原因と工夫(対策)を説明します。 また呼気は、筋収縮がなく呼吸仕事量が少ないため、動作の開始を呼気時に合わせること、動作が早い場合はゆっくり動き適宜休憩を取り入れることを説明します。特に拡散障害が著明な間質性肺炎は、労作時に低酸素血症になりやすい病態を示し、動作要領や休憩を取り入れるように伝えます。 図1 息切れを生じさせる4つの動作 呼吸訓練の指導を行う 呼気排出障害であるCOPDには、「口すぼめ呼吸」の習得は不可欠です。口すぼめ呼吸は気道内圧を上昇させ、末梢の気道閉塞や肺胞の虚脱を防ぎ呼気をスムーズにします。指導方法は図2を参照してください。 患者さんは、息切れがあると一生懸命に息を吸おうとしますが、呼気排出障害による動的肺過膨張により息が吸えずかえって息切れが増強します。息を吐くことで酸素が入ってくると説明し、呼気を意識するように促します。間質性肺炎は呼気排出障害でないため、口すぼめ呼吸は必須ではありません。呼気時間が必然的に長くなることで呼吸数を減少させてしまい、かえって息切れが増強する場合があります。 慢性呼吸器疾患患者さんは、呼吸困難が強い場合、口すぼめ呼吸やゆっくり大きな呼吸はできません。まず看護師は、タッチングや呼吸介助を行い「大丈夫ですよ」と声をかけ不安の軽減に努めます。そして、少し呼吸回数が減少したときに患者さんに呼吸調整を行ってもらいます。例えば、鼻から吸って口から吐くようにしてもらったり、COPDの患者さんであれば口すぼめ呼吸を促したりするとよいでしょう。呼吸困難が軽減したとき、「ご自身で息切れを軽減できましたね」と称賛し、自己コントロール感を高めます。自己で呼吸困難を軽減できた体験は、呼吸困難の再来への不安を軽減し、ADL制限の減少につながります。 図2 口すぼめ呼吸の指導方法 身体活動性の維持・向上を促す 慢性呼吸器疾患患者さんは、息切れによる行動制限によって筋力低下をきたし、さらに息切れが増強するという悪循環をきたします。できるだけ座位時間(sedentary時間)を減らし、少しでも動くこと、散歩は早く歩くのではなくゆっくり長い距離を歩くこと4)が効果的であると説明します。家族を含めて自宅で可能な運動や方法についてともに考えるとよいでしょう。万歩計は、ご自身で自然に目標設定できるため有効です。 精神的・社会的・スピリチュアル的側面への支援 呼吸困難は、病状だけでなく不安や恐怖などにより増強するという悪循環に陥ります。また、できることが少なくなり、役割喪失感や家族から受ける支援の増加などにより自尊感情の低下をきたします。患者さんの病状や療養生活の中で生じているさまざまな感情や思いを傾聴し、よき理解者となり、「訪問看護師さんが来てくれたらホッとする」と思ってもらえるような存在になることが重要です。 自宅には患者さんが大切にしている趣味や価値観を見出すものがたくさんあります。それらの話題や生活の中でがんばっていること、「役割」を見出し、言語化して家族とともに称賛することは、患者さんの精神的な支援になり、自尊感情を高めることにつながります。そして、社会的・スピリチュアル的側面への支援にもつながります。 アドバンス・ケア・プランニング アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)とは、将来の意思決定能力の低下に備えて、今後の治療・療養について患者さんやその家族とあらかじめ話し合うプロセスです。在宅は、病院と異なり患者さんがくつろげる場所であり、訪問看護師も患者さんの大切なものを見出しやすい状況にあります。 日々の療養支援の中で、患者さんは何気なく大切にしていることや望む生き方を語ることがあります。この貴重な「想いのかけら」をキャッチし、対話によりピースをつなげながら5)ご家族、医療者と話し合いを繰り返す中で価値観を共有していくことで、患者さんの意思を尊重することができます。 監修・執筆:竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長慢性疾患看護専門看護師 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本呼吸器学会肺生理専門委員会在宅呼吸ケア白書 COPD疾患別解析ワーキンググループ編.『在宅呼吸ケア白書2010』,日本呼吸器学会,2010:17.2)日本呼吸器学会 日本呼吸ケアリハビリテーション学会合同 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会編.『非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021』,メディカルレビュー社,東京,2021:25.3)河口照子編.『慢性看護の患者教育 患者の行動変容につながる「看護の教育的関わりモデル」』,メディカ出版,大阪,2018:65-72.4)南方良章.「慢性閉塞性肺疾患患者に対する身体活動性研究の進歩」,日内科学誌 2019:108(12);2554-2560.5)西川満則,大城京子.「コミュニケーションの基本」,『ACP入門 人生会議の始め方ガイド』,日経メディカル,東京,2020:101-114. 【参考文献】安酸史子.『改訂3版 糖尿病患者のセルフマネジメント教育』,メディカ出版,大阪,2021.

誤飲・誤食【訪問看護 緊急時の対応法】
誤飲・誤食【訪問看護 緊急時の対応法】
特集
2024年3月5日
2024年3月5日

利用者から誤飲・誤食の訴えがあったら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんから誤飲や誤食の訴えがあった場合の対応法です。 誤飲・誤食とは 訪問看護ではさまざまな緊急の訪問依頼があり、対応に走ることがあるかと思います。今回のテーマ「誤飲・誤食」も緊急性の高い項目の一つといえます。 「誤食」は、 食べ物以外のものを誤って口から摂取すること飲食物ではない異物を誤って飲み込んでしまうこと主に有害・危険な異物を飲み込んでしまうこと などと定義されています。ほかに食物アレルギーを持つ方がアナフィラキシーショックを起こす危険性のあるものを摂取した場合にも誤食が用いられます。 「誤飲」は誤食と同様な意味を持ちますが、飲み物に対して使用され、飲むか食べるかの違いとされます。ここでは誤飲・誤食を厳密に定義して述べるのではなく「食物以外の物を誤って口から摂取した場合」として記載します。 誤飲・誤食が起こったときの対応 誤飲・誤食が問題になるのは乳幼児の場合が多いでしょう。乳幼児が誤って口に含まないように、手の届く範囲に危険につながる小さな物を置かないように予防することが第一です。 高齢者にも誤飲・誤食はしばしば見受けられます。高齢者の誤飲・誤食事故による緊急訪問では、口にした物質を特定できれば対応もしやすくなります。まずは、本人が何を誤飲・誤食したのかを確認して、バイタルサインを測定し、アセスメントを実施します。 その時点においてはあまり状態変化を把握できなかったとしても、後から急変する可能性があります。例えば、誤飲・誤食した物の形状や性質などから、食道に傷をつけ出血してしまう、排泄に至るまでの間に消化管が閉塞・穿孔する、意識レベルが低下するなど、緊急性が高くなる事態も考えられます。状態を主治医に伝え、指示を受けてください。医療機関を受診し、状況によっては内視鏡検査を受けなければならないケースもあります。 誤飲・誤食した様子はあるが、何を飲み込んだのか判断できない場合、ベッド周囲や本人の周囲の状況を見て、飲んだと思われるものの残りや容器などから口にしたものを推定します。特定できれば、その物質と量、飲んだ時間なども確認し、主治医に伝えます。 主な誤飲・誤食の事例 PTP包装シート 消費者庁が2019年に公表した65歳以上の高齢者における誤飲・誤食の事故情報1)によると、医薬品の包装を誤飲した事例が116件と最も多かったそうです。そのうち83件がPTP(Press Through Package)包装シートを誤飲していました。包装の裏面には注意書きが添えられていますが、それでも事故は発生しています。PTP包装シートを誤飲すると消化管穿孔をはじめとした重大な合併症を引き起こす恐れがあります。事故を防ぐために、PTP包装シートは切り離さずシートのまま保管し、服用するときに1錠ずつ押し出して服用するよう、利用者さんやご家族への指導が必要です。 誤飲事例とは異なりますが、私が訪問していた高齢の利用者さんの事例を紹介します。その利用者さんはカプセル剤の薬袋に記載された「ケースから出して服用してください」という注意書きを読み、カプセル剤のゼラチンから散剤を取り出して服用すると思い込んでいました。医療職から見るとあり得ないような話ですが、実際に話をしてみて高齢者の思いを知ることができます。 義歯や詰め物 先ほどの消費者庁の調査によると、医薬品の包装の次に多かったのが義歯や歯の詰め物でした1)。多くは食事のときに食物と一緒に飲み込んでしまうため、日ごろから口腔ケアを通して、歯の状態をアセスメントしておくことが大切です。合わなくなった義歯やグラグラしている歯があれば、歯科を受診し治療しておきます。食後も必ず口腔ケアを行い、義歯や詰め物などがきちんとあるか確認をしておくとよいです。 食事関連でいうと、魚の骨を誤飲すると、食後に咽頭や喉頭部のあたりに痛みや違和感が生じます。骨の大きさや刺さった部位によっては自然に消失する場合もありますが、持続した痛みや違和感があれば、早めに受診につなげるとよいでしょう。 洗剤やシャンプー類、灯油 誤飲事例には、洗剤やシャンプー類、灯油もあります。どれをとっても飲み込まずに吐き出す方が多いと考えますが、どの程度の量を飲み込んだかは必ず確認します。飲み込んだ物によっては「牛乳や水を飲ませる」と説明するものもありますが、安易に飲ませず、何度かうがいをしながら、主治医に連絡して指示を得てください。 訪問看護ステーションに緊急連絡を受けた場合も対応は早めの方がよいので、電話で対処方法を助言します。 認知症の方の誤飲・誤食予防 認知症の方ではさらに注意や配慮が必要です。認知症の方は誤飲・誤食の自覚がないケースがあります。例えば、魚を食べたと認識できていなければ、骨が咽頭や喉頭に刺さっていたとしても、訴えが適切にできず症状が悪化してしまうでしょう。 自覚症状が不穏状態として現れるケースもあります。ただし、不穏状態の原因を特定するのは簡単ではありません。独居で過ごしている利用者さんは生活状況が見えづらく、「誤飲・誤食したかも」と感じさせる状況であっても、意識レベルや息に異臭があるなどの異状がなければ確定できません。 日ごろの食生活や状態を把握しておく 事故が起こった直後は、何を、どの程度の量、誤飲・誤食したのか特定が難しいことも少なくありません。そのため、日ごろから利用者さんの食生活をできる限り把握できるようにしておくとよいでしょう。私は必要に応じて利用者さんの冷蔵庫を見せていただきます。賞味期限が切れた物や、冷蔵庫に入れておくべきではない物が入っていないか、定期的にチェックし整理しておきます。こうした普段からの注意が誤飲・誤食を予防します。また、訪問看護だけでは対応できないため、訪問介護の方にも協力を得ながら一緒に対応することが重要です。 食物以外の物も口に含む習慣があれば、口に含めそうなものを周囲に置かないように配慮します。利用者さんの日ごろの状態を把握しておけば、異常時に「いつもと違う」といち早く気づけます。早い段階で医療機関につなげられるとともに、重度化予防にもなります。 * * * 訪問看護師は利用者さんの自宅に伺い、ケアを提供するだけの時間しかいられません。それ以外の時間は、ご家族が多くの時間を費やし介護をされています。緊急に対応しなければならない事態においても、病院や施設のようにはすぐに看護師が駆けつけられません。家族が安心して介護できる体制にするためには、誤飲・誤食したという情報があれば、できるだけ受診につなげて、異常がないか否かの診断を受けられるようにしましょう。それがご家族の安心につながります。 「食べること」は、生命維持や健康増進に不可欠な行為であると同時に、人生の楽しみであり、自己表現やコミュニケーションの一部でもあります。その楽しみがトラブルにつながらないように、予測される危険材料を事前に排除する取り組みができるとよいです。高齢になっても食を楽しむ観点から、訪問看護では「食べること」についての情報収集とケア方針をご家族も含めて共有しておくようにします。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社 【引用】1)消費者庁.「高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう!」(2019年9月11日付)https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_safety_cms204_190911_01.pdf2023/11/10閲覧

腸内フローラとは?腸活、健康への影響を解説
腸内フローラとは?腸活、健康への影響を解説
特集
2024年3月5日
2024年3月5日

腸内フローラとは?腸活の方法や潰瘍性大腸炎との関係、健康への影響を解説

「腸活」というワードを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。腸活には、腸内細菌によって作られる「腸内フローラ」が関係しています。この記事では、腸内フローラの意味を改めて説明するとともに、腸活の方法、健康への影響などについて詳しく解説します。訪問看護師さんご自身の健康管理を目的とすることはもちろん、腸活に興味を持った利用者さんからの質問に答えられるようにするためにも、確認しておきましょう。 腸内フローラとは 腸内フローラとは、人間の腸内に存在する細菌の生態系のことです。人の腸内に生息する約1000種類、約100兆個もの細菌が腸内フローラを形成しています。腸内フローラは体の健康を保つために重要な役割を果たしており、特にビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が増えることが望ましいとされています。 腸内では、善玉菌、悪玉菌、その中間の菌(日和見菌)の3つのグループに属する細菌が複雑なバランスを保ちながら共存しています。 善玉菌:腸の蠕動運動を促進する(消化吸収を補助)、悪玉菌の増殖を抑えて腸内のバランスを整える(乳酸・酢酸をつくって腸内を酸性にする)、免疫力をアップさせる等の働きをする悪玉菌:有害物質をつくって腸内をアルカリ性にし、下痢・便秘等を引き起こす日和見菌:腸内で優勢な菌と同じように働く。健康なときはおとなしく、悪玉菌の割合が増えると悪い働きをする 日和見菌が最も多く、次いで多いのが善玉菌。病気を引き起こす悪玉菌はできるだけ少ない状態が望ましく、このバランスが崩れると、便秘や下痢などの症状が現れます。 腸活とは? 腸活は、腸内環境を改善し、健康を促進するための活動のことです。健康な腸内環境とは、腸内に存在する細菌のバランスが適切であることを指します。 一般的に、細菌のバランスは以下の割合が望ましいとされています。 善玉菌:30〜40%悪玉菌:10%日和見菌:50〜60% この良好なバランスを実現・維持するために、食生活や運動習慣などを見直すのが腸活です。 腸活の例 食事や運動だけではなく、マッサージや十分な睡眠なども腸内フローラに良い影響を与えます。腸活の方法について詳しく見ていきましょう。 栄養バランスのとれた食事を心がける 栄養バランスのとれた食事を心がけることで、腸内の善玉菌が増えます。善玉菌が含まれる次の食品を意識的にとりましょう。 ヨーグルト、納豆、チーズ、キムチ、味噌 また、善玉菌のエサとなることで間接的に善玉菌の増加につながる次の食品もとりましょう。 海藻類、キノコ類、イモ類、ゴボウ 適度に運動する 腸腰筋を鍛えることで、便が出やすくなります。筋力トレーニングではなく、1日約20分のウォーキングを続けましょう。階段の上り下りによって、さらに効果が高まります。連続ではなく朝と夕方に分けても問題ありません。 良質かつ十分な睡眠をとる 睡眠不足は、ストレスを感じることで自律神経のバランスを崩し、結果的に腸内環境を悪化させてしまう場合があります。良質かつ十分な睡眠をとることは腸活の方法の1つといえます。早めに寝床に入り、部屋を薄暗くして静かに過ごしましょう。また、快適な室温や湿度に整えることも大切です。 マッサージをする マッサージで腸に直接刺激を与えると、腸の動きを活性化させることができます。指ではなく、手のひらを使い、時計回りにやさしくお腹を押しましょう。力を入れすぎると逆効果になる可能性があります。痛みや不快感があるときはすぐにやめて様子を見てください。また、妊娠中や産後間もないころ、腹部や生殖器の炎症がある方などはできません。 ストレスケアをする 腸の活動は自律神経がコントロールしています。そのため、ストレスケアで自律神経のバランスを整えることが腸内環境の改善につながります。 ストレスを感じる場面を可能な限り避けるとともに、瞑想、ヨガ、深呼吸などのリラックス法を日常に取り入れましょう。 腸活のメリット 腸活によって腸内環境を整えることには、次のようなメリットがあります。 お腹の調子が整う 腸活を行うことで、腸内の善玉菌が増えるだけではなく腸の運動を促進できます。これにより、便秘が軽減します。また、腸内細菌のバランスが整うことで、下痢の症状が軽減することもあるでしょう。 免疫機能に良い影響が及ぶ 腸内細菌のバランスが良い状態では、腸の免疫細胞が正常に機能し、細菌やウイルスに対する抵抗力が向上します。免疫系の異常が原因の病気のリスクも低下する可能性があります。ただし、腸内フローラと免疫機能との関係については完全には解明されていません。 老廃物の排出が促される 腸活を行うことで、便秘が軽減され、体内の老廃物や毒素が効率的に排出されます。ただし、老廃物を排出する機能が大幅に強化されるわけではありません。また、腸内環境が悪いだけで腸内に毒素や老廃物が過剰に溜まる心配もないでしょう。 ストレスが減少する 腸活によってお腹の調子が整うと、症状に伴うストレスから解放されます。ストレスが減少すれば自律神経のバランスも整いやすくなるという良い循環が生まれます。 腸内フローラ検査(腸内細菌叢検査)の方法・何がわかる? 腸内フローラ検査は、検便によって腸内細菌のバランスを調べる検査です。腸内細菌のバランスがわかると、どのように対処すれば腸内フローラが整うのかがわかります。また、主な細菌の割合だけではなく、菌の多様性、大腸がんのリスクや太りやすさなどがわかるケースもあります。通常、検査結果とともに腸活のアドバイスを受けます。 潰瘍性大腸炎と腸内フローラの関係 順天堂大学は、大腸粘膜に炎症が起きる指定難病「潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative Colitis)」の患者さんに対して、病気に関連する菌を発見し、抗生剤を用いた治療を行ってきました。また、抗生剤治療後の腸内フローラのバランスを整えるために、健康な人の便から作成した腸内細菌叢溶液を患者の腸内に移植する「便移植」という治療法(抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法)を導入しており、これにより多くの患者さんの症状が改善しています。 * * * 腸内フローラを腸活で整えることで、便通の改善や免疫力の向上、ストレスの減少などが期待できます。今回解説した内容を、ご自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:福井 美典糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医公式instagram:fukuinaika.biyou.eiyouからだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱくの食事の大切さを、自ら栄養指導をしている。分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、からだの細胞を活性化させる治療法を取り入れている。野菜ソムリエの知識を生かし、栄養素が効率良く摂れる食べ合わせを意識したレシピを考案。美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 【参考】〇厚生労働省「腸内細菌と健康」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html2023/9/25閲覧○順天堂大学医学部附属順天堂医院「潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌叢移植」https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/shokaki/about/gastrointestinal/intestinal_microbiota1.html2023/9/25閲覧

がん告知・再発等の「悪い知らせ」の伝え方&支え方【精神症状の緩和ケア】
がん告知・再発等の「悪い知らせ」の伝え方&支え方【精神症状の緩和ケア】
特集
2024年2月27日
2024年2月27日

がん告知・再発等の「悪い知らせ」の伝え方&支え方【精神症状の緩和ケア】

身体疾患を抱える患者さんの中には、不安や抑うつ、不眠といった症状を呈し、ケアが必要な方がいます。このシリーズでは主にがん患者さんの事例を中心に、患者さんが訴える精神症状の問題にどう向き合えばよいかを考えていきます。今回は「悪い知らせ(バッドニュース)」が伝えられた患者さんへの対応を考えます。 悪い知らせ(バッドニュース)とは患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまう知らせのこと1)。伝えられる患者や家族に多大な精神的負担を与えるもので、がん医療においては病名の告知や再発・転移、積極的な治療の中止などがある。 悪い知らせに伴う心の反応 がん医療において、患者さんや家族に病状や予後に関する悪い知らせ(バッドニュース)を伝えることは避けて通れません。現代は死に直面する機会が少なく、自分自身や大切な人が「近い将来、死んでしまうかもしれない」という話を聞くことは、非常に強い衝撃を受ける体験です。 バッドニュースが伝えられた後、患者さんは混乱や不安、落ち込みなどを感じます。これは強いストレスに対する自然な心の反応であり、通常は時間が経つにつれてバッドニュースを受け入れ、落ち着きを取り戻していきます。しかし、中には症状が回復せず、適応障害やうつ病を発症する患者さんもいるため、患者さんの表情や言動をよく観察し、ケアを行っていく必要があります。 伝える側も感じるストレス 基本的にバッドニュースを伝える役割は医師が担いますが、在宅では訪問看護師が病状の変化や療養する場所の選択などに関する説明をしなければならないことも少なくありません。例えば、最期のときが近いと医師から説明を受けている利用者さんや家族に対し、次のような声かけをした経験はないでしょうか。 「どなたか会いたい(会わせたい)人はいらっしゃいますか。早めに連絡したほうがよいと思います」「自力でトイレへ行けなくなったら、病院への入院を希望されますか、それともこのまま自宅で過ごされますか」「葬儀はどのようにするか相談されていますか」など どれも「死」を連想させる声かけで、伝える側もストレスを感じるのではないかと思います。しかし、こうした問いかけをきっかけに患者さんや家族の想い、希望、生活の意向などが引き出されることがあり、大切なコミュニケーションです。だからこそ、患者さんや家族にどう伝え、伝えた後の心理的反応にどう対応するかも含めたコミュニケーションスキルを身に付けておくとよいでしょう。 伝える際のコミュニケーションスキル:SHARE バッドニュースを伝える際のコミュニケーションスキルとして「SHARE」がよく知られています。SHAREは、がん患者さんが悪い知らせを伝えられる際に医師に対しどのようなコミュニケーションを望んでいるのかに関する研究からまとめられたスキルです。患者が望むコミュニケーションの4要素の頭文字をとってSHAREと名付けられました。 4要素を図1に示します。 図1 SHAREの4要素 内富 庸介先生(国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発センター長)より許諾を得て掲載 SHAREに関するコミュニケーション研修も実施されています。在宅で医師が利用者さんや家族にバッドニュースを伝える際、訪問看護師もこのSHAREを念頭に置いて支援を行うとよいでしょう。例えば、話し合うときに落ち着いた支持的な環境を調整し、日常生活への病気の影響や気がかりについて付加的な情報を提供するといったことを行います。もちろん、私たち訪問看護師が利用者さんにバッドニュースに関連することを伝えるときにも役立つスキルだと思います。 告知を受けたときから始まる意思決定支援 告知をはじめとしたバッドニュースを伝えられた後、患者さんや家族は残された時間の中で治療や療養場所などさまざまな選択をしていきます。訪問看護師は、利用者さんや家族に寄り添い、彼らの意思決定を支援する役割があります。 看護師が意思決定支援で真のニーズや価値観を引き出すかかわりとして、有効と思われるモデルをご紹介します。それは9つのスキルと30の技法で構成された「がん患者の意思決定プロセスを支援する共有型看護相談モデル(NSSDM)」です。NSSDMは、兵庫県立大学看護学部の川崎優子先生がまとめられたモデルで、「看護師が対応した面談記録の中から患者さんの意思決定プロセスに効果的に関与していた相談技術の構成要素を抽出」2)し作成されています。療養相談の先に意思決定支援があるとの前提で開発されたモデルであるため、訪問看護の場面で応用がしやすいと感じています。 ここではNSSDMで示される9つのスキルを紹介します(図2)。 図2 NSSDMの9つのスキル 川崎 優子先生(兵庫県立大学看護学部 教授)より許諾を得て掲載 意思決定場面においてすべてのスキルを扱うのではなく、患者さんの状況や相談内容に応じて必要な技術だけを段階的に用います。医療者の判断を押し付けるような情報提供にならないように留意しながら、患者さん自身が自分の価値観を自覚し、適切な自己決定を行うように支援する方法です。 今回はDさんの事例を通じて、がん患者さんの最期の療養先選択場面におけるNSSDMを用いた意思決定支援について紹介したいと思います。 事例:Dさん(80代、女性、独居) 5年前より肝細胞がんに対しラジオ波熱焼灼療法を受けていましたが、新たに胆管細胞がんと診断。その時点で本人の希望により化学療法は行わずBSC(ベストサポーティブケア)に移行し、自宅療養を選択されました。 最近になって下肢に著明な浮腫がみられ、Dさんは動くのが困難になってきました。病院の医師から入院をすすめられましたが、本人が「自宅で過ごしたい」と希望したため、訪問診療と訪問看護を開始することに。 病院から在宅へ、移行のタイミングで意思を確認 初回訪問日、Dさんは近所に住む友人に手伝ってもらい、布団からようやく起き上がれるような状態でした。数日前に訪問した医師より現在の病状の説明や今後の療養先の意思確認が行われています。その際、「自宅で過ごす」と話されていることを確認していましたが、看護師も再度Dさんに自身の病状の理解、現在の心理状態、これからへの思いを確認しました。 麻薬に対する抵抗感を確認するため、オピオイド鎮痛薬の使用について聞いてみました。すると「まだ大丈夫。私は弱い薬で効く体質なの。痛みで眠れないことはあるけれど、そのうちよくなるから」とのこと。この話から眠れない程度の疼痛があることや、オピオイド鎮痛薬の使用に抵抗感を持っていることが推察できました。 ほかにも以下の話をうかがいました。 今は病気や自身の身体について知りたい情報は特にない友人の支援を受けながら、このまま家で死を迎え、同世代の友人たちに人の死について考える機会にしてほしいと思っている同じ市内に住む息子には仕事があるし心配をかけたくないので世話にはなりたくない体調がよくなれば自分の身の回りに関することはできるから、今さら知らないヘルパーさんに家に来てもらうのもわずらわしいと感じる NSSDMを用いた意思決定支援の実際 まずは意思決定支援の方向性を見出すため、NSSDMの「スキル1 感情を共有する」を実践しました。Dさんには数年前に亡くなった寝たきりの夫を、息子に頼らず一人で介護されてきた経験がありました。こういった今までの生き方を否定せず時間をかけてうかがいました。 そうするうちに「痛みがあると自分の思い通りに動けないのはつらいけれど、痛み止めを使うことには抵抗がある」との発言があったことから、オピオイド鎮痛薬使用に関する意思決定支援を行うことにしました。 ここからは次の段階です。意思決定に向けて不足している点を補うため、特に「スキル5 患者の反応に応じて判断材料を提供する」と「スキル8 情報の理解を支える」ことに重きを置いてかかわりました。 Dさんは、疼痛が強いにもかかわらずオピオイド鎮痛薬に対する抵抗感があります。その結果、不眠を招き、疲労感が増している状態です。そこで何が抵抗感につながっているのか確認してみると、「麻薬を使用する=症状が悪化している」との思いがあるとわかりました。そこで、近年は薬剤も進化しており、痛みに対し早期から麻薬系の薬剤を使用することが多くなっていると説明しました。すると、「まずは一回試してみようかしら」との言葉が聞かれたので、訪問中に一度オピオイド鎮痛薬を服用しもらうことに。その場で体調の変化がないことを確認し、訪問後に時間をおいて電話でも体調を確認し、不安を軽減するようにしました。 Dさんとの信頼関係が構築できたと考えられた時点で、今後の療養先についてもう少し具体的に明確化するようにしました。Dさんにこれからの療養場所についてうかがってみると、次のような返事がありました。 足のむくみがひどくて、最近は息切れもする夜は心配で眠れないけれど、昼間にその分ウトウトしている以前は絶対に家がいいと思っていたけれど、息子に迷惑もかけられないし、病院や施設のほうがいいのかしらとも思うでも、先生に「家で最期まで過ごしたい」と言った手前、「気が変わりました」とは言いづらい こうした発言からDさんに意思決定の準備が整っていると判断し、最終段階の「スキル9 患者のニーズに基づいた可能性を見出す」を念頭に置いてDさんにかかわるようにしました。例えば、言い出しにくい気持ちを看護師が医師に代弁できることを保証し、改めて自宅と病院(施設)での最期の過ごし方の特徴について具体的に説明しました。また、自分が決めたタイミングで気持ちが変化すればいつでも療養場所は変更可能なことを伝えました。 その後、Dさんから呼吸苦が増強した時点で「入院したい」との連絡があり、訪問してDさんと息子さんの意思を再確認しました。主治医と連携し緩和ケア病棟への入院を調整し、最期は病院で永眠されました。 * * * 医療法第1条第4項には「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第一条の二に規定する理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない」と示されています。しかし、バッドニュースを伝えることは、相手が傷ついたり、悲しい思いをしたりすることが予測でき、伝える側も苦悩を抱える作業です。このため、伝えるチームメンバーを周りがサポートし、孤独にならないよう、尊重し合えるようなチームづくりが終末期ケアでは大切です。看護師として自分に課せられた説明義務を果たすと同時に、バッドニュースを伝える場面で助け合える人間関係を大事にしたいと思います。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Buckman R: Breaking bad news: why is it still so difficult? Br Med J (Clin Res Ed) 1984; 288(6430): p.1597-1599.2)川崎優子著.「がん患者の意思決定支援プロセスに効果的に関与していた相談技術」,兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所紀要 2017; 24: p.1-11. 【参考文献】〇内富庸介,藤森麻衣子編.『がん医療におけるコミュニケーションスキル―悪い知らせを伝える』,医学書院,東京,2007.〇川崎優子著.『看護者が行う意思決定支援の技法30 患者の真のニーズ・価値観を引き出すかかわり』,医学書院,東京,2017.〇聖隷三方原病院症状緩和ガイド「E.予後の予測」 https://www.seirei.or.jp/mikatahara/doc_kanwa/contents7/71.html2023/10/20閲覧

百日咳の症状・原因・治療法について解説
百日咳の症状・原因・治療法について解説
特集
2024年2月13日
2024年2月13日

百日咳の症状・原因・治療法・ワクチンについて解説。咳で骨折することも?

百日咳は、世界と比較すると日本での発症率は低いものの、発症すると激しい咳によって生活に支障をきたす可能性がある疾患。ワクチンを接種した上で、適切に感染対策を行うことが大切です。この記事では、百日咳の症状や原因、治療法、ワクチンなどについて改めて解説します。訪問看護師さんご自身や家族の健康管理はもちろん、利用者さんのアセスメントに役立てるためにも、基礎知識をおさらいしておきましょう。 百日咳とは 百日咳は、けいれん性の咳が現れる感染症です。多くの場合は軽症で済むものの、免疫が不十分な乳児期には重症化することがあります。日本をはじめ、世界中でDPT三種混合ワクチンやDPT-IPV四種混合ワクチン接種が普及したことで、百日咳は激減しています。しかし、ワクチンの未接種や免疫機能の低下などの要因により、世界でしばしば流行しているのが現状です。 百日咳の症状 百日咳の経過は、以下の3つに分類されます。 カタル期2週間程度続き、少しずつ咳が強くなっていきます。痙咳期(けいがいき)2~3週間にわたりけいれん性の咳が続きます。短い咳が続いたり、「ヒューヒュー」という呼吸音がみられたりすることもあります。回復期回復期では2~3週間かけて症状が和らいでいきます。 多くの場合は、発症から2~3ヵ月程度で完治します。微熱程度で済むほか、乳児の場合は目立った症状がみられないことも少なくありません。無呼吸発作をきっかけに受診したところ、百日咳が判明するケースもあります。 また、大人が百日咳に感染した場合は、乳幼児と違い、重症化することは少ないですが、原因不明の発熱を伴わない発作的な咳が2週間以上続きます。 百日咳の原因 百日咳の原因は、百日咳菌の感染です。ただし、パラ百日咳菌によって発症する場合もあります。感染経路は飛沫感染と接触感染です。 百日咳の治療法 生後6ヵ月以上の場合、マクロライド系抗菌薬を使用します。特にカタル期に治療を始めることが有効です。ただし、新生児の場合はマクロライド系抗菌薬の使用による肥厚性幽門狭窄症(ゆうもんきょうさくしょう/IHPS)の発症リスクが上昇することがあるため、アジスロマイシンによる治療が推奨されています。また、咳に対しては鎮咳去痰剤を使用し、必要に応じて気管支拡張剤の使用も検討します。 百日咳の自宅での対応方法 症状が軽い場合、自宅療養で問題ありません。ただし、症状が軽いかどうかの判断が難しいため、けいれん性の咳が出た際は医療機関を受診し、薬物療法を受けることが大切です。 自宅では静かに過ごし、咳が激しいときは水分や食事の摂取を複数回に分けましょう。また、咳が激しい、呼吸困難になっている、嘔吐が続いて水分を十分に摂取できないといった場合は、速やかに医師に相談する必要があります。 百日咳の出勤・出席停止の扱いについて 百日咳は第2種感染症に定められており、症状がなくなるか5日間におよぶ抗菌薬による治療が終了するまでは学校は出席停止です。ただし、学校医やその他の医師の判断のもと、出席停止期間は変更できます。 職場への出勤については、明確な規定は定められていません。まずは医療機関を受診し、医師の判断を仰ぐことが大切です。その上で勤務先に連絡し、欠勤するかどうか話し合って決めましょう。 百日咳のワクチンは? 世界中でDPT三種混合ワクチンが普及しています。日本では、DPT三種混合ワクチンだけでなく、不活化ポリオワクチンを含むDPT-IPV四種混合ワクチンが定期接種となっています。接種スケジュールは生後3ヵ月以上90ヵ月(7歳6ヵ月)未満で4回接種です。最初の3回の初回免疫と最後の1回の追加免疫に分類されており、初回免疫は20~56日の間隔で3回、追加免疫は3回目の接種から6ヵ月以上の間隔で1回行います。 ただし、ワクチンの効果は4~12年かけて次第に弱まっていくため、ワクチンを接種していても百日咳にかかる可能性があります。特に乳児への感染はリスクが高いため、妊娠後期にDPT三種混合ワクチンを接種し、母体の感染を防ぐとともに、赤ちゃんが抗体を持って生まれてくるようにすることで、生後1ヵ月未満の新生児期の感染を防ぐことが推奨されています。 百日咳の咳がひどいと骨折することもある? 百日咳は激しい発作的な咳が特徴で、これが繰り返されることで肋骨骨折が発生する可能性も。激しい咳の衝撃によって肋骨に負担がかかり、繰り返しの咳によって疲労骨折が引き起こされます。特に高齢者や骨粗しょう症の方など骨がもろく弱い人は、骨折のリスクが高まります。 もし、胸部に痛みを感じるときは速やかに医療機関を受診し、骨折に関する診断と適切な治療を受けましょう。 百日咳に一度かかると二度とかからない? 百日咳は終生免疫を得られる感染症ではありません。一度感染しても、再びかかる可能性があります。6ヵ月未満の乳児は特に注意が必要であり、予防接種を受けて感染と重症化のリスクを抑えることが重要です。 * * * 百日咳は、けいれん性の咳を特徴とする感染症で、終生免疫を獲得できないことから生涯に複数回かかる可能性があります。乳児は重症化しやすいため、家族が百日咳にかかった際は家庭内でなるべく接触しないよう注意が必要です。今回、解説した内容を自身の健康管理や利用者さんからの質問対応に活かしてください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇国立感染症研究所「百日咳とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/4772023/11/20閲覧〇一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会「ワクチンと病気について」https://www.vaccine4all.jp/topics_I-detail.php?tid=452023/11/20閲覧

糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

「糖尿病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は糖尿病について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 糖尿病患者の在宅療養では、脳卒中や心筋梗塞、低血糖症などの救急搬送を要する疾患の発症予防や、■高血糖 ■低血糖 ■シックデイ ── などへの留意が必要です。そのためには、外来受診や訪問診療での医師の診察に加え、ケアマネジャーを中心とした地域の訪問薬剤管理指導や訪問看護、訪問栄養指導、訪問リハビリテーション、訪問介護等のサポートと、何よりご家族の協力が不可欠です。シームレスかつタイムリーな地域連携のために、ハイセキュリティな医療用SNSをはじめとしたICT利用や、日本看護協会が推奨する特定行為研修修了看護師の地域配置が、一助になると考えられます。 在宅医療での糖尿病患者の特徴 在宅医療で介入が必要な糖尿病患者は、高齢や認知症だけでなく、廃用症候群や摂食嚥下障害の合併があり、高血糖、低血糖、シックデイ、自己管理困難、介護力不足など、複数の療養阻害要因を抱えるケースが散見されます。これらに対して安全性を担保するために、以下の対応が必要です。 治療方針 在宅での高齢者糖尿病患者では、身体機能や認知機能、心理状態、社会的環境を勘案し、個別的かつ総合的に目標を設定することが求められます。具体的には、認知機能やADL、そして重症低血糖リスクが危惧される薬剤の使用有無によって、血糖コントロール目標値を設定します。詳細は「高齢者糖尿病診療ガイドライン」1)を参照してください。 糖尿病を持つ患者への訪問看護 訪問看護では、患者の協力体制を得ることが不可欠です。血糖自己測定(SMBG)の値推移、日々のバイタルサイン、身体状況からアセスメントして推測される状況を、医師へ報告する必要があります。 患者ごとの血糖コントロール方針が立てられる 高齢患者では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」2)に沿って、年齢や認知機能などをもとに、カテゴリー分類が判断されます。高齢者では、健康状態や治療内容によって、血糖コントロールの方針が異なります。必ずしもHbA1c値を下げるのがよいわけではなく、カテゴリーによってはHbA1c値を緩徐に上げる場合もあります。そのため、連携先の医師と、患者の情報を共有することが重要です。 患者のADLや年齢、薬剤、残存疾患といった情報から、患者にとって最適な血糖コントロールが判断されます。患者に接する機会が多い医療職である訪問看護師が、患者との人間関係を構築し、日常生活の情報を聞き取り、医師へ情報提供できる体制が望ましいでしょう。また、患者に対し、日々の治療に対するモチベーションが低下しないよう、血糖測定や内服を忘れず実施できていることへの労りの声掛けも大切です。 過去に低血糖を起こした既往がないか 低血糖は生命リスクを高めます。過去に低血糖を起こしていればリスクが高いと判断し、対応することが必要です。シックデイの際にはどのような対策をとればよいか主治医に相談の上で、患者へ指導します。 また、低血糖を頻発している人は、交感神経症状である発汗や頻脈、手指振戦が出ないこともありますので、中枢神経症状である頭痛や集中力低下がないかを注視することも必要です。 薬剤の服薬状況 過去に処方されて余っている薬などがないかを、確認する必要があります。過去処方されていたスルホニル尿素薬(SU薬)など、低血糖を惹起する血糖降下薬が出てきたから「今の薬とあわせて飲んでしまった」というケースもありえ、場合によっては救急搬送や致命的な状態に至る場合もあります。現在処方されている薬だけではなく、過去処方の残薬がないかを初回介入時に調べることが重要です。 訪問看護師に求められる対応とそのポイント 低血糖 低血糖で現れる自律神経症状(発汗、動悸、手の震えなど)が高齢者では現れにくく、高齢者は低血糖となっても無自覚となりやすい特徴があります。高齢者の低血糖は、転倒や骨折、うつ状態の誘因になるともに、認知症発症の危険因子でもあります。QOLの低下にもつながるため、注意を要します。 経口摂取が可能な場合は、ブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料200mLを摂取し、15分後に血糖を再測定します(ブドウ糖以外の糖類では効果発現が遅れます)。 経口摂取が不可能な場合は、ブドウ糖や砂糖を口唇と歯肉の間に塗りつけ、グルカゴンがあれば1mgを注射し、医療機関に搬送となります。応急処置で意識レベルが一時回復しても低血糖の再発や遷延があり、注意を要します。 シックデイ 急性疾患の併発等によって、血糖コントロール悪化、食事摂取量低下があれば、対策が必要です。可能であれば血糖値を頻回に測定しながら、家庭ではできるだけ経口的に、水分・炭水化物・塩分を摂取させます。お粥やスープ、お茶、ジュース、アイスクリームなどが摂取しやすいとされています。 薬剤コンプライアンスとアドヒアランス 独居や老老介護生活の患者の場合、在宅医療の開始となった早期に、残薬整理の介入を実施することは、過量服用や薬剤不適切使用の防止に有用な手段です。 また、訪問薬剤管理指導により、薬剤師が定期的に生活状況を確認することで、食前食後薬の用法統一、腎機能・血糖値・食事量を考慮した減薬、認知機能や運動機能を考慮した注射剤デバイス変更など、処方への提案が可能です。薬剤師による電話フォローも、コンプライアンス、アドヒアランス両方の向上に寄与すると考えられます。 自己血糖測定や自己注射の援助 自己管理が必要にもかかわらず、それが困難な患者では、 ■家族や訪問看護による他者管理■訪問薬剤管理指導、訪問介護等による見守りのもとでの自己管理を検討します。 独居や経済的問題等でコメディカルの介入が困難な場合には、スマートフォンのビデオ通話機能を利用し、遠隔で看護師見守りで実施するケースもあります。 制度面の知識 ■身体障害者手帳申請:肢体不自由、視覚障害、じん臓機能障害(eGFR20未満)等■自治体ごとの医療福祉費支給制度の利用で、自己負担の費用を軽減できる場合があります。しかし、独居高齢患者等では、申請準備が困難なケースも少なくありません。ケアマネジャーが中心となり、本人の意思に寄り添いながら、主治医や多職種、福祉や行政等の間に立ち、申請援助をすることも重要です。 特定行為研修修了看護師の活躍 秋田県由利本荘市は、全国的にも高齢化率が高く、訪問診療医が少ない地域です。そのような地域において、在宅にかかわる看護師の特定行為研修を進める動きが活発に行なわれています。これは、秋田大学大学院医学系研究科 安藤秀明教授のご協力のもと、訪問診療医が実習を担当し、働きながら地域で特定行為研修を受講できる体制が構築されました。2022年には第1期生として4法人6名の看護師が研修を受けました。 特定行為研修修了者の活動により、医師数が限られた地域であっても、望まれるケアの充足につながります。たとえば、特定の範囲内であれば基礎インスリン量の変更も、医師の指示を待たずに看護師が変更することができます。専門的な医学教育を受けた看護師が訪問することで、地域で、病院に近い質の高い糖尿病療養を実施できる一助になると期待されています。 訪問看護師による遠隔指導 由利本荘市のごてんまり訪問看護ステーションでは、訪問看護師による遠隔指導を行なっています。在宅患者にタブレットを貸与し、SMBG指導や超速効型スケール指導、インスリン注射指導を遠隔で実施しています。高齢になるほどインスリン単位数間違いの危険性が高くなりますが、つど遠隔で指導を実施することで、指導効果は上がり、単位数間違いによる低血糖リスクを予防することができます。 遠隔指導のよさは、通常は入院しなければ困難な強化インスリン療法の指導でも、在宅で実施できることです。指導のために入院となると、筋力や認知力の低下が避けられませんが、それらを防ぐこともできます。何よりも入院費の削減に大きな効果を発揮します。 2023年12月現在は、D to P(Doctor to Patient)による遠隔診療に対する診療報酬算定は要件があるものの認められていますが、N to P(Nurse to Patient)またはD to P with Nについては診療報酬上の評価がありません。しかし、きたるべき超超高齢社会と限界集落の増加に備えてN to Pを実施していかなければならない地域として、このような取り組みを行なっています。 執筆:谷合 久憲  たにあい糖尿病・在宅クリニック院長藤沢 武秀ごてんまり訪問看護ステーション看護師血糖コントロールに係る薬剤投与関連特定行為研修修了者八鍬 紘治日本調剤東北支店在宅医療部薬剤師糖尿病薬物療法履修薬剤師秋田県糖尿病療養指導士長堀 孝子SOMPOケア由利本荘介護支援専門員木村 有紀ごてんまり訪問看護ステーション作業療法士齋藤 瑠衣子たにあい糖尿病・在宅クリニック管理栄養士 編集:株式会社メディカ出版 【参考文献】1)日本老年医学会ほか編著.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,264p.2)日本老年医学会ほか編著.「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針」.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,34.3)週刊日本医事新報  NO.5198 2023

不眠への対応【精神症状の緩和ケア】
不眠への対応【精神症状の緩和ケア】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

不眠への対応【精神症状の緩和ケア】

身体疾患を抱える患者さんの中には、不安や抑うつ、不眠といった症状を呈し、ケアが必要な方がいます。このシリーズでは主にがん患者さんの事例を中心に、患者さんが訴える精神症状の問題にどう向き合えばよいかを考えていきます。今回のテーマは「不眠」です。 不眠とは睡眠の開始と維持に関する問題があり、日中に倦怠感や思考低下、意欲低下、食欲低下といった不調が出現している状態。不眠は、入眠困難(寝つきが悪い)、中途覚醒(何度も目が覚める)、早期覚醒(早朝に目が覚める)などに分類される。 がん患者さんにみられる不眠 睡眠は疲れた心身を回復させ、体調を整えるために大切です。しかし、がん患者さんの30~50%が不眠を経験するといわれており1)、がんと診断された直後や治療中、治療終了後、緩和期などに不眠で悩む人は少なくありません。 事例:Cさん(80代、女性、独居) 肝臓がんの診断で手術を受け、経過に問題なく半年前に退院。近隣に住む息子夫婦が連れ添い、定期的に外来通院し検査を継続。薬剤管理や体調確認目的で訪問看護を利用しています。 退院直後は気が張っている様子で元気そうだったCさん。ところが、近頃あまり元気がありません。訪問看護師が問いかけてみると、「何だか夜眠れなくて。昼間にうとうとしてしまい、結局1日何もできない。こんな生活だと張り合いもないし、食欲もない」との返事がありました。 訪問時、がん患者さんから「以前に比べて疲れやすくなった」「よく眠れない」「眠りが浅い」という悩みを訴えられることが少なくありません。Cさんの場合、眠れないことに加えて、そのことが日中の生活に影響している様子もうかがえました。 不眠の状態を評価する DSM-5では、不眠の診断基準として入眠困難、中途覚醒、早期覚醒のうち1つ以上を伴い、日中の社会的、行動上などの生活機能障害が週3回以上あり、3ヵ月以上持続すると定義しています2)。 Cさんにどのように眠れていないのか詳しく聞くと、「寝ようと思って11時には布団に入るけれど1時過ぎまで眠れない。寝る時間は遅いのに朝5時には目が覚める」と話されました。これは入眠困難と早期覚醒に該当します。また、家にいるときだけでなく、デイサービスの間も眠気があり、こうした状態が3ヵ月以上も続いているとのことでした。 訪問看護師は、Cさんの不眠の原因を探ると同時に、まずは薬物療法以外の方法で、生活の中に取り入れやすい工夫を紹介することにしました。 睡眠を妨げる原因を把握する 不眠の原因には、がんの進行や治療による痛み、入退院による環境の変化、服用している薬剤の影響などがあります。さまざまな精神疾患の前駆症状や随伴症状である可能性もあります。患者さんの不眠の原因を見きわめ、適切な対応につなげることが大切です。 Cさんは、現段階では痛みや発熱など身体的な苦痛は感じていません。退院後の生活にも大きな変化はないため、それらが不眠の原因とは考えにくい状況です。そこで、不安や適応障害などの心理的な原因がないか確認してみることにしました。 すると、Cさんは「家に一人でいると、これから先どうなるのか、再発したらどうすればよいのかと、とりとめもなく考えてしまう」と話されました。Cさんの病状は一段落しており、子どもたちが家に来る機会もすっかり減っています。日々の困りごとは医師や看護師、家族に相談できているので、何も手につかないくらい不安な状況ではないそうですが、一人で過ごす時間が長くなり、そうしたことを考えてしまうようです。 睡眠習慣の見直しを中心に対応 不眠への対応のポイントは原因を取り除き、症状を緩和することです。訪問看護師はCさんの訴えから、不安の緩和、現在服用している薬剤の調整と睡眠に関する療養相談を行うことにしました。 不安の緩和 Cさんは漠然とした将来への不安を抱え、ストレスを感じているようです。まずはCさんの不安を緩和するために、十分な時間をとって話を聞くようにしました。 薬剤の調整 Cさんは通院している大学病院の肝胆膵科以外にも、内科や整形外科、泌尿器科、眼科、耳鼻科など多くのクリニックを受診し、さまざまな薬剤を処方してもらっています。そこで、かかりつけ薬局に相談し、薬剤調整と不眠の原因になる薬剤がないか確認してもらうことにしました。 また、医師にも相談し、不眠時の内服薬が開始されることに。Cさんは「薬に頼ると中毒みたいになってやめられないのでは」と心配されましたが、訪問看護師が医師の指示通り適切に服用することで依存状態にはならないと説明することで服用に納得されました。 なお、痛みや息苦しさといった苦痛症状が睡眠に影響している場合は、その症状を緩和する方法を医師や薬剤師に相談しましょう。 睡眠薬を使用する際は、非がん患者さんで呼吸不全症状があると、薬剤の呼吸抑制作用が強く出る場合があるため注意が必要です。また、肝不全や腎不全などの患者さんの場合、薬剤の代謝・排泄に影響するため、肝機能や腎機能の状態を確認しながら使用します。睡眠薬については医師や薬剤師と十分相談するようにしてください。 睡眠に関連する療養相談(非薬物療法) 非薬物療法として、夜間の睡眠のみに注目するのではなく、日々の生活リズムの見直しも大切です。またCさんからは「決まった時間に寝て、決まった時間に起きなければならない」との思いが強くあるような印象も受けました。そのため、これまでの睡眠習慣に固執せず、今の自分自身にあった睡眠習慣を身につけてもらえるようなサポートを行うことにしました。 具体的な対応は以下のとおりです。 [1]生活リズムの見直しをすすめる<具体策> 何時に寝て、何時に起きているかを確認し、希望する睡眠時間が年齢相応か確認する。加齢に伴い実際に眠れる時間は短くなる。「寝なくては」と必要以上にベッドで横にならず、患者さんの年齢に応じた睡眠時間を把握し、その時間、眠れるように工夫する。就寝時間をコントロールするのではなく、起床時間をコントロールする。寝る時間が短くなっても熟眠感が得られるような睡眠パターンに目を向けることが大切。日中に適度な運動を行い、朝食をしっかりと摂るようにする。眠たくなってからベッドに入るようにし、環境と入眠開始の関連づけを行う。午睡はしないほうがよいが、日中どうしても眠いときは、15時までに20~30分程度の短い午睡をとるようにする。 [2]眠れないときの対応を伝える<具体策> ベッドに入っても寝付けないときは、いったんベッドを離れ、眠たくなったら再びベッドに入るようにする。 [3]眠る前の注意事項を伝える<具体策> カフェインを摂取しないようにする。就寝前にリラックスできる習慣があれば取り入れる。 非がん患者さんにみられる不眠への対応 心不全や呼吸不全のような非がん疾患の場合は、上記の内容に加え、睡眠を障害する症状の緩和ケアが必要です。例えば、終末期心不全では、60~88%に呼吸困難、69~82%に全身倦怠感、35~78%に疼痛、70%前後に抑うつ症状があるといわれています3-5)。これらの症状に対応することが睡眠障害の改善につながります。がん患者さんとは異なり、「寝てしまうと、もう起きられないのではないか」というような漠然とした不安を訴える方も多い印象があるため、強い不安を認めた場合には不安に対する支援が大切です。 * * * 不眠は身体疾患や精神疾患と相互的な因果関係があるといわれています。不眠の原因への対応を念頭に置きつつも、不眠そのものに積極的な介入が推奨されています。このため、眠れないという訴えをおろそかにせず、しっかりと受け止め支援してほしいと思います。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師 ●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)谷向 仁著.「不眠」,森田達也,木澤義之監修,西 智弘,松本禎久,森 雅紀,ほか編.『緩和ケアレジデントマニュアル第2版』.東京,医学書院,2022,p.311.2)American Psychiatric Association. 『Diagnostic and statistical manual of mental disorders(DSM-5®)』. Washington, DC, American Psychiatric Pub, 2013.3)Krumholz HM, et al. Resuscitation preferences among patients with severe congestive heart failure: results from the SUPPORT project. Study to Understand Prognoses and Preferences for Outcomes and Risks of Treatments. Circulation 1998; 98: 648–655.4)Levenson JW, et al. The last six months of life for patients with congestive heart failure. J Am Geriatr Soc 2000; 48: S101–109.5)Solano JP, et al. A comparison of symptom prevalence in far advanced cancer, AIDS, heart disease, chronic obstructive pulmonary disease and renal disease. J Pain Symptom Manage 2006; 31: 58–69. 【参考文献】〇 厚生労働省.健康づくりのための睡眠指針2014(平成26年 3月).https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf(2023/10/20閲覧)〇 国立がん研究センター.がん情報サービス「眠れない・不眠 もっと詳しく」.https://ganjoho.jp/public/support/condition/insomnia/ld01.html(2023/10/20閲覧)

訪問看護 緊急時の対応法(窒息)
訪問看護 緊急時の対応法(窒息)
特集
2024年1月30日
2024年1月30日

訪問中に利用者さんが窒息したら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんが窒息したときの対応法です。 注意していても起こり得る誤嚥や窒息 訪問看護師は普段から訪問看護サービスを提供するなかで、利用者さんの嚥下機能を観察し、評価を行っているはずです。そして、その嚥下機能に応じて看護計画を立案し、計画に沿って口腔機能の訓練や食事形態の調整などを実施しています。嚥下機能に問題があれば、在宅で主に介助を行う家族や訪問介護員(ヘルパー)に嚥下能力の情報を共有し、安全な介助方法を指導するといった連携をもって誤嚥予防に取り組んでいることでしょう。 ところが、細心の注意を払ってケアを実施していても軽い誤嚥を起こしてしまうことがあります。アセスメントの結果、最初から嚥下に問題ありと判断できる場合、吸引器が準備できているとよいでしょう。ご家族が安心して安全に吸引できるように指導しておくことも訪問看護師の役割です。口腔ケアに吸引器を活用して誤嚥性肺炎の予防に用いることもできます。また窒息を疑うときにも吸引器が役立ちます。咳嗽が誘発され、異物が喀出されやすくなります。 訪問看護では誤嚥リスクの高い、体力の低下した高齢者や小児の利用者さんも担当します。「窒息かも!?」という場面に遭遇したときの対応について解説します。 窒息のサインを見逃さない 窒息に早急に対応するために、まずは窒息のサインを見逃さないようにします。最初の症状は咳き込みですが、重篤な場合、以下の症状がみられます。 いびきのように声を振り絞っている、または声を出すことこができない咳が弱い、または咳をすることができない両手でのどのあたりをかきむしる、わしづかみにする(チョークサイン)呼吸が徐々に弱まる顔面蒼白けいれん症状意識の低下 このような症状がみられたら気道閉塞を起こしている可能性があります。すぐに気道内の異物を取り除く必要があります。 窒息時の対応法 声かけをして反応をみます。声かけに反応があれば「咳をして!」と強い咳払いを促し、気道に詰まった異物を喀出できるまで介助します。先述のとおり、咳が弱い、呼吸が弱まるなどの様子がみられたら窒息の可能性があります。次に示す背部叩打法やハイムリッヒ法を行ってください。 背部叩打法 前傾姿勢、あるいは座位保持ができない場合や仰臥位の状態であれば側臥位の姿勢にして、その姿勢を保持したまま、左右の肩甲骨の間を手のひらの付け根あたりでかなり強く叩きます。4~5回叩いたら表情や呼吸音、呼吸状態を確認しながら、異物が出てくるまでこれを数回繰り返します。その場の状況判断にもよりますが、救急車を要請することも必要です。 ハイムリッヒ法 重度の気道閉塞では、異物を喀出させるための緊急対応としてハイムリッヒ法(腹部圧迫法、腹部突き上げ法とも呼ばれる)が推奨されています。ただし、妊産婦や乳児には行えません。寝たきりで座位保持ができない利用者さんに対しても不適切な場合があります。また、初めてハイムリッヒ法を実行しようとしても容易ではありません。実施可能な要件を熟知しておくとともに、適切に対処できるように知識・技術をしっかり習得しておくことをおすすめします。 意識が消失したら心肺蘇生、吸引も考慮 もし、意識が消失するようであれば、直ちに心肺蘇生に移ります。蘇生しながら口腔内に見えている異物を除去したり、吸引を実施したりします。 異物が取り除けたら十分な観察を 異物を取り除けたら深呼吸を促します。呼吸状態が落ち着いた後も、十分な観察が必要です。口腔内の観察では異物の残渣や傷がないか、歯に問題がないかをみます。部分入れ歯を装着していた場合、あったはずの入れ歯がなくなっていると新たなトラブルになってしまいます。また、発声したときに痛みやかすれ声(嗄声)がないか、本人の違和感といった自覚症状も確認しましょう。 異物除去後の最初の経口摂取は、とろみを付けた水分を一口からゆっくり摂取してもらい、しばらく様子を見ながら徐々に元に戻していきます。 掃除機での吸引はすすめられない 一部の通説では窒息したときには掃除機が有効といわれていますが、衛生上の問題や本来の使用目的ではないこと、ノズルの硬さなどから口腔内を傷つけるリスクのほうが高いため、決しておすすめできません。知識として頭の隅に残しておく程度がよいと思います。 誤嚥の原因は食事以外にもある 窒息事故はほんの数分でも脳に深刻なダメージを与えてしまいます。後遺症を残す可能性があるため、普段から予防に努め、急変時には今回紹介したような手順で対応できることが重要です。 また、窒息は食事中の誤嚥以外にも嘔吐物の誤嚥や痰の性状によっても起こることがあります。利用者さんの病状をよく観察し、専門家として体位の調整や痰と水分量のバランスを検討するといった事前の対処もとれるようにしておきましょう。 誤嚥の可能性ありなら最善策をとる ここで筆者がかかわった事例の一つを紹介します。今回の対象者は発話がほぼない認知症高齢者の利用者さんで、コミュニケーションもほとんどとれません。嚥下のレベルは、固形物を咀嚼できず、栄養剤を吸い飲みで口腔内に流すと何とか嚥下ができる程度です。 吸い飲みの「吸い口」が見当たらない 食事介助はヘルパーが実施しています。ある日、介助中に吸い飲みに付属しているシリコンゴム製の吸い口が見当たらないことに気がつきます。「飲み込んでしまったようだ」とヘルパーから訪問看護ステーションに連絡があり、すぐに訪問しました。 利用者さんの口腔内を確認するも吸い口は見当たりません。明らかな呼吸困難もなく、その状況からは誤飲したかどうかは見きわめられませんでした。しかし、吸い口が見当たらないのは事実です。今は問題ないと思えるものの、吸い口の形状から気管分岐部あたりに留まっているとしたら、今後問題が生じる可能性も考えられました。 本人は苦痛や違和感を訴えることができない状態です。何も問題がないという結果であったとしても、安心できる結果を得られることから、救急車を要請して受診してもらうことにしました。検査で三日ほど入院しましたが、結局、異常は見つからず無事に帰宅されました。 * * * 誤嚥は肺炎を引き起こします。肺炎を繰り返すと入退院につながり、利用者さんの負担が増えます。また、窒息事故は利用者さんやご家族との関係性に禍根を残すこともあります。担当した訪問看護師も自責の念にかられてしまうでしょう。そのような事態を防ぐためにも日ごろからのリスク対応が必要です。 在宅は病院と違い、病状変化においてすぐに医師の診察や検査を受けることはできません。窒息に限らず在宅看護では常に、今何が起きているのかということをしっかりと把握し、どう対応するかを判断する能力が求められます。看護師一人で対応するのではなく、ぜひステーション全体でリスクマネジメントに取り組むようにしていただければと思います。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社

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