「入院ゼロ社会目指し地域医療を推進」循環器内科医、弓野大さん

看護師が常駐し在宅療養の患者に365日24時間対応している管制塔センター=東京都
看護師が常駐し在宅療養の患者に365日24時間対応している管制塔センター=東京都

高齢化に伴い増加しつつある心不全の在宅医療に取り組む循環器内科医の弓野大(だい)さん。「医を通してその人らしい人生をサポートする」を理念に掲げ、在宅医療を発展させ、その先に「(手術以外の)入院ゼロ社会」の実現を目指しているといいます。

現在、在宅医療で約2000人の患者さんや家族をサポートしています。こうして開院以来10年間、年々患者さんが増えてきましたので、医療の質を維持向上させるため、一昨年7月、都内に365日24時間、患者さんや家族の不安にお応えするICT(情報通信技術)拠点「管制塔センター」を創設しました。

関西の拠点として、大阪市の未来国際医療拠点に新たに管制塔センターを開設する予定です。

管制塔センターには看護師が常駐し、電話で患者さんや家族に対応します。看護師は電子カルテを管理し、遠隔モニタリングで血圧や体温、心拍数などクラウド化されたデータをみるなど、患者さんの状態を常に把握しています。

その人らしく

こうした患者さんの状態をスタッフ間で共有しているだけでなく、患者さんが住んでいる地域のケアマネジャー、訪問看護師、介護士らとも会員制SNS(ソーシャルネットワーク)などを通じ、常時やり取りしています。

当法人の理念は「医を通してその人らしい人生をサポートする」ことです。この理念を実現するためには、患者さんの在宅療養を支える多職種の医療、福祉関係者が連携し、お互い助け合い、知恵を出し合うことが必要なのです。

また、大都市圏で在宅医療を進めているので、高度な先進医療を実践している、大学病院などと連携しています。その連携にあたっては、先進医療を行っている医療機関と同じ目線で患者さんに対する医療の質を考えられる能力が求められます。

専門性高める

ですので、オンラインで東京、大阪、福岡の各クリニックを結び、ほぼ毎日何らかの形で勉強会を開催しています。毎朝の症例検討会、日々の診療で悩んだことや対応した症例でテーマを設け、学びあったり、海外の医学雑誌で発表された研究論文約50報を翻訳し共有しています。

このほか、循環器や在宅医療関連などさまざまな医学会でスタッフが発表し、各専門分野の医療関係者と意見交換をしています。一昨年の実績で医学会での発表は75回にのぼりました。

また、一昨年度から認定制度がスタートした、専門的知識・技術をもち療養指導を通じ病院から在宅まで幅広くサポートする「心不全療養指導士」を、当法人の看護師、理学療法士など20人が取得しています。

以前は在宅医療というと「みとり」というイメージがありましたが、日々医学の発展とともに最新のノウハウを常に身に付け、豊かな在宅医療養が維持できるように、患者さんや家族と向き合うことを全スタッフが心がけています。

医療のDX化を

地域医療をさらに充実させ、手術以外の「入院ゼロ社会」の実現を見据えています。そのカギは、当法人の管制塔センターなどにみられるような「医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)化」です。

新型コロナウイルス感染拡大への対応では、東京都の委託を受け、第5波から都内の複数のコロナ宿泊療養施設への往診を行っています。数多くの患者さんに接し、とりわけ医療の必要な重症の患者さんをトリアージ(患者の重症度に基づき治療の優先度を決める)し、適宜対応しています。これらの経験からも「医療のDX化」が本当に医療が必要な人に適切に医療を届ける機会を広げうると考えています。

100歳時代の到来がいわれる今、健康寿命を維持するため、「デジタルとアナログの融合」により、新しい地域医療の姿を求め、活動を続けたいと考えています。(編集委員 北村理)

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