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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

誕生日が母の命日になった重い障害を抱える男児 アイデンティティーを育む支援とは

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母親は妊娠中毒症で救急搬送後に出産、死亡

誕生日が母の命日になった重い障害を抱える男児 アイデンティティーを育む支援とは

 妊娠中毒症で倒れ、救急搬送後に男児を出産、その後に死亡した妊婦Aさん。男児は、重症新生児仮死で生まれてきました。家族は悲しみを抱えながらも、男児の養育に向き合うようになりました。

 今回は、家族のその後について触れつつ、看護実践の倫理について考えてみたいと思います。

 家族が男児の養育を考え、生活を営めるよう、家族のダイナミズムを捉えた看護支援が行われてきました。それに加え、重症新生児仮死という状況で生まれてきた男児の将来のアイデンティティーを大切にし、それが育まれるように支援がなされました。家族支援専門看護師が考えた男児のアイデンティティーとは何か。次のように看護師は語りました。

 

【あわせて読みたい】出産直後に妻が死亡 重い障害が残った男児の養育に家族が前向きになるまで

生まれた時のことをうまく説明してあげられるか?

 「どのくらいの知的回復があるかはわからないですが、大きくなった時に、誕生日が母親の命日でもあるということを、どう受け取るかなって考えました。この子の人生は病院のなかで完結するわけではない。物心がついてから自分が生まれた時のことを質問した時、その時の状況を、どうみんなが覚えてくれているのか? 周りの大人の記憶が曖昧になって、生まれた時のことがうまく説明ができないと、子どものアイデンティティーが大事にされず、本当に愛されているのか疑問に思って、生きていく力をそぐようなことになってしまうかもしれない。お母さんやみんなが、あなたをどれだけ愛しているか、誕生を喜んでいたか、そのメッセージを残してあげたいと思いました」

「育児日記」を退院日にプレゼント

 看護師は、キャリアを積んだ今になって振り返れば、そこまでしなくてもと感じるものの、当時は家族支援専門看護師となってから日が浅く、毎日、体重、ミルクの状況等「育児日記」を書き、今日はこういう笑顔や表情をしたと写真を撮って、退院の日にデータもプレゼントしたそうです。男児が将来大きくなった時、自分はその場にいなくても、男児が父親や家族と自分が生まれ育っていった時のことを話せる機会があったらいいなという思いを込めたと言います。

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)。映像教材「終わりのない生命の物語3:5つの物語で考える生命倫理」(丸善出版,2023)を監修。鶴若麻理・那須真弓編著「認知症ケアと日常倫理:実践事例と当事者の声に学ぶ」(日本看護協会出版会,2023年)

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