重い病気や障がいのある子供たちを自宅でケアする小児在宅医療。医療の発展によって救われる命が増え、その重要性は増している。一方で、成長する子供たちをどのように支えていくのか。新たな課題に向き合う小児科医が宮城県にいる。

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宮城県にたった一人「小児在宅医」

仙台市青葉区にある、あおぞら診療所ほっこり仙台。

あおぞら診療所ほっこり仙台 田中総一郎医師:
「だんだん点滴の量を減らしていこうと思って」

県内で唯一の小児在宅医・田中総一郎医師(59)。田中医師は、重い障がいや病気により日常的に医療が必要な「医療的ケア児」が自宅で暮らせるよう、往診する日々を送っている。

宮城県唯一の小児在宅医・田中総一郎医師(59)
宮城県唯一の小児在宅医・田中総一郎医師(59)

あおぞら診療所ほっこり仙台・田中総一郎医師:
「採血中におもろい話しようか、関西人は大事なことを2回言うらしい。トイレ行きたい時も『おしっこおしっこ』って必ず2回言うねん」

家の中にいれば、子供たちは自分らしく生きていられる」と話す田中医師。往診で届けるのは、安心と幸せな時間だ。

田中医師が往診する医療的ケア児
田中医師が往診する医療的ケア児

低体重や難病でも救われる赤ちゃんが増え、医療的ケア児は10年で2倍に増えた。その数は全国でおよそ2万人にのぼる。田中先生は、宮城県内80人以上の患者の往診と、24時間態勢での急患対応を一人で担っている。

日常的な医療的ケアが必要な子どもは10年で2倍に
日常的な医療的ケアが必要な子どもは10年で2倍に

あおぞら診療所ほっこり仙台 田中総一郎医師:
「午前中にいっぱい電話かかってきて、それが全部、午前中の9時から10時くらいの間に重なって。もうね、私も『プツン』ときちゃってね…。『そうじゃなくて』とか、『もう一回聞くよ、お母さん』とか言っちゃってね…。後でもっと優しく言えばよかったと…」

県内80人以上の患者の往診と急患対応を一人で担う田中医師
県内80人以上の患者の往診と急患対応を一人で担う田中医師

「移行期医療」支援の重要性

最近、患者の家族からある悩みを相談されることが増えたという田中医師。この日、脳性まひの男性の家族から悩みを打ち明けられていた。

脳性まひ・高橋幸太郎さん(23)の母・邦子さん:
「これまでと全く違う部分で症状がでたとか、外科でお世話にならなければならない何かが起こってしまったときに、どこで誰が診てくれるのかっていう…」
あおぞら診療所ほっこり仙台 田中総一郎医師:
「悩ましいですね…」

患者家族の悩みは、小児期医療と成人期医療をつなぐ、移行期医療の問題。子どもが成長していく中で、診療科は変わっていくのが一般的だが、重い病気や障がいがある医療的ケア児については、症状の専門性が強く、成人後、診ることができる医者が少ないのが現状だ。結果、成人後も小児科医が患者を継続して診療することは決して珍しいことではない。

あおぞら診療所ほっこり仙台 田中総一郎医師:
「成人したら『自分の力で生きていこうね』『自分で病院を選んで』というのが当たり前じゃないですか。一方で、障がいがある子供たちが社会に出て、『20歳になって、自分で病院を選んで、自立してね』と言われても、生きること自体、周りの人の手を借りることが必要。自分で決めることは難しい。大人になってもこの子たちは支援が必要なんだと…」

近年、問題視されるようになった移行期医療。行政も動き出している。宮城県は、移行期医療についての検討会を2022年に発足。成人した医療的ケア児の人数や医療機関の対応について調査しているが、県内の診療所1316カ所に送った「移行期医療支援」についてのアンケートの回収率はわずか13.2パーセントにとどまっている。医療従事者の中でも、関心が低いことがうかがえる。

2022年に開かれた宮城県移行期医療検討会
2022年に開かれた宮城県移行期医療検討会

あおぞら診療所ほっこり仙台 田中総一郎医師:
「医療的ケアが必要な患者さんを診たことのない先生からすれば、初めて診る症状の人たち。どう対応したらいいのかと感じてしまう。この問題を解消するためには、私たち小児科医が成人した医療的ケア児を、内科の先生たちにお願いしていく、アプローチを一生懸命しなければならないし、本人やお母さんたちも初めての先生たちに知ってもらう、分かってもらう努力をしなければならない」

地域在宅医とタッグ

2022年11月某日、田中医師の姿があったのは、普段の往診エリアから車で1時間ほどの宮城県石巻市。地域の在宅医と一緒に、ある患者のもとを訪れていた。

染色体異常症を患う山形大将さん。年齢は24歳。“元医療的ケア児”だ。家族は診療してくれる医者探しに奔走したという。

染色体異常症・山形大将さん(24)の家族:
「年齢的にこども病院がそろそろ終わりの年齢になって、先生から地元の病院にという話をされて、病院を探してはもらったんですけど、なかなか受け入れてもらえる病院が見つからず…」

そんな山形さんをようやく受け入れてくれたのが、石巻市の在宅医・落合紀宏医師だった。「元医療的ケア児」の診察について、不安はなかったのだろうか。

石巻祐ホームクリニック 落合紀宏医師:
「機械とかもないので。田中先生が定期的に来てチェックしてくださるのは、すごく安心ですね」

田中医師とタッグを組んで山形さんの診療にあたる落合医師
田中医師とタッグを組んで山形さんの診療にあたる落合医師

山形さんの診療を定期的に行うのは落合医師で、専門性な小児科特有の診察については、田中医師が3カ月に一度サポートする体制をとっているのだという。

あおぞら診療所ほっこり仙台 田中総一郎医師:
「専門的な医師が時々バックアップすることで、地域で患者を診ることを『いいよ』と言ってくれる先生が、今後増えてくると思っているんです」

医学のめざましい進歩によって、これまで救えなかった命は、数多く救えるようになった。
救われた命が、難病を患う子供たちが、これからも自分らしく生きられるように。
田中医師の奮闘はきょうも続く。

(仙台放送)

仙台放送
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