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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

医療・健康・介護のコラム

「夕暮れ症候群」が認知症の高齢者に起きやすい理由――睡眠パターンと脳の温度、そして光

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 こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に科学的見地からビシバシお答えします。

 夕暮れ時はもの悲しい気分に駆られるときがありますが、とりわけ認知症の方には不安が高まって、興奮したり症状が悪化したりする傾向があります。これは「夕暮れ症候群」などと呼ばれ、多くの介護者は経験的にこれを知っています。夕暮れ症候群とは一体何でしょうか? どうしてこのようなことが起こるのでしょうか?

同じ日でも症状が急に重くなったり軽くなったりするが…

「夕暮れ症候群」が認知症の高齢者に起きやすい理由――睡眠パターンと脳の温度、そして光

 認知症の主な症状は記憶力低下(物忘れ)や見当識障害(家族の顔が分からない、場所が分からなくなり迷子になるなど)、失行や失認(一人で服を着られない、時計の文字盤が読めない)などですが、そのほかにも色々な精神面、行動面の問題が出てきます。例えば、昼夜逆転などの睡眠問題、怒りっぽさ、被害妄想、不活発、異物を食べるなど、人によって様々です。

 症状は何か月、何年もかけて徐々に進行しますが、診療や介護にあたっていると、同じ日でも認知症症状が急に重くなったり軽くなったりする「日内変動」に遭遇することがあります。症状の日内変動が大きいことで特に有名なのがレビー小体型認知症です。患者さんは先ほどまで普通に世間話ができていたのに、数時間後には話のつじつまが合わず、ボンヤリして物忘れもひどくなってしまうような日内変動が特徴的で、レビー小体型認知症の診断基準にも取り入れられているほどです。

 アルツハイマー病をはじめとする他のタイプの認知症でも症状の日内変動が見られます。特に夕方に認知症症状が悪化することが多く、これが「夕暮れ症候群」と呼ばれています。英語名は「Sundowning Syndrome」で、「日没症候群」や「たそがれ現象」などの別名もあります。認知症のケア施設では、日中は穏やかに過ごしていたのに、夕方になると不機嫌になったり、不安げに 徘徊(はいかい) を始めたりする高齢者をよく見かけます。「家に帰る」と言い張って玄関から出て行こうとし、それを押しとどめて夕食をとってもらおうとする施設職員とのやり取りが日々繰り広げられています。

 このような夕暮れ症候群はなぜ生じるのでしょうか? そのメカニズムには不明な点も多いのですが、夕方早い時間から眠気が強まることが原因の一つと考えられています。ご存じのように私たちの睡眠パターンは、加齢とともに早寝早起き型になります。健康な高齢者でも夕食を終えると間もなくウトウトして、早い時間帯に寝床に入る方が少なくありません。とりわけ認知症の方の中にはこのような傾向が強いのです。

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本生物学的精神医学会理事、日本学術会議連携会員。著書に「不眠症治療のパラダイムシフト」(編著、医薬ジャーナル社)、「やってはいけない眠り方」(青春新書プレイブックス)、「8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識」(共著、日経BP社)などがある。

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