鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」
医療・健康・介護のコラム
認知症で皮膚がんを患う70代女性 治療は「嫌だ」と繰り返したが…本心は「治したい」だった
顔面に皮膚がん 放射線治療に拒否反応
70代後半の女性。ほほに500円玉ほどの大きさの皮膚がんの潰瘍があり、外来診察時に医師から、放射線治療が最もよい選択肢であることが伝えられていた。本人は脳 梗塞 の後遺症で認知機能の低下があり、治療に対して「もういい」「嫌だ」などを繰り返すのみだった。一方、夫は「何とか治療をしてほしい」という意向が強かった。息子や娘とも話し合ってもらった末、入院での放射線治療を始めることになった。
入院1日目、放射線治療室に移動したが、本人が「いい」「嫌だ」と言うため、結局、その日は治療ができなかった。放射線治療室の看護師から病棟看護師へ、「拒否が強くて治療ができない」という申し送りがあった。病棟看護師は、院内の認知症看護認定看護師に「認知機能低下のある患者が治療を拒否している」と相談した。相談を受けた看護師が患者の病室に行くと、特に暴力的な行動はなく、ただ、「嫌だ」や「もういい」を繰り返している状況であった。
さてどうするか。
この事例は、認知症看護認定看護師(以下、看護師)が語ってくれた事例です。この事例のように、認知症高齢者は、治療に加えて、食事、入浴など生活にかかわることへの拒否がよくみられます。
言葉かけを工夫し、「痛い」「治したい」を確認
まず、手が出るなどの暴力的行為があるのか、言葉だけなのかを見極めると、言葉だけであり、かつ単語が一言一言発せられる状況でした。「嫌だ」と本人は言っているけれど、本当に治療が嫌なのか、何が嫌なのか、看護師は知りたいと思ったそうです。病室で患者と話をしていくなかで、ほほの上のほうにあるジュクジュクした状態の腫瘍が痛いのではないかと思い、「痛いですか」とたずねると、「痛い」という言葉が返ってきました。
看護師は、自分が言った言葉を繰り返している可能性を考え、「痛くないですか」と反対の表現でもう一度たずねてみると、「痛い」という返事がはっきりと返ってきました。さらに本人の思いを知るために、一問一答形式で質問をしていきました。その中で「治したいですか」と言うと「うん」、「治したくないですか」と言うと「治したい」という言葉が一言ずつでしたが、本人から明確に返ってきました。この表現された言葉は、本人の意思であると捉えて支援方法を考えました。
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