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国立がん研究センター東病院 私のがん診療録

医療・健康・介護のコラム

「がん教育」子どもの頃から学ぶ必要があるのはなぜ?…実施率は全国で10%以下

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副院長・放射線治療科長 秋元哲夫さん

国立がん研究センター東病院 私のがん診療録
副院長・放射線治療科長 秋元哲夫さん

秋元哲夫さん

 2人に1人ががんになる時代ですが、予防や検診、治療の進歩で60%以上が治癒するようになってきました。がんは身近な存在ですが、大人でも正しい知識や理解を深める機会が少ないのが現状です。

 2016年12月にがん対策基本法が改正され、「がんに関する教育の推進」についての条文が新たに加えられました。これに伴い、第3期がん対策推進基本計画には「外部講師の活用体制を整備し、がん教育の充実に努める」と明記され、小中高の各学校で、がん教育の取り組みが始まりました。しかし、21年の文部科学省の調査では、実施した学校は10%以下とまだまだ普及していないようです。

 私は昨年、市町村の医師会から依頼され、小中学生向けの「がん教育」動画を作成し、授業で視聴し感想を川柳や絵画にしてもらう取り組みに関わりました。

 「がん検診 自分のために 家族のために」「がん治療 支えてあげよう 全員で」など、心温まる川柳が数多く寄せられました。

 がんの知識を深めるだけでなく、両親を含め、家族に おも いを せる機会にもなっていることを実感しました。がんは大人だけの問題ではないということも伝えたため、「がんってね 若い人でもなるんだよ……」と、自分や仲間に向けたメッセージもありました。

 診察室という限られた空間で患者さんやご家族と話すだけでなく、こうした日常生活の中での「がん教育」が、患者さんを取り巻く様々な問題の解決やサポートにつながると信じ、さらなる活動の広がりを願っています。

がんは身近な病気に

 がん教育の意義について、秋元さんに聞きました。

――がん教育はなぜ、必要なのでしょうか。

 がんは、高齢者だけの病気ではありません。子どもやAYA世代(15~39歳)の人でも、発症することがあります。ご家族の誰かが患ったというお子さんもいるでしょう。がんは身近な病気と言えます。

 しかし、小学生や中学生、あるいは高校生が、がんについて教育を受ける機会は学校の内外どちらにもありません。そこで、がんの診療に携わる医師らが学校に出向くなどし、がんの現状について伝える授業というのは、とても重要なことだと考えています。

――子どもたちの前で話をして、感じたことはありますか。

 (国立がん研究センター東病院がある)千葉県柏市の小中学校で話をしました。がん教育用に作成した動画を見てもらいました。がんがどのようにできるのかというところから、どのように見つかるのか、実際に治療はどのように進めるのかといったところまで説明しています。

 コラムにも書きましたが、子どもたちにはその後、川柳を考えてもらったり絵を描いてもらったりしました。作品を見ていると、「自分も将来、がんになる可能性があるんだ」ということを表現してくれたり、家族のことを題材にしてくれたりしていて、単にがんの知識を学んだだけではないということに驚きました。子どもたちが、いろいろな感想を持ってくれたというのは、少し予想外のことでもあり、うれしく思いました。

「90%は生きられる」と説明すると…

――子どもが大人になってがんになった時、がん教育を受けたという経験は役に立ちますか。

 日常診療の中で、患者さんにがんの診断がつくと、ご自分の病気がどの程度治るのかが話の中心になることがあります。平均的な数字として、例えば「90%程度の治癒率です」とお伝えすると、逆のことを考える患者さんも少なくありません。「10%の方は再発するんですね」という具合です。自分の命が区切られたという思いを吐露される方もいます。この先、どのように病気が進行していくのか分からず、不安でいっぱいになります。無理もないことだと思います。

 しかし、がんの知識がある程度あったりご自身ががん教育を受けたことがあったりする、もしくは、そのような経験がある方のサポートが得られれば、そこまで否定的な感情ばかりが浮かぶということもないのではないでしょうか。治せる可能性が高い治療法がある場合、そのことを知っているだけでも、気持ちは楽になるように思います。

――がん教育を実施している学校は、まだ10%以下というのが現状です。その要因はどこにあると考えていますか。

 文部科学省のウェブサイトには、がん教育用のスライドがアップされています。しかし、教える側の先生に、それを使いこなすだけの知識を求めるのは難しいように思います。

 そこで、病院の医師を派遣してほしいとお願いされるのですが、医師の数には限りがあり、日常の診療をしながら、すべての学校を回るというのも限界があります。そうしたことが、実施に踏み切れない一因になっているように感じています。

誰もが身につけておきたい能力

――大人では、子どもの頃にがん教育を受けていないという人も多いと思います。正しいがんの情報を得るには、どうしたらよいでしょうか。

 インターネットが普及し、情報は氾濫しています。正しいものとそうでないものを見分ける能力が必要です。

 国立がん研究センターのウェブサイト「がん情報サービス」には正しい情報が掲載されていますので、参考にしてほしいです。

――がん診療連携拠点病院などには、がん相談支援センターが設置されています。

 看護師やソーシャルワーカーなどが対応してくれます。治療のことをはじめ、様々な制度やサービスといったことについて相談でき、どなたでも無料で利用できます。がん情報サービスから、がん診療連携拠点病院を探すことができますので、お近くの病院のがん相談支援センターに電話をしてみてもよいと思います。

あきもと・てつお
 群馬大医学部卒。同大放射線科講師、東京女子医科大臨床教授などを経て、2014年5月から現職。日本放射線腫瘍学会認定医、日本医学放射線学会治療専門医。日本放射線腫瘍学会代議員、日本頭けいがん 学会副理事長

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国立がん研究センター東病院 私のがん診療録

 2人に1人ががんを経験すると言われ、患者は増え続けています。がん診療の最前線で日々、患者と向き合う医療者は、日常の診療の中で何を思い、感じているのでしょうか。国立がん研究センター東病院の医師と看護師が、つづります。また、最新の治療法などについて、筆者へのインタビュー記事も掲載します。

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