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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

認知症患者をニュース動画で刺激するつもりが寝てしまい、「意味あるの?」

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認知症患者をニュース動画で刺激するつもりが寝てしまい、「意味あるの?」

 A病院(急性期病院)のある病棟。ナースステーションの近くで日中、認知症の患者3人がベッド上や車いすで、オーバーテーブル(ベッドをまたいで設置できるテーブル)などに載せたタブレット端末で動画を見て過ごしていた。しかし、3人とも動画に関心がないようで、一人の患者は「帰らせて~」と言いながら立って歩こうとし、2人の患者は寝てしまっていた。

 A病院に異動してきた認知症看護認定看護師は、この病棟の様子を見て、「ただ動画を見てもらうだけって意味あるの?」と疑問に感じたことを語ってくれました。

  動画はSNSで見られるニュースやスポーツなどで、事件の映像や地域の出来事などが断続的に流されていました。認知症の特徴として、「近時記憶障害」(記憶の保持が難しい)や「時の見当識障害」(時間や場所、自分を取り巻く状況がわからなくなる)のため、流れているニュースがいつ、どこで起きているのか、本人にとってはわかりにくいものです。

 加えて、自分が好みではない、関心のない内容であれば、目をつむってしまい、車いすに乗っていても眠ってしまいます。また認知症の特徴として、全般的に注意障害があり、ナースステーションなど情報が飛び交う場所の近くにいると、一つのことに集中するのが難しい状況になります。

看護師として何かやってる感はあるが、効果は?

 看護師は「自分も以前はそうだったけど、(動画を見せることで)看護師としては何かをやってる感はあるので、それでいいと思うこともあった。でも本当に動画を流す意味や効果を考えていかないといけない。その前に、座っていることそのものが苦痛かもしれない」と語ってくれました。

 看護師は80代の女性に声をかけてみました。

 「Bさん、こんにちは。今、何か見ていたようですが、何を見ていたのですか」と聞いてみました。本人がタブレットで何を見ていたのか、それとも見ていなかったのかをまず確認するためです。

 「うん。まぁ、えーっと……いろいろね」

 さらに「Bさんは普段どのようなものを見るのですか? テレビはあまり見ませんか?」と聞くと、「見ないね……」

 「そうですか。歌はどうですか?」と聞いてみます。認知症の特徴である喚語困難(うまく言葉が出ない)があると思われたので、「演歌ですか?」や「ひばりちゃん?」など少しずつ具体的なヒントを出しながら、Bさんの関心や好きなことを聞いていきました。

 話を聞くと、Bさんはラジオでよく歌謡曲を聞いていたようでした。中にはテレビも見ないし、音楽も聞かないという人がいますが、その場合は「お仕事は何をしていましたか?」「好きなことは何かありますか?」と別のアプローチ方法を探していくそうです。

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)。映像教材「終わりのない生命の物語3:5つの物語で考える生命倫理」(丸善出版,2023)を監修。鶴若麻理・那須真弓編著「認知症ケアと日常倫理:実践事例と当事者の声に学ぶ」(日本看護協会出版会,2023年)

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