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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

がんと心臓病、がんと脳卒中、がんと運動…腫瘍学が他分野と連携するワケ

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がんと心臓病、がんと脳卒中、がんと運動…腫瘍学が他分野と連携するワケ

イラスト:さかいゆは

 私は、「がん」を専門に扱う「腫瘍内科医」ですので、がんという病気については、よく知っています。でも、がん患者さんを悩ませているのが、がんだけとは限りません。がん以外の病気がある方もいるでしょうし、気持ちがつらくて、精神的なケアを必要とすることもあるでしょう。食事や運動をどうしたらよいのか気になっている、という方もいるでしょう。

 そういう、「がん」以外の部分にどう取り組むかというのが、今回のテーマです。

増える「がんとほかの病気の併発」

 日本人の死因の第1位はがん、第2位は心臓病、第3位は老衰、第4位は脳卒中です。病気になったあとも長く生きる方が増えていて、これらの病気を二つ以上持っている方も増えています。心臓病を患っている方ががんになったり、がんを患っている方が脳卒中を発症したりするのもまれなことではありません。

 たばこを吸っていると、がんになりやすいだけでなく、心臓病や脳卒中の要因にもなりますので、そういう共通の要因が関係している可能性もありますし、たまたま関係のない二つの病気を発症してしまった可能性もあります。がんの治療が原因となって、別の病気を引き起こしてしまうこともあります。

 がん患者さんや、がんを経験した「がんサバイバー」は、がん以外のことについても適切なケアを受ける必要があり、そのためには、がんの専門家が、がん以外の領域の専門家と連携して取り組むことが求められています。

「オンコ○○ロジー」が次々と誕生

 がんを扱う学問を、「腫瘍学」と言います。英語では「オンコロジー」です。「オンコ」が腫瘍を意味し、「ロジー」が学問を意味します。

 近年、「腫瘍学」が、他の領域と交わることで、新しい学問分野が生まれています。

 「心臓病学(カーディオロジー)」と融合したのが、「オンコカーディオロジー(腫瘍循環器学)」。

 「腎臓病学(ネフロロジー)」と融合したのが、「オンコネフロロジー(腫瘍腎臓病学)」。

 「心理学(サイコロジー)と融合したのが、「サイコオンコロジー(精神腫瘍学)」。

 紹介すればきりがないのですが、「オンコ○○ロジー」や「○○オンコロジー」が、たくさん生まれているということです。こういう新しい学問分野ができて、名前がつくことで、異なる領域の専門家の交流が増え、議論が生まれます。専門家同士が話し合うことで、問題点が浮き彫りになるとともに、解決のための知恵も集まります。新たな学会や研究会もでき、ガイドラインづくりや、臨床研究も活発に行われています。

 重要なのは、新しい名前ができることや専門家が盛り上がることではなく、その学問が、人々の役に立つことです。一人ひとりの患者さんやがんサバイバーが、自分らしく、幸せに過ごせることを目標に、これらの学問が発展していくことを願っています。

 腫瘍内科医というのは、自分一人で医療を行うよりも、他の診療科の医師や、看護師、薬剤師などと連携しながら、医療をコーディネートすることが多く、立場の違う医療者とコミュニケーションをとるのを得意としています。そんな腫瘍内科医にとって、他の領域との関わりを深めるのは、ごく自然なことで、それが、新たな学問分野の誕生にもつながっているように思います。

 私自身、人との出会いを大切にしてきましたが、ありがたいことに、他領域から腫瘍内科医側の窓口としてご指名いただくことも多く、何かと新しい動きに関わっています。

 最近では、運動とがんの関係を考える「エクササイズ・オンコロジー(運動腫瘍学)」や、がんと脳卒中をともに患う患者さんのケアを考える「ストローク・オンコロジー(腫瘍脳卒中学)」の創設に携わりました。新しい出会いから、新しいものを生み出し、よりよい医療につなげていけるというのは、とてもやりがいのあることです。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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