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フレイル予防 ひざに負担をかけずにスクワットをする方法は? 手軽に自宅でできる運動…ポイントは「ちょい足し」

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 寒い冬は、家に閉じこもりがち。そんな高齢者も多いでしょう。筋力や身体機能が低下しないように運動することが大切です。今回は、フレイル予防隊の皆さんが、「自宅でできる運動」を体験しました。(長原和磨)

「万歳」で肩甲骨周りほぐす…弱りやすい太もも スクワット

体操・筋トレ 家で手軽に

 体験会は昨年12月下旬、東京都健康長寿医療センター研究所(板橋区)で開催し、予防隊の10人が参加した。研究所の主任研究員で、健康運動指導士の清野諭さん(40)が講師を務めた。

 最初に挑戦したのは、汗を流す運動ではなく、2人1組で行うジャンケンだ。ただし、利き手とは反対の手を使い、相手が出した手の形を先に言った方が勝ちという、特別のルール。利き手が右手であれば、左手を使ってチョキを出す。その時、相手がパーを出していても、自分が先に「パー」と言わなければ負け――といった具合だ。

 「ジャーンケン、ポン……。あれ、何だっけ?」。簡単そうでできず、苦笑を浮かべる参加者たちを前に、清野さんはこう解説した。

 「思い通りに体を動かすためのトレーニングとして、目、頭、耳、手など、色々なところを同時に使う『ゲーム体操』は、おすすめです」

 この後、参加者は研究所が作成した運動プログラムを基に、体を動かし始めた。

 まずはストレッチ。イスに姿勢よく座り、組んだ両手を真上に伸ばしてゆっくりと10数える。次は、手を体の後ろで組んで胸を張った状態を約10秒キープする。肩甲骨周りをほぐす運動として、万歳の状態からゆっくりと両ひじを真下に引き、再び万歳の状態に戻す動作なども行った。

体操・筋トレ 家で手軽に

肩甲骨周りをほぐす運動に取り組む参加者たち(昨年12月26日、東京都板橋区で)

 「普段の生活で時々、姿勢を意識したり、伸びの動きを入れたりしてください」。清野さんがこう呼びかけると、猫背が気になっているという、千葉県成田市の小川典子さん(83)は、深呼吸して上半身の伸びを感じていた。

 股関節や足のストレッチをした後は、筋力トレーニングに移った。この日の三つのメニューのうち、二つが太ももを鍛える運動だった。「一番強い力が出る部分だが、年齢を重ねると弱くなりやすい」(清野さん)という。

 「ひざ伸ばし」は、イスに座った状態で4秒ほどかけて片方のひざをまっすぐに伸ばし、また4秒ほどかけて下ろす。この動作を左右でそれぞれ8回行った。

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イスから立ち上がる方法でスクワットする参加者たち

 最後は、清野さんが「運動の王様」と呼ぶスクワットだ。悪い姿勢で行うと、ひざに負担がかかってしまうが、イスから立ち上がる方法で行うと、よい姿勢で取り組みやすいという。両腕を胸の前で交差させ、4秒ほどかけてゆっくり立ち上がり、また4秒かけて座った状態に戻す。この動作を8回繰り返すと、運動習慣のある参加者でさえ、「わー、きつい!」と漏らした。

 自宅で行う際の回数は、自分の筋力に合わせて増減させてよいといい、清野さんは「『ちょっときつい』という感覚がないと、筋力はアップしない。無理のない範囲で調整して」とアドバイス。「家族や友人にも運動を広めてください」と呼びかけた。

 千葉県市原市の石倉豊司さん(73)は、地元で予防活動を担うボランティア「フレイルサポーター」を務めており、「楽しく体を動かした体験を持ち帰り、すぐにでも周りの人に伝えたい」と、汗をぬぐった。

「ちょっときつい」レベルで

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 日常生活に運動を取り入れるポイントを、東京都健康長寿医療センター研究所の清野諭さん=写真=に聞いた。

 予防隊の皆さんに挑戦してもらったジャンケンのゲームは、頭と体を同時に使うトレーニングです。思い通りに体を動かせなければ、つまずいた時にとっさに足が出なかったり、隣の人を支えようとしても手が出なかったりすることがあります。いつもと異なるルールの下、「何だっけ?」とつっかえるのは、脳によい刺激が届いている証拠です。

 筋力トレーニングでも、「ちょっときつい」という感覚がなければ筋力はアップしません。0が「非常に楽」、10が「非常にきつい」と仮定して、6~8程度が、安全で効果的な強度の目安です。無理をせず、自分の体と相談しながら回数を調整してください。

 普段全く運動をしないという人が、いきなり多くのことをやるのはハードルが高いかもしれません。小さな動きを「ちょい足し」するのがおすすめです。私は普段、パソコンを使って仕事をしていますが、印刷機を離れた場所に置いて、立ったり歩いたりする回数を増やしています。

 自宅でも座りっぱなしを防ぐことが大切です。テレビを見る際、30分に1回は立ち上がって少しだけでも体を動かすなど、簡単な積み重ねを心がけてください。

要介護リスク 働くと減る…身体機能維持、多世代交流にも

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 フレイルの状態でも、働いている高齢者は、介護が必要になるリスクが抑えられる――。そんな調査結果を、東京都健康長寿医療センター研究所(板橋区)がまとめた。フルタイムで働く人は、仕事をしていない人と比べ要介護リスクが、5割以上低かった。

 藤原佳典副所長らの研究チームは、東京都大田区に住む65~84歳の男女6386人を対象に、2016年時点の就業状況や心身の状態などを聞いた。3年半の追跡調査を行った結果、806人が要介護認定を受けていた。

 フレイルの高齢者と、そうではない人に分けて、就労と要介護リスクの関係を分析。フレイルの高齢者の場合、フルタイム(週35時間以上)で働く人は57%、働いていない人に比べリスクが抑制された。

 研究チームは、通勤のために歩いたり、仕事中に立ったり座ったりするだけでも、身体機能の維持に効果があるとみる。

 さらに、働くことは「心の健康」にもつながる。他人から感謝される場面があれば、生きがいを感じることができる。高齢者だけではなく若者も働く職場は、「多世代交流」のきっかけの場になり、自身より若い人と接することで新たな刺激を得られるという。

 また、フレイルではない高齢者の場合も、フルタイムでは31%、パートタイム(週35時間未満)では34%、働いていない人に比べ要介護リスクが抑えられた。働くことが認知機能の維持に役立っている傾向がみられたという。

 藤原副所長は「高齢者が働くことは、地域や社会を支える一助になる」と指摘したうえで、「フレイルの状態になっても働くことができる環境づくりを、自治体や企業が中心になって進めていく必要がある」と話している。(2024年1月23日付の読売新聞朝刊に掲載された記事です)

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