認知症とともにあるウェブメディア

高血圧と認知症の関係とは?高血圧が認知症のリスクになる理由や注意したい年代、対策について

【高血圧】認知症のリスク因子を知る(国際アルツハイマー病協会/Alzheimer's Disease International)
【高血圧】認知症のリスク因子を知る(国際アルツハイマー病協会)

国際アルツハイマー病協会の2023年の標語は”Never too early, never too late”(「早すぎるということもなければ、遅すぎるということもない」)です。

認知症への向き合い方として、早ければ早いほどよいものもあれば、遅くても対策をすれば諦めることはないというものもあります。

そのためには、まず認知症のリスク因子について知ることが重要であり、多くは日々の生活習慣に関連するものでもあります。12あるリスク因子の中から、その分野に詳しい有識者に認知症との関連や、できる対策について伺います。

第5回目は高血圧です。脳卒中や心筋梗塞など、命に関わる病気を引き起こす高血圧。近年は認知症とも関わりが深いことが明らかになっています。なぜ認知症と高血圧が関係するのか、高血圧をコントロールすることは認知症予防に役立つのか、高血圧の人が認知症になった場合にはどのような点に注意すればいいのか。高血圧を専門とする東京都健康長寿医療センター循環器内科部長の石川讓治医師に解説してもらいました。

※ 下線部をクリックすると、各項目の先頭へ移動します

高血圧は血管が硬くなる動脈硬化を進行させ、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞、腎不全などの原因となります。脳梗塞や脳出血は血管性認知症を引き起こすことから、高血圧は認知症のリスクの1つといえます。脳梗塞を起こすと、片側の手足のまひや言語障害、意識障害といった症状が出ることもありますが、脳の細い血管が詰まった場合、「無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞)」と呼ばれ、症状がないこともあります。気づかないうちにこのような小さな脳梗塞が起こり、認知機能が低下していくということも考えられるのです。

一方、高血圧がアルツハイマー型認知症のリスクになるというデータもありますが、そのメカニズムについては、現在のところ明確にはなっていません。高血圧が脳内の血流障害を引き起こし、アルツハイマー型認知症の原因となる異常なたんぱく質が蓄積しやすくなる、といった報告もありますが、まだ研究段階です。

診療の現場では、アルツハイマー型認知症と血管性認知症を完全に分けて診断するのは難しく、重なっていることも多くあります。つまり、どちらの認知症も同程度に高血圧に関連すると考えていいのではないでしょうか。

高血圧がある認知症の患者さんの認知機能を調べると、昔のことはよく覚えているけれど最近のことが覚えられないといった記憶障害、物事を計画立ててできなくなる実行機能障害が目立つ傾向があります。

認知症と特に関連が深いのは中年期の高血圧

イギリスの権威ある医学誌『Lancet』では、中年期(45歳~65歳)の高血圧は、認知症のリスク因子の1つとしています。日本では、福岡県久山町の地域住民を対象とした「久山町研究」によるデータが有名で、中年期に高血圧がある人は、正常血圧の人と比べると認知症を発症するリスクが約3倍になると報告されています。高血圧の程度が悪くなるほど、認知症を発症するリスクも上がります。

矢印、Getty Images
Getty Images

一方、老年期の高血圧については、認知症のリスクになるという明らかなデータはありません。中年期に高血圧であった人でも、認知機能が低下して、体力や生活の質が落ち、介護が必要になったり、寝たきりになったりすると、血圧が下がっていくことがあります。こうしたことから高血圧の管理については、中年期が非常に重要といえるのです。

高血圧の治療は、減塩や運動など生活習慣の改善のほか、「降圧薬」によって血圧を下げる方法が中心になります。降圧薬が認知症の発症や認知機能の低下を予防するかという点についても、さまざまな研究が実施されています。高血圧の人を対象に、降圧薬を服用したグループと服用していないグループに分け、認知機能を評価した研究がありますが、両者に決定的な差は出ていません。ただしMCI(軽度認知障害)についてはある程度の差が出ている傾向があるので、降圧薬の効果は認知機能の低下が軽度であるほど発揮されやすいと考えられます。

認知症のさまざまなリスク因子と関わる高血圧

前述した医学誌『Lancet』では、認知症のリスク因子を高血圧含めて12項目(肥満、糖尿病、過剰飲酒、運動不足、喫煙、社会的孤立、大気汚染、抑うつ、頭部外傷、難聴、教育歴)挙げていますが、高血圧はほかのさまざまなリスク因子とも関わります。肥満や糖尿病、運動不足の人は、高血圧になりやすいですし、抑うつによって不眠があると夜間に血圧が上がりやすくなります。また、高血圧の人は血圧が変動しやすくなりますが、急な血圧の変動によってめまいやふらつきを起こし、転倒して頭部外傷を引き起こすことも考えられます。

転倒した高齢男性、Getty Images
Getty Images

現在のところ降圧薬の服用が認知症を予防するという決定的なデータは出ていませんが、降圧薬が認知症を悪化させるという報告もありません。高血圧が認知症のさまざまなリスク因子と関わることを考えると、高齢者においても、治療によって血圧をコントロールすることが大切なのです。それはどの年代でも同じであり、治療を始めるのに早すぎることも遅すぎることもありません。

高血圧そのものは症状がないため、健康診断などで血圧が高いことがわかっても治療に結びつかないケースが少なくありません。しかし、動脈硬化がまだ進んでいない中年期の段階で血圧をコントロールしておけば、高齢になっても寝たきりにならずにイキイキと過ごせる可能性が高くなります。初期であれば、降圧薬を服用しなくても肥満を解消したり、塩分を制限したりするだけで血圧が正常になることもあります。

一方、80代で初めて高血圧を発症する人もいます。高齢になるまで高血圧を発症しなかったということは、健康的な生活習慣を維持できていた証ともいえます。ただし、高齢になるほど高血圧が病気の発症につながりやすくなるので、血圧をしっかり下げることが大事です。

認知症の人が高血圧になった場合に注意したい4つのこと

認知症の人が高血圧になった場合も、血圧のコントロールは重要です。ただし、治療にはいくつかの注意点があります。

1.服薬管理

認知症になると薬の飲み忘れが多くなり、介護者の負担も増すため、降圧薬はなるべく長時間作用するタイプのものを選び、服用回数を減らします。また、降圧薬は複数の種類を使用する場合が多いのですが、配合剤を使用し、なるべく飲む薬の種類を減らします。

こまめに血圧を測定し、それに合わせて薬の量や種類を調整することも大事です。日本高血圧学会による高血圧の診断基準は下記の通りです。

【高血圧の診断基準】医療機関で血圧を測定した場合、上140mmHg/下90mmHg以上、自宅で血圧を測定した場合、上135mmHg/下85mmHg以上、イラスト/Getty Images
いずれかの数字に当てはまると、高血圧と診断される(イラスト/Getty Images)

治療では、血圧を下記の値まで下げることを目標とします。

【降圧目標】医療機関で血圧を測定した場合、上130mmHg/下80mmHg未満、自宅で血圧を測定した場合、上125mmHg/下75mmHg未満、イラスト/Getty Images
イラスト/Getty Images

しかし、加齢や認知症の進行とともに自然と血圧が下がることもあります。この場、合降圧薬によって血圧が下がり過ぎることもあるので、要注意です。

2.食事管理

高血圧の治療は、塩分の制限も大事ですが、認知症に限らず高齢者の場合は熱中症も問題となります。このため、暑い時期は塩分の制限をゆるやかにするなど、気温に合わせた調整が必要です。

3.血圧変動の管理

認知症の人は自律神経障害があることが多く、特に血圧が変動しやすくなります。血圧の変動によって問題となるのが、めまいやふらつき、それによる転倒です。食後にふらつくことがあった場合は、食後低血圧を起こしている可能性があるので、1回の食事量を減らして小分けにして食べる、水分をしっかり摂るといった対策が必要です。立ち上がったときに起立性低血圧を起こすことなどもあるので、転倒を防ぐために、家の中の段差をなるべくなくすことも大事です。また、入浴中の血圧変動は、事故につながりやすくなります。特に冬は寒い脱衣所で血圧が上がり、湯船につかると血管が拡張して血圧が急降下します。お酒や薬を飲んだあとはさらに血圧が下がりやすくなるので、脱衣所を暖かくするほか、薬やお酒を飲む前に入浴するなど、タイミングも気を付ける必要があります。

地域ぐるみの減塩活動が効果を発揮

厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2019年)のデータによると、高血圧がある日本人は40~74歳で男性 58.1%、女性38.1%、75歳以上では男性71.5%、女性74.5%。日本は高齢化が進んでいることから、高血圧の発症率も高いと考えられます。

厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成/「高血圧症有病者」とは、収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上、もしくは血圧を下げる薬を服用している者。【総数】20歳-29歳(高血圧症有病者4.6%/服薬者0.9%)、30歳-39歳(高血圧症有病者5.0%/服薬者0.6%)、40歳-49歳(高血圧症有病者21.1%/服薬者6.5%)、50歳-59歳(高血圧症有病者35.7%/服薬者17.6%)、60歳-69歳(高血圧症有病者56.8%/服薬者35.7%)、70歳以上(高血圧症有病者68.6%/服薬者51.7%)、【男性】20歳-29歳(高血圧症有病者9.1%/服薬者1.8%)、30歳-39歳(高血圧症有病者8.1%/服薬者1.6%)、40歳-49歳(高血圧症有病者37.7%/服薬者11.5%)、50歳-59歳(高血圧症有病者52.3%/服薬者26.5%)、60歳-69歳(高血圧症有病者65.7%/服薬者46.4%)、70歳以上(高血圧症有病者69.1%/服薬者53.6%)、【女性】20歳-29歳(高血圧症有病者0.0%/服薬者0.0%)、30歳-39歳(高血圧症有病者3.4%/服薬者0.0%)、40歳-49歳(高血圧症有病者11.8%/服薬者3.6%)、50歳-59歳(高血圧症有病者26.3%/服薬者12.5%)、60歳-69歳(高血圧症有病者50.1%/服薬者27.6%)、70歳以上(高血圧症有病者68.3%/服薬者50.3%)
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成/「高血圧症有病者」とは、収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上、もしくは血圧を下げる薬を服用している者

高血圧予防のためには、塩分を控えることが有効であることがよく知られています。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、高血圧予防のための食塩相当量は6.0g/日未満と定められています。しかし日本人の成人1人あたりの摂取量は男性11g/日、女性9g/日程度。塩分を減らすのはとても難しいことで、国民それぞれが個人で取り組むのには限界があります。中国の研究では、保健所などで減塩のキャンペーンを展開し、地域全体で食塩相当量6.0g/日未満に取り組んだところ、ほかの地域と比べて高血圧や脳卒中、心筋梗塞などが減ったという報告があります。また英国の研究では、地域の飲食店で使用する塩分をごく少量ずつ減らしていったところ、誰にも気づかれずに目標値まで下げることができたという報告もあります。

食堂で食事をするひとびと、Getty Images

日本にも減塩に積極的に取り組み、高齢者の集いの場を設置して、減塩をはじめとした食事管理、運動管理について指導している自治体もあります。特に一人暮らしの高齢者が増えている昨今、地域のコミュニティの中で高血圧予防などに取り組むことが求められています。地域ぐるみの健康管理が、ぜひ社会全体に広がってほしいと思います。

高血圧と認知症の関連について解説してくれたのは……

石川讓治(いしかわ・じょうじ)東京都健康長寿医療センター 循環器内科部長 診療科長
石川讓治(いしかわ・じょうじ)
東京都健康長寿医療センター 循環器内科部長 診療科長
1994年、自治医科大学卒業。同大医学部研究員、米国コロンビア大学留学を経て2014年から現職。専門は循環器内科、高血圧(低血圧)、心臓超音波検査、心不全。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本超音波医学会超音波専門医・指導医、日本高血圧学会高血圧専門医・指導医、日本老年医学会認定老年病専門医・指導医。

「認知症のリスク因子を知る」 の一覧へ

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この特集について

認知症とともにあるウェブメディア