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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

医療・健康・介護のコラム

睡眠障害 全部で何種類ある? これまで多くが公式な病名として認められなかった理由

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 精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に科学的見地からビシバシお答えします。このコラムでは不眠症や睡眠時無呼吸症候群など幾つかの睡眠障害について取り上げてきましたが、睡眠障害は全部で何種類くらいあるかご存じですか? 現在、約70種類ほどの疾患が知られています。ところが、最近までその多くが世界保健機関(World Health Organization;WHO)の公式な病名として登録されていなかったのです。一体どういうことなのでしょうか。

古くから人間を悩ませてきた「疾患」のはずが

最近まで睡眠障害の多くが正式な病名として認められなかった理由とは

 WHOは、がん、高血圧や狭心症などの循環器疾患、白血病などの血液疾患、AIDSなどの免疫疾患、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの感染症、胃潰瘍などの消化器疾患、うつ病などの精神疾患、その他、耳鼻科、婦人科関連など多数の疾患の病名を網羅するリスト「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems;ICD)」を作成しています。1900年に第1版が作成されてから版を重ね、現在は第10版のICD-10が使用されています。2019年に第11版(ICD-11)がWHOの国際会議で承認され、現在は厚生労働省が日本語訳を作成中で、数年以内に臨床現場で使えるようになる予定です。

 さて一般にはなじみの薄いICDですが、医療関係者であれば知らない人はいません。と言うのも、カルテの記載や公的診断書などには、基本的にICDの分類に従って病名をつける必要があるからです。日常診療で欠かすことのできない「リスト」です。ところが冒頭でも書いたように、約70種類ある睡眠障害の多くがICD-10には登録されていませんでした。

 紀元前5世紀頃のヒポクラテスの時代には、すでに不眠症の治療が行われていたとの記録があります。日本の平安時代末期に描かれた病気を特集した絵巻物である (やまいの)草紙(そうし) にも、「不眠の女」と「眠り癖のある男」など睡眠問題で困っている男女が描かれています。それほど、睡眠障害は古くから人々を悩ませていた「疾患」の一つでした。

 不眠症は成人の8~10%、睡眠時無呼吸症候群は2~5%、さらに以前は「むずむず脚症候群」と呼ばれていたレストレスレッグス症候群は約3%に認められるなど、睡眠障害の多くは日常臨床で「よく遭遇する疾患」です。子どもから高齢者までどの年代層でも認められます。ところが現在使われている第10版ではわずか十数種類の睡眠障害が掲載されているのみです。そのため、睡眠医療の専門家は、やむをえず米国睡眠医学会が作成した別の病名リスト(こちらは睡眠障害が網羅されています)を使うなどしていますが、国や地方自治体が行う調査や公式文書に病名が載っていないため不自由な思いをすることがしばしばあります。

 ポピュラーな病気である睡眠障害の多くがなぜICD-10で取り上げられていないのでしょうか?

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本生物学的精神医学会理事、日本学術会議連携会員。著書に「不眠症治療のパラダイムシフト」(編著、医薬ジャーナル社)、「やってはいけない眠り方」(青春新書プレイブックス)、「8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識」(共著、日経BP社)などがある。

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