老親・家族 在宅での看取り方

呼びかけに応じない状態でも好きなクラシック音楽が流れると目が輝く

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「ごめんなさい、間違えてお渡ししてしまったCDを次回の診療の時に戻していただければとお伝えしましたが、やはり聴いているといないとでは、だいぶ変わるから聴かせたいとご家族がおっしゃっていて、着払いでもいいのでCDを送っていただけませんか、申し訳ございません!」

 とそんな連絡が当院宛てに、ホスピスの看護師さんからあったのは、ある有料老人ホームで訪問診療を終えて医院に戻ってしばらくしてからのことでした。診療情報が入ったCD-ROMを私たちに渡す際、患者さんの私物のクラシック音楽のCDを混同させてしまったというのです。

 この患者さんは認知症とALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う70代後半の女性。ALSは、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる運動神経が障害され、筋肉がだんだん痩せ衰え、最後には動かなくなってしまう病気です。

 手が動かしにくくなったり、しゃべりにくくなり、食べ物ものみ込みにくいといった症状が徐々に進行するのが特徴で、患者さんも呼吸筋が落ち、呼吸が弱まりつつありました。夜間は酸素マスクが必要であるのにもかかわらず、マスクを付けないで過ごすなど、投げやりになり、生きることを諦め死を身近に思われる、いわゆる希死念慮もお持ちのご様子でした。

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下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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