高齢者の「ポリファーマシー」 多剤服用 訪問指導で防ぐ 国立長寿研が在宅、施設向けガイド公表

2024年4月23日 08時25分

愛知県の男性が自宅にためていた残薬の山

 高齢になると複数の疾患を抱え、薬をたくさん飲んでいる人が珍しくない。こうした多剤服用が原因で副作用が出たり、きちんと薬が飲めなくなったりするトラブルは「ポリファーマシー」と呼ばれ、薬剤師を中心に対策するようになってきた。その中で、遅れがちだった在宅や介護施設での対応を促すため、訪問薬剤管理指導のガイドが2月に公表された。意外と知られていないこの問題に目を向けるきっかけになりそうだ。(大森雅弥)
 愛知県のある薬剤師は薬剤を管理、指導するための在宅訪問でこんなケースに遭遇した。
 同県の男性(68)は、抗がん剤治療や腰痛で手術を受けた影響で、手足のしびれや強い痛みに苦しんでいた。鎮痛剤や便秘薬など毎日10種類、17錠の薬を処方されていたが、一部の薬は効かないと思い込んで飲まずにいた。薬剤師は自宅で大量の残薬を確認。医師と相談して処方を見直し、7種類7錠に減らすとともに服薬指導をした結果、飲み残しはなくなった。痛みも軽くなったという。
 全国の保険薬局での処方調査(2017年)によると、5種類以上の薬を処方されている人の割合は65~74歳で27・9%、75歳以上では40・8%にもなる。国内外の報告では、副作用によるアレルギーなど薬物有害事象は、高齢者の6~15%で発生。薬の種類が増えるほど、発生率が高い傾向があるという。とりわけフレイル(虚弱)の高齢者が多剤服用した場合、その割合は33%に達した。
 有害事象には、ふらつきや転倒、抑うつ、記憶障害なども含まれるが、いずれも高齢者に多い疾患で見られる症状。新たな疾患と間違えられ、薬がさらに増える事態になりがちという。
 こうしたポリファーマシーを防ごうと、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)は16年、多職種による対策チームを国内で初めて発足させた。厚生労働省も同年の診療報酬改定で、内服薬を減らす取り組みを評価する加算を新設し、対策に本腰を入れてきた。
 今回、在宅や介護施設向けの訪問薬剤管理指導ガイドをまとめたのは、対策チームのメンバーで同センター高齢者薬学教育研修室長の薬剤師、溝神文博さん(39)=写真=らの研究グループ。主に75歳以上の患者の多剤服用防止を目的に、薬剤師はもちろん看護師やケアマネジャーなどに利用してもらうよう、同センターのホームページで公開した。
 ガイドでは実態調査を基に、患者の状態に適した投薬かどうかを把握する薬剤師のアセスメント(評価)や多職種間の情報共有が不十分と指摘。訪問時に適切な薬剤管理や指導をするための流れをフローチャートで表した。その上で、患者の認知機能や運動機能、生活行動、生活環境などを評価する方法と、連携のポイントを詳細に紹介した。
 患者や家族向けの「おくすり問診票」や有害事象の原因薬一覧も作成して掲載。問診票には薬の使用状況を確認する質問に加え、10項目の副作用チェック=表=もあり、患者の症状と原因薬一覧とを照らし合わせることで副作用の可能性を探ることができる。
 溝神さんは「ポリファーマシーの問題では薬剤師が果たす役割は大きい。薬剤師は薬の専門家ということもあり、医療行為の中で薬ばかりを見てきたが、患者を見るということに発想を変えるべきだ。ガイドがその一助になれば」と話している。

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