<トリプル改定 医療・介護・障害福祉>障害者、高齢者のサービス報酬 頑張る事業所ほど減収

2024年4月24日 08時30分
 本年度改定された障害者福祉や高齢者の介護サービスの報酬に、事業者が危機感を募らせている。受け取る報酬額が結果的に減るケースが目立つほか、専門的なサービス提供のための体制を整えた事業所ほどマイナスの影響を受ける場合もあるためだ。人手不足で職場としての魅力向上が迫られる中で、疑問の声が上がる。 (五十住和樹)
 「臨床発達心理士など専門的人材を常勤配置しているのに、その対価の加算が減らされるなんて」。横浜市港北区で小中高校生の放課後等デイサービスと未就学児の児童発達支援を提供する事業所「Like Me(ライクミー)」の阿部常充施設長(33)は嘆く。
 専門的な支援が可能な人材を配置する場合に請求できた従来の専門的支援加算(現・専門的支援体制加算)が今回減額に。阿部さんが改定前後の1カ月の収支を試算すると、この加算の減収分は月に12万円余=表(上)。こども家庭庁は「専門的支援を個別・集中的に計画して行えば、従来は同時に得られなかった別項目の加算が取得できるよう、今回改定した」と説明する。
 ただ、この説明のように別項目の加算で減収分をカバーするには、阿部さんによると、無理なく見積もっても37人の利用者を確保する必要がある。今の10人の定員では困難だといい、阿部さんは「職員給与の原資になる加算を急に減らすのは問題だ」と話す。
 一方、専門的療育を実施せず加算を受けてこなかった事業所は、基本報酬が増額となり増収に。利用者の保護者からは「体制を充実させ頑張っている事業所が減収なんておかしい」との声も上がる。
 高齢者の訪問介護事業者も報酬改定の影響に気をもむ。厚生労働省は「職員給与を上げるための加算を取りやすくした」とアピールする。だが、給与や必要経費の主な原資となる基本報酬は減額された。
 東京都三鷹市のNPO法人グレースケア機構代表の柳本文貴さん(53)は、昨年12月の報酬を基に試算。改定前は待遇改善の3種の加算をそれぞれ最上位ランクで取っていたが、同じサービス量と内容を提供したとすると、基本報酬の減算が大きく約6万5千円の減収だった=表(下)。
 基本報酬が減り、事業所負担の福利厚生、ヘルパーの採用や育成費などを圧迫。柳本さんは「賃金アップに使える加算の増加も12万円では、効果はたかが知れている。これまで最上位の加算を取っていた事業所は減収になり、上位加算を取ろうとする事業所も厳しい条件をクリアできるのか」と困惑する。
 同省は、改定による変化にすぐに対応できない事業所のため、激変緩和措置や提出書類の簡素化を図るなど対応を進める。ただ、改定後に大きく増収となるのは従来、加算を取ってこなかった事業所で全体の1割程度。業界を底上げする効果は限られる。
 大手企業を中心に高い賃上げ水準となった今春。今回の改定について、淑徳大の結城康博教授(54)は「今は福祉業界と一般企業の人材獲得競争。改定後3年は原則報酬は同じなので、両者の差は開くばかり。労働市場や経済の動向を加味した仕組みにしないと、人材不足はますます深刻になる」と指摘する。

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