(社説)緊急事態宣言の延長 戦略と信頼 再構築欠かせぬ

社説

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 「1カ月で感染拡大を絶対阻止する」という菅首相の言明にもかかわらず、国民生活に大きな負担をもたらす緊急事態宣言は、さらに1カ月継続されることになった。

 政府は飲食店への時短要請など、これまでの対策の「継続と徹底」を掲げるが、それだけで期限内に感染を抑え込むことができるのか。国民のさらなる協力を得るには、この間の取り組みを精緻(せいち)に分析し、科学的な根拠に基づく確かな見通しを示すことが不可欠だ。

 ■解除見極めは慎重に

 新型コロナ対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言について、政府が栃木県を除く10都府県での延長を決めた。

 新規感染者数は明らかに減少傾向にあるが、引き続き医療提供体制は逼迫(ひっぱく)している。首相は感染拡大に「終止符を打つ」ため、「もう一踏ん張り」が必要だと理解を求めた。

 しかし、多くの専門家、そして国民も、もともと1カ月で宣言を解除できるとは思っていなかったのが実情ではないか。首相に求められるのは、強い決意を裏打ちする、専門家の知見を踏まえた施策と丁寧な説明、一度立てた方針に固執せず、臨機応変に対応する柔軟さである。

 その意味で、「Go To トラベル」の一時停止を含め、折に触れ、政府に提言をしてきた専門家による分科会がこのところ実質的に開かれていないのは気がかりだ。緊急事態宣言下の対策の徹底・強化を求めた昨日の提言も、持ち回りの会合でまとめたものだ。政府が耳の痛い注文を遠ざけようとしているのなら、由々しき問題だ。

 政府は状況が改善した地域は、期限を待たずに宣言を解除する方針だ。感染状況がステージ4(感染爆発)からステージ3(感染急増)に下がれば、解除が視野に入るというが、専門家からは尚早だと疑問の声があがる。

 3~4月は例年、転勤や進学に伴う移動や会合が増える季節だ。経済活動の再開を急ぐ余り、拙速に制限を緩め、再び感染拡大を招いては元も子もない。中長期的な視点から最善と思われるシナリオを描くとともに、それがうまくいかなかった場合の次善の策も準備する。そんな戦略の練り直しが必要だ。

 ■最優先は医療の強化

 喫緊の課題は深刻な状況が続く医療現場への支援だ。

 感染者数は減っても、重症者は依然、高い水準で推移している。救える命を守るためには、追加の病床確保を急がねばならない。きょう成立が見込まれるコロナ対策関連法案には、広域での入院調整を行う知事の権限が明記された。病院間の連携や役割分担につなげて欲しい。

 2万人を超す自宅療養者への対応も急務だ。入院先が見つからず急変して亡くなるケースが相次いでいる。体調をきめ細かくチェックする態勢づくりが欠かせない。保健所に余力がない現状では、診療所や在宅医療・看護を専門とする医療機関を含め、地域の医療資源を最大限活用することが求められる。

 時短営業の効果もあり、飲食に伴うクラスターが減る一方、高齢者施設での感染が急増している。基本的対処方針には新たに、高齢者施設の職員を対象にした定期検査の実施が盛り込まれた。検査態勢の抜本的な拡充は引き続き重い宿題である。

 宣言の延長で営業への制約が続くことになる事業者らへの追加支援も課題となろう。コロナ対策関連法案の採決にあたり、衆院では「経営への影響の度合い」を勘案するよう求める付帯決議がなされてもいる。事業者が安心して要請に応じられるようきめ細かい対応が必要だ。

 ■国民が見えぬ政治家

 感染拡大を防ぐ行動変容に、国民の幅広い協力を得るうえで、鍵となるのが政治や行政に対する国民の信頼だ。

 しかし、現実は、率先垂範すべき政治家の背信的な振るまいが後を絶たない。

 政府のトップである首相自身が、国民に会食の自粛を求めているさなかに、自民党二階俊博幹事長ら多人数とステーキ店で会食をしていたことが厳しい批判を浴びた。

 さらには、自民、公明両党の衆院議員4人が緊急事態宣言下にもかかわらず、東京・銀座のクラブを訪れていたことが明らかになった。

 コロナ禍に苦しむ国民感情など眼中にない行いに驚く。特に自民党の松本純・元国家公安委員長は、当初1人で店に行ったとウソをつき、後輩議員2人が一緒だったことを隠していた。言語道断である。

 首相はコロナ対策の実効性をあげるためとして、罰則導入の旗をふるが、成否を握るのは、納得ずくでの国民の自発的な協力ではないのか。

 失われた信頼を取り戻すのは容易ではない。「場当たり」「後手後手」と批判されたこれまでの対応を謙虚に反省し、国民に真摯(しんし)に向き合うことでしか、危機的な状況は乗り切れないと首相は心すべきだ。

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