東京大学(東大)は2月18日(日本時間)、腹膜の一部である大網に子宮内膜症が発生するという極めてまれな症例を確認したことを明らかにし、その経過・治療内容について発表した。

同成果は東大大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻博士課程3年の荒川知子 大学院生(東大医学部附属病院 女性診療科・産科 病院診療医)と同産婦人科学講座の大須賀 穣 教授(東大医学部附属病院 女性外科)、同産婦人科学講座の甲賀かをり 准教授(東大医学部附属病院 女性診療科・産科)、東大大学院医学系研究科 外科学専攻 臓器病態外科学講座の石原聡一郎 教授(東大医学部附属病院 大腸・肛門外科)らによるもの。詳細は2021年2月18日付の査読制医学雑誌「The New England Journal of Medicine」(オンライン版)に掲載された。

子宮内膜症は、子宮内膜(子宮の内側にある粘膜)に似た組織が子宮の外で増える病気で、多くは卵巣・ダグラス窩(子宮と直腸の間のくぼみ)・子宮のまわりの靭帯といった女性の生殖器に発生がみられる。

一方で、子宮内膜症患者全体の0.5%程度に、女性の生殖器以外の臓器(肺、腸管、膀胱、臍など)に子宮内膜症病変が生じる「稀少部位子宮内膜症」が見られるとされるが、疾患自体がまれなうえに病変の生じる臓器によって症状が多岐にわたり、患者も産婦人科以外の診療科を受診することが多いなどの理由から、診断に難渋することが多いという。

今回の症例の患者は、5年前に卵巣子宮内膜症の手術を受けた既往があり、月経時の強い下腹部痛を主訴に同病院を受診し、女性診療科・産科、女性外科、放射線科、消化器内科、大腸・肛門外科など、院内の複数の診療科が連携を取り、病歴や磁気共鳴画像(MRI)などの所見から大網に発生した子宮内膜症性嚢胞と診断し、腹腔鏡手術で摘出したところ、良好な経過をもたらすことに成功したという。

  • 大網子宮内膜症のMRI画像

    大網子宮内膜症のMRI画像(身体の正面から見た断層像)

  • 大網子宮内膜症のMRI画像

    大網子宮内膜症のMRI画像(身体の横から見た断層像)

稀少部位子宮内膜症は、肺、腸管、膀胱、臍以外にも、肝臓・腎臓・そけい・筋肉・神経・胸膜・リンパ節・男性の膀胱など、身体のあらゆる臓器に発生することがわかっており、研究チームは、今回の報告を通じ、稀少部位子宮内膜症というまれな疾患が、多くの医療従事者ならびに国民に認知されることで、今後のより適切な診断や治療の一助となることを期待するとしている。

また、今回の症例では、患者に卵巣子宮内膜症の手術既往があり、関連性が示唆されるが、同症の手術後に大網に嚢胞性病変が発生した症例はこれまでに報告がないため、なぜ同症例でそのようなことが起きたのかについて、分子生物手法を用いて解明していきたいとしている。