在宅ケアラーと地域をつなぐ 東京の介護者支援団体 グッズ配布の試み

2021年4月7日 07時10分

セットに入る「緊急引き継ぎシート」など

 自宅で高齢者や障害者らを介護しているケアラー(介護者)に、地域とつながるためのグッズを届ける取り組みが進んでいる。コロナ禍で外出がままならない中、ケアラーは悩みを一人で抱え、孤立しがちだ。支援団体は「殺人や心中という最悪の事態に至らないよう、ケアラーとつながる第一歩に」と期待を寄せる。 (出口有紀)
 「ケアラーつながりセット」と名付けられたA5サイズの袋の中には、要介護者の状態やかかりつけ医などの情報を書いておく「緊急引き継ぎシート」や、介護者自身が持ち歩く「緊急カード」などが入っている。カードは、介護者が倒れた時などに備え、要介護者の名前や連絡先などを記しておけるようになっている。
 セットを作ったのは、東京のNPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」。「自分がコロナになったら要介護の家族はどうなるのか」「感染防止のためデイサービスを休ませると家で一緒にいる時間が長くなり、ストレスがかかる」など、介護者からの切実な相談を受けて企画した。昨秋、クラウドファンディングで約百五十六万円の支援を集め、八百セットを作成。賛同した十五団体を通じてケアラーに配っている。

包括の担当者らにセットの説明をするてとりんの担当者たち(左側)=愛知県春日井市で

 「心身の不調を抱えながらも『何とかなる』と一人で頑張り、どこにもつながろうとしない人へ手助けになる情報を届けたい」とアラジンの担当者。ただ、介護者支援の活動自体がまだ十分知られていないこともあり、一人で悩みや負担を抱えているケアラーに、どう届けるかが課題という。
 愛知県では、春日井市のNPO法人「てとりん」が、市内の地域包括支援センター(包括)に配布を依頼し、十二カ所に三セットずつ託した。各包括には民生・児童委員らを通して、生活に困る高齢者世帯や、高齢の親が引きこもりの中年の子どもの面倒をみる「8050」の世帯などの情報が集まるため、特に介護者が孤立していると思われる世帯に渡してもらうことにした。
 代表理事の岩月万季代さん(53)は「介護サービスにつながっていれば介護者の負担が減り、殺人や心中には至りにくいと考えがちだが、実際はサービスを受けていても起こっている」と指摘し、包括の職員らの意識改革を訴える。「セットを渡すことを口実に介護者の話を聞いたり、てとりんを紹介したりしてほしい」
 コロナ禍により、外出や対面での相談がしにくくなる中、日本ケアラー連盟(東京)理事で介護殺人にも詳しい日本福祉大教授の湯原悦子さん(51)は「地域の介護者支援団体と介護者がつながる仕組みづくりが重要になる」と説く。
 同連盟が昨春、介護者三百八十一人を対象に実施した調査で、コロナの影響で困っていることを複数回答で問うと、「ケアラー自身の精神的負担・ストレスが増している」と答えた人が二百十一人、「相談できる人、窓口がない」とした人は三十三人だった。
 「そもそも介護者はケアマネジャーらから聞かれない限り、自身の不調を訴えようとしない」と湯原さん。さらに今は「体調が悪い」と言いづらく、デイサービスやショートステイ(短期入所)も使いにくくなって「介護できるのは自分しかいない」と思いがちだという。「包括も介護者支援への理解を深め、各団体と介護者との橋渡し役になってほしい」と望む。

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