<かながわ未来人>病気にも日ごろから備えを がんと働く応援団代表理事・吉田(よしだ)ゆりさん(39)

2021年5月31日 06時47分
 がんは誰にでも突然やってくる災害のようなもの。当事者のそんな実感を込めて小冊子「現役世代のためのがん防災マニュアル」を編集し、希望する企業などに無料で配布している。
 大学卒業後、企業の人事担当として採用や育成を担当した。働く人と企業の双方に好都合な「Win(ウィン) Win(ウィン)」の関係を目指す中、キャリアコンサルティングの重要性を知り、国家資格を取得した。二〇一八年九月に厚木市で、キャリアカウンセリングオフィスを開設した直後、卵巣がんを患っていることが分かった。
 当時三十六歳。子どもは三歳と一歳だった。「患者になって初めて、治療法の全容や家族への伝え方、治療後の生活の続け方などの情報が思うように得られないもどかしさを知った」
 手術を受けたが、術後の化学療法は子どもの預け先が見つからず断念。現役世代が治療と仕事や育児を両立できる社会にしたいと、翌一九年十一月、当事者、支援者と医師の五人で一般社団法人「がんと働く応援団」を立ち上げた。現在は約二十人で活動している。
 小冊子で「防災」を掲げたのは、日頃から地震などの災害に備えるように、健康なうちからがんについて知っておく必要性を実感したためだ。編集に当たり、事前の準備によって被害を最小にして生活を復興させる「がん防災」の考え方を提唱する腫瘍内科医の押川勝太郎氏の監修を受けた。
 「普段の備え編」と「いざという時編」に分け、備え編ではがんになるメカニズムやリスクの下げ方、検診の重要性に加え、医療費支援制度についても紹介。後半では最善の治療を受けるための心構えのほか、治療と仕事の両立法、家族としての支え方、体験談、具体的な相談窓口の情報を盛り込んだ。半年間をかけ、治療の経験者と未経験者、家族、医師らの視点を交えて練り上げた内容だ。
 国立がん研究センターがん情報サービスの統計によると、国民の二人に一人が生涯でがんにかかる。「がんと分かった時、ショックで仕事をあきらめる人がいるし、適切にサポートできない組織もあるが、実は身近な病気。ポジティブに受け止めて日々の生活を続けながら『がんを経験した○○さん』として復帰し、活躍できる環境にしていきたい」 (杉戸祐子)
<がんと働く応援団> がんを正しく知って備え、いざかかっても治療と仕事を両立する現役世代を増やそうと活動。企業向けの「がん防災セミナー」や人事・カウンセラー向けの「治療と仕事の両立支援講習」などを展開。目指すのは、がんに負けない組織・人を増やすこと。小冊子はA5判、28ページ。全国版と神奈川版があり、PDFデータの無料ダウンロードも可能。詳細はホームページ(「がんと働く応援団」で検索)へ。

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