地域ケア拠点に再生中 廃小学校、思い出の校舎 栃木・那須で障害や世代超え交流

2021年6月30日 07時21分

教室を改装したカフェでくつろぐ人たち。黒板にメニューが書いてある=栃木県那須町で

 廃校になった小学校を改装し、高齢者住宅や障害者支援施設などを整備する取り組みが、栃木県那須町で進んでいる。目指すのは、障害の有無にかかわらず、高齢者から子育て世代までが集う交流拠点づくり。「個人的な生活課題を地域のみんなで考えて解決しよう」と、必要なサービスをつくり出していくプロジェクトだ。 (五十住和樹)
 この小学校は児童数の減少による統合で二〇一六年、四十年余の歴史に幕を下ろした旧朝日小。一八年に設立された民間の「那須まちづくり株式会社」が再生利用のプロジェクトを打ち出し、複合施設「那須まちづくり広場」として生まれ変わることになった。

多世代交流の拠点として再生される旧朝日小学校

 「思い出深い校舎が再び輝くことになってホッとした」。同校の卒業生で農業を営む辻岡充さん(50)は喜ぶ。元教師の母親(81)は同校に勤めたことがある。中学二年の長女千宙(ちひろ)さん(14)も閉校まで三年間通った。
 そんな家族の思い出も詰まった二階建て校舎に一八年、まず市場やカフェなどがオープンした。辻岡さんは連日、トマトやレタスなど新鮮な野菜を持ち込む。居酒屋などの催しもあり、「卒業生たちが大人になってからも学校に通っている」と笑う。
 計画では今後、校舎一階に高齢者のデイサービスや児童発達支援センター、放課後等デイサービス、障害者の就労支援施設ができる。講演会などが開ける交流センターも開設。二階には、外国人やひとり親家庭など多世代が入居できるバリアフリーのセーフティネット住宅十四戸や、一泊三千円のゲストハウスが整備される。
 校庭の約六千八百平方メートルでは、東日本大震災の仮設住宅に使われたログハウスも活用して五十四戸のサービス付き高齢者住宅(サ高住)を建設。また、プールの躯体(くたい)を基礎にして、みとりまで対応する介護型サ高住二十六室を整備する。二十四時間対応の訪問介護を行う事業所や、終末期ケアなどを行う看護師が常駐する家も設ける。地域の診療所の協力も得て、二三年に全体が完成する予定だ。体育館は災害時の避難所としてそのまま使うという。
 「生まれてから死ぬまでのケア。足りないものを皆で話し合いながら補いたい」。同社代表の近山恵子さん(72)は言う。国は二五年をめどに、医療や介護が必要になっても地域で暮らせる「地域包括ケアシステム」の構築を目指している。近山さんは「居住者の経済的な自立を支援し、多世代が支え合いながら文化的な暮らしをする。この広場をそんな地域包括ケアの拠点にしたい」と意気込む。
 都市部でも、使っていない建物を活用した共生社会の拠点づくりが進む。名古屋・大曽根の商店街、オズモールでは三月、愛知県が開発したパン用小麦を使って障害者が焼き上げるパンの店などが空き店舗にオープンした。別の空き店舗をコミュニティーの拠点にする計画もある。多世代の居住・生活支援に取り組む社会福祉法人共生福祉会(名古屋市)の相談員西尾弘之さん(67)は「障害の有無にかかわらず一緒に暮らし、働くまちづくりをしたい」と話す。

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