オンライン診療に改めて注目が集まっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する時限的・特例的な措置の恒久化が打ち出されたほか、2022年度診療報酬改定での報酬の取り扱いが議論されており、注目すべきトピックが目白押しだ。2021年10月20日(水)に開催したセミナー「オンライン診療は『次のステージ』へ」では、まず行政担当者がオンライン診療を巡る最新の制度動向を解説。さらに先駆的な医療機関の経営者が、効果的な活用方法を実践報告した。パネルディスカッションでは今後の展望などを語り合った。
最初に登壇したのは、厚生労働省医政局医事課医師養成等企画調整室長の福田亮介氏。(1)オンライン診療に関する制度の経緯、(2 )新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を踏まえた対応、(3)初診からのオンライン診療の実施に関する議論──の3点について講演した。さらに、「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」の論点や最新の検討状況などを説明した。
次に医療法人家族の森・多摩ファミリークリニック(川崎市多摩区)院長の大橋博樹氏が、オンライン診療の実践例を紹介した。「画面越しに血圧手帳を見せてもらい家庭血圧を確認したり、見た目の調子がいいかどうか等も現在のカメラの性能であれば判断でき、画面越しの情報は想像以上に有用だ。対面診療以上に患者の生活の様子が見える利点もあった」とオンライン診療のメリットを語った。
休日にしか来院できない患者等に対して、対面診療を3カ月に1回行い、あとはオンライン診療にすることで、質を落とさず診療を継続できるほか、混雑緩和にも有効だったという。
医療法人はちのへファミリークリニック(青森県八戸市)院長の小倉和也氏は、コロナ禍での感染対策として発熱外来に訪れた患者に駐車場で待機してもらい、看護師がタブレットを患者の車の元まで持参し、診察室の医師との間でビデオ通話による診療を行うといった活用例を紹介した。
さらに小倉氏はNPO法人を通じて、「connect8」という活動を推進。地域の医療機関や薬局、介護施設等がICT で情報連携する基盤の整備を進めている。多職種が患者情報をチャットツール等で共有できるほか、ビデオ通話も可能なシステムを運用。病院や診療所、訪問看護ステーション、薬局、介護事業所など293事業所、延べ1414人のスタッフが参加し、登録患者は4000人以上に達する。こうした情報連携の基盤が、コロナ禍で自宅療養・宿泊療養者にオンライン診療を提供する際に役立ったという。
地域包括ケアの基盤になり得る
地域スマート医療コンソーシアム理事長の竹内公一氏は、「オンライン診療の普及にはラストワンマイルが重要だ。特に高齢者が自宅で簡単に地域の病院や薬局にアクセスできるスマート医療の実現を目指したい」と語った。同コンソーシアムでは、加盟するケーブルテレビ会社などの協力で、家庭のテレビでオンライン診療ができる実証実験を進めている。
パネルディスカッションでは、医療法人嗣業の会(千葉県いすみ市)理事長の黒木春郎氏がモデレーターを務め、オンライン診療の強みや可能性について活発な議論が交わされた。強みについては、「妊娠中や育児中の親世代にオンライン診療は有効。子育て支援のツールにもなる」(黒木氏)、「オンライン診療で診療の幅が広がった」(大橋氏)といった声が上がった。また、「オンライン診療は単体ではなく、多職種連携、ICT 基盤の中で補完的に位置付けると、地域医療にとって非常に役立つツールになる」(小倉氏)、「オンライン診療のインフラの潜在的な価値は高い。診療前の面談や指導、説明をオンラインで行うといった様々な活用が可能になる」(竹内氏)といった意見が相次いだ。