特集 インタビュー コラム

多職種でつながる食支援

特集

ケアマネは多職種との信頼あってこそ司令塔

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第6回は、ケアマネジャーの森岡真也さんから、訪問看護師を含む多職種チーム構築を紹介します。 サービス調整だけではないケアマネの仕事 私が担当している地域、東京都新宿区は人口343,662人、高齢者人口67,187人、高齢化率19.6%(2022年5月1日現在)。新宿というと、一般的には高層ビル群や歌舞伎町の繁華街がクローズアップされるため、生活している人が少ない印象ですが、実際にはかなりの数の高齢者が住んでいる地域です。 地域的な特徴としては、独居高齢者・高齢者のみ世帯の比率が多く、また高齢化率が50%を超える大規模な都営住宅が2ヵ所あります。区内には大規模な病院が数多くあり、難病などで療養生活を送る方も多くいらっしゃいます。そのためか、訪問診療や訪問看護などの在宅医療が昔から充実している地域でもあります。 そんな新宿区で私がケアマネジャーの仕事を始めて16年になります。ケアマネジャーは一般的に、利用者に適したケアプランを作成し、利用者とサービス提供事業者の間に立って連絡調整をする、いわば介護保険の道先案内人のような専門職。最近では、介護保険外のサービスを調整する機会も多くあります。 ケアマネジャーとして働くためには、もちろん介護保険の幅広い知識が必要ですが、活動する地域のさまざまなフォーマル・インフォーマルサービスを提供する方々と関係を作り、利用者に紹介できるよう準備することも重要なのです。 顔の見える関係で把握できた情報が在宅ケアチーム構築につながる 新宿食支援研究会に参加したのは、同会設立時の2009年。以降、研修会やワーキンググループ、イベントなどでさまざまな方と出会い、その出会いが現在の私の仕事の糧となっています。 在宅生活の支援では、さまざまな問題が複合的に重なるケースが少なくありません。訪問看護師さんには、疾病上の管理のみならず、生活上の支援や家族関係の情報収集など、さまざまなことをお願いしています。また、看護師さん個々人のスキルや資質を頼ってケースを依頼することもあります。 新宿食支援研究会に関係している看護師さんとは、研修会などを通してスキルと顔の見える関係ができており、また食支援全般に深い知識と興味がある方が多いため、摂食嚥下機能障害をはじめ、さまざまな問題のある利用者の支援をお願いすることが多くあります。 病院などで組織内にすでにある多職種チームで支援を行うのとは違い、在宅ではさまざまな制約があり、支援の工夫が必要です。たとえば、本来必要な専門職が地域に不足している、または経済的な面で導入ができないため、多職種からその役割を補完してケアチームを組み立てることが多くあります。本来ならばST(言語聴覚士)の導入が必要なケースに、摂食嚥下訓練に詳しい看護師さんに入ってもらうことなどが過去にありました。 また、摂食嚥下機能に問題があり、一回の食事介助で少量しか食べられない方の食事回数・水分補給の回数を増やすため、ヘルパー・看護師・理学療法士・言語聴覚士・医師・歯科医師・管理栄養士など訪問するすべての職種の方々に、こまめな食事介助、水分補給の介助をお願いしたケースもあります。 このように、在宅ケアチームの構築には、地域の専門職個々人のスキルや資質を把握しておくことが重要となります。この把握にはやはり、実際に一緒にケアチームとして仕事をする前に、さまざまな研修会などで知り合えていることが役立っています。 多職種が常駐し、介護相談できるカフェをオープン 新宿食支援研究会でよく使われる「MTK-H®」という言葉があります。「M」は「見つける」、「T」は「つなぐ」、「K」は「結果を出す」、「H」は「広める」という、食支援にかかわる人の役割を表しています。 私たちケアマネジャーの役割の一つは、「T」、つなぐこと。在宅生活を希望されているご本人にとって、現況最適な在宅ケアチームを構築する役割です。そのためには、まず「M」、見つける役割を担う人が必要となります。われわれケアマネジャーが見つける人はもちろん、ご家族や地域住民の方です。ケアマネジャーとして、地域住民の方とつながって地域の社会資源を育んでいくことも、重要な仕事です。 新宿食支援研究会では、現在ワーキンググループとして地域住民の方とともにプロジェクトを進めています。 また法人事業として2022年6月に介護事業所併設のカフェ「介護相談もできるカフェ Sunnydays Café」をオープンしました。このカフェは、地域の喫茶店として機能しつつ、ケアマネジャーをはじめ介護の専門職がカフェに常駐し、地域の方の介護相談がある場合にはさりげなく寄り添いたいという思いでつくりました。Sunnydays Café内には、地域の方と医療・介護・福祉の関係者をつなぐ、さまざまなしくみを用意しています。 ケアマネジャーとして、多くの「K」、つまり結果を出す看護師さんをはじめとする医療・介護・福祉の専門職と、地域住民をつなぐ役割をこれからも果たしていこうと考えています。 訪問看護師さんには、ぜひ私たちケアマネジャーと直接つながる機会を持っていただき、地域の看護師さんの情報を気軽に利用者・家族・地域住民・専門職の方と共有できるよう、必要な情報をケアマネジャーに教えていただければと思います。 ー第7回へ続く 森岡真也ケアマネジャー株式会社モテギ新宿ケアセンター長新宿食支援研究会Sunnydays Caféhttps://sunnydayscafe.hp.peraichi.com/記事編集:株式会社メディカ出版

特集

利用者を通して実感する多職種とのつながり

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第5回は、言語聴覚士の佐藤亜沙美さんから、連携で気づきを得た経験を紹介します。 在宅医療の世界へ 私は新宿にある訪問看護ステーションで働いている言語聴覚士(以下ST)です。 以前は急性期病院で働いていました。在職中、脳卒中で高次脳機能障害のみが残存してしまい、回復期病院にも転院できず不安を抱えたまま自宅退院される方。誤嚥性肺炎で入院後、ご家族へ食事指導をして退院となっても、再度誤嚥性肺炎を発症し入院される方。病院所属での力不足を感じることが多くありました。 縁があり、現在働いている訪問看護ステーションでSTを募集していると知り、在宅で働ければ私が感じていたモヤモヤは解消されるのではないかと思い、在宅医療の世界に仲間入りしました。 STへの需要に追いついていない 私が新宿で働きだした2015年、新宿区で常勤で働く訪問STはほかにいませんでした。現在でも、新宿区内全体(人口約33万人)で一桁しかいない状況です。需要に対し、供給が追いついていない現状です。 2022年4月、当社にSTが一人入職しましたが、1か月ほどで十数人分の枠が埋まりました。それだけST訓練を待っている方がいるのだと実感しました。 訪問で伺う利用者さんには、脳卒中後に自宅退院はしたものの、言語障害や高次脳機能障害に悩まされている人が多くおられます。そして病院で想像していたとおり、継続したリハビリを必要としていました。 誤嚥性肺炎を繰り返す事例では、病院でご家族に食事指導をしていましたが、実際食事を作り、介助していたのはヘルパーさんだったのかもしれないと、今の私なら考えることができます。 他職種との連携の実際 現在訪問しているALS(筋萎縮性側索硬化症)の方では、嚥下機能に合わせて、ヘルパー、管理栄養士とともに、理想の食形態を追求して調理方法を試行錯誤しています。 まず、訪問歯科の先生にVE(嚥下内視鏡)をやってもらい、食形態を決定します。食事の内容については、なるべく少量でも栄養が確保できるように、管理栄養士からアドバイスをもらっています。介入から2年が経ち、嚥下機能も徐々に低下がみられていますが、今のところ、誤嚥性肺炎や窒息などの問題は起きていません。 このように現在、他職種と連携して介入を行えるようになったのは、「新宿食支援研究会」に出会えたおかげだと思います。同会に参加させていただくようになったころは、まだ訪問に転職したばかりで、右も左もわからない状況だったので、他職種の方は何をしているのか、そして多職種連携の大切さをイチから教えてもらいました。 多職種連携については何となく知っていましたが、STとどんな連携ができるのか、そして他職種が何をやっているのかを細かく知ることで、私自身も視野が広くなりました。何より、私には解決できない問題があるときに、誰に頼ればよいのかがわかるようになりました。 以前の私なら気づけなかったかもしれない 在宅では、病院で働いていたときよりもたくさんの職種の方がいます。病院勤務時代は聞いたことがなかった職種もありました。新宿食支援研究会に参加する方だけでも30近い職種の方々がいます。そのそれぞれの仕事を知れただけでも、ご利用者様を助ける術が増えるのだと心強く感じました。 その一つとして、失語症の訓練で依頼が来たSさんの事例を経験しました。 初回訪問時、とても痩せている方だなと思い、体重の変化をご家族に確認すると、4か月で5kg体重が減少していたことがわかりました。食欲がなくなっているのは年齢的にしかたがないと思っていたとのことでした。Sさんは軽度の嚥下障害がありましたが、ご家族が作ってくれる食事を食べていたため、管理栄養士の力を借りて、食事内容を少量でカロリーがとれるように少し工夫し、間食で高カロリー食を摂取してもらいました。また薬剤師に確認したところ、副作用として食欲の低下がある薬剤を内服していたため、医師に相談し量の調整をしてもらいました。 体重は半年で4kgと少しずつですが増加し、以前よりもリハビリに対して意欲的になってきました。自分から散歩に行きたいと言うなど、体を動かすことが苦ではなくなってきたようだとご家族も嬉しそうでした。 恥ずかしながら以前の私なら、言語訓練のみに視点が向いてしまい、体重の変化には気づけなかったかもしれません。新宿食支援研究会に参加してよかったと思えた一例です。 「食べる」リハビリに密接にかかわるST 福祉系の方やご家族から、いまだによく聞かれることがあります。「STって何をしてくれるんですか?」と。 STは言語訓練をする人、摂食・嚥下訓練をする人などのイメージはあると思います。食べることは、生きていくうえで大事なことですよね。しかし栄養をとるだけが「食べる」ではないと思います。 家族と食べる、おいしく食べる、外食をする、旅行先で地元のものを食べるなど、「食べる」から連想されることはいろいろあると思います。でも、そのためには、いすに座る、口腔内を清潔に保つ、食事を食べる体力がある、などさまざまな条件が整わないと「食事」はできないのです。 ST一職種だけではどうにもできないこともたくさんあります。そんなとき、他職種の手を借りることの大切さを学びました。食べること、栄養、お口の中、何か困っていることがあれば、ぜひSTにご相談ください。 ー第6回へ続く 執筆佐藤亜沙美言語聴覚士訪問看護ステーションリカバリー・新宿食支援研究会記事編集:株式会社メディカ出版

特集

訪問看護で口腔ケアを行う新しい看護のありかた

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第4回は、訪問看護師の飯塚千晶さんから、口腔ケアを通した多職種とのつながりを紹介します。 訪問看護師は一人ではなかった 看護師の多くは在宅の現場へ飛び込む勇気がないと、よく耳にします。私も実際、以前は大学病院で勤務していました。父の死をきっかけに訪問看護の扉を開きましたが、働く前は、一人で動く不安やプレッシャーなどマイナスの要素ばかり感じていました。 ですが実際に働いてみると、訪問の場は確かに看護師一人かもしれませんが、実は周りには多くのサポーターがいます。 医師をはじめ、ケアマネジャー、歯科医師、ヘルパー、リハビリ専門職、福祉用具専門相談員、管理栄養士などなど……。相談できる専門職や窓口がたくさんあります。一人で背負う必要はなく、患者さんを取り巻くチーム全体で患者さんの生活を支えていく仕事です。 新宿食支援研究会との出会い 私は2018年2月、「訪問看護ステーションやごころ」を設立しました。看護師の母と妹と3人で立ち上げましたが、一緒に働くのは初めてだったので、各々のケアや考えの違いを改めて知りました。 一つの例として、私は大学病院では頭頸部外科・口腔外科に所属していたので、口腔内を観察することは、日々当たり前でした。しかし、整形外科に所属していた妹は口腔内観察という概念がなく、ほかの看護師でも口腔内観察をするという習慣はごく一部だということです。 私が新宿食支援研究会と出会ったのは、その年の8月でした。患者さんを通して知り合ったケアマネジャーさん、福祉用具専門相談員さんから「この会には看護師が少ない。一度参加してみてはどうか?」と声を掛けてもらいました。 看護師へ口腔ケアを広めたい この会は「最期まで口から食べる街づくり」を目的に多職種間での意見交換等行っています。当初私が参加した時期でメンバーは160名ほど、うち看護師は私を含め3名程度とかなり少なく、それは今も変わりません。 何を目的に、何をしているのか、わからないまま参加したところ、そこには歯科医師の五島朋幸先生がいらっしゃいました。歯科医師と話す機会がほぼなかったため、五島先生と知り合い、「看護師へ口腔ケアを広めたい」と伝えたことがきっかけで、現在に至ります。 今、私は新宿食支援研究会で、看護師のための口腔ケアについて考えるワーキンググループのリーダーを務めています。毎月検討会を行い、そこには看護師や歯科医師、歯科衛生士、ケアマネジャーなどが参加し、事例を通して学びを深めています。 コロナ禍以降、リモートで開催するようになると、全国から参加してくださるかたも増えました。 看護師以外の視点で気づきを得る 新宿食支援研究会に所属したことで、新宿区内の事業所(訪問診療、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所など)のかたと多く知り合うことができました。患者さんを通して、看護師の視点だけでなく、各々の視点からの意見を取り入れることで、新たな気づきを得ることができました。 看護師だけの意見では偏りが大きいため、ぜひ周りの関係者に頼ってみてください。なぜなら看護師はプライドが高く、自分たちの意見を押し通す傾向にあります。その選択が本当に正しいのか、振り返るためにも大切だと思います。 そして私は管理者として、多職種とつながるメリットは、頼り頼られる関係ができることだと思います。 看護師としてはプロフェッショナルですが、そのほかの領域においては素人同然。聞くことが恥ずかしくてなかなか表に出せないこともありますが、新宿食支援研究会で出会った人たちには気軽に質問したり相談されたりする関係性があり、それが日々の悩みを解決してくれます。ときには事業所内に向けた研修を無償で行ってくれることもあり、この会ならではの協力体制ではないかと思います。 多職種との距離を縮める機会を 皆さんが働いている場所でもこのような地域連携の場があれば、「看護師なのに知らないと思われる」などと躊躇せず、ぜひ参加してみてほしいと思っています。 看護師は日々の業務で忙しく、なかなか外部の場に参加することが難しいですが、一歩踏み出すことで新しいコミュニティが開け、仕事の依頼につながることも多いです。在宅では看護師は「怖い」「冷たい」「厳しい」などと思われがちです。積極的に参加し、多職種との距離を縮めることが重要ではないかと感じます。 口腔ケアと観察で全身の疾患や栄養への気づきもある  人工呼吸器を装着されている利用者さんに口腔ケアを行う様子 定例のリモートによるワークショップの様子PC上で全国から月1回夜、10数人の参加者が事例検討を中心に行っている  事例紹介 新宿食支援研究会の、患者さんへの介入事例を紹介します。 Aさん、80歳代女性。舌癌末期、独居 下顎に腫瘍が浸潤し滲出液が多く、連日の処置を要している 介入当初は歯も数本あり、咀嚼も問題なく、大好きなお寿司などを摂取していました。しかし1か月しないうちに、下顎骨が露呈しはじめました。疼痛も強くなり、大好きなお寿司も食べることができなくなり、本人の気持ちも沈みがちになりました。 この患者さんの状態を、新宿食支援研究会で毎月行っている症例検討会で議題に挙げ、口腔内の注意点や今後行うべきことなどを話し合いました。感染に注意すること、疼痛コントロールを重点的に、という意見をもらえ、翌日には訪問診療医・ケアマネジャー・ヘルパーへ伝達しました。 連日介入しているヘルパーと看護師で、口腔内の清潔保持に努め、感染を防ぐために、優しくゆっくりとケア(軟毛ブラシ・不織布ガーゼ・保湿剤を用いて)を行いました。ヘルパーには直接指導を実施。訪問診療では早急にオピオイドを導入し、疼痛緩和につながりました。 疼痛コントロールと口腔内感染の予防ができたことで、食事への意欲がまたわき上がってきました。 亡くなる1週間前、「お寿司が食べたい」と希望がありました。ヘルパーが出前を取り、まずは見た目を楽しんだ後、一口大に刻んだお寿司を口に運び、味わうことができました。飲み込みまではいきませんでしたが、食べたいという意欲を再燃できたことが、介入チームにとって、とても大きな喜びとなりました。 多職種でつながることでのパワー このように、病院とは違い、在宅では外部の力を知り、職種ごとの役割を発揮して、協力して、実践していくことがとても重要です。協力することでわれわれの力が存分に発揮できると考えています。 一人では何も生まれませんが、多職種とつながることで何倍ものパワーになり、患者さんへのサポートとなります。 看護師としての知識を持ちながら、周囲への意見に聞く耳を持ち、立場を変えて思い考えることがとても大切だと思います。 ー第5回へ続く 執筆飯塚千晶訪問看護ステーションやごころ管理者新宿食支援研究会訪問看護師 記事編集:株式会社メディカ出版

特集

在宅訪問管理栄養士が支える地域の栄養

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第3回は、管理栄養士の稲山未来さんから、在宅訪問管理栄養士の活動を紹介します。 単独で在宅訪問する管理栄養士の仕事 皆さんは在宅の患者さん・利用者さんの栄養課題に気づいたとき、また食や栄養について相談を受けたとき、どのように対応していますか? 訪問看護事業所における食事・栄養支援状況の調査1)によると、回答が得られた事業所のうち、「利用者から食事・栄養相談を受けたことがある」と答えた事業所は100%、その相談に「その場で即答できる」としたのは約30%、即答できない場合の対処法としては、「同僚看護師に相談」「インターネットで検索」が上位を占め、「管理栄養士に相談」と返答した事業所はわずか18%でした。 管理栄養士としては少し寂しい結果ですが、この結果は、管理栄養士が訪問看護事業所と連携することで、いっそう利用者さんに貢献できることを示唆しているように感じます。 訪問看護師のみなさんには、「訪問管理栄養士に相談する、そして依頼をつなぐ」という方法があることを、ぜひ覚えておいていただければ嬉しいです。 在宅訪問栄養食事指導 在宅訪問栄養食事指導とは、在宅に訪問し、利用者の栄養食事指導を行うサービスのことです。利用者の状況によって、医療保険または介護保険(介護保険では居宅療養管理指導)で支援を行うことができます。 対象となるのは、栄養学的な課題をかかえている人です。糖尿病や腎臓病などの慢性疾患に対して管理が必要な人、低栄養状態、摂食嚥下障害の人が挙げられます。 どのように介入が始まるか 在宅訪問栄養食事指導の介入依頼は、居宅介護事業所のケアマネジャーからの場合が多いですが、訪問看護師から依頼されることもあります。私は歯科医院に勤務しているので、所属先の歯科医師から依頼を受けることもあります。 管理栄養士が行う栄養指導については、療養上の管理を行う主治医から指示を受けるルールです。ですから、依頼があれば、まずは主治医に栄養介入の必要性があるかを確認し、指示栄養量や病歴などの情報を得てから介入がスタートします。 具体的にどんな介入をしているの? 多く受ける依頼は、体重減少傾向の高齢者に対して栄養強化をしてほしいという内容です。補助食品の選定、また家族やヘルパーへの買物・調理指導、献立の提案など、その人の課題や生活環境に合わせた支援を行います。 また、歯科医師からは、摂食嚥下障害がある人への嚥下調整食指導の依頼が多いです。嚥下調整食の指導では、調理を担当される人に、適切な嚥下調整食の調理ポイントをお伝えします。 これら以外にも、糖尿病や腎臓病、脂質異常症など、対象となる疾患は多岐にわたります。共通していえることは、いつまでも食を楽しむための環境調整を行っているという点です。 家族への嚥下調整食指導の様子(左側のテーブル手前に利用者さんが在席中) 嚥下機能確認のため嚥下音の確認 管理栄養士介入のメリットって何? 管理栄養士の介入によるいちばんのメリットは、利用者の栄養状態が改善することによるQOL向上です。実際に多くの事例で栄養状態が改善し、体重が増加するなどの効果が出ています。 また、それだけではなく、関連職種にとっても良い効果があります。 前述したように訪問看護師からは食事・栄養相談を受ける機会が多いですが、訪問時間は限られていますよね。特に在宅高齢者においては栄養課題がさまざま、解決を妨げる障害もさまざまで、対応には想定以上に時間がかかってしまうものです。食や栄養の課題には管理栄養士の手を借りることで、看護師は看護ケアに専念できるのではないでしょうか。 たとえば嚥下調整食の指導などに関しては、管理栄養士であれば、家族やヘルパーの調理時に同席して、調理実演を行うことができるので、より効率的かつ的確に指導を行うことが可能です。 訪問看護師との連携例 あるとき私は、歯科医師から、進行性難病で摂食嚥下障害を持つ人への介入を依頼されました。 その人は、摂食嚥下障害のため、経鼻経管栄養で栄養補給を行っていましたが、歯科医師の介入で摂食嚥下機能が改善してきていました。歯科医師から、一日1回の経口摂取を始めましょうと指示が出たことにより、まずは昼食の提供が始まりました。 ヘルパーが作り置きした料理を、訪問看護師が見守るもとで、本人が自己摂取します。経口摂取開始当初は刻み食を召し上がっていましたが、やがて咀嚼機能が改善し、ペースの配慮さえすれば常食を摂取できるようになりました。 ここで課題になってくるのは、どのくらいの量を食べてよいのかということです。経口摂取は昼食のみの一日1食のため、経鼻経管栄養も継続中です。 管理栄養士は主治医と連携をとり、低栄養傾向であるその方に対しては、徐々に体重増加を目指せるような目標エネルギー量を設定し、栄養剤で不足する分を経口から摂取する方針となりました。経口での摂取エネルギー量は一食あたり400~500kcalを目安に、それ以上食べられるようになったら、経管栄養剤を減量するという対応です。 その方針を、本人やご家族、訪問看護師にも伝えます。管理栄養士は、食事時間に訪問看護師とともに同席し、ご自身のふだんの食器を使って、400~500kcalの食事がどの程度の量なのかをお伝えしました。いつも同じ食器に同じくらいの量を盛り付けることで、目標エネルギー量に均一化できます。 看護師との連携により、経口摂取による目標エネルギー量を安定して充足できたため、ご利用者様の体重は徐々に増加し、栄養状態も改善に向かいました。 ある日の昼食 新宿食支援研究会から学ぶ多職種連携 多職種連携において大切なことは、チームメンバーの仕事と役割を知ることだと考えています。 新宿食支援研究会には、食支援にかかわる人が、一般・専門職問わず多く在籍しています。同一職種が集まり専門性を高めあうスタディグループもあれば、多職種でお互いの事例相談を行うグループもあります。 意見交換により他の職種が抱える課題を知ることは、自分の専門性を生かすポイントを見つけるきっかけにもなります。そして自分自身にとっては、困ったときに誰に何を相談すべきなのかが明確になるので、より円滑なチーム連携につながります。 どのように管理栄養士と連携するのか 在宅訪問管理栄養士は地域によってはまだまだ少なく、「連携をしようと思ってもどこにいるのかわらない」という声を頂くことがあります。そんな場合は、活動地域の都道府県栄養士会に問い合わせてみてください。都道府県栄養士会は訪問管理栄養士の情報を多く持っているので、訪問可能な管理栄養士を探すことができます。 訪問看護師と管理栄養士の連携はまだまだ少ないですが、よりよい連携が増えることを期待したいですね! ー第4回へ続く 執筆稲山未来(管理栄養士)ふれあい歯科ごとう所属・新宿食支援研究会 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)東本恭幸ほか.在宅医療における食事・栄養支援の現状と課題:訪問看護事業所への質問用紙調査から. 『日本在宅医療連合学会誌』1(1),2019,22-30.

特集

地域食支援の実践

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第2回は、前回に続いて本研究会代表の五島先生(歯科医)から、研究会の活動について紹介します。 歯科医の私でも想像すらしていなかった 「口から食べることが難しくなる」ということは、一般の人には想像しにくいことです。私自身、歯学部で学んだ6年間、卒業後に歯科医師として勤務していた5年間は、想像すらしていませんでした。もちろん、入れ歯の不調で食べられない人はいましたが、それは入れ歯の問題としてだけ考えていましたから。 ですから、訪問診療を開始して、噛めない人・飲み込めない人・食べようとしない人と初めて接したときは衝撃でした。そして、口から食べられない理由が多くあることも初めて知りました。 「口から食べられない」には多職種の関与が必要 口から食べられない理由は大きく3つ。環境、機能、認知の問題です。 環境面は、口の状況だけではなく、食べるときのいすやテーブル、食事姿勢、食具など、多岐にわたります。 機能面では咀嚼、嚥下、さらには胃腸の状態など全身状態も関与します。 認知面では、食事そのものの認知も含めて、食べる雰囲気づくりが必要になってきます。 そうなんです。口から食べられない問題は多岐にわたるので、歯科やSTだけでなく、多くの分野のプロフェッショナルの関与が必要になるのです。これが、多職種による食支援なのです。 新食研は小チームの集合体 そこで、2009年に新宿食支援研究会を立ち上げました。最初は15名ほどでスタートしましたが、10年以上の月日を経て、現在23職種、160名が所属しています。医療、介護の専門職のみならず、食品メーカーや車いすメーカーの方なども参加しています。 これだけの人数が、定例的に集まって何かをディスカッションしている……わけではありません。多いときは20以上のワーキンググループがあり、5~10人程度の小クラスで、それぞれテーマを持ってミーティングを開催してきました。 たとえば、食事姿勢を考えるチーム、食事動作を快適にする食具開発チーム、地域の宅配弁当サービスをより良くするチームなど。その集合体が、「新宿食支援研究会(新食研)」なのです。 他所属連携の試み 「地域食支援チーム」などというと、病院のように、医師・看護師・セラピスト・栄養士などが集う一つのチームがあり、そのチームで患者に相対するイメージが多くみられます。そのようなことは地域では不可能です。東京都新宿区では、在宅主治医が数百名単位、訪問看護ステーションが50か所、介護事業所が100か所以上あります。このような単位で、一つのチームづくりを考えるのはナンセンスです。 そこで重要なのは「他所属連携」です。 地域で多職種が集うケースでは、他所属が基本になります。所属も職種も違えば勤務時間も形態も異なります。さらには辞職や移動などもあります。このような状況で永続的なOne Teamを目指すことはできません。だからこそ、意識の高い専門職をその地域で多く作り出すことが不可欠になってきます。 新食研は、まさにそのような人材づくりの場なのです。 地域単位での多様な連携で結果を出す 「他職種連携」「多職種連携」という言葉があります。私は次のように定義しています。 他職種連携は、「各現場(患者)で、必要な職種が集い、連携をとりながら結果を生み出すこと」。 多職種連携とは「地域単位で多くの職種が交わり、多様な連携を行うことで多彩な結果を残していくこと」。 新食研はまさに多職種連携であり、その連携があるからこそ、各現場で「他」職種連携をして結果を出していけるのです。 モットーはMTK&H® 新食研の活動は、現在コロナ禍のため、オンラインやハイブリッドでワーキンググループを開催しています。このような体制になり、新食研はニ方向の大きな流れを作りました。一つは、知識・技術を高めていくこと。もう一つは地域(新宿)のネットワークづくりです。 知識・技術を高めるグループは、地域の垣根をつくることなく、新宿にこだわらずオープンな企画として開催しています。地域のネットワークづくりとして、社会福祉協議会や地元のボランティア団体とも交流を始めました。食支援が必要になったとき、一般市民と専門職とのマッチングができることを目標としています。 さて、このような地域の食支援を考えるとき重要なことは、必要な人に食支援を届け、結果を出すことです。そのためには「食や栄養に異常がある人を見つける人」「適切な支援者につなぐ人」そして「結果を出す人」を、地域でつくりつづけることです。そのために専門職は、食や栄養の知識・意識を、地域に広めていかなくてはなりません。 新食研では「見つける(M)、つなぐ(T)、結果を出す(K)、そして広める(H)」(MTK&H®)をモットーにして活動の根幹にしています。 訪問看護師が見つける、つなぐ、結果を出す、そして広める 新食研の活動のなかでも重要なポジションにあるのが、「訪問看護師による口腔ケアの実践」チームです。毎回、症例をみながら歯科関係者を交えてディスカッションを行っています。 在宅医療を受けるようになると、歯科に受診できないケースが多くなります。まだまだ訪問歯科は地域活動としてマイナーで、多くの人が受診できる体制はありません。この状況で、在宅医療の中心となる訪問看護師が、口の状況を確認し、口腔ケアを実践し、必要なときは訪問歯科につなげていく。まさにMTK&H®なのです。 残念ながら、在宅医療者は、食や栄養に対する意識が高いとはいえません。しかし、このような活動を通して早期に異常を見つけることで、回復する高齢者も多くなるでしょう。訪問看護は、在宅医療のみならず、地域食支援の核なのです。 ー第3回へ続く 五島朋幸ふれあい歯科ごとう新宿食支援研究会代表 新宿食支援研究会ポータルサイトhttps://shinshokuken.com/ 記事編集:株式会社メディカ出版

特集

「最後まで口から食べる」をかなえるために

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第1回は、本研究会代表の五島先生(歯科医)です。 訪問歯科をご存じですか 皆さんは訪問歯科の存在をご存じでしょうか。 20年以上訪問歯科診療を実践してきた者としては、「実践してくれる歯科医師が増えたなぁ」と思ってしまいますが、社会的にメジャーとは、まだ言い切れません。しかし、今後も続くわが国の高齢化を考えると、訪問歯科は在宅高齢者を支える重要な一つのキーになるはずです。 私が訪問歯科を始めたきっかけ 私が東京都新宿区で訪問歯科診療を始めたのは、1997年です。偶然知り合った訪問の内科医に、「在宅医療の現場に歯医者さんがいないんです」と言われました。最初は興味本位でその医師に同行訪問し、見学をしました。 そこで出会った皆さんは全員、入れ歯を外され、食べられるものだけ食べる、食べられなかったらミキサーにして飲む、ダメだったら点滴、ダメだったら鼻からチューブ、ダメだったら死ぬ……という世界でした。 歯科医師としてはとても悔しい現実を目にして、「私が外された入れ歯を入れに行きます!」と宣言したのが訪問歯科を始めるきっかけでした。 役割が加わっていった 最初は入れ歯の修理・調整から始めたのですが、当時話題になっていたのが「口腔ケアによって誤嚥性肺炎が予防できる」ということでした。誤嚥性肺炎は当時も現在も、高齢者の死因の上位にランクインしています。そこで、訪問歯科診療の役割として口腔ケアも加わりました。 時を同じくして、摂食嚥下障害のリハビリテーションが話題に上がってきました。まだまだ新しい学問で、私自身は大学でも学んでいませんでした。しかし、現実問題として口から食べられない人は多くいました。入れ歯を治しても飲み込めない人や、飲み込むとむせる人。外来診療では見たことのないような現実がありました。そこから、摂食嚥下障害に関して学ぶようになりました。 訪問歯科の三つの軸 現在、訪問歯科診療には三つの軸があります。歯科治療、口腔ケア、そして摂食嚥下障害への対応です。 歯科治療に関しては、各医院によって装備が異なるので、できる範囲が異なります。歯科診療室とまったく同じように診療できる体制をとっているところもありますが、器材の用意がない場合もあり、すべてが院内と同じ診療ができるわけではありません。ただ、訪問歯科診療の依頼で最も多いのが入れ歯に関するものなので、入れ歯の調整に関してはどの医院でも対応可能です。 保険診療の訪問歯科 保険診療で訪問歯科の対象者は、通院が困難な患者さんと定められています。診療場所は、施設や居宅に限られ、通所(デイサービスやデイケアなど)では行えません。 よく「どうすれば訪問歯科診療に来てもらえますか」と尋ねられます。 依頼方法としては、直接訪問歯科診療を実施している歯科医院に連絡してもいいですし、わからなければ地域の歯科医師会に連絡すると紹介してもらえます。地域によってはケアマネジャーが情報を持っているので、介護保険を利用している方は聞いてみるといいでしょう。 口腔ケアの意義 口腔ケアのいちばんの問題は実施体制です。介護保険の居宅療養管理指導として、歯科衛生士が訪問できるのは、月に4回です。週1回のペースでしっかりケアができたとしても、それ以外に誰もケアをしなければ、十分な効果は期待できません。本人の自立度、各家庭の介護力によって大きく異なります。だからこそ、訪問看護師やホームヘルパーにも、その意義と技術を知ってほしいと思います。 口腔ケアは誤嚥性肺炎を予防することで注目されましたが、効果はそれだけではありません。口腔ケアには二つの意義があります。一つは細菌を除去すること。もう一つは、しっかりと口を刺激することです。 口腔内細菌には、肺炎の起因菌や、ウイルス感染をしやすくする細菌も存在します。口腔ケアをすることによって、これらの細菌数を抑えていきます。 口腔内をないがしろにすることによって、むし歯や歯周病が進行することはもちろん、味覚低下にもつながります。これらはすべて、食の機能低下、意欲の低下につながります。 口から食べられない人こそ、しっかりとした口腔ケアが必要 ここで一つ、覚えておいてもらいたいのは、口腔ケアのほかにも、口腔内細菌を減少させられるものがあります。それは、しっかり噛んで食べることです。噛むことで唾液が分泌され、細菌を食物と一緒に消化していきます。ですから、しっかり噛んで食べることができなくなった人は、口腔ケアでそれを補っていかなくてはなりません。 また、口腔内を刺激することによって、飲み込みの反射が良くなることがわかっています。飲み込みの反射が良くなるということは、誤嚥を予防する効果があるということです。 口腔ケア自体は誰もがやらなければならないものです。しかも、口から食べる機能が低下した人ほど、しっかりとしたケアが必要になります。 かなり昔の話ですが、ある病院の病棟で口腔ケアをしているとき、主治医から「口から食べていないんだから歯磨きはいらない」と声を掛けられたことがあります。もう皆さんはおわかりですね。口から食べていないからこそ、しっかりとケアをして細菌を除去し、しっかり口腔内を刺激して誤嚥を予防することを考えなければならないのです。 訪問歯科診療を実践して、歯科が食に近い存在だということに初めて気づきました。そして、地域には、口から食べることに問題がある人が多くいることも知りました。 ー第2回へ続く 五島朋幸ふれあい歯科ごとう新宿食支援研究会代表記事編集:株式会社メディカ出版

× 会員登録する(無料) ログインはこちら