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看取りの作法

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【セミナーレポート】看取りの作法~事例検討と質疑応答編~

2021年12月17日(金)、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーを行いました。講師に田中公孝先生をお迎えした今回のテーマは、2021年11月開催セミナーから引き続き「看取りの作法」。リアルな看取りの実例を通し『医療者が看取りに向き合う』ときに意識したい点について、田中先生のご経験をふまえながらお話いただきました。今日の訪問看護からすぐに取り入れられるエッセンスをピックアップしてお届けします。 2021年11月12(金)開催「看取りの作法」セミナーレポートはこちら≫ 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】▶ 「看取り」を見据えた医療者のかかわり方▶ 家族間の問題が表出したとき、医療者はクッションになり得る▶ 利用者の方の日々の生活から読み取る観察眼▶ グリーフケアのコーディネート 会いたい人に会えるように▶ Q&Aセッション・短期間で関係性を構築するためのアドバイスいただけますか? ▶ 「看取り」を見据えた医療者のかかわり方 サービス開始時、利用者の方の情報を分析し、医療の視点からみなさん計画を立てると思います。もちろん決めつけすぎるのは良くありませんが、計画段階で『どこまでを見据えるか』という点は重要です。看護計画に主眼を置きすぎると見落としてしまいがちな「本人はどうしたいのだろう」という視点。この視点もバランス良く持ちながら患者さんとかかわっていく必要があると考えていて、私の場合は「最期をどういうふうに迎えたいか」という点も注視します。・最期について、家族とどうやって話し合うのか・専門職としてどのような意志決定の支援ができるかというところまで思考を拡張させながら、医学アセスメント、家族関係や希望を含め、計画を立てていきます。 ▶ 家族間の問題が表出したとき、医療者はクッションになり得る 終末期になると家族の問題や関係性が集約されてきます。これまで関係性が希薄だった家族が集合してコミュニケーションをとり始めると、ギクシャクしてしまうことも多い。そういった場面で、専門職はクッションになれる可能性がある。その点についても意識しながら、看護計画を立てていくと良いのかなと考えています。 ▶ 利用者の方の日々の生活から読み取る観察眼 利用者の方のことを知るために、私が意識しているのは次の2つです。まずひとつは利用者の方に「具体的な質問をする」こと。たとえば「食事のあとはなにをして過ごしますか?」と漠然と聞くのではなく、「新聞は読みますか?」「テレビは観ますか?」など1歩踏み込んで尋ねることで初めて返ってくる答えがあります。もうひとつは「観察する」ことです。利用者の方の身の周りに置いてあるものや日常でよく使うもの、飾っているもの。そういったもののなかに、大切にしたい思い出や誇りを持っていることが隠れている。そこに目配りをすることでコミュニケーションのきっかけができるだけでなく、短期間でも心の距離を縮めやすくなり、心を開いてもらうことにつながります。これは利用者本人だけでなく、家族に対しても同じことが言えます。 ▶ グリーフケアのコーディネート 会いたい人に会えるように 看取りの際、私たちの行為にはグリーフケアをコーディネートするという側面が含まれます。ご家族からも話を聞くことは、利用者本人のことを知るだけでなく、ご家族に対する死前のグリーフケアにもなるんです。死前に「悲嘆を共有できる専門職」として家族に認めてもらうことで、死後のグリーフケアもスムーズになります。 グリーフケアの基本についてはこちら≫ また、やりたいことを叶えていくことで、本人はもちろんご家族も「良かった」と思える。死前のグリーフケアという意味も含めて本人に「やりたいことはないですか?」「会いたい人はいますか?」と聞いたり、「会いたい人には会った方が良いですよ」と促したりします。 そして心構えを伝えることも重要です。私たち医療者は事例を見ているので看取りへ向かう経過のイメージができますが、ご家族には難しい。だから事前に「これから1カ月でこうなります」「1週間でこうなります」という変化を専門家として提示することで心構えを促します。そうすると「じゃあ、あれをやらなくちゃ」と家族の行動が変わる。そこをコーディネートするのがすごく重要かなと考えています。 ▶ Q&Aセッション 短期間で関係性を構築するためのアドバイスいただけますか? Q 最近は介入後に数週間で旅立たれることが多いです。関係性や信頼関係に中途感があります。短期間で関係性を構築するためのアドバイスをいただけますか? A 事前にどれだけ看取りに向けてのシナリオを描けるかというのが鍵となります。準備無しで行き当たりばったりだと、絶対に中途半端になってしまう。これまでの治療で患者さんや家族が抱えた気持ちのモヤモヤを解きほぐして、家族に看取りへの心構えや経過を説明して、家族関係のコーディネートをして…ということができれば中途感はぬぐえるかなと思います。このとき、ひとりでパンクしないために看取りのためのベストチームを形成しておくことも重要です。同じような価値観で組める医師に依頼して、看取り経験が豊富な看護師、ケアマネージャーともトライアングルチームを組んで、家族のグリーフケアもケアマネージャーにフォローしてもらって、というようなプロデュースをしてチームで手分けできると、かかわる時間が短く自分たちがあまり時間を割けないなかでも、上手くいくように思います。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】看取りの作法 Q&Aセッション回答編

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。最終回の今回は、「QAセッション」の模様を一部ご紹介します。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】Q1 訪問看護師がエンゼルケアをする事例はある?Q2 誤嚥リスクが高くても飲食したいと言われた場合の工夫は?Q3 予後が1日2日だと感じたとき、看護師から告知を行うのはアリ?Q4 本人は入院したくない、家族は入院してほしいケースはどうしたらいい?Q5 グリーフケアやデスカンファの最適なタイミングは?Q6 リハ職として、亡くなる1カ月以内ではどんな関わりができますか?Q7 キーパーソンと他の家族の関係性が良くないケースではどうしたら?Q8 怒りを表出している患者さんにどう言葉がけしていますか?Q9 訪問看護ステーションとの連絡・連携方法で工夫している点は? Q1 訪問看護師がエンゼルケアをする事例はある? 私が組んでいる訪問看護ステーションの場合は、エンゼルケアまで行う事例が多いです。看護師さんの方からご家族に「訪問看護師にエンゼルケアをしてほしい」と思わせるような促しをすることも多い印象ですね。看取りにはご家族との細かいコミュニケーションが必要なので、エンゼルケアまでを含めて一つのパッケージとして提供しているところもあります。一方で、そこまでエンゼルケアというものがピンとこないご家族や、お金もかかるので葬儀屋さんでいいですとおっしゃる場合は、葬儀屋さんが担当なさいます。 Q2 誤嚥リスクが高くても飲食したいと言われた場合の工夫は? すごく細かくしてとろみをつける方法があります。そのままの固形物ではなく、味を体感できるように工夫してみてください。飲み込まなくても、少量を口に含んで味を楽しんでもらうというのも一手です。 Q3 予後が1日2日だと感じたとき、看護師から告知を行うのはアリ? 看護師さんの方が頻繁に患者さんを訪問するので、ギリギリの場面で今すぐ伝えなくてはと感じるケースもあるかと思うのですが、まずは医師とコミュニケーションをとることをおすすめします。ひと手間かかって大変だと感じるかもしれませんが、訪問クリニックに連絡して「私からご家族にここまでお伝えしておきますね」というところの確認するのが良いかと思います。最近は、MCSやバイタルリンクなどを使うことで情報をファクトとして共有できるようになったので、訪問クリニックと目線を合わせて実行してみてください。 Q4 本人は入院したくない、家族は入院してほしいケースはどうしたらいい? 結構多いケースですね。この場合、まず「家族はどうして入院してほしいと思っているのか」について深堀りして話を聞きます。働いているから看きれないというのであれば、訪問サービスで固める方法をご提案することもあります。もう一つ、「ご本人はどうして入院したくないのか」についても探ります。家族には素直に本音が言えないこともあるので、私たちが翻訳家や伝言役としてご本人と家族とをつなぐことも少なくありません。ここは多職種介入のミソだと思います。家族の話をたくさん聞き、本人の話もたくさん聞いて、向き合って妥協点を探ることをおすすめします。 Q5 グリーフケアやデスカンファの最適なタイミングは? グリーフケア、デスカンファ、ともにご本人が亡くなってから1カ月後をひとつの目安にしています。ご家族は葬儀でバタバタしたり、銀行をはじめ必要な手続きも多かったりするので、そのあたりのことが落ち着いた1カ月後くらいが目安になります。デスカンファも2カ月空けてしまうと記憶が薄れていることが少なくないので、行うのであれば、1カ月くらいが良いと思います。 Q6 リハ職として、亡くなる1カ月以内ではどんな関わりができますか? できる関わりは多々ありますが、最も重視してほしいのはご本人への「傾聴」です。どんなことを今ご心配されているんですか? とか、先生や看護師さんからどんな話がありました? とか。聞く姿勢をもってくれる人に話をすると患者さんはちょっとすっきりするので、傾聴の関わりをおすすめします。そこで聞いたことを医師や看護師に共有してみるのはどうでしょうか。 Q7 キーパーソンと他の家族の関係性が良くないケースではどうしたら? キーパーソンは他の家族に説明しなくていいと言うが、他の家族は知りたいと言うようなケースでは、まずは、キーパーソンに目線を合わせます。他のご家族との関係性をちゃんと見つめながらキーパーソンに寄り添ってしっかりお話を聞いて、もし他の家族に説明をしない場合は〇〇というトラブルが考えられますが大丈夫ですか?というところまで伝えます。ここで妥協点を引き出せることが多いですね。医療者が家族の間に立ってコーディネートすることで円滑にコミュニケーションがとれるようになる、というのは、後々にも感謝されることじゃないかなと思います。 Q8 怒りを表出している患者さんにどう言葉がけしていますか? 私に対して患者さんが表出する怒りは「前医への批判」であることが少なくありません。そういうときは、私自身は前医を批判しないようにしながら「これからは私に言ってください」という方向に話を運びます。結構きついんですが、割り切って怒りに向き合っていますね。もう1回目の往診はこれだと。私の1回目の治療はこれだというふうに心がけをして、サンドバックになります。このとき、相槌も重要です。合いの手を入れるとさらに話してくださるので、どこで合いの手を入れるかも意識します。これはみなさん抱えている悩みだと思うので、看護師さんどうしでぜひいろんな人の経験を聞いてみてください。 Q9 訪問看護ステーションとの連絡・連携方法で工夫している点は? 医療ICTには、MCS、バイタルリンク、カナミックなどあるかと思うのですが、これらを事前にチームで共有します。相手が読んでいるかどうかはまた別の問題になりますが、タイムリーな共有が可能です。私自身は、末期のときはチーム全員でICTを導入します。文字だけではニュアンスが伝わりにくいこともあるので、内容に疑問をもったときや目線を合わせた方が良いと感じたときは、電話でもコミュニケーションをとるようにしています。 ▶ 編集部まとめ 在宅医療にかかわる医療者にとって大きな課題のひとつでありながら、自分なりの正解を見出すことが難しいと感じている方が多い「看取り」というテーマ。より良い「看取り」とはなにか? という課題に真正面から向き合い、多職種での連携を行いつつ患者さんとそのご家族に真摯に寄り添う田中先生のお話に、セミナー開催後、編集部には参加者の方からたくさんの声が寄せられました。代表的なコメントを一部ご紹介します。 〇セミナー後に参加者の方から寄せられたコメント「看取りの現場の実際の話をたくさん聞けて大変勉強になりました」「在宅専門の先生目線での意見が聞けて勉強になりました」「これで良かったのかと反省しながらまた次にと、すすんでいたので心が楽になりました」 次回セミナーレポートでは、2021年12月17日(金)、引き続き田中公孝先生を講師にお招きして開催した「看取りの作法~事例検討と質疑応答編~」をお届けします。公開まで楽しみにお待ちください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】看取りの作法 -後編- 看取り直前の対応とグリーフケア

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。2回目の今回は、「看取り直前の対応とグリーフケア」についてご紹介します。※約60分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】▶ 看取り直前の経過をおさえる▶ 死生観・グリーフケアを意識する▶ 在宅看取りについての私見 ▶ 看取り直前の経過をおさえる 看取りの自然経過として、そろそろ食欲がなくなってきた……というタイミングで、ご家族に1週間以内の話をします。そんなことまで伝えるの? と思う方もいるかもしれませんが、これから起こることを前もって知っていると人は冷静になれるので、必ず伝えるようにしています。具体的には、次のような内容をお話します。 死亡前1週間以内・トイレに行けなくなる・水分が飲めなくなる・ADLが落ちていく 死亡前48時間以内・手足が冷たくなる・尿が非常に少なくなる・血圧が脈でしか測れない(70くらい)・死前喘息(ゼーゼーという痰が絡むような音が聞こえる)・手足をバタバタさせる「せん妄」状態に陥る 死前喘息については、吸引しても引けない可能性があり、ご本人にとって吸引が苦痛になるので、ゼーゼー苦しそうに聞こえるからといって「これは引いてもらわないといけない」と思わない方が良いかもしれません、ということも伝えます。せん妄状態についても、結構手足をバタバタさせることを事前に知ってもらいつつ、どうしても辛そうな場合の処方薬を置いておくので様子をみてくださいねと、具体的な対応を含めてお話します。このとき、「看取りのパンフレット」もよく活用しています。 看取りのパンフレットについてはこちら≫ ▶ 死生観・グリーフケアを意識する 死というものをリアルに感じ始めると、多くの方は「じゃあ、ここからどうやって生きようか」ということを考えます。家族や友人・知人に会いたいとか、あれを食べたいとか、出てくるんです。死生観、つまり「死を認識したうえで、どう生きるか」というのは、ご本人はもちろん家族や私たち看取りを行う医療者にとっても重要な視点になります。そして、死生観というのは個別的なものなので、押し付けるものではないという基本を忘れないことも大切です。 また、私はグリーフケアを推奨しています。グリーフケアとはなにか? 簡単に言うと「悲嘆をケアすること」です。人は愛する人を失うと大きな悲しみを感じて、長期にわたって特別な精神状態の変化があります。これが「グリーフ(GRIEF/悲嘆)」です。残された家族が体験して乗り越えなければいけないことを「グリーフワーク」、そのケアをすることを「グリーフケア」と呼びます。看取りを通じて、生前からのグリーフケアを行っていきます。 グリーフケアで最も重要なのは「感情表出を手助けすること」。私たちはグリーフケアにおいては「涙を流してもらえる専門職」としてあるべきかなと思っています。ご家族が患者さんご本人の前では見せないようにしているもの・いたものを表出させて、心を軽くするための手助けをする専門職でありたいと思います。なかなかご自身だけ、その場だけで表出させることは難しいので、家族や親戚の方にも手伝ってもらえるようにお願いすることもあります。少し余談になるかもしれませんが、実は葬式は絶好のグリーフケアの場。みんなで集まって食事をしながら故人を偲ぶことでグリーフケアになっているんです。四十九日や三回忌なども同じですね。COVID-19流行の影響でなかなか人が集まれない状況が続いているので、医療者としてよりグリーフケアを意識してみてください。 そして、グリーフケアを通じて医療介護職自身のセルフケアにもなります。なぜなら、看取りには「本当にあれで良かったのかな」「もっと上手くやれたんじゃないかな」というモヤモヤがつきものだから。そういうときに他者からの一言で救われることもあるので、セルフケアという意味でも、ご家族のケアという意味でも、グリーフケアを推奨します。 ▶ 在宅看取りについての私見 現状、在宅看取り数が少ない日本ではありますが、できるならしたいと思っているご家族がいたり、できるなら最期まで自宅にいたいと思っている患者さんがいたりします。看取りの回数を重ねると「あ、これは似たようなケースを経験したことがある。あのときは上手く看取れた」と、過去のケースと重ねられるように感じることも増えるのですが、類似ケースであっても同じ看取りはありません。そして、どれだけ看取りのエキスパートになっていても、やっぱり見えていない点や家族の話で聞けていない点は絶対に出てきます。患者さんやご家族が、「看護師だから言うね」「先生(医師)だから話すね」「介護の人だから相談するね」とこそっと言うようなこともありますので。 だからこそ、今後、自宅での看取りを増やしていきたいというのはありつつも、私たち医療者の理想を、患者さんやそのご家族に押し付けることだけはしてはいけないと考えています。「完璧は絶対にない」というのを前提として、一つ一つの看取りに対して十分な配慮をすること、経過のなかで複数の関係者の視点でディスカッションをすることが必要です。看取りを終えてからも、どういうところが良かったのかな、今後改善できるとすればどういうところかな、という話ができるとなお良いですね。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】看取りの作法 -前編- 医師が考える看取りと向き合うポイント

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。1回目の今回は、「医師が考える看取りと向き合うポイント」についてご紹介します。※約60分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】▶ 医療・介護専門職としての「看取り」と在宅看取り数の現状▶ 看取りと向き合う5つのポイント▶ 看取りの流れをおさえる▶ 死の直前の4つの苦痛をケアする▶ 患者・家族の認識に向き合う ・本人の現在の心情を認識する ・家族の認識に向き合う ▶ 医療・介護専門職としての「看取り」と在宅看取り数の現状 私は家庭医療専門医として、在宅クリニックを開業しました。開業から半年、従業員は3名です(2021年11月現在)。訪問エリアは西荻窪を中心に半径6km以内(東京都の23区の西側、新宿より西側のエリア)を担当しています。クリニックのミッションは「医療を通して探求し、あるべき未来に挑戦する」こと。今後の地域包括ケアに貢献していきたいと考えています。そういった想いがある一方で、医療・介護の専門職として「看取り」という日常・仕事にどう向き合っていくか? というのは私にとって大きなテーマです。これはみなさんも同じように感じていらっしゃるのではないでしょうか。 私自身が看取りに向き合って、現在のクリニック開業前を含めて年間20名以上を看取った結果気づいたのは「看取りには一定のお作法がある」ということ。それを言語化したのが今回のセミナーです。どなたでも、きちんと向き合えば徐々にできるようになると確信していますので、ぜひ参考にしてもらえたらと思います。 まずは、現在の在宅看取り数について。こちらは厚生労働省「人口動態統計」で見た「場所別の死亡者数(2019年)」についての円グラフです。やはり病院が非常に多く、自宅での死亡者数は約14%。まだまだ少ない現状にあります。 ▶ 医師が考える看取りと向き合う5つのポイント 医師という立場から看取りと向き合ったとき、ポイントになると考えているのが次の5つです。ここから順にお話していきます。 1 看取りの流れをおさえる2 死の直前の4つの苦痛をケアする3 患者・家族の認識に向き合う4 看取り直前の経過をおさえる5 死生観・グリーフケアを意識する※1~3については今回(前編)、4・5については次回(後編)にてお伝えします。 ▶ 看取りの流れをおさえる 流れをおさえるための事例を一つご用意しました。こちらを見ると、看取りまでのだいたいの流れがイメージできるかと思います。 ■70代女性 膵癌末期2017年12月末~心窩部痛あり、2018年2月A病院受診。切除不能、局所進行膵頭部癌の診断。手術は不可、抗がん剤も服用してみたが副作用(食欲不振、便秘、発熱、皮膚搔痒など)のため中止。緩和ケアの方針で、当院訪問診療開始となった。 家族構成:本人、弟夫婦の3人暮らし当院介入後は、前医への不信感・強い悲嘆があり、経緯をお聞きし、今後は私たちと訪問看護師に相談しながら進めていきましょうとお話。 その後、自宅での生活に安心されていたが病状の進行が早く・癌性疼痛が週の単位で悪化。 麻薬を増量するが内服も飲みづらくなり貼るタイプの麻薬も処方・ご本人はもともと繊細な性格だったが、癌になって以降、感情失禁を出す状況。 抗不安薬の屯用で前週よりは対応できるように。・下肢浮腫が著明で利尿剤投与、弾性ストッキングおよび訪問マッサージを導入。・排便コントロールが難しくなり、下剤増量。臨時訪問で浣腸を2回施行。・入院のタイミングをご本人・ご家族と相談。 老老介護のため介護疲弊が限界にきていること、毎週のペースで麻薬を増量しており病状が悪化していることを説明し、緩和ケア病棟入院へ・しかし入院生活は思っていたものと違った、とご本人より話があり、早期退院。・最期はご家族が自宅看取りの覚悟を決められ、数週後看取りとなる。 ▶ 死の直前の4つの苦痛をケアする 死の直前の苦痛には、主に次の4つがあります。すべてが重なって全人的苦痛(トータルペイン)となります。 ①身体的苦痛②精神的苦痛③スピリチュアルペイン④社会的苦痛 この4つの苦痛については、一つ一つのケースごとにフレームワークで整理して考えていきます。なぜフレームワークに当てはめるのか? というと、視点の偏りを防ぐためです。目の前のことだけに集中すると、たとえば「身体的苦痛」は看られているけれど、「社会的苦痛」への対応が遅れてしまう……というケースも少なくありません。後手にならないよう、フレームワークに当てはめて整理することをおすすめしています。 フレームワークについて詳しくはこちら≫ ▶ 患者・家族の認識に向き合う 終末期の現場で私がよく考えることの一つは、患者本人と家族の認識です。 本人の様子は、告知・未告知では、やはり違ってきます。未告知の場合は本人が「おかしい、おかしい」と思ったときに、どういうふうに対応するのか? という点について、家族と目線を合わせておく必要があります。仮に家族が未告知を選択した場合でも、本人の認知機能がしっかりとしていると隠しきれない可能性も高いので、そこも含めて検討してもらいます。 告知をする場合、本人は「腑に落ちた」とおっしゃることが多い印象です。このときポイントとなるのは「本人に予後は伝えない」こと。伝えなくてもうまくいくケースがほとんどです。ただ告知すると本人の感情が大きく揺れ動くので、ご家族にしっかり向き合ってもらえるようコーディネートする必要があります。ちなみに、家族にはきちんと予後を伝えます。残り1週間の気構えと準備、残り2・3日の気構えと準備は異なるためです。ここで伝える具体的な内容は後編でご紹介します。 ・本人の現在の心情を認識する 本人の受容段階について家族と認識を合わせるために役立つのが、キューブラーロスの「死の受容段階5段階モデル」です。これは私たち医療の専門職にとっても支えになります。 キューブラーロス「死の受容5段階モデル」①否認と隔離②怒り③取引④抑うつ⑤受容 なぜこれが私たちにとっても支えになるのかというと、私たちが向き合う患者さんのなかには、②怒りの段階の方が少なくないからです。医療者も、理不尽な怒りに直面するのはつらい。そういうときに「これは死に向かう過程で必要なプロセスなんだ」と、プロフェッショナルとして認識できていれば、その怒りがどんなに理不尽でも、まず受け止めようというメンタルになれると思います。そして、②怒りの段階から移行しない患者さんの場合、まず間違いなく、家族に言えていないことや、話し合えていないことを心のなかに抱えています。そこのファシリテーターというか、コーディネートをするのが、看取りに関わる専門職として大事な役割だと感じています。全人的苦痛と同じくらい、キューブラーロスについても意識してみてください。 ・家族の認識に向き合う 多くの家族が「在宅で看取りきれるか?」という点に不安を感じます。だからこそ、事前に家族の介護力や覚悟、緩和ケア病棟を利用する方針などをしっかりと検討することが必要です。最近はCOVID-19流行の影響で自宅看取りが増えてはいますが、「自宅看取りはすごくいいですよ」と押しすぎることは避けます。ここを見誤ると、自宅看取りが最適解ではない事例を無理やり看取ることになるので、フラットな目線を忘れないようにします。ご家族とご本人をしっかりアセスメントして考えることが重要です。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】看取りの作法 Q&A≪特別先行公開≫

本記事は2021年11月12日に開催したオンラインセミナー「看取りの作法」のレポート≪特別先行公開≫です。 当日は、家庭医療専門医である、杉並PARK在宅クリニック院長の田中公孝先生にご講演いただき、セミナー中にたくさんのご質問をいただきました。今回は先生のご厚意で、時間内に答えきれなかったご質問からいくつか抜粋し、解説いただきました。 在宅医として看取りに向き合う心構えや、訪問看護師さんへの期待について、先生のお考えを記事にいたしましたので、セミナーに参加された方も参加出来なかった方も是非ご覧ください。 老衰の看取りのケース 老衰の看取りの場合、ゆっくり機能が低下していく経過となりますが、ご本人やご家族に、どのようにお話されますか? ご質問ありがとうございます。老衰については、癌末期と違って予後予測が延びたりすることはお話ししています。また、老衰でご本人に説明するというシーンはあまり無いのですが、もしご本人に聞かれたら「もう〇〇歳ですからね、病気も沢山ありますし、年齢による影響は否めないと思います」とやんわり伝えるイメージです。ご家族については、老衰の看取りを自宅で行う決意をされたことを支持することをお伝えし、「病院よりも自然な形で過ごせますしね」や「癌で痛みがある例などに比べると穏やかで寝ているような時間が増えますよ」と声掛けします。また、食事が摂れなくなってきても無理に口には入れず、お楽しみ程度に、数口試して難しければやめるという助言をします。途中、せん妄状態になる方がいることもお話することで、手足をバタバタする、などの状況を理解してもらうように早め早めに説明します。最後の1週間は、講義でもお話した看取りのパンフレットを説明してお渡しし、それに沿って経過が流れることを確認しながら往診します。老衰の看取りはしっかりとサポートするとご家族も満足度が高い印象です。ただ、食事水分がほとんどとれない高齢者が予後予測よりも1週間以上延びたことが経験上あるので、癌末期の事例よりも非癌の事例の方が難しい面があると以前在宅のエキスパートナースの方がおっしゃっていた話は、実感するところです。 ガン末期の方のお看取りの心構え 今まさに、亡くなりそうなガン末期の利用者様がおられます。呼吸が止まれば連絡をいただくようになっています。私自身とても緊張しています。心構えをお教えください。 私も経験がありますので、よくわかります。心構えとしては、呼吸が止まった時の連絡をいただいたとき、どういう声かけや対応するか、死後の対応や説明をどうするか、を想定して詰めておくと少しは不安が和らぐ印象です。 例えば、ご家族の安心と不安の違いを過去に分析して感じたことなのですが、「人間、漠然としたものをそのままにしていると不安が募る」ようです。なので、専門職でも後のことについて漠然としていると不安が募りやすい側面はあると思いますので、この後のことをしっかり具体的に想定しておくことが大事と思います。また、定期の訪問時によくご家族とコミュニケーションをとっておくことも夜間電話がかかってくるかどうかの際の不安軽減につながります。というのも電話しながら、ご家族の表情や感じが目に浮かぶようになれば、呼吸停止の電話でも面と向かって喋っているような感覚で落ち着いて対応できるのではないかなと思います。 普段のケアのコミュニケーションが、いざというときの助けになる、というところは、看取り直前だけではなく、急変の場面でもそうだと思いますので、我々訪問の専門職は日ごろからぜひ意識したいところです。 誤嚥性肺炎を繰り返す方の往診医との連携について 訪問看護師です。現在、誤嚥性肺炎を繰り返している利用者さんがいます。本人は自宅を希望しており、家族も本人の意向を尊重したいと思われています。ただ、妻が食事形態を理解できず普通食を提供することが続いています。自宅看取りの方向ですすんでいますが、往診医はリスク説明をして、何かあれば救急搬送するしかないと言われています。本人家族の意向を叶えつつ、往診医との連携をうまくとっていくのをどうすれば良いか悩んでいます。 それは難しい状況ですね。。往診医との連携についてですが、まずは往診医以外の他職種と相談して、根回しをしながら担当者会議を開くのが良い気がします。本人家族はもちろんのこと、他の職種がリスクを承知でも自宅看取りを支えたいと思っていることを皆で伝えれば、理解を示してもらえる可能性が出てくるやもしれません。 他の手段としては、往診クリニックのスタッフさん(看護師さん、相談員さんなど)で普段からコミュニケーションとっている方がいたら、まずはその方に相談するというのも1つです。もしかしたら伝え方のヒントや一緒に考えてくれるやもしれません。参考にしてみてください。 家族間の看取りの調整 家族での看取りの方法が一致しない場合、どの様に対応したらよいですか? これも難しい場面ですね。。私であれば、まずは家族全員の意見を聞き、家族間の話し合いを促します。ただそれでも難しい場面もあると思いますので、自宅看取りの場面で想定されること、病院への救急搬送を言われる場面など、この後の様々なシチュエーションを想定しておいて、都度都度の対処に臨む心構えを私はしています。 また、意見がそれぞれ違うご家族と一度は直接面談することも重要です。やはりキーパーソンだけ喋っていて、方針の違うご家族と直接しゃべらないとあまりうまくいかない印象で、私も過去にどんでん返しを受けた事例がありました。できる限り意見の違う家族とも会い、この後予想されるシナリオをいくつか想定しながら、集まった情報をもとに多職種で話し合い、ともに考えるといったプロセスが大事かなと思います。 ちなみに多職種で話し合うと別の視点や情報、アイデアなども出てきますので、なかなか担当者会議となると家族もいて目の前ではできないという場合は、点数などは発生しませんが専門職だけで会議することをお勧めします。 特化型ステーションに在宅医が求めること 病院併設の訪問看護ステーションで働いています。緩和ケア病棟から異動になり、終末期に特化したステーションにしたいと思ってます。在宅医が求める訪問看護師について、何を求めるか、何が必要か、教えて頂きたいです。また、先生が考える特化したステーションとは具体的にどのようなステーションか知りたいです。 あと、在宅では介護者の高齢化や子の介入不足、地域性からか子に頼れない親も多く、介護負担で疲弊してしまうケースも少なくありません。初めての待機当番で夜中にオムツ交換で呼ばれ、翌日、主治医や病院側が訪問看護師の負担を考慮して即緩和ケア病棟に入院させたケースもありました。終末期のバルーンカテーテル留置は積極的に行ってよいのか迷います。 もっと在宅医とうまく連携して家族に寄り添ってできたらと日々葛藤です。本人ばかりに注目せず、もっと家族に寄り添い、グリーフケアにつながる看護ができたらと思いますが、なかなかチームでとなると難しいです。 ご質問ありがとうございます。私が看取りに特化した訪問ステーションと呼ぶ訪問看護は、 ・今回お話した看取りの作法ができている・困難だった事例も多く経験していて、イレギュラーな末期事例でも対応できる・麻薬や鎮静薬の提案タイミングが卓越している・グリーフケアの声かけが非常にうまい・家族の療養方針の迷いにしっかり対峙し、アドバイスができる・時には主治医の迷いに対してもしっかり応えられる・ケアマネジャー/サービス担当責任者に報告・連携・フォローしながら進められる あたりができているところだと思います。 私自身、看取りに卓越した訪問看護ステーションと組むと毎回こちらも勉強させられます。それくらい、人の看取りにまつわる技法というものは、医学の知識をしっかり蓄えながら、コミュニケーションの技術も向上させ、経験、心構え、ご自身のあり方を深めることが必要なのだと思います。おっしゃる通り、本人だけのケアでは在宅の看取りケアとしては片手落ちで、家族のケアをしながら、多職種で目線を合わせて迷いや葛藤が現れる過程をしっかりと取り組めるということが大事だと思います。 エピローグ オンラインセミナー「看取りの作法」にご参加いただきました皆さま、ご質問をいただいた皆さま、誠にありがとうございました。 田中公孝 先生のご講演内容やQ&Aセッションの様子を後日、セミナーレポートとして全2回でお送りします。明日からの訪問看護にいきる内容となっておりますので、ぜひご覧ください。 <セミナーレポート前編につづく> ** セミナー講師:田中 公孝 2009年滋賀医科大学医学部卒業。2015年家庭医療後期研修修了し、同年家庭医療専門医取得。2017年4月東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げにかかわり、医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、市や医師会のICT事業などにもかかわる。引き続き、その人らしく最期まで過ごせる在宅医療を目指しながらも、新しいコンセプトのクリニック事業の立ち上げを決意。2021年春 東京都杉並区西荻窪の地に「杉並PARK在宅クリニック」開業。 杉並PARK在宅クリニックホームページhttps://www.suginami-park.jp/ 記事編集:NsPace

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