特集 インタビュー コラム

訪問看護師のためのメンタルヘルスケア

休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア
特集

休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、管理者によるラインケア・スタッフ管理について考えていきましょう。 管理者が忙しいとスタッフは相談しづらい  「少しお話があります」。退職や勤務削減のお願いのセリフは管理者が聞きたくないセリフの上位です。なぜもう少し早く相談してくれなかったのかと思う人もいるかもしれません。とはいえ、相談できる体制にしていても相談をしにくい環境を作っている場合があります。 ストレスチェックで高ストレス者になった人の話を聞くと、自分の残業時間が多いことより、上司の残業時間が多いことを悩みとして挙げている方が多くいらっしゃいました。なぜ、自分ではなく上司がたくさん残業をしていることがストレスなのか? 理由は「相談ができない」「常に忙しそうなので相談すると申し訳ない」というものでした。「なんでも相談してね」と言うだけではなく、言える雰囲気を作る、イライラしない、余裕を見せるといった態度を示すことで、相談しやすい環境を作ることが大切です。 スタッフの問題に気づいたら注意ではなく心配を スタッフの不調に事前に気づくことはできないものでしょうか。先に述べたように相談する環境が整っていないと、スタッフは不調があっても相談することを避けてしまい、「大丈夫です」と言う場合も出てきてしまいます。スタッフの抑うつが気になった場合は、以下の点に注意して観察してみてください。・仕事の能率が落ちたり、ミスが増えたりしていないか・会話や口数が減っていないか・食事量がいつもより少なくなっていないか・日中ウトウトしたりぼーっとしたりと睡眠不足がありそうかこうした表面に現れやすいところをチェックするとよいでしょう。 そして、問題に気が付いたときは決して注意から入らず、心配する態度で接してください。声をかけるなら「しっかりしてちょうだい」ではなくて「大丈夫?」です。あなたのことを心配しているという気持ちを伝えると同時に、起こっている問題を一緒に解決していきましょうという気持ちを伝えるのです。 がんばっているよりもがんばっていないほうがよい 職場環境はある程度余力があるような状況にしておくことが大事です。管理者としては心配になるかもしれませんが、一見ダラダラ働いているような時間がそれなりにある状況です。むしろ、いつもギリギリの状況で全員忙しそうに働いている職場のほうが危機的です。何かあったら総崩れになるリスクを抱えています。リラックスしている状況でゆったり働けているのであれば安心してください。 僕がよく患者さんに話すことで、「がんばっている」と言う人と「がんばっていない」と言う人ではどちらのほうがよいか、という話題があります。メンタル面に関してはがんばっていない人のほうが、明らかに余裕があります。「毎日がんばっています。一生懸命がんばって仕事に行っています」と「特にがんばらなくても、普通に仕事に行くことができています。何も問題ないです」というセリフを比べてもらえればわかりやすいでしょう。 休職中のルールを伝えて安心して休めるようにする 休職者が出てしまったときの対応もお伝えしておきます。スタッフが休職したばかりのときは、こちらも気が動転してしまい、いろいろと聞きたいことも出てくると思います。ですが、まずはスタッフの気持ちが落ち着くまでは職場と距離をおいてあげることが重要です。 ありがちなよくないケースとして、毎週報告を求めてしまい、休職者に苦痛を与える方がいます。とはいえ、会社も雇用している限りは安全配慮義務もあるので休職中月1回程度はメールで様子を窺うことは合理的といえるでしょう。 休職を開始するときに、本人の希望を聞いて面談や定期連絡のルールを設定することも望ましいです。例えば、連絡の窓口は管理者がよいのか、親会社があるなら親会社の人事担当がよいのかなどを聞いておきます。会社ごとに何ヵ月間か休職可能期間が設定されていますので、そのような人事上のルールを早めに伝えるのもよいでしょう。 「元気そうね」はNGワード! 「無理せず、ゆっくり」が安心につながる 少しよくなってきたら職場面談を行うところもあると思います。そのときのポイントとしては「元気そうね」とは言わないことです。まだ休職中で不調な状態ですので、人によっては「元気そうなのに休んでいる」と嫌味を言われたと受け止める人もいます。こちらの感想を伝えることは一切不要です。 「早く戻ってきてほしい」もNGで、あなたは必要な人だと伝えたいのかもしれませんが本人を焦らせてしまう言葉です。どうしても気遣いをしているという声かけをしたいなら「無理せず」「焦らずゆっくり休んで」くらいが妥当でしょう。あとは「何か聞きたいことはないですか」とたずねて、本人が気になることや話したいことを中心に会話を進めるとよいでしょう。 日常生活が可能な状態と就業可能な状態は異なる 「休職中の面談時になぜか元気そうに見える」というお話もよく聞きます。それは、その面談が仕事の負荷がかかっていない通常の会話だからです。他の例を挙げると、映画館に行けるからといって仕事ができるわけではありません。復職リハビリテーションでは日常生活を問題なく送れるようになったら、その次の段階として負荷のかかる作業ができるかを指導していきます。日常会話や映画に行くことは日常生活の負荷なのです。 また、「いつになったら治るのか」と聞く人もいますが、本人が一番苦しんでおり、答えられない内容です。がんの人にいつになったら腫瘍が消えるのかと聞くようなものと思っておいてもらえたらと思います。 精神科を受診される際は産業医学に詳しい医師、せめて産業医資格を持つ医師が望ましいです。精神医学分野では就労者支援は希望者しか学ばないので、就労者支援をできる医師とできない医師がいます。できない医師でも患者さんに求められたら休職の診断書を書くことはできますが、その後の療養中の指導や復職の適切な判断を行うことができません。場合によっては、復職までのリハビリテーションが十分でない状況で復帰の診断書が出てしまうこともあります。 最後に、事業所レベルで本当に復職できる状態かどうかを判断できる基準例をご紹介します。それは、復職プログラムの策定にも有用な「生活リズムの確認」という方法です。具体的には、月~金に自宅から外出し、図書館やカフェなどで9~17時まで本を読んで過ごすことができるかどうかを見ます。これは普通の日勤の生活ができるかどうかを試しています。逆に、これができる程度に心身の耐久力が戻っていないと就業可能な状態とは言えません。職場で復職プログラムを考えたい場合、この生活リズムが取れるかどうかを確認してみてください。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社

マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア
特集

マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、管理者としての心構えをご紹介しつつ、ストレスとの向き合い方を考えていきます。 訪問看護ステーションで働く看護師は20~60代まで幅広い年齢層の方がいますが、特に多い世代は40~50代のようです。管理者の年齢層も40~50代が多く、非常勤で働く訪問看護師も同年代が多いようです1)。この年代に限っていうと、管理者か非常勤かの二極化と言ってもよいかもしれません。キャリアとしては訪問看護10年目前後から管理者になる人が出てきます。 スタッフはサラッと辞めてしまうと理解しておく 管理者はマネジメントが業務として含まれてくるので、看護技術とは別のスキルと心構えが必要になってきます。まず、マネジメントにおいて理解しておくとよいのは「スタッフは辞める」ということです。極端な表現かもしれませんが、ビックリするほどサラッと辞めます。 スタッフのマネジメントも管理者の重要な業務ですので、突然の退職は、当然想定しておく必要があります。 よくあるハラスメントと捉えられかねない事例ですが「長く続けるのが当然、途中でやめるのは問題」などと自身の人生観やキャリアを他人に押し付けることはよくありません。相手にも苦痛になりますし、自分と重ね合わせようとする考え方自体が柔軟な対応の邪魔になり、自分自身を悩ませ苦しめることになります。 スタッフを信頼しても過剰な期待はしない マンパワーは流動的で、いつ誰が急に休んだり辞めたりするかはわかりません。そのため経営する側としてはマンパワー的に少なくとも0.5人分程度の余剰人員で回すくらいの人員管理は必要でしょう。もしあなたが経営者でない管理者であって、経営者が余裕を持った人員配置を理解してくれない職場で働いているなら、その職場自体は今後改善の余地が非常に大きいと思われます。  管理者の苦労は管理者にならないとわかりません。管理者をめざそうとしている人であれば少しはわかってくれるかもしれませんが、そうでない人にとってはわかる必要のない世界なのです。管理者業務もステーション業務の1つなのだから理解しようとするのは当然ではないかとの意見もあるでしょう。でもそれは、あなたが管理者になるキャリアを歩んできた人だからそう思うのであって、他の人も同じ考えであるとは限りません。 主人公が海賊王をめざす某人気漫画を例示してよく言われるように、今の世代は、導くリーダーよりも一緒に戦う仲間を欲しているという感覚を知っておいてもよいでしょう。管理者のメンタルヘルスがテーマなのに、管理者にとって厳しい話をしているようですが、「スタッフを信頼するけれど非現実的な期待をしない」ことが上手に管理者を務めるための心構えです。思い通りにならないことが多いと非常にストレスを感じます。精神医学で言う認知(物事の受け止め方)を変える、つまりこの場合は思い通りにならないと理解することがストレス軽減につながります。 板挟みの孤独と強すぎる正義感 日常診療をしていると、訪問看護ステーションの管理者が受診されることはしばしばあります。管理者が抱える悩みは大体2つのパターンに分けられます。 最も多いのは、裁量権の小さい管理者で経営者と他のスタッフとの間に挟まれているパターンです。結果、自身が業務を背負ってしまい、過重労働に陥ってしまいます。管理者は自分自身がトップ、もしくはトップに近い立場であるため、相談先がほとんどありません。まじめで考え込んでしまう人ほど、一人で悩みを抱えこみがちになります。 割合は減りますが、もう1つは自分の正義感に振り回されるパターンです。「スタッフがよく辞めていく」「スタッフから怖いと言われる」「正しいことを伝えているのに相手がなぜか泣き出す」、このような経験がある場合、注意が必要です。「あなたのためを思っている」「患者さんのためを思っている」といった言葉とともに強い怒り、もしくは強い悲しみが湧き出てくるタイプの人が多いです。 このパターンの方は周囲に疲弊して受診をされるのですが、実は周囲もこの人に疲弊しているという負の連鎖が起こっています。正論を突き通そうとするあまり、バランスのよい最適解に妥協することができず、周囲とぶつかることが多いです。そして、自分の正論を押し付けて揉めに揉めた結果、スタッフへのパワーハラスメントになることがあります。この場合、本人も周囲が理解してくれず自分がしんどくなっていき、被害者のような感覚になります。さらに収拾がつかず、スタッフもあきれ果てて次々に辞職していくパターンを取ります。 仲間を作ってストレス発散 このように厳しい立場にある管理者ですが、行き詰まらないためにも取り組んでおきたいことがあります。それは仲間を作ることです。トップになれば自分と同列で話せる人は職場にはほとんどいないかもしれません。その場合、職場以外のコミュニティで仲間を作り、相談してみるのはいかがでしょう。業務上の役割や立場を意識せずに、悩みを話したりもできますし、人の話を聞くことで自分と他の人の違いを知ることもできます。暴走しているようであれば気づきを得ることも可能です。よいストレス発散にもなります。 通院してくる方に聞くとストレスの発散が苦手な人もいます。問題解決に目を向けすぎて、問題が消えていない状況で小休止を取るのはよくないことだと考えてしまい、上手に発散ができないのです。旧知の知人と疎遠になっているなら、習い事を始めて新しい仲間を作ってもいいですし、学会のような懇親会に参加するのもよいでしょう。医療分野に限らず、経営者勉強会の集まりもありますし、今はSNSのようにインターネットを利用していろいろな人とつながることもできます。職場の行き来だけになっている人は、人と会うことを考えてみてはいかがでしょうか。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本看護協.「2014 年 訪問看護実態調査 報告書」,https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/report/2015/homonjittai.pdf 2022/10/25閲覧

困難事例は精神科の知識で対応 中堅訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
特集

困難事例は精神科の知識で対応 中堅訪問看護師のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、中堅訪問看護師が出会いがちな困難事例を取り上げ、精神医学で解消できる部分をアドバイスしていきます。 対応困難例に生かす精神医学的アプローチ 今回の対象である中堅訪問看護師は、受け持ちの患者さんに難しいケースが多いため対応に苦慮するあまり、ご自身のメンタルヘルスに影響することも多いようです。そこで訪問看護師の精神的負担を少しでも軽減できるように、対応困難例への精神医学的アプローチの方法を紹介しましょう。 中堅の訪問看護師が直面する関わりの難しいケースの中には、精神医学で言う「パーソナリティ障害」や「発達障害」の方がいらっしゃるように思われます。特にパーソナリティ障害の患者さんの場合、ご本人は「普通のこと」「常識的なこと」と思い込んでいることが多くあります。そんなとき、「できないことはできません」とお断りすると、「裏切られた」と感じられてしまうこともあります。こうした反応は、訪問看護師にとってはとてもストレスフルで疲弊してしまいます。 そこで今回は、接し方が難しい患者さんへの対応に役立つ、精神科の知識をご紹介します。特に看護の現場で困ることの多い、「パーソナリティ障害」と「発達障害」を取り上げ、それぞれの疾患の特徴と対応をお伝えしますので、ぜひ現場でお役立てください。 パーソナリティ障害の患者さんの特徴と対応 まずは、クレーム対応の話でも話題に上がるパーソナリティ障害に比重を置いてお話しします。なお、パーソナリティ障害にはいくつか種類がありますが、ここでは「境界性パーソナリティ障害」を取り上げます。境界性パーソナリティ障害は期待感に関しての問題を持っています。自分の常識を世間の常識だと思い込み、自分の思いを相手がくみ取ってくれると過剰に期待して、断られるといった期待外れに直面すると激怒するのが特徴です。 「付かず離れず」で過剰な期待をさせない 対応方法としては期待をさせないことが大事です。具体的には「すべての要望に応えることはできない」と相手に伝えます。少しストレートで言葉が悪いように聞こえてしまうかもしれませんが、言い換えたフレーズとしては「ここまではできて、これ以上はできない」となります。一定の距離を保つということです。これは「付かず離れず」の関係であり、大きく距離を取ったり見捨てたりすることではありません。 境界性パーソナリティ障害の人は一度行ったサービスの基準を下げると「嫌われた」「見捨てられた」と思う傾向があります。こちらが親切心から一度だけした行為を「次回もまたしてくれるのでは」と思ってしまい、過剰な期待を寄せてしまうのです。この心理は思い当たる人も多いと思いますが、境界性パーソナリティ障害の人では期待外れのときの落ち込み具合や怒り具合が病的に強いのです。 例えば、パートナーからのクリスマスプレゼントで考えてみます。2年前は「3万円のネックレス」で、去年は「3万円の指輪」でした。そして、今年は「5千円のマフラー」でしたとなるとショックを受け、嫌われたのだろうか? 他に好きな人ができたのだろうか? と大きな不安を感じてしまうと思います。大概はそこで我慢するのですが、境界性パーソナリティ障害の場合、我慢ができず、大声を出したり、暴力をふるったりと、過剰な反応や行動に出てしまうのです。 いつもと変わらないケアをいつもと同じように提供する 大事なことは常に一定のサービスを提供し、それ以上の過大な期待を抱かせないことです。サービスという言葉から「いつもよりも喜ばしいことを相手に提供する」というニュアンスを抱きがちかもしれません。しかし、トラブルにならないサービスとは「いつもと変わらないものをいつものように提供すること」なのです。 私の診療は、境界性パーソナリティ障害の人に対してかなり淡々としていると診察を見学した研修医から言われたことがあります。「いつもの先生がいつものように診察をしてくれて、特別なこともせず見捨てることもせず、裏切らない世界が診察室にあるという安心感」が狙いなので、それでいいわけです。境界性パーソナリティ障害の人は、最初は愛想のよい人が多いので、こちらも気分をよくしてしまい特別扱いしてあげたくなるのですが、そこはぐっとがまんして常に同じ内容の看護を提供し続けてください。 チームで対応方法を情報共有する 境界性パーソナリティ障害の人に関しては情報共有も大事です。なぜなら自分だけが特別なことをしないように心がけていても、他の人がはみ出たことをやってしまうと「あの人はやってくれたのにあなたはやってくれないのか」ということになるからです。 他にもトラブルを起こしやすいパーソナリティ障害に「自己愛性パーソナリティ障害」と「反社会性パーソナリティ障害」があります。パーソナリティ障害のタイプの中でもいずれもトラブルを起こしやすいB群パーソナリティ障害に属しています。興味のある人は調べてみてください。 発達障害の患者さんの特徴と対応 主な発達障害に注意欠如・多動症(ADHD ※1)と自閉スペクトラム症(ASD ※2)がありますが、ASDの患者さんへの対応を知っておくとよいでしょう。 パーソナリティ障害もコミュニケーションがうまくいかないといった特徴がありますが、比較的社交的な人もいらっしゃり、コミュニケーションが巧みでこちらを操作してくるケースもあります。それに対し、ASDの人は人間関係やコミュニケーションが苦手でうまく意思疎通が図れません。 伝えたいことは口頭ではなくメモを活用 ASDの人は細かいことにこだわってしまい、全体的に大切なことを見渡すことができません。こだわりのあまり不安が強く、いろいろ訴える面倒な人と思われがちです。話をまとめることも下手なのでダラダラと話してしまい、何がポイントの会話であるかはっきりしません。想像力を働かせるのも苦手で、口で伝えたことが頭に入りにくい傾向があります。そのためメモに残したり、見える形で一つひとつ確認したりすることが重要になります。 障害の特徴を知って対応におけるストレスを減らす パーソナリティ障害や発達障害の特徴を知っておくと、訪問看護師としてストレスを抱えずに対応できるケースもあるでしょう。「普通では考えにくい独特な考え方をすることがある」「そういう不思議なところがある」と認識しておくだけでもこちらのストレスが大きく減ります。患者さんと向き合いつつ、自分の心の負担を少しでも軽くするために精神科のエッセンスを活用していただければ幸いです。 そのほか、知的障害の人も、説明をうまく理解することが難しいなど対応に困ることがあります。ただし、会話内容に裏表がなく揚げ足取りをするようなこともほぼないため、シンプルに短い文章で説明することが大事になってきます。一気に複数の指導をすると混乱しがちなので、「まずこれだけする」と1つのことに絞り、徐々にできるようになれば次の課題を促していくとよいでしょう。発達障害と同様に、ポイントを口頭で伝えず、文章で伝えることも有効です。 ※1 ADHD:attention-deficit hyperactivity disorder ※2 ASD:autism spectrum disorder 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。  記事編集:株式会社照林社

融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
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融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、新人訪問看護師に必要な心構えや注意したいメンタルヘルスの症状をお伝えします。 要望ばかりでは心に負担も 「融通」も忘れずに 訪問看護の新人看護師は、どのくらいの臨床経験があるのでしょう。看護師国家試験を合格してすぐに訪問看護ステーションに就職する人はほとんどおらず、早くても5年程度の臨床経験を経てから訪問看護師になる人が多いのではないでしょうか。10年程度してから訪問看護師になる人も結構多く、訪問看護は年齢を気にせずに新しい世界にワクワクして入職できる分野かもしれません。 新しい世界はどんなことが待ち受けているかわかりません。想像するような仕事かどうかは、入職時にはある程度知っておきたいものです。もしあなたが入職前にこの記事を読んでいるのであれば、どういう仕事があるかは調べたりたずねたりしておきましょう。予想外の仕事が来た場合にメンタルを崩すことが減ります。 ただ、ここで大事なキーワードは「融通」です。ある程度の柔軟さは仕事をする上で大事ですし、人間関係のこじれを少なくすることもできます。働きだしてからの自分のためにも、要望ばかりにならないよう、与えられた仕事に対して臨機応変に処理することも大切です。自分の中で折り合いを付けられるように融通を利かせる許容範囲も考えておきましょう。 もうすでに入職している人は、職場でのキャリアプランやスキルアップについてはどこかの時点で上司に聞きつつ、自分のビジョンも伝えておくとよいでしょう。ギャップが少なければストレスが溜まりにくくなります。 焦りは禁物! 落ち着いた心持ちで働く 一方で、特に若い方は「医療は作業」という側面もあると改めて認識しておくとよいかもしれません。少しずつ自分のスキルや提供できる看護技術は上がっていきますが、月日を経て患者さんが変わりはすれども基本は同じような日々の繰り返しです。その中で自分の気持ちをどう安定させたり維持させたりできるかも大事になってきます。 さて「どうやって気持ちを維持させるか?」ですが、最初に意気込んでしまう人ほど慣れてくると意気消沈してしまうことがあります。また、まじめで責任感が強い人も、一生懸命がんばりすぎて気力を維持できなくなることもあります。 どちらの場合も「まずは急いでパワーアップしようと思わず、勤務を続けること」が大事です。最初の1~2ヵ月は言われたことを落ち着いた気持ちで遂行することを目標にしてください。ポイントは落ち着いた気持ちで仕事ができることです。 職場に相談できる人をつくる 気持ちがいっぱいいっぱいになったり、落ち込んできたりしたときは自分だけで抱え込まず職場の人に相談しましょう。訪問看護は1人業務になりやすい業態ですが、職場の中で話しやすい人を1人でよいので見つけておくとよいでしょう。職場に相談できる人がいるかどうかが、職場での気持ちの安定につながります。 とはいえ、入職後すぐは話しやすい人なんて誰もいない状態からスタートします。なるべく自ら話しかけることにトライしてみてください。話すきっかけとしては興味を持たれなくてもよいので雑談をしてみましょう。自分とまったく同じ人はいませんので、話したことすべてに興味を持ってもらえることはまずありません。 話題を考える時に参考になる有名なフレーズがあります。それは「木戸に立ちかけし衣食住」というものです。「季節(気象)」「道楽、趣味」「ニュース」「旅」「知人」「家庭」「健康」「仕事」の頭文字に「衣・食・住」を加えたフレーズで、これらの話題のうちどれかを選んで話すと雑談がしやすいと言われています。逆に、避けたほうがよいとされる「話題の3S」というものもあります。これは、話題にするとトラブルになる可能性がある「スポーツ」「政治」「宗教」のローマ字の頭文字Sを取った覚え方です。 うつを見抜くサイン こんな症状に気をつけて! 最後は、しんどくなったときに備え、知っておいてほしい内容をお伝えします。うつ病や適応障害によるうつ状態のときに出る症状は、気分の落ち込みや意欲の低下だけではありません。他にも注意してほしい症状があるのでご紹介します。同じ症状が見られる場合は早めに受診をしましょう。 不眠 代表的な症状が不眠です。寝られなくなったら何らかの精神的な不調が隠れている可能性を考えてください。少なくとも無理をしてしまっている可能性は大いにあります。 食欲低下 食欲低下は食べられないということ以外にも、おいしく感じなかったり、無理に食べている感覚が出たりします。 消化器症状や身体症状 うつ病の診断基準にはありませんが、下痢、便秘、胃痛、腹痛といった消化器症状、頭痛や動悸や呼吸困難感といった身体症状も出てくる場合があります。他に、涙が出る、仕事に行くのに足がすくんでしまうこともあります。 自責感・罪責感 自分で気づきにくい症状としては自責感・罪責感があります。自分を責めてしまう、迷惑をかけていると思ってしまう症状です。「今、休むと他の人に迷惑が掛かってしまう」。このセリフがよぎったときは危険信号だと思ってください。案外耳にしそうなセリフですが、精神的に追い込まれている状況でもこのセリフを言い続けて自分を責めてしまいます。 * 精神科に通院しながら働いている人は近年非常に増えており、受診を気に病む必要はありません。受診したことで何か冷たい扱いを受けるようであれば、逆にそういう職場であることを早めに知ることができて幸運だと思うくらいでよいかもしれません。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社

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