特集 インタビュー コラム

訪問看護師のエンゼルケア

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[8]ぜひ活用してほしい、ご家族向けの文書(またはパンフレット)

ご家族の心配が少しでも軽減されるよう、死後の身体変化や冷却の重要性などあらかじめご家族にお伝えしたいことは多くあります。限られた時間の中でもきちんと整理してお伝えできるように文書の活用をおすすめします。連載の最終回ではご家族向けの文書についてご紹介します。 訪問看護師Aさんの経験談 訪問看護師のAさんから伺ったお話です。Aさんが担当していた80代前半の女性Bさんは、彼女の夫Cさんが中心となって世話をし、在宅療養をされていました。やがてそのときが来て、Aさんはエンゼルメイクなどを行ってその日はBさんのお宅を辞したそうです。 翌朝、Bさんの娘さんからAさんに電話があり「急いで来てほしい」という依頼がありました。Aさんが何とかスケジュールを調整してBさんのお宅を訪れると、夫のCさんがしょげ返っていました。 集まっていた娘さんたちは、まるで子供が先生に言いつけるかのように、Aさんに出来事を話したそうです。 「父が母のそばに一晩中付き添っていたのですが、母の顎の下に挟んであるタオルを外したようなんです。そしたら母の口が開いて、父がその口に食べ物を入れて、噛んでもらうように顎を何度も押して、また食べ物を口に入れて顎を押すというのを夜中に繰り返したらしいのです。父がそんなことをしていたからでしょうか、顎のところがひどく変色してしまって、大変なことになったと思いまして。」 Aさんは、Bさんの顎の部分が何か所か変色しているのを確認しました。そして、口腔ケアをした後、念のため持参しておいたエンゼルメイク用のファンデーションを使って、変色した部分をカバーしました。Cさんが妻の食事介助を、やさしく声をかけながら行っていた場面を思い出しながら……。 Cさんや娘さんたちにAさんはこう伝えました。「Bさん、おいしかったかもですね。亡くなられた後は、どなたも肌が弱くなり、圧迫すると変色しやすくなります。ファンデーションでカバーしましたので、今後、もし色が気になるようでしたら上からカバーして差し上げてください。」Cさんも娘さんたちも、安心したようにうなずいたとのことです。 ご家族への説明に文書を活用 Bさんのご家族のケースでは、担当の訪問看護師であるAさんがすぐに駆けつけることができました。でも、もし看護師が訪ねることができなかったなら、ご家族の困惑は続き、ますます不安が膨らんだかもしれません。 エンゼルケア時には、・ご家族の心理状態が平静ではない・ご家族は心身ともに疲れている場合が多い・ケアの時間には限りがあるなどの理由で、必要なことを説明しきれない場合が多くあります。たとえ適切な説明ができてご家族がうなずいていたとしても、頭に入っていないこともあります。 このように口頭でのご家族への説明には限界があるわけです。そこで、後で確認ができたり、見返すことのできる、必要な説明をまとめた文書をお渡しすることをおすすめしています。そうすれば、エンゼルケア時には、思い出などを話す余裕も生まれます。 ぜひ、各事業所で作成し活用していただきたく、文書に盛り込みたい内容についてその項目を以下に記しましたので参考にしてください。 ・ご家族への挨拶文・死後の身体変化のとらえ方(変化は自然現象であり、異常ではないことも含めてまとめる)・冷却の重要性・主な死後変化への対応(出血や漏液、死後硬直など)・身だしなみの整えやならわしへの対応・ケース別の対応(黄疸のある方、ペースメーカーが入っている方、拘縮のある方など)・グリーフワークについてなど また、そのままご家族にお渡しできる文書もご用意しました。[お役立ちツール]からダウンロードできますので、よろしければお使いいただければと思います。皆さんの事業所でオリジナルの文書を作成されるときの原案としてもご活用ください。 ワンポイントメモマニュアルは継続的に検討し、刷新を重ねていく事業所のスタッフの皆さんが、その場の状況に応じて、柔軟に判断し、安心してエンゼルケアを行えるように、基本的なケアの流れや手技などをまとめたマニュアルを作成しておくとよいでしょう。ただし、エンゼルケアは、事業所のスタンスをはじめとして検討すべきことが多いです。また、看取りの在り方や家族のありようなどの変化に応じて、対応を調整していく必要もあります。そのため、マニュアルは暫定的なものとし、継続的に検討し、少しずつ刷新を重ねていくことをおすすめします。担当看護師のグリーフワークにもつながるデスカンファレンスデスカンファレンスは、臨終時やその前後のケアを中心に振り返り、ディスカッションをとおして今後のケアの質の向上を主な目的として行います。実施の規模やタイミングは事業所の考え方に応じて決めていただくとしても、これは必ず実施していただきたいと考えています。デスカンファレンスを行うことが、担当看護師ならではのグリーフワークの助けになることと思います。また、亡くなられた方にかかわった多職種によるデスカンファレンスの実施もその後の連携にプラスに働くのではないでしょうか。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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[7]ここだけは押さえたい お顔のエンゼルメイク3つのポイント

亡くなった人のお顔が穏やかかどうか、お顔がその人らしいかどうかは、ご家族の心持ちを大きく左右します。お顔の印象を整えるケアはとても大切ですね。今回は、エンゼルメイクにおいてぜひ押さえてほしい3つのポイントについてご紹介します。 顔の印象を構成する3つのポイント 例えば、ご遺体の表情に穏やかさを感じなければ「つらいのだろうか、苦しいのだろうか」、「もっとできることがあったのではないか」といったネガティブな思いが膨らみます。一方、穏やかな表情であれば、悲しいながらも「安らかな顔だ」、「楽になったんだね」、「あっ、おばあちゃんのやさしい顔に戻った!」といった言葉が聞かれたりします。 ですから、できるだけ早く、穏やかにその人らしくお顔を整えて差し上げたいですね。しかし、時間に限りのある中、何をどこまで行うか迷う部分があるのではないでしょうか。 今回は、顔のエンゼルメイクで最優先したいプロセスについて、顔の印象を構成する「質感」「色」「形」の観点からご紹介します。使用する化粧品類はドラッグストアなどで調達できるもので十分です。 エンゼルメイクの一通りの基本手順をまとめた手順書もご用意しています。[お役立ちツール]からダウンロードできますので、よろしければご参照ください。 最も重要な乾燥対策 ご遺体の皮膚は乾燥が進みやすく、特に露出している頭部は乾燥が強いことをこの連載の[3]でお伝えしました。 顔面の乾燥が進むと図1に示したとおり「質感」「色」「形」ともに、穏やかさとは逆の印象をもたらす可能性が高くなります。 図1 乾燥がもたらす影響 このような乾燥は不可逆的に進行し、変化してしまったら元の状態に戻すことができないため、早い段階で次のような乾燥対策が求められます。 ポイント①顔、耳、首など露出している部分に、クリーム、乳液など油分をたっぷり塗布します。特に唇にはリップクリームやワセリンなどを多めに塗布しましょう。 時間がとれない場合は、清拭の後にポイント①を行うといいでしょう。 エンゼルケアに十分な時間がとれる場合は、皮膚の角質や汚れを取り除いてからポイント①を行います。手順書で詳しくご紹介していますが、まず、クレンジング・マッサージクリームを使って、お顔のマッサージを行います。マッサージ後、油分を拭き取り(ティッシュなどで押さえる程度)、蒸しタオルをあてて肌をやわらかくします。 その後にポイント①を行うことで、清拭や入浴ではとれなかった汚れを落とすことができ、すっきりとした質感が得られます。同時に、マッサージ効果によって「質感」「形」(この場合は表情)、ともに大幅にアップします。このプロセスは、男女ともに強くおすすめします。 また、クレンジング・マッサージや蒸しタオルのプロセスは、そばでご覧になるご家族が「気持ちよさ」「すっきり感」を想像できる貴重な場面にもなり得ます。 次のポイントは血色 「色」で重要なのは血色です。穏やかさと血色は直結しています。 まずは、連載の[3]でご紹介した蒼白化についてあらためて説明します。死後、体液の一部が重力の影響を受けて下方に移動します。特に血色を構成している比重の重い赤血球は下方に溜まるように移動するため、仰臥位の場合、顔面や身体の前面から血色が失われます(図2)。 エンゼルメイクでは、この蒼白化によって失われた血色を補うという考え方でメイクを行うことが、その人らしい穏やかな表情につながります。 図2 蒼白化が起こるしくみ 伊藤茂(2009)『“死後の処置に活かす”ご遺体の変化と管理』(照林社)、10ページより引用 ポイント②チークか口紅を手の甲にとり、それを指先で、あるいは太目のブラシで血色の補充として皮膚の各部(額、まぶた、頬、顎先、耳)になじませます(図3)。使う色は自然な血色に近い色で、また耳には油分の入ったクリームタイプ(練りチーク)がおすすめです。なければ、プレストパウダータイプでもよいです。 図3 血色を入れる部位額、まぶた、頬、顎先、耳になじませるように血色を補充する。 時間が十分にとれる場合は、まずはクリームファンデーションを塗布し、パウダーで整えます。このプロセスは、乾燥を抑える・顔色を整える目的で行います。そして、その上から血色を入れます。 あまり時間がとれない場合は、保湿用のクリームを塗布し乾燥対策をした皮膚の上に行います。さらに、時間がないけれども、少しでも穏やかな印象にして差し上げたいという場合は耳だけでもおすすめです。状況によってはご家族に耳に血色を入れていただくとよいでしょう。 また、指先なども蒼白化によって白さが目立つ場合は、血色を入れて差し上げます。若い女性が亡くなった際、彼女のお母様が「指先が白い」とつらそうにされているため、担当看護師は指先に口紅で血色を入れたケースがあります。その方の血色を補うという考え方で行うと、その場に応じた判断ができます。 そして、眉の「形」を整える 眉の様子は、穏やかさとその人らしさを同時に表します。 ポイント③眉に付着するクリームなどの油分を綿棒で拭い、眉ブラシで眉をとかし整えます。毛が足りないと思われる部分は、アイブロウペンシルでうっすらと描き足します。そして、その人らしさはご家族の記憶の中にあるので、ご家族に確認を取りながら眉の形を調整します。 部分的に眉が抜けてしまっている場合、細めのブラシにグレーやブラウンなど、眉に馴染みやすいパウダーカラー(アイシャドウでも可)をとり、その部位を埋めるように塗布すると自然に整います。 また、眉がほとんど抜けてしまっている方は、ブラシにパウダーカラーをとり、うっすらと形を描いてみて、その上にアイブロウペンシルで眉を一本一本植えるような感覚で描くとよいでしょう。 ワンポイントメモ準備した化粧品類は、必ず事前に性質をチェックするクリームやクレンジング・マッサージクリーム、カラーパウダー、チークなど、準備した化粧品類は、必ず事前に伸び方やつき方、つけた後の乾燥のしかた、発色の具合などを確認しておきましょう。試してみないとわからない場合が多いので、大切なポイントです。 看護師の皆さんにもおすすめの「耳に血色」実は私は、どなたかに会う場合は、必ず耳に血色を入れるようにしています。クリームチーク(ローズ系のにごったような色のもの)を指で、です。これを行うようになってから、俄然、元気そうだと言われることが多くなりました。この血色は、こちらから言わなければ誰も気づきません。自然に元気な印象をつくる方法としておすすめです。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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[6]どうされていますか? エンゼルケア時のならわしへの対応

お顔に白い布をかけたり、着物を左前で着付けるなど、亡くなった人に対して従来より行われてきたならわし。エンゼルケアの場面では、こうしたならわしについてどう考えればよいでしょうか。今回は、そもそもならわしとは何かをご紹介するとともに対応について考えます。 ならわしについて検討する際のポイント ならわしは、人々の思いと時代や地域の文化などがかかわってできあがったもので、時とともに移ろいながら私たちの暮らしの中にさまざまに存在しています。 医療の現場ではどうでしょう。例えば、病棟の病室に4号室や9号室を設置するかどうか。「死」をイメージする4、「苦」をイメージする9を避ける人がいるため、設置していなかった病院が少なくなく、増築や改築の際に議論になることがあります。 また、霊安室のありようもさまざまです。仏教をイメージするような設えやマリア像のあるお部屋、逆に宗教色のない控室的なつくりなどがあります。霊安室はならわしによる雰囲気づくりがなされたエリアといってよいでしょう。検討の結果、霊安室をなくした病院もあります。 看護時に長らく行われてきたならわしは、亡くなった人の整え方のいくつかです。それをどうとらえて、どうすればよいのか。ならわしを行うこと、行わないことに善し悪しはなく、考え方次第です。いずれにしても大事なのは、事業所としての考え方を整理し、スタッフ間で共有しておき、必要なときに説明できることです。 見えてきた、ならわしの背景 死後処置では、主にa~dのならわしが行われてきました。a手を組ませるb胴紐を縦結びにするc顔に四角い白い布をかけるd和服を逆さあわせにする(いわゆる左前) 葬儀文化に詳しい方への取材や関係書を読み検討を重ねる中で、これらのならわしが死や遺体に対するおそれの感覚や生きている人と区別するための印づけとしての必要性があったのだろうと考えるようになりました。 ①ご遺体へのおそれの感覚 昔は埋葬するまでご遺体を身近に置いていたこともあり、ご遺体の鼻や口から悪い存在が入り、荒ぶれて動き出したりしないかといったおそれの感覚が生じたようです。そのために、動かないように縛ったり、鼻や口の穴を塞いだりして封印をするようになったのではないか、そして、その名残がaの手を組ませる行為やcの顔に四角い白い布をかける行為なのではないか、と考えられていることが多いとわかりました。 ②「あの世の人」になったことの印づけ また、昔は死んだら「この世」から「あの世」(この世とは逆さの世界になっていると考えられている世界)へ行くと信じる感覚がありました。かつては看取りから葬儀まで自宅で執り行われることが多く、近所の人や親戚の人たちが自宅にたくさん集まりました。その中でご遺体が布団の上に横たわっているわけです。こうした状況において「この人はあの世の人になったのだ」と周囲に表明する、生きている人と区別する必要があったと思われます。 医師による死亡診断と告知があるわけではない時代には、亡くなったと決めたことを表明する必要もあったのではないかと想像します。その表明のしかたとして「逆さの世界の人」として、普段とは逆の方法にする逆さ事が行われてきたのでしょう。 逆さ事には、例えば「逆さ屏風」や「逆さ水」があります。「逆さ屏風」は、ご遺体の枕もとに屏風があれば、絵柄を逆さにして立てることを言います。「逆さ水」とは、ご遺体を拭くときに使用するお湯のつくり方を言います。通常、お湯に水を足して温度を調整しますが、その逆、水にお湯を足して温度を調整します。 先ほどご紹介したbの胴紐を縦結びにしたり、dの和服を左前にあわせることも逆さ事のひとつとして行われたのでしょう。胴紐は通常、横に結びますが、その逆として縦に結んだと考えられます。なお、縦結びは解けにくい結び方であり、「もう、あの世から戻れないですよ」という本人へのメッセージだと考えるむきもあります。 エンゼルケア時に、ならわしは基本的に行わなくてよい エンゼルケアは、ご家族が心豊かに看取りの場面を過ごしていただくことが目的のケアです。その段階において「ご遺体へのおそれの感覚が由来したならわし」は必要ない、また、周囲に亡くなった人であることを表明するための「印づけ」も必要ない、と考えています。 連載[2]のコミュニケーションの回で述べたとおり、生きているときのようにご遺体を気遣うご家族が多いのですから、死者らしくするならわしは行わない方針がご家族の感覚にもフィットします。 また、ならわしは後になってからいつでも行うことができますから、わざわざエンゼルケアの時点であわてて行う必要はありません。ただ、ご家族の希望があればそれに添う対応を検討してください。 社会状況の変化をキャッチしておきましょう 全体に死という出来事やご遺体を目立たないようにしたいという人々の思いが、死を取り巻く状況に反映されている印象です。例えば、以前は派手な装飾で目立つ存在だった霊柩車は、現在は目立たないものにとって変わり、葬儀も簡略化が急激に進んでいます。看取りや、葬儀の担い手となる子供の人数が少なくなり、その負担も増えている現在、簡略化は自然な方向性かもしれません。 そのような状況であることを含み、エンゼルケアではできるだけ、連載の[4]で述べた「でも」と思える場面づくりを意識するといったことが必要なのかもしれません。 ならわしはとなりの町でも流儀が異なる場合もあり、考え方や行い方に地域差が見られることも少なくありません。担当地域の自治体や葬儀社などから葬送の現状について情報を得ておくことも、エンゼルケアの内容を考えるうえで参考になると思います。 ワンポイントメモ宮家準氏が執筆された『日本の民俗宗教』(講談社学術文庫)中に掲載されていた次の図を知り、その内容にたいへん感動しました(図1)。 図1 生と死の儀礼の構造宮家準(1994)『日本の民俗宗教』(講談社)、124ページより引用 図の上半分にこの世の儀礼が並んでおり、下半分にあの世の儀礼が並んでいます。このように儀礼を対比すると、この世とあの世で儀礼の類似性があり、結婚式と三十三周忌までは儀礼のペースがほぼ同様です。先人らは、あの世に行った霊に対しても節目節目で儀礼を行い、この世で生きている人と同じくらい大切に思いながら過ごしたわけです。図では、あの世の儀礼にある「十三周忌」に対応するこの世の儀礼がありませんが、私の出身地である茨城県の一部では13歳のときに十三参りという儀礼を行います。 また、この図を縦半分にして左右を見てみると、右半分は神社、左半分はお寺で儀礼が行われます。他にも感動ポイントがいろいろとあるのですが、ここでは割愛します。昔の人たちは、このように一つひとつの儀礼を進めていくことがグリーフワークになっていただろうことを読み取ることができます。最近では、初七日は葬儀と一緒に済ませるなど、儀礼が省略されることも少なくありません。今後の社会では、これらを簡略化した分の穴埋めについて考えなければならないのではないかと思うのです。 皆さんの担当地区に伝わるならわしや、担当している利用者さんの出身地のならわしを聴取し、民俗学や文化人類学の書物を参考に、ぜひ検討してみてほしいです。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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[5]身だしなみの整え――看取りの手段としてのエンゼルメイク

手浴や足浴、爪切りなど、エンゼルメイクではさまざまな方法でご遺体の身だしなみの整えを行います。これら一つひとつの場面が貴重な看取りの手段やグリーフワークの一助となります。できるだけご家族に実施していただけるよう、看護師がサポートできるとよいでしょう。 エンゼルメイクとグリーフワーク グリーフワーク。それは文字どおり、悲嘆の作業、心の大仕事ですね。喪失して間もない方や少し時間が経った方、年数を経た方などにお話しを伺うと、皆さんさまざまに、ドイツの哲学者アルフォンス・デーケン氏が示した「悲嘆のプロセス12段階」のいずれかの段階にあります(図1)。氏が記したとおり、順調に段階を踏んでおらず、ある段階を行きつ戻りつされている方もいらっしゃいました。 図1 悲嘆のプロセス12段階 アルフォンス・デーケン(1986)『死を看取る〈叢書〉死への準備教育第2巻』(メヂカルフレンド社)、261-265ページをもとに作成 また、後悔の念を口にする方も少なくありません。 「あのとき、もっとやさしい言葉を返せばよかった」、「あのとき、もっと話を聞けばよかった」、「あのとき、足をさすってやればよかった」などです。 ある人は「さまざまな後悔が湯水のように湧いてきて尽きないのよ」とお話しされました。後悔の念もグリーフワークとともに生じやすいようです。 これら心の作業を行っていくうえでポイントになるのが「でも」だと考えています。「でも、〇〇をやってあげることができた」という記憶、特に自身の手で行った実感の伴う記憶はグリーフワークにプラスに働くようです。さまざまなケースをとおしてそのことが見えてきました。その「でも」につながった可能性のあるエンゼルメイクの場面をいくつかご紹介します。 爪切りを行いながら 高齢の男性Aさんが息を引き取り、娘さんらは彼の顔のそばで悲しみを表しました。そんな中、ご長男だけは少し離れたところで棒立ちのままその様子を眺めていました。 「お父様の足の爪切りをお願いできませんか?」と、担当看護師が彼に声をかけました。「えー? 人の爪なんて切ったことないから」「私は女性のみなさまとお顔の整えを進めたいと思いますので、ぜひお願いします」「うーん。じゃあ」 彼は慣れない手つきでAさんの爪を切り始めました。やがてゆっくりとAさんの脛を撫で、何かしら話しかけながら爪切りを行いました。 手浴の思い出 高齢の男性Bさんが亡くなり、エンゼルメイクのときに娘さんがBさんの手浴を行いました。娘さんは、担当だった訪問看護師に会うたびに、何年経っても「あのとき、父の手を洗ってあげることができてよかった」と話します。 手浴の際にお湯に入浴剤を入れたことを「お風呂に入れてあげたみたいに思ったあの香りを嗅ぐと今も手を洗ってやれてよかったって思うんです」と。 ネクタイをきっかけに 高齢の男性Cさんのエンゼルメイクのとき、ご長男はCさんの足元のほうに立ち、腕組みをして笑顔で冗談を飛ばすなどしていました。Cさんに背広を着付けている途中で担当看護師は彼に声をかけました。ネクタイを差し出しながらです。 「よろしかったら、お父様にネクタイを付けていただけませんか?」「え? あー、ネクタイね。じゃあひとつ長男のオレがやってやるかぁ、どれどれ」 彼は、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といったふうにネクタイを受け取り、それを首元にかけるためにCさんに近づき、Cさんの顔を見ました。すると、両手でネクタイを持ったまま、身体が固まったように動かなくなりました。そして、その場で号泣。彼は泣きながらCさんにネクタイを締めてあげていました。 シャンプーをとおして 高齢の男性Dさんのエンゼルメイクで、ベッド上シャンプーを行ったときの場面です。担当看護師がDさんの首と後頭部を支え、娘さんがDさんの頭頂部や側頭部を洗います。洗髪しながら娘さんがこう言いました。 「まさか、最期に父の頭をこの手でこの指で洗ってあげられるなんて思っていなかったです」そして、次のように続けました。 「父の髪は白くはなりましたけど、量はずっと豊富なままで、本人はそれがちょっとした自慢でした。近所の方から、文豪の川端康成に似ている、なんて言われたこともあって。お風呂に入れていただく機会を逃してしまったところだったから、髪の汚れが気になっていたんです。父さん、かゆいところ、ないかしら」 実施した記憶がグリーフワークの一助となり得る エンゼルメイクを実施するのは息子さんや娘さんだけではありません。お孫さんが行う場合もあります。 例えば、次のようなケースです。・亡くなった高齢女性のマニキュアをお孫さんが片手ずつ担当して塗った。・お孫さんが靴下や足袋を履かせた。・お孫さんが交替でワイシャツのボタンをひとつずつ留めた。 上記のようなケースも含め、今回ご紹介したケースで共通するのは、行ったご家族から「やってよかった」という言葉が聞かれたり、そう伺える表情が見られたことです。また、これらの場面は看護師の声かけがきっかけとなっています。看護師の声かけがなければ、例えばAさんのご長男は遠巻きにお父様を眺めているだけで過ごし、Cさんのご長男は悲しみを表出するタイミングを得ることができなかったかもしれません。 もちろん無理強いは禁物ですが、ご家族の看取りの手段になり得ることを意識することがエンゼルメイクのポイントの1つです。手は出さずとも、間近でご覧いただくことで、その記憶がグリーフワークの一助になり得るととらえ、配慮することもよいのではないではしょうか。 *ご紹介したケースは個人を特定できないように編集したうえで掲載いたしました。 ワンポイントメモ衣類準備の声かけのタイミングについてエンゼルメイク時には、基本的に全身の保清後に着替えを行います。ご家族は落ち着いているように見えても、亡くなったときの衣類の準備までは気が回らない場合が少なくありません。そのため、あらかじめご家族に着替え用の衣類の準備をお願いし用意しておく必要があります。医師が、ご家族に間もなくかもしれないことを告げた際に、看護師から「つきましては、万が一のときにお召しになる衣類をご準備なさるとよいかもしれませんね」、あるいは「万が一のときのために、ご本人がご準備されている衣類はございますか?」などと声をかけるとよいでしょう。 着衣について例えば、ご家族が「これを着せてほしい」と和服一式を差し出されたとき、襦袢には袖を通していただき、着物や帯、帯締めなどは着付けずに、ふわりと上からかけておくだけにします。そして、「しっかりとした着付けをご希望の場合は、葬儀社の方にご相談なさってください」というふうに説明します。 衣類の着付けもしっかりと行うことが方針であれば別ですが、時間には限りがあるため着付けばかりに時間を割いてしまうと、保清などほかのエンゼルメイクを行う時間が足りなくなってしまいます。おすすめの「抱きうつし」(図2)エンゼルメイクの後、施設からご自宅など別の場所へ向かう場合に、ベッドからストレッチャーにご遺体を移すことをご家族に行っていただきます。在宅での看取りの場合では、ベッドから別のお布団へ、あるいはベッド上で身体の位置を整えるときに、ご家族にご遺体を抱いてもらい移していただきます。「抱きうつし」は、ご遺体を抱き抱えることで、その重さやぬくもりなどをご家族に実感していただくために行います。 図2 ご家族による抱きうつし 「抱きうつし」は鳥取県の「野の花診療所」で始まりました。エンゼルケアの一環としてご家族にご提案してみるのはいかがでしょうか。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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[4]腐敗進行を抑えるために絶対に外せない対応、冷却について

ご遺体の死後変化の1つである腐敗は、適切な管理を行えば進行を抑えることが可能です。管理が十分でないと、腐敗が進んでしまい、告別式のころには棺の蓋に届くほど腹部が膨満してしまうケースもあります。それも自然現象ではありますが、腐敗は死後変化の中でもご家族につらい印象をもたらす要素が多いため、抑える対応はマストです。今回は腐敗とその対処法である冷却について解説していきます。 腐敗はなぜ起こる? 死亡により体内の細菌バランスが崩壊し、生前から存在していた細菌群(中温菌)の異常繁殖により腐敗します。腐敗は、死後6時間くらいから始まり、腹腔内から胸腔内へ、そして全身に広がります。 腐敗が進むと何が起こる? 腐敗の進行とともに水分とガスが生じるため、体腔内圧が高まり、鼻や口から体液が漏れ出たり、肛門から便が漏れたりします。腹部膨満も見られます。また、臭気が発生し、皮下にガスが溜まり、皮膚に水疱ができるといった現象も起こります。 腐敗進行にとっての好条件は「水分が多い、栄養が多い、温かい(死亡時に発熱していた)」です。この条件がそろうとご遺体は腐敗しやすい状態になります。夏場など、ご遺体を取り巻く気温が高いことも腐敗を助長します。 腐敗の抑制手段は「冷却」 腐敗を最小限に抑える手段が「冷却」です。冷却することによって、腐敗をもたらす中温菌が活動しづらい環境にすることができます。エンゼルケアにおける冷却は、葬儀社が対応するドライアイスや冷蔵庫冷却までのつなぎとして実施します。 実施するタイミングは、保清の後の着衣のときがよいでしょう。冷却物としては保冷剤やアイスパック、氷を使用します。それらがなければ、冷凍庫や冷蔵庫に入っており、身体にあてやすい平らな形状のもので代用します(腋窩部、鼠径部、前側頸部には円柱型やボトル型の形状のものも可)。 冷却効果が高いのは冷却物を直接皮膚にあてる方法ですが、ご家族が「冷たそう」と感じることもあります。そうした気持ちに配慮し、下着の上から冷却物をあてたり、和服など衣類によってはすべてを着付けた上からでもよいでしょう。 図1に冷却に使用する物品を、図2に冷却する部位を示します。 図1 冷却に使用する物品と冷却する部位 ご遺体や衣類が濡れることを避けるため、ビニール袋に入れて使用する 図2冷却する部位 通常の冷却 ❶胸部+❷腹部(腐敗が早く強く出ると予想される場合は、❶胸部+❷腹部+❸腋窩部+❹鼠径部+❺前側頸部を冷却する) ご家族への説明例 冷却を開始する際の声かけでは「お腹が膨らんだり、体液が鼻から出たり、臭いが強くなったりしないよう、お腹や胸に早めの冷却が大切です。これから行いますね」などと冷却の必要性を伝えます。 しかし、ご家族が「冷たそう」「寒そう」と話し、気が進まないようであれば、次のように説明します。 「さきほどお話したような変化が進んでしまうと、あとから元に戻すことができませんので、冷やすことはとても大事なんです」 それでも難色を示される場合、腐敗が進行することを理解されていないかもしれないと考え、「変化」ではなく「腐敗」という言葉を使って再度説明します。十分に説明したうえでも拒否される場合は無理には行いません。ご家族には、冷却を行っていないことを葬儀社の方に伝えていただくようにお話しします。 ワンポイントメモ綿詰めは必要ない?ご遺体の鼻や口、肛門などに綿を詰める行為はこれまで広く行われてきた行為の1つです。しかし、ここ数年の間に、綿は栓の役割を果たさないことがわかってきました。腐敗の進行で内圧が高まれば、綿で漏液や便漏れを阻むことはできません。鼻や口から漏液がある場合は、適宜拭います。肛門や膣には紙パッドや紙オムツをあてることがおすすめです。分泌物や便を含んだ綿の交換は難しいですが、紙パッドや紙オムツであれば交換も容易ですね。また、鼻や口への綿詰めは、家族がつらい印象をもつことが多いです。(なお、便漏れを防ぐために腹部を圧迫し、便を押し出す行為もおすすめできません。腐敗の進行とともに自己融解も始まり、内臓の脆弱化が急激に進んでいるため、圧迫により腸を損傷させる可能性があるためです。) 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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[3]身体の死後変化はエンゼルケアの必須知識!

死後のご遺体の変化に驚かれるご家族が少なくありません。ご家族にきちんと説明できるためにも、死後の身体変化に関する情報をしっかりと押さえておきましょう。また、どういった変化が生じるのか把握しておくことで、変化を最小限に抑える対処が可能ですし、さまざまな身体変化に遭遇しても冷静に対応することができます。 亡くなった高齢女性Aさんのご家族から困惑した声音で、担当だった看護師に電話がありました。 「おばあちゃんの口のまわりに灰色の輪がくっきりと浮き出てきたんです。不吉なことなんじゃないかって言う人もいて・・・・・・。一体、何なんでしょう、これ」 Aさんは黄疸が出ていたために、その死後変化として皮膚に変色が起こったのです。黄疸をもたらしているビリルビン色素の酸化亢進などによって時間とともに変色が起こります。毛根部が変色の生じやすい部位で、髪の生え際や眉、ひげ(あるいは口まわり、女性も口周囲にうぶ毛があるため)などに注意が必要です。 Aさんのご家族はそれを知らなかったため驚かれたのですね。看護師は異常事態ではないことを伝え、対処法などを次のように説明し安心していただきます。 「黄疸が出ていた方は、お口のまわりがくすんで輪のように見えることもあります。自然な変化ですから、ご心配はいりません。気になるようでしたら、その部分をファンデーションでカバーしていただいて問題ありません」 そして、必要に応じてファンデーションを使用したカバー方法なども説明します。 望ましいのは、黄疸のある肌は時間の経過とともに皮膚に変色が生じると思われることを、あらかじめエンゼルケアのときに説明できることです。さらに、最も望ましいのは、そのことを含めて死後変化のことなどが書いてある文書をお渡しすることです。文書については、連載の最終回でふれる予定ですので参考になさってください。 身体の死後変化の知識を得ておくことは、エンゼルケアを行ううえで必須です。亡くなった人のそれまでの身体の状態を把握している看護師は、例えば前出の黄疸の出ている方のように、変化についてのさまざまな配慮・対応が可能なためです。 知っておきたい身体の死後変化の特徴 では、ここで「身体の主な死後変化」を図1に示します。 図1 身体の主な死後変化 ( )内は、変化が始まる目安の時間を示す。変化の強度や速度には個人差がある。各項目の詳細については以下を参照。筋の硬直(死後硬直)(1時間~)筋弛緩後、下顎(1~3時間)、全身(3~6時間)へと硬直が進む。循環停止により酸素供給が停止することなどによる。死後半日から1日の間に硬直のピークを迎え、その後、解けはじめる。死の直前まで筋肉を使用していたり(急死)、高齢ではない場合などは硬直が強く表れる。体表面の乾燥(3時間~)循環停止によって内部から体表面への水分補給がなくなり、自力で保湿できなくなり乾燥する。特に外気にふれている頭部(その中でも口唇)は乾燥が急激に進む。表皮が失われている箇所や開放性の創部も乾燥しやすい。また、乾燥とともに皮膚の脆弱化も進む。水分量の多い乳児・小児は、成人よりも乾燥傾向が強い。顔の扁平化(直後~)重力の影響による。蒼白化(30分~)重力の影響を受け、比重の重い赤血球が沈下することで、皮膚の血色が失われる。全身の上面に生じるが、露出している顔面が特に目立つ。顔のうっ血(3時間~)急性の心疾患で亡くなった方に生じることが多い。腐敗(6時間~)恒常性の消失で細菌バランスが崩壊し、細菌群(中温菌)が異常繁殖することによって生じる。腹腔内からはじまり胸腔内、そして全身に広がる。身体の状態(水分が多い、栄養が多い、温かいなど)によって腐敗の進行度が変わる。体温低下(直後~)恒常性の消失で、気温の影響をまともに受ける。上下肢の末端部や外気にふれる顔面などから低下する。体幹部は下がりにくい。止血しづらくなる血液の凝固因子が大量に消費されることなどから、止血しづらい状態になる。黄疸の方の皮膚色の変化(24時間~)黄疸をもたらしている色素の酸化亢進などによって生じる。黄色→淡緑色→淡緑灰色に変化する。 さまざまな変化を図1で把握するとともに、全体的な変化の特徴として次の4点も押さえておくとよいでしょう。各タイミングでの判断に役立ちます。 ①死後の身体は「不可逆的に変化する」 図1に示した変化をはじめとして、死後変化のすべては不可逆的に進行します。つまり、変化する一方で、元の状態に戻ることはありません。生きているときのように、維持しよう、回復しようと身体は機能しません。 例えば、口唇は粘膜のため特に乾燥しやすい部分です。時間とともに乾燥が進み、表面が茶褐色に変色してしまったり、口唇全体の厚みが減ってしまったりし、それらが元の状態に戻ることはありません。ですから、早い段階で油分を塗布するなど、乾燥防止を行う必要があるのです。 ちなみに、葬儀社の方から看護師に対して「とにかく唇だけでも早めに油分を付けておいてほしい」と言われることがあります。葬儀社の方が担当する段には、すでに口唇の乾燥が極まってしまっていることがあるからのようです。 エンゼルメイクを含むエンゼルケアの時点で何をしておくべきなのかを判断し、実施することがポイントになってきます。 ②死後の身体変化は「予測しきれない面がある」 どんな死後変化がどの程度、どんな速さで起こるのか、エンゼルケアの時点ではその後を予測しきれない面があります。その大きな理由として、次の2点が挙げられます。 ・個体差を厳密には予測できない死後の身体変化は、死に至ったときの身体状態により個体差があります。例えば、体内の水分量が多く、さらに亡くなるまで高熱が続いていた場合は腐敗が早く強く出るかもしれないというようにおよその予想はできますが、厳密な予想はできません。 ・管理状況に左右されるご遺体は、身体の状態を一定に保つ機能は働いていないので、気温、湿度など身体を取り巻く環境の影響をまともに受けます。皆さんの手が離れた後、例えば暑い日などに適切な冷却がなされなければ急激に腐敗が進み、体液が漏れ出たりします。 身体の変化に困惑したご家族から問い合わせや相談の連絡があったなら、まず「お身体はいろいろな変化が出るのが自然のことです。異常事態ではないので心配はいりませんよ」と応対し、具体的な対応方法を説明するとよいでしょう。 ③死後の身体は「傷みやすい」 死後の身体変化が生じているイメージをつかんでほしいと思い、あえて「傷む」という表現を使います。 例えはあまりよくありませんが、釣ってきた魚を暖かい日に冷却もせず、ラップもかけずにテーブルの上に放置してしまうと、魚は急激に傷んでいきますね。人の身体も何もしなければ同じように傷んでいきます。 冷却や乾燥防止対策を行い、なるべく変化を抑えますが、抑えきれないケースも少なくありません。ただ現在は、亡くなった人との対面時には、衣類や花などでカバーされて目にふれないような配慮がされており、私たちは「傷む」という自然現象を忘れがちです。このことを含んでおいて、必要なときに「ご遺体は傷みやすいですよ」とご家族に説明します。 ④死後の身体は「重力の影響を受ける」 図1に示した「蒼白化」や「顔の扁平化」は重力に抗えなくなった結果、起こる変化です。他にも、身体の後面に開放性の創部(褥瘡など)がある場合は滲出液が漏れ出やすいので、あらかじめ対応をしておくといった判断ができます。 また、図1に示したように血液は止血しづらい状態になるため、鼻出血などがあると長く出続けることがあります。その場合は枕の高さを変えたり顔の向きを変えるなどし、重力の働く方向を変えることで、体外への出血量を減らせることがあります。 ご家族がご遺体を「起立させてほしい」と希望した例では、担当の看護師は便漏れなどがないように、重力の影響を考えながら希望に応じたとのことでした。 ワンポイントメモ臭気の話死後の早い段階で、気になる臭いが発生しやすい場所は、口腔内と瞼内です。 下顎が、早ければ死後1時間程度で硬くなるため、臭気防止のために口腔内だけは早めにケアを行います。マウスケア用のスポンジやガーゼなどで汚れを拭ったり、可能であれば歯磨きもします。瞼内のケアでは、眼脂に注意します。眼脂などの分泌物からも臭気発生の恐れがあるため、綿棒で拭うなど可能な範囲で除去しておきます。 腐敗による臭気もその後発生します。エンゼルケアの段階で行う臭気対策は、第4回で解説する冷却が有効です。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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[2]一方的に進めない! エンゼルケアでもコミュニケーションが重要

日ごろより、コミュニケーションに留意していることと思いますが、エンゼルケアでもご家族とのコミュニケーションがとても大切です。ケアする側からの一方的なケアになってしまう部分がないよう、適切な声かけや説明、相談を行いましょう。看取りの場では、ご家族の意向を最優先するという心構えが必要です。 これまでの「死後処置」を見直す 北は網走から南は奄美大島まで、全国各所にエンゼルケアの講演や研修会に伺いました。それで見えてきたことの1つは、長らく行われてきた「死後処置」の内容は全国的におおむね標準化されていたということ。実施の流れだけでなく、お顔用の、充実しているとは言い難い化粧品類がお菓子の缶などに入れてある、といったことまで多くの現場で一致しており、そのことに驚きました。 「こうするもの」と伝えられてきたこの死後処置を、看護師の皆さんは真摯にていねいに実践してきたことと思います。 しかし、ご家族の希望や意向をしっかり伺うようになり、それまでの実施には一方的な面があったことがわかってきました。 例えば、亡くなった方の口が開いている場合、これまでは当然閉じることがベストだと考えた対応が行われてきましたが・・・・・・。 あるケースではこんなやりとりがありました。 看護師「開いているお口ですが、いくつか閉じる方法がありますので、これからご説明します」ご家族(亡くなった男性の妻)「いえ、無理に閉じなくていいです。亡くなったときに口が開いていたなら、それが楽なのかもしれないから。もう、夫には微塵も頑張らせたくないんです」 亡くなった男性は白血病で何度目かの化学療法にトライしていました。闘病生活を支えてきたご家族だからこそ「これ以上はがんばらせたくない」と感じたのだと思います。 また、幅広の包帯を顎下にぐるりと回して頭頂部で結び、顎を引き上げて口を閉じる対応がなされた方のご家族は、そのときの思いをこう話しました。 「縛られて、苦しそうで、痛そうで、つらかったけれど、そうしなければいけないのかと思い、口に出せませんでした。それからずいぶん経ちますが、つらい記憶として今も残っています」 ケアする側がよかれと思って実施することでも、ご家族は希望しない場合があります。十分にコミュニケーションを取りながら、ご家族の希望や意向にできる範囲で対応することが大切です。 ご家族の希望に柔軟に対応するための留意点 さまざまなご家族の希望に柔軟に対応するためにも、コミュニケーションを取る際は以下の2つのことに留意します。 ①ご家族はご遺体を生きているときと同様に気遣うことが多い、予想を超える希望も少なくない、と含んでおく 死亡告知を受けており、頭では死亡したことを理解していても、ご家族はご遺体を生きているときと同様に気遣っていることが多いです。これは、さまざまなケースからわかってきました。 前出のケースのように、口が開いていたほうが楽かもしれないから閉じないでほしい、縛られて苦しそう、という思いもその例ですね。 他にも「痛み止めの坐薬を入れてほしい」と希望したり、顔に四角い白い布をかけるかどうかの問いに対して「夫はまだ心臓が止まっただけだから、亡くなった人みたいにしないで」と応えたり、冷却の説明に対して「冷たくて寒そう」と応えたケースもあります。 ある在宅での看取りの場面では、ご遺体を「一度起立させてほしい」との希望があり、担当の看護師がサポートして実現したこともあります。 ②ご家族の承諾は不可欠 第1回でもふれましたが、エンゼルケアの場面では、ご家族の承諾を得て進めることがポイントです。 また、ご家族に判断して承諾していただくためには、それをなぜ行うのか、どんなふうに行うのか、など実施内容についての適切な説明と提案をし、希望や意向を伺うことが必要です。 入浴についてのコミュニケーション例 では、具体的にどのようなコミュニケーションを行えばよいでしょうか。ここでは入浴を実施する場合を例にご説明します。 看護師「それでは、よろしかったら、これから○○さんにお風呂に入っていただきませんか? 介助する人数としても可能な状況ですので。お身体の今後の変化のことを配慮し、ぬるま湯でシャワー浴の形で。いかがでしょう?」 エンゼルメイクの入浴では、身体をあたため腐敗を助長する恐れがあるため湯船につかることは避け、ぬる湯によるシャワー浴が望ましいのです。 ご家族「えー!? お風呂はうれしいけれど。おじいちゃんは湯船につかるのが何よりも好きだったんです。最近ずっと湯船に入れていなかったんだから、最後くらい入れてあげたいわ。絶対、入れてあげたいです!」 この希望を受けて、あらためてご遺体の状況や気温から腐敗リスクを評価し、この後の葬儀社による冷却が始まる時間も合わせて検討し、次のように提案します。 看護師「それでは、短時間になりますが湯船に入っていただきましょう。そして、お風呂から出られたらすぐに胸とお腹を冷やしましょう。そうすれば、その後のお身体の変化をかなり抑えられると思います。いかがでしょうか?」 この提案に対し、ご家族が承諾したなら、入浴を実施してすぐに冷却を行います。ご家族が承諾せず、「ゆっくり湯船に入れてあげたい」と希望されたなら、腐敗現象による漏液など、つらい事態について理解されていないかもしれないと考え、あらためて説明し、承諾を得られるようにします。 ご家族への説明や提案は簡潔にわかりやすく ご家族は、エンゼルケアの場面について何もご存じではないことが多いのですが、死後の身体の変化のことなどから一つひとつ説明することは現実には時間的に限界があります。 そのため、エンゼルメイクを始める前に、 看護師「これから清拭や着替え、お顔のスキンケアやお顔色のカバーなどを始めたいと思います。ご質問や気になる点、また『こういうふうにしてほしい』といったご希望がありましたら、遠慮なく仰ってください。では、始めてよろしいでしょうか?」 というようにおおまかに説明し、承諾を得てから実施します。そして、ケアを行いながら可能な範囲でご家族への声かけと説明を行うとよいでしょう。 適宜簡略化しながら説明や提案を行うためにも、ご家族に渡す文書の作成がポイントとなります。文書を受け取ったご家族もたいへん安心されるのでおすすめします。文書の活用については連載の第8回で詳しくご紹介します。 ワンポイントメモ同席していただく際の声かけは「お願いします」がおすすめ声かけでは「ご家族に同席していただかなければエンゼルケアを行えない」という状況を伝える表現が必要です。例えば、次のような声かけがおすすめです。「これから、○○さんらしく身だしなみを整えたいと思いますので、(ご家族の)どなたかにご同席をお願いします(or どなたかに、付き添っていていただきたいです)」 ある緩和ケア病棟では、声かけを「ご一緒になさいませんか?」から「同室をお願いします」に変更したところ、ほぼ皆さんが同室されるようになったとのことです。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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[1]エンゼルケアの基本姿勢をキーワード化して共有しよう

人間の貴重な営みの1つである「看取り」。その場面の充実をめざして、ケアする立場の看護師などがお手伝いをする、それがエンゼルケアです。今回は、訪問看護ならではのエンゼルケアとは何かをご紹介するとともに、事業所としてぜひ取り組んでほしい基本姿勢の整理と共有について解説していきます。 その場の調整役・助言役としてのサポートも大切 高齢の男性Fさんのケース。ご家族は、Fさんを在宅で看取ると決めました。死に至るまでの身体の変化やその対処法、そしてもしもの時が訪れたときの流れなどについて、何度も深くうなずきながら説明を受け、落ち着いて介護をしている印象でした。 やがてその時が来て、訪問看護師の2人がエンゼルメイクを始めさせていただく声かけをしようとしたら、その家族らの姿がありません。家(一戸建て)の中を探し始めると、裏庭でFさんの長男と三男がつかみあいのけんかを始めており、Fさんと同居し介護を中心的に担っていた長女は台所の隅で糠床をかきまぜ始めていました。さらに、離れにいた大学生の孫は古いオーディオを押入れから持ち出し、大音量でレコードを聴きはじめます。そうこうしているうちに葬儀社の方がやってきて(二男があわててすぐに来てくれと電話していたことがのちに判明)、Fさんが横たわる隣室でトンテンカンと設えをし始めたのです。 この光景もFさんのご家族らしい看取りの一場面だとも言えます。 しかし、亡くなったその人と改めて対面したり、エンゼルメイクを行う様子を見たり、できる部分で手を出したりした記憶が、グリーフワークにおいて大きなプラスとなることを知っている看護職は、その場の一時的な調整役・助言役として声かけや行動をすることが重要になってきます。 葬儀社の方にはいったんお引き取りいただき、Fさんのご家族は看護師の声かけで手浴を行うなどじっくりエンゼルメイクの時を過ごしたとのことです。 エンゼルケアの「目的」や「キーワード」の共有が大切 エンゼルケアには次のような特徴があります。●最終決断はご家族が行う●ご家族の意向や希望の内容には幅がある例えばご遺体の冷却について、ご家族が腐敗の進行を理解したうえで冷却を拒否した場合には、それに従う方向で対応します。必要だからとケアする側が冷却を強行した場合、悪ければ訴訟という言葉が聞かれる事態となる可能性があります。 また、「(ご遺体を)一度立たせて(起立させて)ほしい」、「あと30分くらい点滴を入れたままにしておいてほしい」、「床ずれがどれくらいのものだったか、見せてほしい」など、ご家族の意向や希望は予想外の場合もあります。 エンゼルケアにはこのような特徴があるため、看護師にはその場で柔軟な対応が求められることが少なくありません。柔軟な対応がエンゼルケアの肝と言ってもよいのです。 ただ、対応する際に「これでいいだろうか」、「あとで私の判断を(同僚や上司から)批判されるのではないか」といった不安を覚えながらの対応になってしまうこともあるかもしれません。 そうならないように・・・・・・。まず、エンゼルケアの目的をはじめとして所属先の事業所におけるスタンスを確認し、基本姿勢をキーワード化して職場のみんなで共有します。 次に、現場で対応する看護師に全面的に判断を一任する、という方針にします。 そして、担当の訪問看護師は実践の際に共有しているキーワードを頭に浮かべながらどうするか判断します。みんなに支持してもらえる、という安心感とともに自信をもって対応ができることでしょう。 そこで、各事業所でエンゼルケアの目的を整理し、キーワードを見出して共有していただくことをおすすめします。私が代表を務めるエンゼルメイク研究会の考えを参考として次に記します。 エンゼルケアの目的:「亡くなった方のセルフケアの代理」 ご本人の代わりにエンゼルメイク(身だしなみの整え)を行う、ご本人の代わりに腐敗を抑える冷却を行う、と考えます。この発想に基づき、何をどの程度行うのか、その加減を判断しやすく、一緒に行うご家族に「○○さん、身体からにおいが出てしまうの、うれしくないでしょうからね。少し冷たいけれど冷却をしましょう」という自然な声かけが可能になると考えます。 キーワード:「その人らしく」 その人らしさは、家族の記憶の中にあります。ご家族は亡くなった人が元気に活躍していたころをイメージすることが多く、担当看護師はそのころの様子を知らないことが多いですね。 キーワード:「エンゼルメイクは看取りの手段」 お顔のみならず、爪切りや手浴などさまざまなエンゼルメイクの場面は、そのプロセスをご覧いただくだけでなく、ご家族が行うことで実感のある看取りの手段になります。可能な範囲でよいので行っていただきましょう。 キーワード:「ご家族の得心のために」 十分に納得する、気持ちがおさまる、といった意味で使われる「得心が行く」という言葉は、ご家族の希望に応じる際の理由としてフィットします。予想外の希望に添う対応をした際に「ご家族の得心につながると考え、希望どおりに実施」というふうに引き継ぎや記録ができます。 キーワード:「遺族ではなく家族」 生前から出会ってケアを行ってきた立場として、ご本人が亡くなった後も、ご家族はご家族に変わりなく、引き続き「ご家族」と呼ぶのが自然です。声かけの際にも役立つキーワードです。 ワンポイントメモこの連載では、エンゼルメイク、エンゼルケアを次の意味で使用しています。エンゼルメイク医療行為による侵襲や病状などによって失われた生前の面影を、可能な範囲で取り戻すための顔の造作を整える作業や保清を含んだ、「ケアの一環としての死化粧」である。また、グリーフケアの意味合いも併せもつ行為であり、最期の顔を大切なものと考えたうえで、その人らしい容貌・装いに整えるケア全般のことである。→外見・身だしなみの整えエンゼルケア患者さんが亡くなられて以降、看護師(あるいは他のケアの立場の人)の手から離れるまでの、エンゼルメイクを含むすべての死後ケアを指す。次の用語は、葬儀関係業者のサービスに関する用語です。他にもさまざまありますが、サービスの内容やおよその料金などを把握しておくと、ご家族から質問されたときに助言することもできますね。湯灌(納棺)サービス主に儀式として洗体や着付け、納棺などを行う。家族は同席可能。エンバーミング遺体の消毒や防腐処理、外見修復などを、日本遺体衛生保全協会の自主基準に則って、技術者が行う。家族は同席しない。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。 記事編集:株式会社照林社

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