A06心が震える精神看護

インタビュー

向き合い、選ぶ採用

採用や人材定着に課題感を持つ訪問看護ステーションが多い中、みのりでは問い合せから採用に至るのは20人に1人という割合だそうです。 どんな人材を求め、どういった意識付けをしているのか、引き続き、進さんと小瀬古さんにお伺いしていきます。 採用基準は? 進: みのりでは、組織の中でも自分の役割とは何かを見つけて、主体的に動いていってくれる方を採用したいと思っています。 採用基準としては、自分が正しい、利用者さんのために何かしてあげたいと押し付けるのではなく、自分としっかり向き合うことができる、向き合いたいと思っていることです。 みのりは土日祝日休み、有休消化率100%で給料もそこそこ、16~17時までの時短などもあり、子育て中の人も働きやすい仕組みなので、応募者は多いです。最近は小瀬古が書いた本(※注1)を読んで、みのりで働きたいと思ってくれている方もいますね。 そこからメールでやりとりし、電話やzoomなどで一次面接、同行訪問、最後に私との対面面接の流れです。 まず、メールの時点で「自分と向き合うこと、アウトプット、自己研鑽を求めます」とはっきり書くと、そこで半分くらいは辞退します。履歴書から、物事を選択した理由とその方の行動が一致しているかは厳しく見ていくようにしています。 結果的には、問い合わせから実際に採用になるまで、最近は20人に1人くらいの割合になっています。 小瀬古: よくある話で言うと、例えば新卒でA病院に入りました。1年くらいで辞めて、次はB病院の精神科で2年働きました。次はCという老人福祉施設に行って半年で辞めて、訪問看護として当ステーションに応募したとします。 それぞれ転職した理由を聞くと、「A病院はこういう形で学びになると思ったけど、管理が厳しくてすごく窮屈になってしまった」ともっともらしい理由は出てくるんです。 でも詳細を確認していくと、なんとなく就職先を選択している人が多く、中には人のせいや環境のせいにして転職を繰り返している人もいます。 ―新人の訪問看護師に必要なスキルなどはありますか? 進: 利用者さんのところに行くと1対1なので、最低限何が起こっているのかを言語化して、記録に書けないといけません。 特に若い頃はインプットばかりに偏りがちなので、経験したことを自分の言葉で整理して、アウトプットすることを大事にしています。アウトプットは本人の学びにはなるし、聞く側も自分がこういう状況だったらどうしようと、考えることになりますよね。 チームとしては、朝と夕に30分ずつミーティングの時間を設けていて、先輩やスタッフ同士で意見交換ができるようにしています。情報共有としての申し送りではなく、教育としての気づきや、視野を広げるのが目的です。 それだけでは時間が足りないこともあるので、会社で支給しているiPadで自分のもやもやとした話を社内SNSにアウトプットして、スタッフ全員が共有できるようにしています。 小瀬古: また精神科の訪問看護が初めてという方は、どうしても利用者さんに拒否されることがあります。その場合は拒否のつらさも共有しながら、利用者さんの背景などを一緒にチームで考えていきます。 「長時間の対応で気を遣っていたのかな?」「ベテランさんとの信頼関係に執着していたのかな?」と話していくと、その利用者さんの生きづらさが見えてきます。 この生きづらさに寄り添っていけるようになると、新人も受け入れてもらえますし、利用者さんも生きやすくなっていきます。 そこに精神科の技術があります。 ―最後に、知識や技術のアップデートをする方法や意識していることがあれば教えてください。 小瀬古: 看護師は疾患や看護の勉強をする人は多いですけど、コミュニケーションに関して勉強することは少ないのではないかと思います。もちろん利用者さんとのやりとりを後ほど振り返ることでの学びはありますが、それだけではなくスタッフ間のやりとりの中から勉強になることもあります。 例えば、管理職がスタッフにどう動機付けをして、どんな風に人が動いていくかも1つの学びです。日々の仕事やスタッフへの接し方でも、応用できるものがありますよね。 ささいなことも、自分だったら、相手だったら、上司だったら、部下だったらと立場を変えて想像することで、知識と経験が積み重なっていくと思います。 (※注1)『精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本 “横綱級”困難ケースにしないための技と型』小瀬古伸幸著、医学書院、2019年09月第1版 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。   採用と定着についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

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精神科訪問看護の醍醐味

病院から訪問看護ステーションに転職すると、利用者さんとの関わり方などに戸惑う方が多くいます。精神科の訪問看護の場合は、病院やほかの訪問看護と比較して、どのような違いがあるでしょうか。 みのりの進さんと小瀬古さんに、転職時の悩みや、精神科訪問看護の醍醐味について、お伺いしました。 病院から訪問看護へ転職の難しさ 進: 見えない精神機能や精神症状を可視化していくことや、「これが正解」ということがわからない難しさはあります。 中には緊迫した状況はありますが、導入からしっかりと関わっていくと、そのような状態に至る前に回避できると感じます。 私自身は精神の訪問看護を怖いと感じた経験もあります。 昔、病棟でのやり方をそのまま訪問看護に持ち込んだら、知らない間に利用者さんが「看護師に死ねと言われた」と周囲に話しまわっていたことがありました。 このときに、こちらのペースで思い込みのままやっていると、突然相手が思いがけないことをしてくる怖さを感じました。 これまでも病院でそれなりにやってこられたから、その経験を活かして、「バイタルを測って話をすればいいんでしょ」というように、あまり勉強してこない人もいましたが、知識や技術が少ないまま訪問をしていると、怖さや難しさなどを感じることがあると思います。 小瀬古: 自分も最初は利用者さんから訪問拒否ばかり受けて、難しさを感じていました。 新人の時には、注射の練習は何度もやりますけど、コミュニケーションの練習はしないですよね。なぜならコミュニケーションって普段から練習しなくても相手と意思疎通がとれれば問題ないわけで、看護をするために練習しようとならないわけですね。 しかし、自分の感覚だけで対話いくと、どんどんおかしな方向に向かっていくことを痛感しています。現場での積み重ねを試行錯誤しながら言語化して、根拠となる文献を紐解き、また現場で実践するといったサイクルで徐々に上達したと思います。 精神訪問看護の醍醐味 小瀬古: 訪問看護に来て、自分はもう病院には戻れないなと思ったのは、自分が地域でやればやるほど、利用者さんだけではなく、地域全体も変わっていくのを目の当たりにしたことでしょうか。 違う組織の人たちと仕事をすることも多くなり、自分が地域の役割の一端を担っているという認識が強くなっていきました。同時にその責任は大きいものと感じています。実際に行政機関や家族、利用者さんご本人から直接ご相談をいただくことも多いです。 自分たちの精神科訪問看護の意義や目的、具体的な実践が当事者や家族に伝わると、自ら「訪問看護を受けたい」という依頼も多くなります。 長くやればやるほど、地域での信頼も増していくので、地域の役割としての変化がしっかりと出てきます。それが自分の中ではとても大きいですね。 ―印象的な利用者さんは、いらっしゃいますか? 小瀬古: パーソナリティー障害の方に、「訪問看護を受けたことで、自分自身が変われた」と言ってもらえたことが印象に残っています。 当初「私を良くするのが医療者じゃないのか」と、利用者さんは言われたのですが、私はサポートの意味を山登りに例えてご説明しました。 「目的地まで連れていくことも、あなたの荷物を背負うことはできない。でも山頂まであなたと向き合い、一緒に考えて歩いていくことはできる」という内容です。 その後、「どのような自分で在りたいのか」「周りの人を振り回すような言動や自傷行為は、どのような状況や人との関わりで生じたのか」「そのとき本当はどうしたかったのか」など、対話していく中で、ご本人が少しずつ変化していくのが見えました。 私が当時の事業所を離れることになった時、ご本人が 「自分は当事者として今のままではダメだとわかってはいたけれども、どうすればいいかわからなかった。だけど訪問看護のケアを受け、当事者としてやれることがすごく見えてきた」 と話してくれました。また、 「自分の経験を活かし、ピアスタッフとして当事者を支える活動に参加したい」 と将来の希望も語ってくれて、自分が関わってよかったと思いましたね。 ―素敵なエピソードですね。 進さんは精神科訪問看護の醍醐味について、いかがでしょうか? 進: 精神科看護では利用者さんと向き合い、寄り添うことをしますが、そのなかでお互いに成長していくものだと思っています。 例えば、「貯金がなくなったから風俗で働く」と利用者さんが言ったとします。 その時に、最初から「風俗はダメ」と伝えるのではなく、「どうしてその選択をしたのか」ということを詳細にやりとりできるのが精神科訪問看護だと思うんです。 その方が考える「ありたい自分」を一緒に探して、どんなことができるか一緒に考える。そうすることで、利用者さんとの経験を通じて、看護師も成長するし、ご本人もどんどん元気になっていく。 利用者さん主体で、症状を持ちながらも考えて選択し、行動することをサポートする。そうした人生を歩んでいるところに向き合っていくと、その循環の中で看護師自身も成長できます。 それが精神科訪問看護の醍醐味ではないでしょうか。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。  

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精神看護の技術の磨き方

訪問看護ステーションみのりは、利用者さんへの向き合い方で、他の精神科訪問看護ステーションとは一線を画す存在として知られています。みのりの進さんと小瀬古さんに、具体的な精神科訪問看護の実践についてお伺いしました。   精神訪問看護における、専門家の役割 進: ステーションには看護師と作業療法士がいて、大きく業務内容が違うということはありませんが、持っているスキルが異なるため、強みは変わってくると思います。 作業療法士は日常生活の活動を通して、利用者さんの精神症状や、何がやりにくくなっているのかなどをアセスメントします。看護師は、医療的なデータなどもふまえながら、さらに精神症状の細かなアセスメントをします。 理論でいえば、オレムの「セルフケア理論」や「メンタルステータスイグザミネーション」という精神機能をアセスメントするものを活用しています。 ―精神科医との役割の違いはいかがですか? 進: 私個人の考えではありますが、簡単に言えば、医師は利用者さんとはコミュニケーションを取りながら、精神症状に合う薬を調整しています。一方、私たち訪問看護ステーションは、生活に直接的に関わるところで支援しています。どう生活を組み立てているのか、コミュニケーション技術を使いながら、行動までのつながりを意識して一緒に考えていきます。 ―生活を組み立てるについて、詳しく教えていただけますか。 進: 人間関係から家のこと、子どもの世話、お金のやりくり、買い物などさまざまな問題を一緒に解決していきます。 例えば、お金の使い方が荒く、生活もままならない場合、「それなら封筒を小分けにして管理する」だけではなく、なぜお金の管理ができないのかを明らかにします。幻聴で「〇〇を買え」と命令されているのか、どう病状が生活と関係しているのかアセスメントすることによって関わり方が変わってきます。 小瀬古: みのりでは、主体性を軸にした看護を大切にしています。ですから、看護計画も利用者さんと一緒に立てているんです。こちらが計画を立てて、紙を渡すだけでは意味がありません。 利用者さんが自分のことを知り、症状とつきあいながら生活を組みたてていく必要があります。看護計画をベースにケアをするわけですから、契約書と同じ意味をもつと考えています。 とはいうものの、本人と看護計画を立てるときには「言うは易し行うは難し」で、技術が必要です。 例えば、ゴミ屋敷に住んでいる利用者さんがいたとします。発達障害なのか、精神障害の影響なのかによって、ゴミ屋敷になったプロセスは変わってきます。 あるケースでは、「片付けましょう」と提案して一旦受け入れてもらい、片付けをしました。だけど、ゴミの量が膨大で処分するのに料金が発生してしまうとなったときに、「お前らが勝手に片付けをしたんだから払え!」と言われてしまったと聞いたことがあります。 なぜ、こういう結果になってしまったのかを推測すると、利用者さんの主体性を軸とした看護計画になっていない可能性があります。 訪問看護が誘導するようなアセスメントやアプローチが存在し、利用者さんとしては「勝手にやられた」という認識をもつことは理解できると思います。 対話を通して症状なのか、本人のこだわりなのか、ゴミ屋敷に至るまでどのようなプロセスがあったのかなど、きちんとキャッチしながら、本人と一緒に看護計画を立てることが大切です。 そして、そこに話す人の技術が必須になるとは感じます。 ショックからの立ち直り方 ―ゴミの件のように利用者さんとのトラブルになることもあるようですが、拒否された時はショックではないですか? 小瀬古: 拒否が続いた時には訪問看護師として向いていないのではないかと、何度も思いましたよ。そういうときに、進さんから言われていたのは「小瀬古さん(肩をポンポン叩く)、今日もラッキーやったな。こんな経験もあと5年くらい経ったらできへんよ」と。 当時は「何がラッキーや」と思いましたけど(笑)。私の場合は、これを機会として捉えて、今しかできない経験から学ぶことも多いだろうなと、思考の転換ができるようになりました。利用者さんに「お前なんやねん」と怒鳴られても、「自分に対して何か言ってくるというのは、つまり“言える関係性”ではあるんだ」と捉えられるようになったんです。 看護師として、利用者さんの苦しみがそこにあるはずだから、どう転換していくか、その巻き返しをどうするかを考えられるようになりました。 進: すべてを機会として活用することを、当ステーションでは働きかけています。だからといって、何をされてもいいということを言いたいわけではありません。不可抗力で女性スタッフが抱き付かれるなどのケースも実際ありますし、スタッフ自身が怖い思いや、悔しい思いをすることもあります。 その時に、看護師としての思いと、女性としての思いがあって苦しむこともあります。そこを一旦、自分の持っている役割のなかで、それぞれの立場の気持ちに分けて考えた上で、次の行動を決めてもらいます。 看護師として行くと決めるのか、怖さが勝るから行かないのか、いずれの選択であっても私は受け止めます。明らかに精神症状が悪化しているのであれば、複数名訪問もできますが、男性に変われば大丈夫という単純な話ではないですよね。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。   精神訪問看護についてもっと知りたい方は、こちらの特集をご覧ください。

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「管理しない」精神科看護とは?

一般の訪問看護ステーションでも精神科の利用者さんを受け入れることもありますが、対応に難渋するケースもあるかと思います。 今回は訪問看護ステーションみのりの進さんと小瀬古さんに、そもそも精神科訪問看護とはどんなものか、何をゴールと考えるべきなのか、お伺いしました。 精神科看護の考え方 進: 生活を成り立たせるための管理をすることが、精神科の看護だと考えている方もいるかもしれませんが、それでは支援がないと生活が成り立たなくなってしまいます。 みのりでは、支援がなくても利用者さんが生活を組み立てられるようになり、最終的には訪問看護を卒業することを目指します。 精神疾患は症状が目に見えるものばかりではないので、利用者さんご自身が自分の変化に気づくのが難しいです。 人との関係性や環境の変化により、視野の偏りが出てしまったり、今まで通りにしようとしているのに、なんだかうまくいかない、コントロールできないということが出てきます。 幻聴などの症状はなくならないかもしれないけど、それを含めてどうやって自分自身をコントロールしていくか、一緒に考えて行動をサポートしていくのが精神科看護ですね。 ―訪問看護ステーションみのりとして、どんなことを大切にされていますか? 進: みのりでは、利用者さんもスタッフもすべての人が自分らしく、共に成長できる関係を大切にしています。そのために、どんな自分でいたいのか、あり続けたいのかというところをまず共有するようにしています。 例えば、利用者さんから「自分はやさしくありたい」と言われたとします。 私は、利用者さんの精神症状が悪くなり、客観的にやさしいと思える行動が少なくなったとしても「あなたがやさしい人だと知っていますよ、今は症状が悪化していて余裕がなくなってしまっているだけですよね。あなたなりの対処ですよね」というメッセージを送るようにしています。 どのような状態になったとしても、利用者さんがあり続けたい姿を見続ける。そうすると、他の人の前では大暴れする利用者さんも、「進さんの前ではちゃんとしよう」と思うようになるんです。 看護師は問題解決思考で、どうしても問題や悪いところをピックアップしてしまう傾向はあります。しかし、問題ばかりに着目してしまうと、その人のありたい姿が見えなくなり、看護師自身も利用者さんを「困った人」と認識することがあります。 その「困った人」という認識に偏ると、相手を変えて問題解決しようという思いが強くなり、説教くさくなったり、相手を変えるための管理行動が増えたりして、信頼関係が築けない状況が続くと考えます。 ―精神訪問看護では卒業を目指すということでしたが、導入からの流れはどのような形ですか? 進: 訪問看護導入の時期は、利用者さんが自分自身の症状や感情に振り回されてしまう傾向があります。 つまり利用者さん自身も、どのようなことが起こっているのか、それがなぜ生活に影響しているのか、なぜ行動がうまくいかないのかなど、わかっていないことが多いです。 中には、日々をなんとか乗り越え生きている人や、時間やお金に追われているような生活を送る方もいます。 ですので、初めの関わりとしては、そういった自分を知る、客観視するというアプローチが必要です。そこに病状や特性、捉え方の偏りがあったりすると、その思いに引っ張られて客観視しにくく明らかにできないので、どう取り扱うのかを一緒に試行錯誤していくイメージです。 このような訪問看護を展開すると、卒業間近には、「今月はこういう予定があるから、早めに準備しておこう」「ここまでは頑張れるけど、ほかのところで手を抜こう」などと生活を組み立てることができるようになります。 ―卒業が近づいてくると、訪問の頻度にも変化はありますか? 進: 訪問する頻度はそれぞれですが、週1~3回の方が多いです。セルフコントロールができるようになってきて訪問看護の卒業が近くなると、2週間に1回から月に1回くらいの頻度になります。 卒業するまでには2~5年くらいはかかりますけど、大阪のステーションは今年で9年目なので(2020年11月時点)、卒業される利用者さんも多くいます。 薬に頼らず回復する対処を考える、WRAPとは ―お二人はWRAP(元気回復行動プラン)のファシリテーターという資格をお持ちと伺いました。どのように活用されているのでしょうか? 小瀬古: WRAPは精神障害を持つ人たちによって作られた、自分で作る自分のための回復プランです。 「自分の取扱説明書」とも言われていますが、どんなときにどんなことを考えたらいいのか、いわゆる説明書というものには状態とそのときの対処が載っていますよね。それと同じようなことをやるんです。 例えば、「昨日は疲れてお風呂に入らなかったんだ」という話が利用者さんからあったとします。 ついつい「お風呂に入らないのは不潔になるので入りましょう」と促したくはなるのですが、あえて、「お風呂に入らないという対処なのかもしれない」「いつもの入浴をしないというのは早期のサインかもしれない」という視点が必要です。 具体的には、前者であれば疲れがピークなのでシャワーだけにしているのか、2日に一回の入浴にしているのかなど、意識的な行動なのかどうかということがポイントになります。後者であれば入浴する気力もなく、気づいたら入浴していないというサインとして捉えることが出来ます。 普段何気なくやっていることに注目して、利用者さんと共有することが対処にもつながるし、早期サインの共有にもなるということです。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。

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