A20MBA対談

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訪問看護業界が次のステージへ進むために

この対談では、訪問看護ステーションの経営課題、改善点についてお話しいただいています。テーマにしたのは、新幹線清掃の仕事ぶりが『7分間の奇跡』と注目された、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下「テッセイ」という)の業務改善内容です(※1)。まったく異なる業種ですが、そこには学ぶべき多くのヒントがありました。 奇跡的な業務改善を成し遂げたテッセイをテーマに行ってきた対談も最終回となります。今回は、企業経営で最も重要となる人材について、そして今後訪問看護事業が拡大していくために必要な改善点について、テッセイの改革から学ぶべきポイントをお話しいただきました。 会社が求める人材を採用し、育てるためには 大河原: 当社に限らず、業界全体で人材確保は大きな課題です。現状では、看護師の就業先は病院が大多数で、当社に限らず業界全体として訪問看護師が不足しています。 面接に行けば合格が当たり前。採用面接は勤務条件などの要望が合うかどうかの確認のみで終わってしまいがちです。そのせいか、採用してもすぐに辞めるとか、採用した人が向いてなかったというケースもあります。 芳賀: 社員の育成や教育は企業経営で一番の要になりますね。まずは、求めている人材をどう採用していくか考えていく必要があります。 教育についても、今の訪問看護師さんはスキルの種類もレベルもバラバラだと思いますので研修内容が大変ですね。 大河原: 教育について、なかなか業界のスタンダードがないのが現状です。 当社ではOJTのほかに、eラーニングを活用しスキルや職種に合わせた教育を実施しています。ステーションの所長については毎週、会議と研修をセットで実施していますが、管理職用のカリキュラムはまだできおらず、不十分だと感じています。 採用や教育について、改善に向けての事例などがあったら教えていただけますか? 芳賀: 私は採用も教育も、本人に考えてもらうことがすごく重要だと思っています。 採用であれば、訪問看護師が遭遇するような場面をケースにして、「あなただったら、どうしますか?」「なぜそのようにすると考えましたか?」と質問するのは効果的です。その人がどのような視点で判断をしているかがわかると思います。また、それを理論的に説明できることが重要で、「前の職場でそうしていたから」というような答えだと、自分で考えない人だということが予測できます。 これは看護師だけではなく、理学療法士や作業療法士でも同じです。企業や介護の分野ではこうした方法を取り入れているところがありますね。 大河原: なるほど。当社であれば、理念である利用者さんの療養生活を支えるという視点を持っているかいないかを、採用時に確認するのは非常に重要だなと感じました。 【テッセイの改革】 テッセイは人材こそが企業の命であると考え、社員採用にはかなり力を入れています。社員比率を増やすことでスタッフに働く意欲が芽生え、仕事のクオリティが上がり、お客様満足度もアップしたのです。 1年以上のパート経験者は誰でも社員採用試験を受けられますが、全受験者に筆記試験と個人面接が行われます。面接では、「会社の目指す目標に対して、自分はどう考え行動しているか」「現在の職場の課題は何か、その解決方法をどう考えるか」といった質問を行い、改善に向けて努力を続けてくれる人材を発掘し育てることを重視しています。 大河原: 看護師は仕事がすぐに見つかるため、転職も多いです。そのせいか会社への帰属意識が低く、経営理念も気にしない人が多い業界です。 当社では、経営層と現場スタッフが同じ目標を目指して進んでいくために、私の想いや理念を口が酸っぱくなるほど伝えていますが、中には理解しないで退職してしまう人もいます。 経営層とスタッフが同じ理念のもと、より良いサービスを提供できるようになるには、どのような教育が必要でしょうか。 芳賀: リカバリーさんであれば、利用者さんの生活を支えるというミッションについて、自分がするべきことは何なのかを徹底的に自ら考えてもらうことにつきるのかなと思います。 言葉で理念を伝えられても、それを自分ごとに置き換えて考えられない人もいると思うので、自分の具体的な行動に結びつけて考える機会を与えることが必要です。 大河原: 会社の考えや理念を、経営側から一方的に発信するだけではなく、社員からも理念についての考えを発信してもらうことが重要なのですね。そうすることによって、この会社で働くことの意義を理解し、帰属意識も生まれてくる。 会社の理念を覚えるとか、理解するとか、一緒に考えるとか、この業界にはそうした習慣がないので、まずはそこから改善していかなければならないですね。 芳賀: 理念が本当の意味で浸透すれば、それがいろいろな形で表れてくると思います。前回お話しした自分を褒めるとか、ほかの人を褒めるというのも、「看護の技術があがった」とかではなくて、「こんなことで利用者さんの大きな生活の支えになった」というように、褒め方にも理念が表れるようになることが理想だと思います。 今回の対談を終えて 大河原: 私は本格的に経営を勉強したことはありません。どうしたら医療従事者が働きやすくなるか、利用者さんが相談しやすくなるかを考えた結果、あえて独自の方針で経営してきました。本社での事務作業の一括管理、経費や問題点も含めた業務の見える化など、さまざまな試みを行っています。 ですので、お話をうかがって、今実践していることが間違っていなかったと感じてホッとしています。 トップダウンとボトムアップという意味でも、従業員や役職者の意見を聞く機会は作っています。ただしこれは、当社が120人ぐらいの規模だからできるのかもしれません。規模が変わってもコミュニケーションを継続していけるしくみをつくらなければいけないと感じました。 そして、テッセイが実践している改革で、最も感銘を受けたのが「働いている仲間のいいところを見つけて認めあう」ということです。 訪問看護業界には「褒め合う文化」が足りないということを改めて認識しました。これまでなかった文化なのでハードルは高いですが、当社もミーティングの中で褒め合う時間を作るなどして、取り組んでいきたいです。これが実践できれば、生きがいとか、モチベーションを持って仕事ができる環境になり、訪問看護師が増えない状況が少しは改善されるのではと思いました。 芳賀: 今回お話ししたことは、一般企業ができていて医療業界ができていないということではありません。それぞれの事業で模索しているのが現実で、さまざまな業界共通のチャレンジだと思っています。 訪問看護は、日本の医療制度で重要な役割を担っており、社会から求められていることは間違いありません。これから業界が発展していくためには、大手事業者も新規参入者も、違う分野からも経営を学ぶ姿勢が必要だと思います。 大河原社長にはその先導役として、これからもぜひ頑張っていただきたいです。 大河原: 訪問看護は、まだまだこれからの業界です。うちは無理だなとか違うなと思わず、意識を変えて、成功事例を真似したり、新しいことにチャレンジしたりするべきだと思います。 私がいつも思っているのは、まず業界自体が拡大しないと、世の中における訪問看護の認知度があがらないということです。今回のような良い情報はどんどん共有し、訪問看護ステーションが増え、訪問看護師が増えるような流れになってほしいと強く思っています。 今回は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。 【テッセイの改革】 矢部氏は、テッセイがビジネス界で注目されている理由は、テッセイの「スタッフに対するおもてなしの考え方と実践の仕方」、そして「組織のマネジメント方法」だと言っています。これからの経営には、管理やコントロールだけで組織を動かすのではなく、テッセイのように「会社はスタッフの努力をいつも見ている」という姿勢を持ち、会社とスタッフが信頼関係を結ぶことが重要だと考えられているからです。 テッセイのやる気革命は、どの会社でも実現しうることです。それぞれの会社にふさわしい方法で、スタッフのやる気を引き起こすしくみを作っていくことで、会社とスタッフが共創する経営を実現するのです。 ** 名古屋商科大学大学院、NUCBビジネススクール 教授 芳賀 裕子   【略歴】 慶應義塾大学卒。慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)。筑波大学大学院ビジネス科学研究科後期博士課程修了。博士(経営学・筑波大学)。プライスウォーターハウスコンサルタント(株)にてコンサルティングに従事。その後コンサルティング事務所を立ち上げ、大手企業のヘルスケア分野への新規参入コンサルティングを30年近く実施。医療、健康関連、介護、ヘルスケア業界を得意とし、ベンチャー企業取締役、ヘルスケア事業会社の執行役員なども歴任。 Recovery International株式会社 代表取締役社長/看護師 大河原 峻  【略歴】 看護師として9年間臨床に携わった後に、オーストラリアで働くが現実と理想のギャップに看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。設立7年で11事業所を運営し(2020年12月時点)、事務効率化や働き方改革など、既存のやり方にとらわれない独自の経営を進める。  【参考書籍】 ※1 著・矢部輝夫、まんが・久間月慧太郎(2017)『まんが ハーバードが絶賛した 新幹線清掃チームのやる気革命』、宝島社

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訪問看護業界にはない「褒める文化」がカギとなる

この対談では、訪問看護ステーションの経営課題、改善点についてお話しいただいています。テーマにしたのは、新幹線清掃の仕事ぶりが『7分間の奇跡』と注目された、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下「テッセイ」という)の業務改善内容です(※1)。まったく異なる業種ですが、そこには学ぶべき多くのヒントがありました。 テッセイでは、お互いの良いところを見つけて仲間を認め合い、褒める「エンジェルリポート」の存在が、スタッフのモチベーションを高め、現場力を高める大きな要因となっています。第4回の対談では、どうしたら医療業界にはない「褒める文化」を取り入れることができるのか、お話しいただきました。 褒めることも褒められることも苦手な看護師 大河原: 我々医療職は、服薬のミス、転倒防止、災時の対応など、まずリスクを排除することから考えます。 これは仕事をする上で大事なことですし、学校の勉強でも病院でもこのリスクの洗い出しは徹底的にやり、同僚同士でもチェックします。 その結果、同僚の行動に対してもミスはなかったか、もっと利用者さんのためにできることはなかったか、という視点で見てしまいがちです。テッセイのような良かったことを探して褒めるという文化はまったくないのが実情です。また、個人を表彰するような制度も稀です。 テッセイのようなスタッフ同士が認め合う文化を作るにはどうしたらよいでしょうか。 芳賀: リスクマネジメントの視点が優先して、人の悪い所を見つけることが習慣になっているのですね。 清掃は人に見られる仕事ではありませんので、改革前のテッセイも従業員が適切に評価されていませんでした。しかし、自分が働いている姿を仲間が見てくれる、そしてきちんと評価してもらえるとわかったことで、従業員のモチベーションが上がっていきました。 訪問看護の場合は基本1人行動ですから、自分の仕事ぶりを見てもらえないし、同僚の良いところも探しづらいので、まずは自分自身を褒めていくことから始めてはどうでしょうか。 大河原: 一緒に訪問していなくてもカルテや記録ノートを読むことで、ある程度利用者さんの声を知ることはできますが、自分が褒められたことを知らせるという習慣はありませんね。 自分で自分を褒める文化ができれば、仕事にもっと喜びを感じてもらえそうなのですが…。難しい部分もあると思います。真面目だからだとは思いますが、看護師は自己評価がとても低い人が多いので。 芳賀: 確かに自分で自分のことを褒めるというのは、看護師だけではなく普通の人もあまり慣れていないと思います。 よく会社の研修などでやるのは、グループごとの研修で、今日の研修中に右の隣の人の良かったことを必ず1つ言わせるということ。自分の良かったことだと言うのを躊躇してしまうかもしれませんが、隣の人の良いことだったら必死で探しますよね。 最初は人を褒めることや、人を評価するということに慣れていない人が多いので、研修で言葉にして言わせるという方法は効果があると思います。まずは、こうした地道な訓練から始めてみてください。 褒め合う文化の利点は、気づきです。テッセイの社員たちも、自分たちのやっていることが付加価値になっているとは思っていませんでした。訪問看護でも、人から褒められることで、普段当たり前に行っていたことが実は利用者さんの付加価値となっていたことに改めて気づく場合があります。 それに気づくことは経営的にも成果になると思います。褒められた行為こそ、その組織が重視する価値だからです。 リカバリーでは、現場の声を拾うしくみはできあがっているようなので、後はお互いに褒めるしくみを考えてはいかがでしょうか。 大河原: 経営的に見れば、従業員の満足度が上がることで、ひいては退職率が下がる、などの結果につながる可能性もあるということですね。 私自身、テッセイの「働いている仲間のいいところを見つけて認めあう」という行為が、この本で最も感銘を受けた個所であり、今後の課題だと思いました。ぜひ、見習いたいと思います。 【テッセイの改革】 一般的にサービス業は、99%成功しても1%失敗すると全部ダメになるという「100-1=ゼロの法則」で考えます。しかしテッセイは、1人のミスを恐れる以上に残り99人の地道な努力を大事にし、そこに光を当てようとしました。その具体的な取り組みが「エンジェルリポート」です。主任の中から30人をエンジェルリポーターに任命し、スタッフのよいところをみつけて報告してもらい、会社はそれを全従業員に知らせます。さらには褒められた人、褒めた人の両方を表彰する制度も設定しました。 このような取り組みによって「褒め合う習慣、認め合う文化」、従業員の共有と共感を作り出したのです。 訪問看護師の仕事に対する意識を変えるには 大河原: 訪問看護は、病院と違い業務が多岐に渡ります。事務的な作業も利用者さんの生活を支えるためには必要なものですが、看護師のなかには医療処置以外の仕事を「雑用」と考える人もいます。 このような訪問看護師の仕事に対する意識を変える方法について、アドバイスいただけますか? 芳賀: ほかの業界でも同じような悩みを抱えています。よく理念を書いたカードを社員に持たせたりしますが、理念の文面を覚えるということではなく、その理念を達成するために自分がどうすることが必要なのか、自分のどのような行動で理念を達成できるのか、自分自身で考えてもらうことが重要です。 企業でよく行うのは、顧客への価値最大化のために自分の仕事で何ができるのかを、他部門も交えてグループで検証することです。そうすると、自分の業務の前後の工程も知ることができ、お互いの仕事がどうつながっているのか理解しないと顧客の価値創造は無理だと気がつくのです。 例えば訪問看護なら、利用者さんが請求書の内容が理解できないとき、それをわかりやすく説明することもサービスの一環ですよね。医療的な技術だけでは完結しないわけです。 看護師だけではなく、本社の経理や総務、すべての社員の行動が何らかの形で理念に関係しています。社内の連携だとか、他部門の仕事を知ることで、利用者さんの生活を支えるということは、幅広い側面があると気づくと思います。 大河原: 訪問看護ステーションの場合、小規模だと事務作業もすべて看護師がやることが当たり前になっていますが、その目的意識を理解しないままやっているのがいけないということですね。 ご指摘のように、利用者さんの生活を支えるためとか、利用者さんのニーズに応えるためということをきちんと伝えるのは重要だと感じました。 芳賀: リカバリーさんの理念である「療養生活を支える」ということを、社員に徹底していくことに尽きると思います。すべてが理念を達成させるための使命だと理解できると、仕事への意識変革が起きるのではないでしょうか。 【テッセイの改革】 エンジェルリポートを開始した当初は、集まりは良くありませんでした。コツコツやるのは仕事だから当たり前で、なぜそれを褒める必要があるのかという考えがあったからです。 テッセイでは、「当たり前のことこそきちんと褒める」という考え方を浸透させることで、現場で地道に働く人たちに目的意識を持たせることに成功しました。従業員が自分たちの仕事の価値に気づいたことでリポートの数が増え、スタッフ間でお互いに褒め合い、サポートし合う習慣を身につけていったのです。その結果、スタッフ同士の信頼関係も強固になっていきました。 ** 名古屋商科大学大学院、NUCBビジネススクール 教授 芳賀 裕子  【略歴】 慶應義塾大学卒。慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)。筑波大学大学院ビジネス科学研究科後期博士課程修了。博士(経営学・筑波大学)。プライスウォーターハウスコンサルタント(株)にてコンサルティングに従事。その後コンサルティング事務所を立ち上げ、大手企業のヘルスケア分野への新規参入コンサルティングを30年近く実施。医療、健康関連、介護、ヘルスケア業界を得意とし、ベンチャー企業取締役、ヘルスケア事業会社の執行役員なども歴任。 Recovery International株式会社 代表取締役社長/看護師 大河原 峻  【略歴】 看護師として9年間臨床に携わった後に、オーストラリアで働くが現実と理想のギャップに看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。設立7年で11事業所を運営し(2020年12月時点)、事務効率化や働き方改革など、既存のやり方にとらわれない独自の経営を進める。 【参考書籍】 ※1 著・矢部輝夫、まんが・久間月慧太郎(2017)『まんが ハーバードが絶賛した 新幹線清掃チームのやる気革命』、宝島社

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信頼関係を築く本物のコミュニケーション

この対談では、訪問看護ステーションの経営課題、改善点についてお話しいただいています。テーマにしたのは、新幹線清掃の仕事ぶりが『7分間の奇跡』と注目された、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下「テッセイ」という)の業務改善内容です(※1)。まったく異なる業種ですが、そこには学ぶべき多くのヒントがありました。 テッセイの改革は、揺るぎないチームワークとボトムアップを引き出すしくみが、成功のポイントになっています。組織内のタテ・ヨコのコミュニケーションが円滑に行われることで、社員のやる気を高め、サービスの向上にもつながっています。第3回の対談では、訪問看護事業におけるコミュニケーションの課題についてお話いただきました。 報告・連絡以外のコミュニケーションの必要性 大河原: 訪問看護ステーションは本社と離れている所に点在しているため、各ステーションの従業員と頻繁に会うことができません。 当社は、訪問看護ステーションとしてはコミュニケ-ションを重視している方だと思います。管理者とは週に1回のウェブミーティングで情報を共有しており、現場からの意見は管理者を経由して集めるしくみになっています。そのため直接声を聞く機会として、地方の従業員とはウェブで面談をし、都内に関しては行けるところは私が回るようにしています。 しかし他のステーションの話を聞くと、現場のことは管理者に任せっきりで週に1回も話さないとか、話すときには経営側が一方的に話すという声も聞いています。経営側の現場のことはわからないというスタンスが、管理者の疎外感を生み、衝突してしまうのかもしれません。 私も外部から相談を受けることがあるのですが、経営側と中間管理職である管理者が意思疎通をうまく図るためには、どうすればよいでしょうか。 芳賀: 経営側と管理者がお互いあまり理解できていないから、衝突が起こるということですかね。 おそらく今は、経営側と現場の管理者のコミュニケーションは会議という形でやっていて、現場からの報告と経営側からのお知らせで終わっているのだと思います。これは他の業界でもあることですが、会議以外で、本当に言いたいことが言い合えるコミュニケーションの時間を作る必要があるのではないでしょうか。 話をするときには、一緒に考える、寄り添うという姿勢が大切です。管理者の課題に対して、どうしてそうなったのかを聞き、改善策について経営側も管理者と一緒に考える。解決策は他の管理者とも共有する。こうした過程を共有していくことが重要です。 大河原: 当社の会議では、経営側が一方的に話をするのではなく、管理者からの報告をしっかり聞くよう心がけてはいます。ただ、事業所ごとで抱えている問題や管理者の性格も違うため、経営側もそれぞれに合わせた柔軟な対応が求められるとは感じていました。 芳賀: 個別にどうしたらいいか考えるのは、今のリカバリーさんの規模だからできるのだと思います。もっと規模が大きくなると今の対応では難しくなるので、変えていかなければいけない。 例えばFCで展開している飲食業などは、エリアマネージャーがエリア内の店舗を頻繁に訪問して、店長さんたちの話を細かく聞くような方法を取っています。訪問看護ステーションはそこまで数は多くないと思いますが、経営との間に個別のヒアリングができるエリアの統括を置くとか、規模によって最適なやり方を考える必要はありますね。 【テッセイの改革】 テッセイでは現場の教育を専門に行うインストラクターを増員し、優秀なリーダーを育てていきました。現場の課題をよく知り、解決策をスタッフに実践でき、成功過程を一緒に喜べるリーダーの存在が、スタッフのやる気を引き出すことにつながっています。リーダーや会社側が「現場をいつも見ています」という姿勢を示すことが重要です。 ボトムアップを行うために管理者の意識改革を 大河原: 現在の訪問看護ステーションは、病院で働いていた看護師が管理職になることが多いです。訪問看護ステーションでは管理者が大きな権限を持っていますが、病院は完全なトップダウン体制で、上からの指示で仕事をすることが多いため、さまざまな判断を行った経験がありません。 ボトムアップを進めていくためにも、自律的に判断できる管理者を育てるヒントがあれば教えていただきたいと思います。 芳賀: テッセイはトップダウンとボトムアップの両方がバランスよく機能することで改革を実現しました。 そのためにテッセイが大事にした基準の1つが『規律の中の自由』です。活動資金を与えるなど、自分たちで自由に決められる枠を与えることからスタートしたのですね。 訪問看護ステーションの場合は、予算的な自由と利用者さんへの対応の自由、2つの自由があると思います。例えば予算については、リカバリーさんではどうされていますか。 大河原: 当社では、事業所の予算についての判断は管理者に任せています。基本的には、「もう一人のあたたかい家族」という会社の理念に基づいて、事業所や利用者さんためになることに使うようにと伝えています。 ただ、管理者だけで決めるのが難しい場合は、本社が一緒に決めるような方法を取っています。 他のステーションでは、管理者に予算や権限をどこまで与えるか決まっていない所も多くあると思います。私は経営と現場の両方をやっているのでわかる所もあるのですが、現場が必要というものが経営的な目線で見ると必要ないということもあり、その価値観の違いが管理者の悩みや不満につながっているという話はよく聞きます。 芳賀: 予算の決定権を与えられた時、管理者には「利用者さんへの付加価値につながっているか」と「経営にどのような影響を及ぼすのか」の2つのバランスを考える意識が必要だと思います。事業所単位の収支のような狭い視点ではなく、会社の理念から考えたときにどうなのか、という視点ですね。 そのためには理念を理解してもらうと同時に、意識をもたせるしくみを作ることも必要です。 私が理事を務めている法人では、社会福祉法人・医療法人を含めた全グループで、医師や看護師などすべてのスタッフからコスト改善の提案を本社にあげてもらっています。そして良い提案は、全事業所で共有し、表彰もしています。もちろん、提案はサービスの質を下げることがないコスト改善です。 コスト改善は、必ずしも利用者さんの付加価値を下げることばかりではないと思います。例えば、ケアに使う物を利用者さんのお宅にある物で代用したら、付加価値は下がらずに利用者さんの経済的負担を軽減できたとか、そうしたケースもありました。 費用の適正化と利用者さんへの付加価値の両方を達成する、ということを自分たちで考え、提案する機会を与えることで、より意識も高まってくると思います。 大河原: 自分たちで考えさせることで、コストや経営的な意識が高まるということですね。 管理職に予算とそれに合わせた権限を与えることの重要性を改めて感じました。そして、理念という判断基準が明確になれば、どの管理者も迷うことが少なくなる。ここでも理念の必要性を実感しました。 【テッセイの改革】 テッセイでは、良いサービスを提供するためには、会社の明確な「トップダウン」とともに、現場スタッフからの「ボトムアップ」が同時に必要であると考えています。 各チームが1日1回以上、1分以上をルールにスタッフ同士気軽に話し合う「スモールミーティング」、改善したいテーマごとにチームを作って話し合う「みんなのプロジェクト」などを行い、現場から出た改善策や新しいアイディアを確実に実行しています。会社側が現場の課題や改善策を一番理解しているスタッフの提案を否定せず、実践させることで、スタッフから自然と意見が出てくる環境が整ったのです。 ** 名古屋商科大学大学院、NUCBビジネススクール 教授 芳賀 裕子   【略歴】 慶應義塾大学卒。慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)。筑波大学大学院ビジネス科学研究科後期博士課程修了。博士(経営学・筑波大学)。プライスウォーターハウスコンサルタント(株)にてコンサルティングに従事。その後コンサルティング事務所を立ち上げ、大手企業のヘルスケア分野への新規参入コンサルティングを30年近く実施。医療、健康関連、介護、ヘルスケア業界を得意とし、ベンチャー企業取締役、ヘルスケア事業会社の執行役員なども歴任。 Recovery International株式会社 代表取締役社長/看護師 大河原 峻   【略歴】 看護師として9年間臨床に携わった後に、オーストラリアで働くが現実と理想のギャップに看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。設立7年で11事業所を運営し(2020年12月時点)、事務効率化や働き方改革など、既存のやり方にとらわれない独自の経営を進める。   【参考書籍】 ※1 著・矢部輝夫、まんが・久間月慧太郎(2017)『まんが ハーバードが絶賛した 新幹線清掃チームのやる気革命』、宝島社

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チームで共有すべき訪問看護の提供価値とは

この対談では、訪問看護ステーションの経営課題、改善点についてお話しいただいています。テーマにしたのは、新幹線清掃の仕事ぶりが『7分間の奇跡』と注目された、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下「テッセイ」という)の業務改善内容です(※1)。まったく異なる業種ですが、そこには学ぶべき多くのヒントがありました。 テッセイは、まず現場スタッフ自ら提供する商品と価値について考え、答えを出すことで、自分たちの仕事に新しい価値観を見出すことができました。新しい価値観を皆で共有できたことが、改革の大きな原動力になっています。第2回の対談では、病院とは異なる訪問看護事業の価値についてお話しいただきました。 自分たちの提供価値を定める意義 大河原: 訪問看護ステーションを見て感じるのは、看護師たちの価値観の違いに起因するいざこざが多いということです。私も経験がありますが、病院の看護師は先輩に言われたことに従わなければならない状況が多くあります。訪問看護ステーションでも、先輩看護師や管理職看護師が自分のやり方を押しつけている状況があると思います。 訪問看護は、1人の利用者さんをチームで看ています。本来は、チーム全員が同じ価値をもって連携することが理想だと思いますが、看護師以外にリハビリ職もいるため、職種によって看る観点が違ったり、看護師同士でもキャリアが違ったりして、意見が違ってしまうことがあります。 カンファレンスで担当者が集まる機会はあるのですが、みなさん忙しいので、タイムリーに行われているかというと難しいのが実情です。ウェブ会議が浸透するとよいのですが、医療や介護の領域はITリテラシーが意外と高くないのです。 当社でも、みんなが同じ1つの価値を持っているというレベルにはまだ達していないと思います。 芳賀: 提供する価値が何なのか、みんなが共通の認識を持っていれば、職種は違ってもそれを判断基準に考えることができると思います。 以前のテッセイの従業員は、新幹線の車内を掃除することが仕事だと思っていました。しかし業務改善後のテッセイは、従業員に「あなたの仕事はなんですか」と尋ねると、「お客様の旅の思い出づくり」と答えるようになりました。 これと似た話があります。墓石に名前を彫っている職人に「あなたの仕事はなんですか」と尋ねると、ある職人は「名前を彫ることだ」と言い、別の職人は「この人のお墓をつくっている」と答えました。 この2つのエピソードは、自分の仕事がどういう価値を生み出しているのかを、その人がどう認識しているかで、最終的にはお客様に提供する価値が大きく変わってしまうことを表わしています。 つまり、一人ひとりの考え方が社内でバラバラだと提供価値も変わってしまい、会社が本来目指している目的が達成できなくなるということです。 【テッセイの改革】 改革を行った矢部氏は、「新しいトータルサービスを目指す」という目標を掲げ、自分自身とスタッフたちに「私たちの商品は何なのか」と問い続けました。もちろんテッセイの仕事は、新幹線を快適に利用できるように車内を整えることです。では、なぜきれいな車内が必要なのでしょうか。それは新幹線の旅を楽しんでもらいたいからです。では、清掃員が「自分の仕事は清掃だけ」と考え、駅構内でお客様から道を尋ねられても無視したら、お客様は新幹線の旅を楽しめるでしょうか。 スタッフたちは、そのように考えていった結果、自分たちの商品(提供価値)が「お客様に旅のよい思い出を持ち帰ってもらうこと」であると気づいたのです。またこの新しい価値観を全員に理解してもらうために、新しい制服の導入、伝道師となる役職者の任命、新たな標語の設定など、スタッフの意識を変える改革を行っていきました。 関係者全員が同じ価値を共有することが理想 大河原: 当社は、それぞれがやりたい看護への想いを大事にしていますが、一つ強く言っていることがあります。それは「療養上の世話」を重視するということです。 一般的に看護師には、療養上の世話と診療の補助という二つの責務があります。病院は患者さんの病気を治す所なので、病院の看護師は診療の補助が重要な仕事だと思います。 しかし訪問看護は、療養上の世話だと思っています。なぜなら、在宅の方は病気を治したくて家にいるわけではなくて、家で生活したくて病気と向き合っているからです。 例えば、糖尿病をわずらっていて、自宅でお菓子やジュースを飲食していたらどうするか。病院なら禁止しますが、訪問看護の場合は、それが良くないとわかっていても完全に取り上げるのが利用者さんにとって一番良いとは限らないよね、というのが当社の考え方です。 リカバリーの場合、こうした価値観を『もう1人のあたたかい家族」という理念として掲げ、自分の家族だったらどう看るか、ということを医療職として考えることを大事にしています。 理念を浸透させる方法として、今は各事業所で毎日朝礼を行っています。その利用者さんが自分の家族だったらどう対応するか、理念に基づいた気づきを毎朝誰かが発信していくことで、療養上の世話という方向へみんなの意思を統一していくようにしています。 とはいえ、現在の理念にしたのは半年前なので、まだまだこれからですね。 ただ、訪問看護業界を見渡すと、価値観を示す理念を掲げている会社は多くありません。こうした点も訪問看護業界の課題といえます。 芳賀: 理念として、全社員に『もう1人のあたたかい家族」という考え方を示しているのは素晴らしいですね。また、朝礼でスタッフ自らメッセージを発信していく取り組みは、テッセイでも行なっています。理念や価値をみんなで共有していくプロセスとしては需要なことだと思います。 ただその理念は、大河原社長たち経営陣が作ったものだと思います。 テッセイの改革は、全員が同じ価値観を持つことができるようになって、初めて成果が出ました。しかも、最も大切な提供価値である「旅の思い出づくり」というコンセプトは、本社や社長が考えたのではありません。社員たちにものすごく議論をさせて、自分たちで考えさせました。 また、旅の思い出づくりは1社でできることではありません。そこで社員の要望で、車内販売の販売員や車掌などとも連携するために、他の会社や職種の人たちとも話し合いを重ねていきました。 在宅医療も同じですね。場合によっては組織も異なるさまざまな専門職の人がサービスを提供しますが、相手は1人の利用者さんです。だから、すべての関係者が同じ価値観を持っていたほうがよく、組織間の連携も欠かせません。 訪問看護ステーションでも、自分たちが提供する利用者さんへの価値とは何なのかを、社員の方々にとことん話し合ってもらってはいかがでしょうか。 ** 名古屋商科大学大学院、NUCBビジネススクール 教授 芳賀 裕子  【略歴】 慶應義塾大学卒。慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)。筑波大学大学院ビジネス科学研究科後期博士課程修了。博士(経営学・筑波大学)。プライスウォーターハウスコンサルタント(株)にてコンサルティングに従事。その後コンサルティング事務所を立ち上げ、大手企業のヘルスケア分野への新規参入コンサルティングを30年近く実施。医療、健康関連、介護、ヘルスケア業界を得意とし、ベンチャー企業取締役、ヘルスケア事業会社の執行役員なども歴任。 Recovery International株式会社 代表取締役社長/看護師 大河原 峻  【略歴】 看護師として9年間臨床に携わった後に、オーストラリアで働くが現実と理想のギャップに看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。設立7年で11事業所を運営し(2020年12月時点)、事務効率化や働き方改革など、既存のやり方にとらわれない独自の経営を進める。  【参考書籍】 ※1 著・矢部輝夫、まんが・久間月慧太郎(2017)『まんが ハーバードが絶賛した 新幹線清掃チームのやる気革命』、宝島社

インタビュー

テッセイ改革で訪問看護に化学反応を引き起こす

この対談では、訪問看護ステーションの経営課題、改善点についてお話しいただいています。テーマにしたのは、新幹線清掃の仕事ぶりが『7分間の奇跡』と注目された、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下「テッセイ」)の業務改善内容です(※1)。まったく異なる業種ですが、そこには学ぶべき多くのヒントがありました。 訪問看護事業は、医療の在宅化が進んだことで重要性が高まる一方で、経営が安定しない、スタッフの確保が難しいなど、多くの課題を抱えています。第1回の対談では、新幹線の清掃会社であるテッセイと訪問看護ステーションに共通する経営課題についてお話いただきました。 ビジネス界で注目されるテッセイと訪問看護の共通点 芳賀: テッセイはビジネス界では知られた存在です。アメリカのハーバード・ビジネス・スクールのMBA(経営学修士)でも教材として取り上げられており、私たち経営学者もよく参考にしています。 テッセイは、親会社であるJR東日本から新幹線の清掃業務を受託している、典型的な子会社です。お客様からの苦情や従業員のミスが多く、離職率も高い状態で、JR東日本グループのなかでも評判があまりよくない企業でした。 改革を行った矢部氏はテッセイの親会社であるJR東日本の上級管理職でした。最悪な状態の清掃会社を立て直すという使命を持ってテッセイに入り、そして見事に業務を立て直しました。 ただ、テッセイの仕事は難易度が高いもので、改善は簡単ではありませんでした。 新幹線の車内清掃は、新幹線が終着駅に着き再出発するまでの12分間で済ませる必要があります。しかもその12分にはお客様の乗降に必要な5分間も含まれているので、実質的には7分で全車両のシート・テーブル・床・トイレを清掃しなければなりません。 テッセイの清掃員たちの業務量は、ボーイングの大型飛行機1機分の清掃の半分の時間で、6機分清掃するのと同じといわれています。 そのような大変な業務でありながら、経営もサービスの質も、人の働き方も劇的に変えたことで、成功事例として取り上げられるようになったのです。 この点を踏まえて、訪問看護事業とテッセイの共通点、異なる点を考えていきたいと思います。 矢部氏は、テッセイに入って最初にすべての事業所を回り、従業員からヒアリングをしました。そして、従業員一人ひとりは真面目な人が多く、個人の資質のせいでこのような業績になっているわけではない、ということを発見しました。それであれば、やり方を変えればうまくいくと確信したのです。 訪問看護ステーションで働いている看護師さんたちは、そもそも看護師をやろうと志した段階で、高い職業意識を持っているはずです。個人の資質が一定レベル以上にあることは、テッセイと訪問看護の共通点といえます。 異なる点は、その仕事をやりたいと思って選んだかどうかではないでしょうか。看護師は、看護師の仕事をやりたくてなった人が多いと思います。一方、かつてのテッセイの従業員には、どんな仕事をやってもダメで、仕事がなくてここに入ったという人が少なくありませんでした。 大河原社長はこの本を読んで、働いている人たちの気質についてどのように感じましたか。 大河原: おっしゃるとおり、真面目で個人の資質が高い人が多いところは訪問看護と共通していますね。 そのほかにも、新幹線の車内清掃と訪問看護はまったくかけ離れた業種ですが、意外に共通点があると感じました。 実は看護業界のなかでは、訪問看護はまだ人気があるとはいえない仕事です。国内には100万人以上の看護師がいますが、訪問看護師はそのうちのわずか4、5万人(※2)で、病院に比べるとまだ地位が確立されていない状況です。そのような中、真面目な従業員にやりがいを持って働いてもらうにはどうしたらよいか、という課題はテッセイと同じだと思いました。 また、新幹線の車内清掃に7分という時間制限があるように、訪問看護でも1件30分とか60分といった時間制限があります。テッセイも訪問看護も、限られた時間内で最大限パフォーマンスを発揮しなければならないというところが、似ていると思います。 【テッセイの改革】 清掃の仕事は3K(きつい・汚い・危険)と呼ばれて敬遠されがちな職業であり、テッセイも希望の企業に就職できなかった人や失業した人が、最後にしかたなく応募するような会社でした。そんなテッセイで矢部氏は、社員たちに『誇り』と『生きがい』を持たせることに成功し、改革を成し遂げました。どのようにして、現場スタッフの意識を変えたのでしょうか。 矢部氏は、現場のポテンシャルを下げている原因が『本社の管理体制』と『仕事に対する世間のイメージ』であることを突き止め、制服を変え、本社の体制も変え、社員のやる気を引き出す戦略を一つひとつ実践していきました。そして、かつては『いわれたことだけ』をこなしていたような社員を、新しいサービスを自分たちで考え提案するまでに変身させたのです。 今後の訪問看護事業に求められる組織的な運営へのシフト 大河原: 訪問看護事業所の6割以上は5名以下の小規模事業所です(※3)。それだけ企業規模が小さいと、経営者も従業員も手弁当でやることが少なくありませんが、手弁当ではいつか限界がやってきます。年間1,000近い事業所が生まれて1,000近い事業所が撤退する、これが訪問看護業界の実態です(※4)。 しかし、訪問看護事業も大規模化していかないと効率化できません。そして業務を効率化しないと、経営資源を人に集中させることができない。訪問看護は人が主役の事業であり、時間で動く業務なので、今後、効率化は大きな課題になっていくと思います。 芳賀: テッセイは矢部氏の改革によって、現場スタッフが誇りと生きがいを持って働けるしくみをつくることに成功しました。訪問看護業界は、まだそうしたしくみができあがっていない状況ということですね。 政府や厚生労働省は、医療保険制度と介護保険制度のなかで、ある程度の企業規模を持つ訪問看護事業者を想定した動きをしているように見えます。訪問看護も、組織化して一定の業務効率を持ちながらサービスの質を上げていかなければならない時期に来ているのかもしれません。 組織としてどう運営していくかという視点が必要になってくるでしょう。その意味でも、テッセイの業務改革は参考になる部分が多いと思います。 ただし、テッセイの改革は、最悪の状況、マイナスからのスタートでした。リカバリーはまだ設立7年ですし、訪問看護も業界としてまだ確立されていない、いわばこれからの業界です。今の訪問看護事業は無から有をつくる段階であり、そこは大きく違うといえます。 大河原社長をはじめ、訪問看護ステーションの経営者の方々には、新しい考え方にも前向きに取り組んでいっていただきたいと思います。 ** 名古屋商科大学大学院、NUCBビジネススクール 教授 芳賀 裕子 【略歴】 慶應義塾大学卒。慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)。筑波大学大学院ビジネス科学研究科後期博士課程修了。博士(経営学・筑波大学)。プライスウォーターハウスコンサルタント(株)にてコンサルティングに従事。その後コンサルティング事務所を立ち上げ、大手企業のヘルスケア分野への新規参入コンサルティングを30年近く実施。医療、健康関連、介護、ヘルスケア業界を得意とし、ベンチャー企業取締役、ヘルスケア事業会社の執行役員なども歴任。 Recovery International株式会社 代表取締役社長/看護師 大河原 峻  【略歴】 看護師として9年間臨床に携わった後に、オーストラリアで働くが現実と理想のギャップに看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。設立7年で11事業所を運営し(2020年12月時点)、事務効率化や働き方改革など、既存のやり方にとらわれない独自の経営を進める。  【参考書籍】 ※1 著・矢部輝夫、まんが・久間月慧太郎(2017)『まんが ハーバードが絶賛した 新幹線清掃チームのやる気革命』、宝島社  【参考資料】 ※2 厚生労働省 平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況 就業保健師・助産師・看護師・准看護師 結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/18/dl/kekka1.pdf ※3 厚生労働省 アフターサービス推進室活動報告書(Vol.15:2014年3月~6月)平成26年6月30日 https:/www.mhlw.go.jp/iken/after-service-vol15/dl/after-service-vol15.pdf ※4 一般社団法人 全国訪問看護事業協会 令和2年度 訪問看護ステーション数 調査結果 https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r2-research.pdf

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