B02訪問看護師に必要な8個のスキル

コラム

訪問看護師に必要なスキル・知識のまとめ

前回は医療制度・介護制度、礼節・礼儀などについてお話ししました。 第6回は、本コラム連載の最終回として訪問看護師に必要なスキル・知識の総括についてお話ししたいと思います。 訪問看護師に必要なスキル・知識のまとめ 今回を含めて、これまで全6回にわたり訪問看護師に必要なスキルを私なりにまとめさせていただきました。最後にこれらをもう一度、訪問看護の実際の業務フローに落とし込み、可視化したいと思います。 下図は、訪問看護業務フローと8つのスキル・知識の関係図です。見方としては、図・左下の「患者・利用者」から始まり、反時計回りで、患者・利用者→アセスメント→必要な看護の提供となります。 【訪問看護の業務フローにおける各スキルの位置づけ】 ➀患者・利用者の意向・状態変化 ここでは、「本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル」、「本人・家族の平時の生活を想像するスキル」が必要なスキルとなります。特に本人の思いの吸い上げは、最も重要であり、看護方針の基盤となるだけでなく、さまざまな判断の軸となります。 また本人のリアルな状態変化をしっかり見極め、看護に反映させるため、平時の本人の状態を想像するスキルが必要となります。詳しくは、下記をご参照ください。 第1回 思いを吸い上げるスキル・想像するスキル ②アセスメントと他職種との連携 次にご本人の意向などをもとにアセスメントを実施し、さまざまな看護プランを立てることになりますが、ここでは「マネジメントスキル(チームマネジメント)」、「コミュニケーションスキル」、が必要となります。 アセスメントをもとにし、設定された目標に対してどういった職種にどのように動いてもらうかを考え、さらに円滑に動いてもらうために、マネジメントスキルが必要となります。その際に、在宅現場においては、ひとつの職種で利用者さんの療養を支えることは難しいため、医師を含めた他職種とのコミュニケーションスキルが非常に重要となります。 コミュニケーションを取る時には、相手の職種・役割・所属組織の方針などを考慮にいれた俯瞰力を持って臨むことで、より円滑な連携が生まれ、マネジメントも良質なものとなります。また、特に医師に対しては、SBARを改めて実践することで、より良好な関係性を目指していただければと思います。詳しくは下記をご参照ください。 第2回 医師・他職種とのコミュニケーションスキル 第3回 コミュニケーションスキル(訪問看護指示書)とマネジメントスキル ③在宅現場での必要な看護の提供 最後に在宅現場での必要な看護の提供段階となりますが、ここではより良い看護を提供するために「医師のいない場で医療的判断を行うスキル」、「在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)」、「医療制度・介護制度などに関しての知識」、「礼節・礼儀などを実践できる素養」が必要となります。 まず医師がいない場で、訪問看護師が医療的判断を行うことはさまざまな不安があると思いますが、その不安は何をどこまで実践してよいか明確になっていないことが原因であることが多いです。そのため、ご本人の意向を知り、かつ医師からの包括的指示をもらうことで、その不安は払拭することが可能となります。 次に在宅療養中の利用者さんに起こりやすい疾患などに対しての看護スキルについては、「看護は芸術である」という観点のもと、それぞれの利用者さんに対して、みなさんが持っている看護技術を生かして、彩られた療養環境を作り出してみてください。 制度面については、訪問看護は医療保険と介護保険の2つの制度で成り立っており、さらに疾患などにより訪問回数なども決まっています。そのため、制度を知らないと看護プランを立てられないことがあるので、しっかりと理解することが重要です。 礼節・礼儀については前回コラムのとおりです。 これらのスキル・知識をもって、在宅現場でより良い訪問看護を実践していただきたいと思います。詳しくは下記をご参照ください。 第4回 医師のいない場で医療的判断を行うスキルと在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) 第5回 医療制度・介護制度などに関しての知識と礼節・礼儀などを実践できる素養 本コラム最終回として、訪問看護師に必要なスキル・知識の総括についてお話しさせていただきました。 これまで8つのスキル・知識をまとめてきましたが、豊富な訪問看護経験がある方にとって、本連載の内容は当たり前のことも多かったと思います。一方で、連載を通じて、さまざまな気付きをもらえた、という非常にありがたいご意見もいただきました。 患者・利用者さんのQOLの向上のために、今回の8つのスキル・知識が少しでもみなさんのお役に立てば幸いです。 おわりに、本連載を読んでいただいた方、また本連載に関わっていただいた関係者の方々に感謝を申し上げます。 ** 医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

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医療制度・介護制度などに関しての知識と礼節・礼儀などを実践できる素養

前回は医師のいない場で医療的判断を行うスキルなどについてお話ししました。第5回は、医療制度・介護制度や礼節などについての考え方をお話ししたいと思います。 訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル ②本人・家族の平時の生活を想像するスキル ③他職種とコミュニケーションを取るスキル ④マネジメントスキル ⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル ⑥在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) ⑦医療制度・介護制度などに関しての知識 ⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 医療制度・介護制度などに関しての知識 病院や外来診療所から在宅医療現場で業務をする際に留意すべき点はこれまでのコラムでも数多くお話ししてきましたが、今回は医療保険や介護保険といった制度面についてお話しします。病院や外来診療所は、基本的には医療保険(診療報酬)制度の中で医業収益を上げています。その際、診療報酬には項目ごとにさまざまな要件があり、各医療機関は要件に沿う形で業務を行っています。もちろん訪問看護ステーションも同様ですが、訪問看護の場合は医療保険制度だけでなく、介護保険制度にも則る形での業務が求められます。 私自身もそうでしたが、病院勤務の時代は診療報酬に関しての知識はほとんどなく、あるとしても、「7対1看護配置での入院期間は18日以下をめざす」(平均在院日数)や、「ある程度の退院患者さんは転院ではなく、自宅に戻さないといけない」(在宅復帰率)、「DPC制度においては、入院期間が長くなると、1日単価は減る」(DPC制度における入院期間Ⅰ~Ⅲ)といった知識程度でした。病棟師長や主任といった管理経験のある看護師さんは、詳しいと思いますが、その経験がない方は、やはりなじみの薄い知識なのではないでしょうか。また、薬剤を使いすぎると返戻が来る(いわゆる「切られる」)といった感覚は多少なりともありましたが、各患者さんの病態ごとで、医療行為をどの程度実施してよいか、といった感覚もあまり持ち合わせていませんでした。 一方、在宅医療現場(特に訪問看護)においては、医療保険と介護保険の両制度の中で、業務を行う場面が非常に多くなり、業務自体が複雑化しています。さらにその制度理解は訪問看護ステーションの管理者だけでなく、各スタッフも制度を知らないと、看護プランを検討するといった日常業務に支障を来すことも多くなってしまいます。 今回お話しすることは、訪問看護の経験が長い方にとっては、すでに実践されていて真新しいことは少ないとは思いますが、訪問看護を始めて間もない方、またこれから始める方向けに制度理解で必要なことを整理したいと思います。なお、訪問看護ステーションには機能強化型訪問看護ステーションといった届出上の制度理解も必要ですが、これは管理職の方がメインとなる知識のため、今回は訪問回数などに関連する事項について、お話しをさせていただきます。 なぜ制度を理解しないといけないか 訪問看護には、冒頭で申し上げたように医療保険での訪問看護と、介護保険での訪問看護があり、前者は医療保険のため、診療報酬と同様の建て付けで医療費として患者費用負担が発生し、基本的に1日1回・週3回までの訪問(訪問看護を実施する訪問看護ステーションは1か所まで)となる。また介護保険での訪問看護は、ケアマネジャーが作成するケアプランに則った形で訪問看護を実施します(介護費として利用者費用負担)。なお、介護保険優先の原則上、多くの場合は介護保険での訪問看護を実施することとなります。 これらから分かるように、なぜ制度を理解しないといけないか?に対しての回答は、「看護プランに大きく関わる訪問可能回数などにルール(規制)があるから」となります。さらに医療保険での訪問看護は、1日あたり訪問回数、週当たり訪問可能日数、複数のステーションからの訪問看護が可能かどうかなど、制度上のルールが細かく決まっています。 このため、医療保険での訪問看護にせよ、介護保険での訪問看護にせよ、各訪問看護師が独自の判断で「この方には、もっと看護が必要だから、もう少し訪問看護回数を増やそう」というわけにはいかない形となります。病棟看護業務においては、入院患者さんの病態に応じて、自身の判断で何度も患者さんの状態確認のためにベッドサイドに足を運ぶことは多いと思いますが、訪問看護では条件にもよりますが、それが医師からの特別訪問看護指示を受けるなどしないとできなくなるのです。 訪問回数などにかかる制度(ルール) では、訪問看護にあたり知っておくべき制度(ルール)について整理したいと思いますが、ここで細かい制度を記載すると非常に膨大になってしまいます。そのため、確認すべき患者・利用者の状態と、それに紐づけられる訪問回数などに関わるルールを記載します。基本的な確認事項は、訪問看護に関しての訪問回数などの制限有無を確認する作業となります。 【訪問プランに関わる確認すべき患者・利用者の疾患等(いずれか該当する場合、医療保険)】 ①厚労大臣が定める疾患である ②介護認定を受けていない ⇒厚労大臣が定める状態か否かの確認 ③特別訪問看護指示が出ている 上記➀-③いずれかに該当する場合は、医療保険での訪問看護が実施可能となります。各項目についての留意事項は下記のとおりです。 ➀「厚労大臣が定める疾患」について 末期がんや神経難病の方が該当します(詳細は「別表7の疾病(厚生労働大臣の定める疾病等)」を参照)。1日複数回・週4日以上の訪問が可能。 ②「介護認定を受けていない」について 年齢の理由(40歳未満等)で介護認定を受けていない方は、医療保険での訪問看護の適応となりますが、ここではさらに、厚労大臣が認める状態かどうかの確認が必要となります。厚労大臣が必要な状態とは、気管カニューレや人工肛門などを使用している方が該当(詳細は「別表8の状態(厚生労働大臣の定める状態等)」を参照)し、その場合、1日複数回・週4日以上の訪問が可能(該当しない場合、1日1回、週3回まで)。 ③「特別訪問看護指示が出ている」について 急性増悪、終末期、退院直後、真皮を越える褥瘡の方などについて、医師から特別訪問看護指示が出ている場合が該当。その場合、1日複数回・週4日以上の訪問が可能。 訪問回数などに関して、表にまとめたものが上図になりますが、図中【その他】の欄をご覧頂くとわかるように、訪問回数以外にも、滞在時間90分を越える訪問看護が可能かどうか(加算が算定できるかどうか)、2名以上の複数名での訪問看護が可能かどうか(加算が算定できるかどうか)など、さらに細かく要件がわかれているため、ご注意ください。 ここでは、訪問回数などに関わる制度面を中心にお話しさせていただきました。繰り返しになりますが、これらは管理者の看護師さんだけが知っていればよいものではなく、訪問看護のプランにも関わることのため、ぜひ管理者以外の看護師さんも担当される利用者さんが「厚労大臣が定める疾患等」なのか、「厚労大臣が定める状態等」なのかを確認していただき、それらをもとに訪問回数などの看護プラン立案にぜひ役立てていただきたいと思います。 礼節・礼儀などを実践できる素養 訪問看護師に必要な8つのスキル・知識の最後として、礼節・礼儀を挙げたいと思います。 「礼節」というと病院・外来診療所、在宅現場など、どの場面においても必要な素養になりますが、病院と在宅現場の違いとなると、受け入れる側と受け入れてもらう側が逆転することにあります。要はどちらが「お邪魔します」なのか、そこに違いがあるのです。 病院などにおいては(特に入院の場合)、患者さん側が「お邪魔します」になるため、心理的に少し腰が低くなる傾向にあります(もちろん、低くする必要はないのですが…)。それにより医療従事者側に多少礼節に欠いた素振りがあったとしても、信頼関係に支障を来さないことが多いです。一方、在宅現場では医療従事者側が「お邪魔します」になるため、病院における立場とは逆転します。しかし、そういった中でも病院における医療従事者-患者・利用者関係のまま、ご自宅に訪問すると、医療従事者の態度・振る舞いなどの細かい部分をご家族が気にされることが増え、結果的に信頼関係を損なってしまうことがあります。 例えば病院においては、患者さんの病室に入る時に、入室する順番などはあまり気にされないと思いますが、利用者さん宅の場合、基本的に医療者側が「お邪魔します」になるために部屋に入る順番は、家族が最初となります。また、玄関での靴の揃え方、スリッパの揃え方など細かい部分での留意も必要となるなど、こういったことのひとつひとつが結果として、利用者さんやそのご家族との信頼関係構築に大きく寄与することとなります。 ただし、これらは訪問看護師さんにとって問題ないことが多く、むしろ医師側に課題があることが多いです。そのため、訪問看護の本来業務では無いですが、医師に同行する場合、そのサポートや指摘をいただけると、より一層ご本人・家族とチームの信頼関係が構築できると考えています。 また素養とは異なるかもしれませんが、利用者さんとの信頼関係構築には言葉遣いも重要です。もちろん利用者さんに対しては、敬語が基本となりますが、場面や相手によって遣い分けをすることで、より関係性が良好なものとなり得ます。というのも、敬語は場合により「お高くとまっている」と受けとられることがあり、遣い続けることにより信頼関係を損ねてしまうことがあるためです。これは地域性などもあるようですが、何人かの訪問看護師さんから敬語の難しさを伺ったことがあります。そのため、初回訪問から一定期間が経過したあとには、友達口調(いわゆる「タメ語」)を遣うかの検討をすることになりますが、言葉遣いによる相手の反応を見ることが信頼関係を損ねないポイントと言えます。 多くの場合、友達口調は自然な流れの中で出てくるものだと思いますが、それによる利用者さんやご家族の表情の変化を簡単にチェックしてみてください。表情の変化などがある場合は、利用者さんは友達口調に違和感を抱いている可能性があります。反対に敬語を遣い続けている状態で、初回訪問から一定期間経過しているにも関わらず、会話のキャッチボールがうまくいかない場合などは、利用者さんが敬語に違和感を抱いている可能性があるため、言葉の端々に友達口調などを入れ、相手の反応を少し見てみてください。 言葉遣いにも、色々とコツがありますが、ぜひ上手く遣うことで、利用者さんやご家族とより良い信頼関係を築いていただければと思います。 ここでは、礼儀・礼節についてお話しさせていただきましたが、基本的には病院・在宅に関係なく、一番重要なのは相手を敬う気持ちです。それがあれば、利用者さんやその家族との信頼関係を損なうことはないと考えています。 本コラム第5回目として、医療制度・介護制度などに関しての知識と礼儀・礼節ついて述べさせていただきました。次回は、本コラム最終回として、これまでの総括をお話しさせていただきたいと思います。 ** 医療法人プラタナス松原アーバンクリニック訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

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医師のいない場で医療的判断を行うスキルと在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)

第3回ではマネジメントスキルなどについてお話をさせていただきました。今回は、医師のいない場で医療的判断を行うスキルや在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)についての考え方をお話したいと思います。 訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル ②本人・家族の平時の生活を想像するスキル ③他職種とコミュニケーションを取るスキル ④マネジメントスキル ⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル ⑥在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) ⑦医療制度・介護制度などに関しての知識 ⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 訪問先での不安感 病院や外来診療所に勤務されている看護師さんは、医師がいない場で医療的判断を行うことに心的ハードルを感じられることが多いと思います。私自身、いくつかの病院で在宅医療部の立ち上げの支援をさせていただきましたが、その際に在宅医療部に配属となる看護師さんを決めるステップの時に、かなり時間を要することがありました。やはり在宅医療という未知の分野に入ることに対しての不安感や、自身のスキルに対して不安に思うことなどが影響していると考えています。 また、実際に配属の看護師さんが決まっても、訪問看護師ではなく同行看護師として業務を開始することが多いです。少し複雑ですが、同行看護師は訪問診療の際に医師に同行する看護師であり、一人で患家には訪問しません(在宅患者訪問看護指導料など、医療機関からの訪問看護に関する算定は発生しないモデル)。そういった同行看護師さんに伺うと、一人で患家に訪問することに対してのハードルとしては、 1.何かあった時にひとりで対応できるか不安である。 2.患家で医療的判断を本人・家族から求められたとしても、それは医師の仕事だと思うので困る。 と、おおよそ上記2点に集約されました。 1.何かあった時にひとりで対応できるか不安 「慣れ」の話になるかもしれないですが、病棟勤務や外来勤務といった基本的に医師が傍にいる状況、もしくは院内PHSなどで緊急時に医師にすぐに連絡がつく環境での勤務経験が長いことに起因すると思われます。 しかし、詳しく話を伺うと、病院勤務であれ、外来勤務であれ、何かあった時にひとりで対応した経験がある看護師さんは非常に多いことがわかりました。よく考えれば、これは医療有資格者として普通のこととも言えますが、訪問看護というもののイメージ沸かず、これまでと違った環境での業務が、その不安を助長させている可能性を示唆しています。 2.医療的判断を本人・家族から求められたとしても、それは医師の仕事だと思うので困る 1の不安感に繋がる部分もあると思いますが、医療の方針などをご本人やご家族に説明するのは医師、という考えを強く持たれていることが要因と考えられます。医療的判断における看取り方針の確認や、薬剤の使用判断などについての判断は、通常医師が行いますが、より療養に近いレベルでの判断は、病院でも実際は看護師さんが実施しています。例えばバイタルのチェック回数やタイミング、食事介助方法、発熱患者さんへの水分摂取促進などがそれにあたります。これらももちろん医療的判断ですが、そのすべてに対して医師の指示があるわけではありません。 つまり、訪問先で求められる医療的判断の階層レベルの不明瞭さにより、こういった考えに至るものと思われます。とはいえ、こういった不安や考えを持たれていることは事実であり、現に訪問看護師として働かれている方も、このような気持ちをもって働かれている方もいらっしゃると聞きます。これらの訪問先での不安などを解決するために必要な考え方やスキルをお話したいと思います。 医師のいない場で医療的判断を行うスキル 医療的判断を行うスキルについて、ここではどういった症状に対して、どういった医療的判断を行えばよいか、といった具体的な疾患・症候別の話ではなく、どういった考え方に基づいて、訪問看護師として医療的判断を行うかをお話します。 その考え方は基本的に、訪問看護師さんが訪問先で医療的判断を行う範囲を決める作業と、急変時の対処方法を確認する作業の整理となります。具体的には、これまで何度もお話していることではありますが、まずはご本人やご家族への方針確認の際に望んでいること、やってほしくないことを吸い上げることから始まり、そこに本人の病態やADLなどに合わせて、医師から医療的・日常療養的包括的指示を受けます。これにより、訪問看護師が実施できる枠組みが決まり、この枠組みの中で訪問看護師として医療的判断を実践することになります。 この時に、医師からの包括的指示のみでは、訪問看護業務が本人や家族の意向に沿うものかどうかがわからなくなるため、必ずこの意向確認が必要となります。また、急変時の家族不在時の連絡方法や搬送基準なども、本人・家族や主治医とともに決定されていれば、医師がいない場での医療的判断について、訪問看護師として困ることや不安に感じることは大幅に減ることと思います。 前述の「何かあった時にひとりで対応できるか不安」や「患家で医療的判断を本人・家族から求められたとしても、それは医師の仕事だと思うので困る」といった思いについては、この枠組みが決まっていない、もしくは枠組みが見えていないことに起因すると思われ、訪問看護師として何をどこまで行ってよいのか、またどこまで判断してよいのかが不明瞭になっている事が非常に多いことが要因と思われます。 まとめると、医師のいない場で医療的判断を行うスキルというのは、本人や家族の意向と医師から包括的指示の確認+緊急時の対応方法の確認、これらを確認するスキルと言えます。ただし、日常業務が忙しい中で、利用者さん全員の具体的な意向や、搬送基準などの吸い上げが難しい場合もあると思います。その際は、独居の方、重症度が高い方、看取り目的で在宅療養を開始した方をまずは優先し、実施してみてください。 いずれにせよ、やはり重要になるのは第1回目に述べた「本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル」となります。 在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) 「看護は芸術である」というナイチンゲールの言葉があります。おそらくこれにはさまざまな意味合いがあると思いますが、ここでは、利用者さんの疾患やADLに対しての療養環境を、どういった考え方のもと、みなさんが持っている看護技術を用いて整えていくか、という視点でお話したいと思います。 以前、「本人・家族の平時の生活を想像するスキル」の回で「探偵力」という単語を使い、利用者さんの日常の療養生活を想像するためのスキルについてお話しましたが、今回は療養環境を整えるための「工夫力」についてです。 療養環境の整備には、ご本人やご家族の思いを吸い上げた上で、それを達成するため、またはそれに少しでも近づけるために、看護師さんならではの視点・感覚が必要となりますが、この環境整備のためのスキルを工夫力と捉えています。重要なことは、「おそらく○○だろう」といった自身の主観をもとにした判断でアプローチしないことです。 たとえば、分かりやすい例としては、排尿行動による転倒に対しての療養生活の整備です。転倒を減らすには、ポータブルトイレの設置による動線管理や、オムツの使用、膀胱留置カテーテル挿入といった動線自体をゼロにする方法があります。この方法により転倒は減ると思われますが、ポータブルトイレの設置が「転倒は危ないから」といった判断材料のみであった場合、前述した「ご本人・家族の思いを吸い上げ、それを達成できるか」の検討が無いことになり、主に介護者視点でのリスク管理的な療養環境の整備となってしまいます。ご存じのように、排泄は本人の自尊と強く関係するため、排泄方法の変更の際は、まずご本人がどうしたいか?家族としてはどうあって欲しいか?といった意向を確認してから、トイレまでの動線確認およびその改善、移動をサポートする方法の提案、夜間のみのポータブルトイレ利用といった看護師さんだからこそ気付く工夫力を発揮していただきたいです。 ただし、認知症の方などの場合、転倒リスクを低下させることが優先になることもあります。ここで注意していただきたいのは、認知症の方はこれまでの行動が刷り込まれていることが多く、排泄方法をトイレからポータブルトイレに変更する場合、ポータブルトイレが排泄する場であると認識するのが難しいことがあるということです。そのため、例えばご本人にインプットされているトイレまでの動線上にポータブルトイレを置き(場合により、動線を塞ぐ形で)、少しずつそれが排泄する場であると認識できるように誘導する、といった工夫もあると思います。他に褥瘡の処置などでも、ご本人の状況や意向で、どの程度まで改善を目指すのかを確認し、それに対して工夫力を生かす、といったことも同様の考え方です。 ここでは非常にわかりやすい例として、排泄による転倒に対しての療養環境の整備を挙げさせていただきましたが、さまざまな療養下にある利用者さんの意向に沿う形で、みなさんの「工夫力」を発揮し、ご本人・ご家族と一緒に「看護は芸術」として、その療養環境を作り上げていってください。 本コラム第4回目として、医師のいない場で医療的判断を行うスキルと在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキルついて述べさせていただきました。次回は、医療制度・介護制度などに関しての知識ついてお話したいと思います。 医療法人プラタナス松原アーバンクリニック訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

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コミュニケーションスキル(訪問看護指示書)とマネジメントスキル

第2回では、「医師・多職種とコミュニケーションを取るスキル」について解説しました。今回は他職種とコミュニケーションを取るスキルの訪問看護指示書についてとマネジメントスキルについてお話します。 訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル ②本人・家族の平時の生活を想像するスキル ③他職種とコミュニケーションを取るスキル ④マネジメントスキル ⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル ⑥在宅療養利用者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) ⑦医療制度・介護制度などに関しての知識 ⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 医師とコミュニケーションを取るスキル【対医師・訪問看護指示書について】 前回の続きとして、コミュニケーションの中では、実地寄りの話になりますが、訪問看護指示書のやり取りについて、お話をしたいと思います。なお、ここでは、前回と同様に同一法人所属ではない医師とのやり取りを想定しています。 訪問看護指示書について、困った経験を持つ看護師さんは非常に多いと思います。私のところにも、訪問看護師さんから「円滑に指示書を記載してもらうには、どうすればよいでしょうか?」という相談があります。その相談の種類はおよそ2つに分けられます。 【代表的な訪問看護指示書に関しての相談】 ・訪問看護指示書を中々記載してくれない(期限) ・記載して欲しい内容が指示書内に書いていない(内容) これらの相談に対して、前回お話した「俯瞰的に物事をみること」に基づいてお答えします。なお、ここでは仮に医師側にその原因がある場合でも、訪問看護師さんが主体となって解決するための方法という視点で考えていきます。訪問看護指示書依頼のコツは4つあります。 【訪問看護指示書依頼のコツ】 1.依頼のタイミングを工夫する 2.依頼の方法を工夫する 3.依頼の必要性を明確にする 4.指示してほしい内容を明確にする それぞれについて、説明していきます。 1.依頼のタイミングを工夫する まず、ほとんどの訪問看護ステーションが実施していると思いますが、出来れば1か月程度前を目途に指示書の記載依頼を出しましょう。その際に、「俯瞰的に物事をみること」に則り、いわゆる一人在支診(医師一人で運営している在支診)のように、事務員がいない診療所に対しては、依頼を出す時間帯を工夫しましょう。 医師側は多忙なため、その依頼事項を失認してしまうことが多いです。少なくとも医師が繁忙な時間を避けて依頼することが良いでしょう。一般的には、お昼の時間帯や16時以降がおすすめです。逆に週初めや週終わりは往診発生率が高くなるため、なるべく依頼は避けるようにしましょう。 2.依頼の方法を工夫する 例えばFAXやメール、ICT等で依頼を出す場合、メールタイトルなどに明確に「訪問看護指示書依頼」といった文言を記載しましょう。さらに可能であれば、「なぜ指示書がすぐに必要なのか」の記載があると、医師側も後工程を意識するため、記載への意識が少し高まることがあります。例えば、メール内容に「次の訪問看護指示期間における訪問予定を立てる必要があるため、指示書が必要」と記載するなどです。 電話等での依頼では中々対応してくれず、直接医療機関に訪問して指示書の記載をお願いしている訪問看護ステーションもあると思いますが、これは業務負荷が高くなってしまいます。 患者側の病態背景的に問題がない場合であれば、最長指示期間(6か月間)で指示書を記載してもらうのもひとつの手でしょう。また、退院時に病院主治医から6か月間の指示期間で訪問看護指示書の記載を依頼することも、同様に有効だと思います。 3.依頼の必要性を明確にする 特別訪問看護指示書の依頼に苦労されている訪問看護ステーションが多い一方で、医師側からは、「○○訪問看護ステーションは、すぐに理由も言わずに特別訪看指示書を求めてくる」という声が上がることがあります。 私自身も何度も特別訪問看護指示書の記載依頼をいただいたことがありますが、やはり指示を出す側としてもその責任を負うため、指示書の必要性をきちんと説明してもらえた方が、対応がしやすいと感じます。これは特に信頼関係の構築が未達の医療機関相手の場合に当てはまります。 つまり、「○○さん(患者)は現在、こういった状況なので、こういった処置やこういった観察のために、訪問看護の頻度を上げたいと考えていますが、いかがでしょうか?」、「ご家族の負担が大きくなっているため、訪問看護の頻度を増やした方が良いと考えますが、いかがでしょうか?」といった形で指示を仰いでもらうと、医師側も特別訪問看護指示に対しての納得が得やすくなります。 ここでもこれまでのコラムでお話した俯瞰力やSBARがその力を発揮してくることになります。仮にこれでも特別訪問看護指示が出なかった場合は、ケアマネージャーに相談し、その必要性を説明しつつ、介護保険での訪問看護回数を増やせないかの相談する流れとなると思います。 4.指示してほしい内容を明確にする 最近は電子カルテ上で訪問看護指示書を作成することが多くなってきているため、どうしても前回指示のコピー&ペーストで作成することが多くなります。そのため、肯定できることではないですが、直近の患者さんの病態が反映されていなかったり、病態変化に伴った指示内容が漏れたりするケースが多くあります。 それらに対しては、訪問看護ステーション側で指示書の下書き、もしくは付箋をつけて、記載して欲しい内容を明確にすることで解決できることが増えると思います。もちろん、下書きを嫌がる医師も多いため、事前に見極めが必要となりますが、少なくとも訪問看護ステーション側が欲しい指示を明確にされることに対して、抵抗を感じる医師は少ないと思います。 マネジメントスキル ここで述べるマネジメントはケアマネジメントではなく、患者さんのために動く多職種で構成されたチームに対してのマネジメントの話が主となります。在宅医療介護現場においては、チームマネジメントが重要ですが、病院等の医療機関内と比較すると、各職種の所属組織が変わるため、やや難度は上がります。しかし、基本的な考え方は在宅医療介護現場も入院等の現場も同じです。 すでにみなさんが実践されていることも多いと思いますが、ここではマネジメントを少し構造化して述べたいと思います。 マネジメントとは何か? 様々な定義がありますが、ここでは「組織(チーム)として、ミッションを達成するための仕組み」として考えます。その上で、在宅医療介護の現場におけるミッションを「いかに患者利益を上げるか」、仕組みを「各職種の働き」と捉えることとします。「患者さんの利益を最大化するために各職種がどう働くか」がマネジメントであり、それを促進させるのがマネージャーです。 ただし、医療介護現場においては一般的な企業と違いマネージャーが明確でないことが多く、裏を返せば、チームメンバー全員が自身の業務範囲の中で、患者利益を追求するマネージャーになり得るし、ならないといけないと考えています。 そう考えると、訪問看護師に必要なマネジメントも見えてきます。つまり、患者利益を最大化するために、自身がアクションするとともに、医師やケアマネージャー、介護職等の他職種にどのようにアクションしてもらうかを考え、それを実行してもらう必要があるのです。 では、どのように具体的にどのようにマネジメントしていけばよいのでしょうか?一般的な流れをご説明します。 【在宅医療介護現場におけるマネジメントの流れ】 1.患者利益を最大化する目標の設定(大項目と小項目の設定) 2. チーム全体で目標大項目の共有、関連職種で目標小項目の共有 3. 目標に基づいた他職種へのアプローチ 1~3を、病態変化や環境変化に応じて再確認/再設定しながら、繰り返す 1.患者利益を最大化する目標の設定 マネジメントにおいて最初にすべきことは、目標設定です。目標設定とは「何が患者利益を最大化するか、明確にする」ことです。ここで必要になるのが第1回のコラムでお話した「本人の思いを吸い上げるスキル」です。本人の思いなくして、利益の最大化は絶対にありません。本人の思いを吸い上げることで、患者利益の最大化が見え、マネジメント目標となるのです。 また目標の具体性については、少しACPの考え方と近くなる部分もありますが、大項目と小項目の設定が必要です。大項目は患者さんがどういった形で日常を過ごしたいか、最期を迎えたいかといったすべての職種と共有すべき目標です。小項目は大項目をもとに作成する、主に自身の業務範囲を中心とした特定の職種と共有すべき目標です。例えば内服の種類が減らしたいという患者さんの思いを訪問看護師さんが吸い上げた場合、それを主に医師や訪問薬剤師とともに、可能な限り内服薬の整理を目指します。 ここで注意してほしいのが、マネジメント目標は患者さんの病態変化、ADL変化、家庭環境の変化等で変わるということです。状況が変わった際には、再度患者さんの思いを吸い上げ、その変化に気付いた場合は、目標を再設定するステップを繰り返しましょう。 2.チーム全体で目標大項目の共有、関連職種で目標小項目の共有 マネジメント目標が定まったら、その共有をしていきます。共有はすでにされている方が多いと思いますが、重要なのが大項目の共有です。患者さんの病態が変化した際に、チームのベクトルを合わせることが出来るか否かで、マネジメントの成否が決まるといっても過言ではありません。 共有の方法は、電話・メール・ICT等、様々なツールがありますが、訪問看護師さんの立場では、可能であれば少なくとも医師やケアマネージャーとは対面や電話等の口頭で伝えるやり方が、最もお互いにその目標を理解しあえると考えています。特に訪問看護師さんならではの目線で設定された目標は医師が気づいていないことがあるため、ぜひしっかり共有していただきたいと思います。 3.目標に基づいた他職種へのアプローチ 共有ができたら、次はマネージャー的な動きとして、いかに目標達成のために他職種に動いてもらうかを考えます。これには多くの方が苦労をされていると思います。絶対的な対策はありませんが、マネジメント目標がしっかり共有できていれば、他職種のアクションにつながることも増えるため、まずは目標の共有を意識しましょう。 しかし、それでも円滑にアクションに繋がらないことも多いと思います。その場合、ここでも「俯瞰的にものごとを見ること」が重要になります。相手がどういった考えを持っているか、どういった行動原理があるかを見極めることができれば、相手に合わせて自身がやり方を変えることができます。結果として、相手に行動を促すこともマネジメントのひとつの方法なのです。 相手の行動原理にある程度あわせて、自身を変えることになりますが、あなたの行動がチームとして患者さんの利益を最大化することにつながります。 例えば、ケアマネージャーが看護師資格保有しているなど医療のことも含めて、マネジメントシップを取れると判断できる場合には、そのケアマネージャーと密に連絡を取りましょう。反対に、もしケアマネージャーが医療については、進んでマネジメントシップを取りたがらないと判断できる場合は、訪問看護師さんが医療についてはハブ機能を担いましょう。 このように相手の考え方やスキルの応じたて判断や適応をすることで、円滑な他職種へアプローチを実践しましょう。訪問看護師さはチームの要となることが非常に多いため、マネジメントスキルを磨くことで、患者利益の最大化をぜひ、目指していただきたいと思います。 本コラム第3回目として、訪問看護指示書に関してのコミュニケーションのコツやマネジメントについて述べさせていただきました。次回は、医師のいない場での医療的判断などについてお話します。 医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

コラム

医師・他職種とのコミュニケーションスキル

第1回では、「本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル」と「本人・家族の平時の生活を想像するスキル」について解説しました。今回は「医師・多職種とコミュニケーションを取るスキル」について解説します。 訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル ②本人・家族の平時の生活を想像するスキル ③他職種とコミュニケーションを取るスキル ④マネジメントスキル ⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル ⑥在宅療養利用者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) ⑦医療制度・介護制度などに関しての知識 ⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 ③他職種とコミュニケーションを取るスキル(全般) 多くの専門職種とコミュニケーションを取ることは、在宅医療、介護領域において、利用者さんやそのご家族のQOL向上のために、重要となります。 そういった中で、訪問看護を経験したことのない病院勤務の看護師さんとコミュニケーションの話をすると、「ほかの職種とコミュニケーションを取ることは病院でもやっているので、特に難しいことはないと思います」という回答が返ってくることがあります。 もちろんそれ自体を否定するものではないですが、在宅医療・介護領域における他職種とのコミュニケーションは正確に言うと、多くの場合「物理的に距離のある別法人の他職種とのコミュニケーション」となります。(病院の場合は「物理的に距離が近い同一法人内の他職種とのコミュニケーション」) 俯瞰的に物事を考える力 つまり経営方針や、時には治療方針が異なる別法人所属の、すぐに会って話をすることが困難な他職種とうまくコミュニケーションを取ることが求められるのです。 そのために在宅医療介護領域において、良好なコミュニケーションを取るための考え方の基盤として、「俯瞰的に物事を考える力」が必要だと感じます。 俯瞰的に物事を考える力 ・相手の専門性を考えること ・相手の業務を考えること ・相手の法人内・事業所内での立場を考えること 事例 ここで私自身の失敗談を共有させていただきます。 私が訪問診療を開始した直後の話ですが、ある株式会社の介護施設で入居者向けの訪問診療を担当していました。 主治医交代で担当したばかりの私は、入居者の内服薬の種類の多さに非常に驚きました。そこで私はポリファーマシーの観点からも、それらの薬剤の整理を始めたのですが、その方針で施設看護師さんと大きな軋轢が生まれてしまい、結果としてその施設の担当を離れることになってしまいました。 当時の私は、軋轢が生じた理由がよく分からず「利用者さんのためにやっているのに、なぜこうなるのだろう・・・」と自身の診療スタイルに対して、自信を無くしていました。 しかしその後、当時の自院スタッフと議論を重ね、また別の施設担当看護師さんと話をしたことで見えてきたことがありました。 それは、私が施設看護師さんの業務や立場を俯瞰して考えられていなかったということです。 施設看護師さんが薬剤変更時にその都度、利用者のご家族に変更理由を電話で説明していたとことを知らなった私は、度重なる変更をしながら理由をご家族に説明しやすい形で施設看護師さんに伝えていませんでした。 また施設看護師さんが利用者のご家族は入居金などの支払者という意識を持ち、対顧客としてご家族との関係性構築に非常に気を遣っていることにも、株式会社所属という意識もなかった私は気づいていませんでした。 この時、私は大きな反省をしました。私は、少なくとも「相手の業務を考えること」、「相手の法人内・事業所内での立場を考えること」ができていなかったのです。 ここで得た反省から、薬剤変更を含めた医療的判断をする際は、ご利用者家族に説明しやすいように、その判断理由を他職種に伝えるように心がけるようになりました。 この事例からの示唆は、利用者さんのQOLを上げるための医療介護を実践するのは当たり前だとしても、「連携する他職種の立場も踏まえて、皆が実践できる方法を考える」ことであると言えます。 すべての職種にあてはまる ここでは医師の視点からの事例を述べましたが、これはもちろんどの職種でも当てはまることです。例えば、訪問看護師さんが医師やケアマネージャーに「○○をお願いしたが、中々が動いてくれない」といった時に、相手が動いてくれないからしょうがない、と結論付けるのは簡単です。 しかしここでぜひ、俯瞰的に相手の立場を見て、もし自身がサポートできることがあれば実践し、相手とベクトル合わせをしていただきたいと思います。 ③他職種とコミュニケーションを取るスキル(対医師) 前項では他職種とコミュニケーションを取るための考え方の基盤を述べましたが、ここではフォーカスを絞り、訪問看護師のみなさんが訪問診療医とコミュニケーションをうまく取るための方法(正確には業務を円滑に進めるための方法)を述べたいと思います。なお、ここではコミュニケーションを取る相手は同一法人でない在宅診療所の医師を想定しています。 医師との連携において、訪問看護師さんからよく聞く困りごとはいくつかあります。その中でも、コールの報告内容、頻度、訪問看護指示書に関しての事柄が多くあります。(訪問看護指示書については、次回のコラムに記載させていただきます) コールに関しては、 ・報告すると医師の機嫌が悪くなる ・詳しく報告しているのに医師の反応があまり良くない ・「私(医師)にどうしてほしいの?」と言われる などの声が訪問看護師さんからよく聞かれます。 一方医師側は ・報告だけなら連絡しなくてよいのに ・話が長くて、重要なことがわからない・・・ ・アセスメントがない といった声が多いです。 訪問看護師側としては、 ・医師に利用者さんの報告をするは当然 ・報告しないと不安 ・利用者さんの背景から現在の病態を詳細に説明したい ・端的に医師からの指示を仰ぎたい という気持ちがあるかと思います。こういった思いを持ちながら、医師とうまくコミュニケーションするにはどうすれば良いでしょうか。 ここであらためて重要なのは、SBARに則った行動ができているかです。こちらの訪問看護師と訪問診療医の連絡に対してのコメント対比させた表を元にご説明します。 SBAR 状況(Situation)、背景(Background)、アセスメント(Assessment)、提案(Recommendation)の頭文字を取った言葉。この順番で報告をすると相手に伝わりやすいというものであり、コミュニケーションにおいて非常に重要なフレームになる。 <訪問看護師と訪問診療医の連絡に対してのコメント対比> ➀報告必要性の検討 「報告すると医師の機嫌が悪くなる」については、SBARの前段である医師への報告必要性の検討でクリアできることが多いです。もちろん報告を求める医師もいるため、事前にどういった時に報告が必要か、医師と調整するのが良いでしょう。 ここで一点気を付けていただきたいのが、訪問看護師からの報告に対して、診療報酬上の電話等再診算定が発生する場合があることです。(算定は医療機関) 算定するか否かは医師の判断によることが多いですが、例えば22時以降の電話等再診の場合、約500点/回(ご利用者負担1割の場合、約500円/回)となり、これはもちろん利用者さんの経済的負担になります。 そのため医師に連絡をする場合は、必要性と共に経済的負担が発生する可能性を検討した上で、実施いただきたいと思います。 ②SとBの逆転有無確認 「詳しく報告しているのに医師の反応があまり良くない」については、SBARの状況(S)と背景(B)が逆転しているのが原因であり、SBARの順に伝えることでクリアできることが多いです。 背景(B)として、利用者さんの病態の背景や家族背景などの説明は重要ですが、ここに多くの時間をかけて説明してしまうと、医師は「何が一番伝えたいことなのかわからない」という状態となってしまいます。 まずは「今起きていること」と「判断を仰ぎたいこと」を伝えた上で、必要に応じて背景を説明すると良いでしょう。 ③AとRの有無確認 「『私(医師)にどうしてほしいの?』と言われる」については、SBARのアセスメント(A)と提案(R)が足りていないことが原因であり、これらをきちんと実施することでクリアできることが多いです。 逆に医師から「△△訪看ステーションはアセスメントや提案がしっかりしていて、非常にありがたい」というコメントがあると、医師と訪問看護ステーションが良好な関係性が築けているのだと感じます。 アセスメント(A)と提案(R)が足りていないとは、バイタルや状況を伝え、それで終了してしまうパターンです。 もちろん、各々の状況に対して臨床的判断することは医師の役割ですが、医師も少なからず判断に負担を感じていることがあります。ですから、看護側からのアセスメントや提案は非常にありがたく、臨床的判断をしやすくなるだけでなく、負担感も軽減にもつながります。 ただし、アセスメントと提案には、しっかりしたフィジカルアセスメント技術が必要です。訪問看護師さんはフィジカルアセスメントに長けている方が多いと感じていますが、今一度その重要さを振り返り、より良いアセスメントと提案につなげていただけると良いと思います。 医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

コラム

思いを吸い上げるスキル・想像するスキル

利用者さんご本人やご家族と接する時間が長く、より生活視点での看護的観察やアセスメントが必要なのが訪問看護です。本コラムでは、特に訪問看護師に必要なスキル・知識について、これまでの訪問診療医としての経験や、訪問看護師さんとのコミュニケーションから得た気づきを、私なりにまとめました。   訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル②本人・家族の平時の生活を想像するスキル③他職種とコミュニケーションを取るスキル④マネジメントスキル⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル⑥在宅療養利用者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)⑦医療制度・介護制度などに関しての知識⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 さまざまな意見があると思いますが、これまで私自身が大学病院、市中病院、外来/在宅診療所などで勤務した経験から、訪問看護については最もその看護スキルを発揮できる場と私は捉えています。   ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル 利用者さん本人の医療、介護に対しての思いや考え方を吸い上げることは、最も重要なことと考えられます。なぜなら、医療介護は我々医療従事者の満足のために行われるものではなく、利用者さんご本人のために行われるものだからです。そのため、その思いや考え方の吸い上げなくして、医療介護方針の立案はないと考えています。ただし、意思の表出が難しい方や、本人や家族が我々(特に医師)への気遣いで考え方を述べることを躊躇され、その意向の吸い上げが難しくなることがしばしばあります。そういった時の意向の確認で、最も適している職種が訪問看護師であると考えています。 必要なことは何かを考えるスキル 私も連携している訪問看護師から、ご本人やご家族の思いや考え方を伺い、方針決定の参考にさせていただき、さらに方針変更をしたこともあります。その時に求められるのが、その方が希望する生活を継続するために、必要なことは何か考えるスキルです。さらに、その希望も時期によって変わるため、利用者さんにとって必要なことは何かを「考え続ける」こととなります。なお、意向の吸い上げは以下の項目について利用者さん側が理解した上で、初めてできると考えます。 利用者さんに必要な理解・医療に対しての理解・今後、起こりうることとその対処方法についての理解・医療介護サービス提供方法や頻度についての理解・必要な費用についての理解 前者2つは医療的な側面のため、説明が漏れることが少ないようです。一方、後者2つは制度面に紐づけられるため、特に訪問看護をはじめて間もない看護師さんは、病院や外来診療所ではこういった話をすることがほとんどなく、知識面から説明が不足することが多くなる傾向にあります。しかし、非常に重要な事項であるため、ぜひ知識を身に着けていただきたいと感じています。特に経済的側面と医療介護に対しての意向については、それが良いことか悪いことかの議論はあると思いますが、大いに相関すると感じています。それでも意思疎通ができる方の中において、意向や考えの表出が少ない利用者さんもおられるでしょう。ただ、考えのない方は絶対におらず、その場合、ちょっとした表情の変化や言動の変化などをもとにその考えを推測することとなり、場合によりそれをもとに、こちら側からの問いかけなどで、意向をより明確なものにしましょう。 思いを吸い上げるスキル さらにご本人が自身の考え方に気づいていないこともあるため、その際もこういったアプローチを繰り返すことで、ご本人に自身の考えを気づいていただくことが重要になります。利用者さんの思いを知ることにより、良いケアができた事例をひとつ紹介します。 ある高齢の乳癌ターミナルの女性の話です。その方は常に疼痛を訴え、自宅で布団をかぶり、うずくまっている状態でした。もちろん疼痛コントロールを目的として、麻薬などを内服していましたが、内服量を増やしても、その疼痛の訴えは一向に減らず、その方の活動性は向上しませんでした。ある時、訪問看護師が「何か不安や困っていることがあるのではないか?」という仮説のもと、その方と多くの時間を使い、色々と話す時間を設けました。話は1回ではなく、数回におよびましたが、結果として、その方は乳癌という病気についてのこと、そして今後、どういった病態になるのか、また疼痛が強くなるのではないか・・という不安と常に戦っていることがわかりました。それらに対して、その訪問看護師は病気のこと、内服によって多くの場合、疼痛は抑えられることなどを非常に丁寧に説明しました。その説明により、その方は不安が取れ、疼痛の訴えは急激に減少し、一時的にではありますが、内服による疼痛コントロールは必要ない状態になり、散歩もするようになりました。その数か月後にその方は亡くなりましたが、その方が与えてくれた強烈な示唆は、やはり本人の思いの吸い上げは何よりも重要だということです。私たちは常時それを念頭におき、治療に臨まないといけないと思います。   ②利用者さんの平時の生活を想像するスキル このスキルは、利用者さんの病態などの変化を感じるために必要なスキルです。利用者さんやご家族は我々が訪問診療や訪問看護でご自宅にうかがう時、部屋の整理整頓や掃除をして頂いていることが多いです。それ自体は決して問題ではないのですが、それにより日常の生活が見えなくなることがあります。 探偵力 例えば、日常から部屋を掃除されている方が、さまざまな要因から掃除の頻度が下がり、訪問診療や訪問看護の前だけ実施する場合などがあります。訪問者である我々から見ると、部屋は綺麗になっているため、掃除の頻度が低下していることに気付きにくくなり、その要因の発見が遅くなります。同様に、トイレに行っているかどうかなどについても、ご本人は事実と異なることを言われることがあります。これらに対して、我々は疑いの目というより、変化を感じる視線が必要となります。平常時を推察するために、特に独居の方などは、訪問した際に部屋の隅などを見て、その清潔感などの変化をみます。あるいは、トイレであれば、トイレットペーパーの端を折り曲げたり、トイレのスリッパなどを揃えて帰り、次回訪問時に、それらを確認し、トイレを実際に使っているかどうかを推察したりすることができます。また家屋や本人の臭いの変化などももちろん重要となります。要は利用者さんの日常の変化に気付く「探偵力」が必要となるのです。やはり我々がベンチマークとするべきは、利用者さんの日常です。これらのちょっとした生活環境の変化などに気付くことで、本人の病態や考え方の変化、家族を含めた介護力の変化を推測し、サービス提供方法の検討に生かすことが重要です。   医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士久富護東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

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