A08やさしい心で「もしも」に強くなる

インタビュー
2021年3月9日
2021年3月9日

備えがあれば、コミュニケーションでも困らない

前回は、災害時個別支援計画の概要や作成の経緯についてお伺いしました。今回は実際どのようにして支援計画を立てているか佐渡本さんと下園先生にお話伺います。 利用者さんの災害意識の高まりに繋がることも ー先ほどの個別支援計画には「調整担当者」や「家族状況」を記載する欄がありましたが、作成は誰がどのようにしているのですか? 佐渡本: 基本的には、その方に合わせた原案を私たちで作成して持っていきます。その上で「こういう時はどうしようか」と利用者さんと相談しながら決めています。 ご家族や多職種との連携についてはまだ研究途中ですが、実際問題として避難物品を準備してもらう、あるいは連絡方法を考えるときにはご家族の協力が必要です。 ーケアマネジャーさんともお話されているのですか? 佐渡本: 支援が足りない方にはケアマネジャーさんや民生委員さんに入っていただかないといけないこともあります。なので、基本的には利用者さんとご家族を中心として、ケアマネジャーさんにも調整役として協力していただいて作成しています。 ー実際に災害時個別支援計画を運用したケースはありますか? 佐渡本: いえ、まだないですね。災害が起きていないので、実際に使ったことはないです。 下園: でも、意識はちょっと高まってますよね。「災害が起こった時のために準備はしなきゃね」とか「やっぱり私もちゃんと考えた方がいいかしら」と言ってくれる方もいます。 佐渡本: そうですね。避難グッズを準備してくれたり、消火器を点検してくれたり、ガスの元栓を閉めるようにしたり、そういう意識の高まりがありますね。あとは、利用者さんが私たちに対して今まで以上に信頼や安心感を持ってくださっていると感じることもありました。 まだ一部の利用者さんのみで導入しているものですが、今後ステーションとして1つの強みになるのではないかと思っています。 ーステーションの強みというのは? 佐渡本: 例えば、難病の方を担当されているケアマネジャーさんは、災害を気にされていることが多いです。 災害時個別支援計画を作成できるステーションとして、私たちを選んでいただけるようになるといいなと思っています。 地域の連携ツールとしての個別支援計画 ー最後に、災害時個別支援計画の今後の展望についてお伺いできますか? 佐渡本: 様式の基本はできましたが、例えば、医療依存度が高いか、認知機能の低下があるか、介助者がいるかなどの違いによって、作り方は変わってきます。利用者さん、看護師、ケアマネジャーさんや主治医に見てもらいながら、さらにブラシュアップしていきたいと思っています。 ー今後の課題などはありますか? 佐渡本: はい。1つは、現在の個別支援計画は時間をかけて作成していますが、利用者さんにお金をいただいているわけではないので、継続していく難しさがあることです。もう1つは、名古屋は今まで災害が少なかった地域なので、災害への理解を得るのに苦労するケースがあることです。どう浸透させて、継続していくかを今後もっと考えて行きたいですね。 下園: 私は災害時個別支援計画書そのものが、情報共有の連携ツールになると思っています。実は災害時には、利用者さん1人に対して、何人もの人が様子を見に家に行くということが発生しています。限られた時間とマンパワーの中で、すごく無駄な動きをしているんです。 ーそうなんですね。知りませんでした・・・。 下園: この無駄をなくすためにも、誰がどこに行ったとか、どんな状況かという情報を共有できるしくみが必要です。こういった情報共有ができるITツールを、開発してもらいたいなと思います。 また、災害時の避難所の体調不良者への対応など、訪問看護師さんの力をより有効活用していくことができないかとも考えています。地域全体で協力して、色々なしくみを実現していきたいですね。 合同会社Beplace代表 / テンハート訪問看護ステーション管理者 / 感染管理認定看護師・臨床検査技師 佐渡本琢也 臨床検査技師として勤務する中で、患者と接する仕事に魅力を感じ、看護師の道へ。病院では脳神経外科、消化器外科を経験し、感染管理認定看護師の資格を取得。母を癌でなくした経験から「在宅で看護師ができることが、まだあるのではないか」という思いを持ち、同僚からの誘いをきっかけに愛知県名古屋市にテンハート訪問看護ステーションを立ち上げた。 愛知医科大学 医学部衛生学講座 客員研究員 下園美保子 阪神淡路大震災、東日本大震災を経験。東日本大震災では保健師として岩手県山田町の災害救護班の一員として、各家の訪問や避難所運営の管理に従事。その後、学生に対する災害対策マニュアル作成、大学のBCP作成など、災害に関わるプロジェクトや研究にも携わる。

インタビュー
2021年3月2日
2021年3月2日

もしもに対応できる!災害時個別支援計画

テンハート訪問看護ステーションでは、愛知医科大学の下園先生と共同で、利用者さんごとに個別で災害時個別支援計画を作成し、「もしも」に備えています。具体的な支援計画の作成方法と共同開発することになった経緯を伺いました。 「ぱっと見て、さっと動ける」がコンセプト ーどのような経緯で、訪問看護ステーションと大学が共同で災害時個別支援計画を作ることになったのでしょうか? 佐渡本: 経緯としては、まず自分たちで一般的な訪問看護ステーションの災害対策マニュアルを作って、模擬訓練をやっていたんです。でも実際訓練をしてみると、利用者さんそれぞれの状況や環境がかなり異なっていて、制作したマニュアルが現実的ではないと気づきました。 ー現実的でないというのは? 佐渡本: 実際震災が起きたときに自分たちがどう動くかが見えない、概念的なマニュアルになっていたんです。 災害が起きた時に誰がどう動くか、何をするかが具体的に書いてあるマニュアルを作りたいと思いました。下園先生とは元々懇意にしていて、たまたまこの話をしたところ、興味を持っていただきました。 下園: 実は私の研究室の学生が、難病で在宅療養している方の災害対策に強い問題意識を持っていて、災害時個別支援計画の研究をしていたんですね。佐渡本さんと話した時に「実はこんなことを学生がやってて」と言ったら「うちもこんなことに困ってて」というお話があったので、そこでマッチしたのがきっかけです。 ー偶然にもお互いの課題が一致したんですね。 佐渡本: この偶然をきっかけに、下園先生に災害対策マニュアルの作成に協力していただくことになりました。 災害時の動き方を全部網羅できるわけではないけれど、1つのツールとして災害時個別支援計画を作成してはどうかという話になったんです。 ー具体的にどのようなことが記載されているのでしょうか? 佐渡本: 災害が起きた際に利用者さんご自身が「ぱっと見て、さっと動ける」ために必要なことを書いています。訪問看護師や行政が動くことが難しい中でも、ご利用者さんが1人でも生き延びるためのものです。避難所に避難される方であれば避難所に行くまでの動き方、自宅避難の方であれば自宅で生活できる環境の整え方を記載しています。 下園: 個別支援計画を作成することはステーションにとってもメリットがあります。1つは、災害が起きてもやることが決まっているため焦らず対処できること、もう1つは責任の範囲が明確化されることです。 ー責任の範囲の意味を教えて下さい。 下園: 例えば、訪問看護に向かう道中に震災が起きたとします。災害時の行動を決めておかないと、「待っていたのに看護師さんが来なかった」ということになるリスクがあります。 ーリスク回避のためにはどうしたらよいでしょうか? 下園: 個別支援計画で、災害時に利用者さんは何ができるか、何をする予定かが決まっていれば、あらかじめ利用者さんやご家族に説明しておけます。災害が起きた際は「看護師は自分の身の安全確保を最優先し、訪問へは行きません。訪問が終わって帰る道中でも同様です」ということも事前に説明しておけば トラブルを未然に防ぐことができます。 被害の想定まで行うことで具体的な行動レベルに ー実際の災害時個別支援計画を見せていただけますか? 佐渡本: はい、改良を続けているので今は少し違うものになっていますが、こちらが2019年に学会で発表したときのものになります。 下園: 各項目について簡単に説明しますね。 「調整担当者」は利用者さんの全体状況を見通してマネジメントできる方、「家族状況」は実際に連絡がつき動けるご家族を明記します。 この2つの項目は、被災時に訪問看護ステーションが動けなかったとしても、自分自身で行動するのに必要な情報です。「想定被害」は、利用者さんの家の場所と想定震度から被害を想定したものです。 この被害の想定には、名古屋市が出している液状化危険度マップや津波到達時間想定マップを利用していますが、この作業がとても大変なのが今の課題です。 ー想定は、大変でも必要不可欠な要素なんですね。 下園: きちんと想定ができていないと、どこに避難すべきか、何をすべきかを決めることができません。そのほか、裏にはかなり細かく具体的な行動を書けるようになっており、悩まず行動ができるように工夫しています。「想定被害」の記載があることが、私たちの災害時個別支援計画の大きな特徴だと思います。 合同会社Beplace代表 / テンハート訪問看護ステーション管理者 / 感染管理認定看護師・臨床検査技師 佐渡本琢也 臨床検査技師として勤務する中で、患者と接する仕事に魅力を感じ、看護師の道へ。病院では脳神経外科、消化器外科を経験し、感染管理認定看護師の資格を取得。母を癌でなくした経験から「在宅で看護師ができることが、まだあるのではないか」という思いを持ち、同僚からの誘いをきっかけに愛知県名古屋市にテンハート訪問看護ステーションを立ち上げた。 愛知医科大学 医学部衛生学講座 客員研究員 下園美保子 阪神淡路大震災、東日本大震災を経験。東日本大震災では保健師として岩手県山田町の災害救護班の一員として、各家の訪問や避難所運営の管理に従事。その後、学生に対する災害対策マニュアル作成、大学のBCP作成など、災害に関わるプロジェクトや研究にも携わる。 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年2月24日
2021年2月24日

感染管理認定看護師に聞く、新型コロナの感染対策

テンハート訪問看護ステーション管理者の佐渡本さんは「感染管理認定看護師」の資格をお持ちです。訪問看護ステーションでも参考になる、新型コロナウイルス感染症をはじめとした感染症予防で気をつけるべきことについて伺いました。 在宅でも気をつけたい、個人防護服の管理 ー新型コロナの疑いの利用者さんがいる時はどうしていますか? 佐渡本: まずは、訪問に行くか行かないかは主治医と相談して決めています。以前、利用者さんで新型コロナ感染疑いの方がいたのですが、その時は主治医と相談してサービスを一旦停止しました。 熱がある患者さんを訪問する時は、しっかり個人防護具を着て、マスクやフェイスシールドをつけて対応しています。ここでひとつ見落としがちなのが、個人防護具を外す時の感染リスクです。 ー「個人防護具を外す時」ですか。 佐渡本:   例えば、手袋を外す時やマスクを外す時に、不潔な部分に触れて手などにウイルスが付着してしまうことがあります。ですので、個人防護具を「つけているから大丈夫」ではなく「外して、破棄して、手洗いする」ところまでやって、はじめてきちんした感染症対策になると思います。 ー個人防護具を扱う際の注意点など、詳しく聞かせてください。 佐渡本: 個人防護具を外すタイミングは、利用者さんと2メートル以上離れた、部屋の出口や玄関先でいいと思います。その際も、脱いだエプロンで手や周囲を汚染しないように注意してもらえればと思います。 もうひとつ可能であれば実践してもらいたいのが、新型コロナに感染した疑いの利用者さん自身にもマスクを着用していただくことです。言わないとマスクをしてくれない利用者さんも多いかと思いますが、お互いにマスクをしていれば感染のリスクは下がります。 訪問看護師の持ち物も清潔に ー新型コロナ感染症に限らず、普段の感染症対策で大切にしていることを教えてください。 佐渡本: スタンダードプリコーション(標準予防策)は徹底しています。手洗いとか咳エチケットですね。 あとは物品の取り扱いですね。体温計とか血圧計など、利用者さんごとに消毒して綺麗にリセットすることを徹底しています。 ーこれは見落としがち、というものはありますか? 佐渡本: 在宅ではあまり問題視されていないのですが、気を付けないといけないと思うのが、多剤耐性菌です。 多剤耐性菌は健康な私たちには悪さをしませんが、高齢の方にはリスクになる菌です。 処置後の手洗いはもちろんですが、菌を次の家に持ち運ばないように気をつけるよう、いつもスタッフに指導しています。 また、訪問バッグの中の物を清潔に管理するのも訪問看護師として大事なことだと思います。 訪問バッグ自体も、もし床面に置いた場合は拭くなどして綺麗にしておいた方がいいと思います。 ステーションが全滅しない感染対策を ー最後に、感染管理認定看護師として他のステーションへのアドバイスなどあればお願いします。 佐渡本: ステーション運営の上で重要だと思っているのは、仮にスタッフに新型コロナウイルス感染症の陽性者が出たとしても、ステーションが全滅しない対策を取ることです。 例えば陽性者が1人出た時、保健所から「スタッフ全員が濃厚接触者です」と言われてしまったら、2週間休業になってしまいます。もし陽性者が出ても、濃厚接触者には当たりません、と言ってもらえるような対策を常に取っておくことが大事だと思います。 あとは、プライベートでも気を抜かずにスタッフみんなが予防を意識することも必要です。 ー万が一感染してしまった場合はどうしたらいいでしょうか? 佐渡本: どれだけ細心の注意を払っていても、感染してしまうことはあると思います。 実際に自分やスタッフが感染しても慌てないように、あらかじめ起こりうることを想定して、対策を具体的に考えておきましょう。これは災害対策も一緒ですね。 例えば、利用者さんとスタッフの体温をチェック表に毎日書いて管理するなども有効だと思います。見える化されていることで、早期に異常を発見できることもあると思います。 合同会社Beplace代表 / テンハート訪問看護ステーション管理者 / 感染管理認定看護師・臨床検査技師 佐渡本琢也 臨床検査技師として勤務する中で、患者と接する仕事に魅力を感じ、看護師の道へ。病院では脳神経外科、消化器外科を経験し、感染管理認定看護師の資格を取得。母を癌でなくした経験から「在宅で看護師ができることが、まだあるのではないか」という思いを持ち、同僚からの誘いをきっかけに愛知県名古屋市にテンハート訪問看護ステーションを立ち上げた。   新型コロナ感染症対策についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年2月16日
2021年2月16日

皆にとって「よりよい場所」を

テンハート訪問看護ステーションは、新型コロナ流行以前から感染症対策や災害対策など「もしもへの準備」に力を入れています。 ステーション管理者であり、合同会社Beplace代表でもある佐渡本琢也さんは実はもともと臨床検査技師として働かれていたそうです。今回は、佐渡本さんがどんな思いでステーションを設立し、運営しているか伺いました。 自分の想いを追求した先にあったもの ー臨床検査技師から訪問看護師へ、それもステーションを経営するという選択をされていますよね。背景には、どんな思いがあったんですか? 佐渡本: 看護師へ転職したのは、患者さんとコミュニケーションする仕事の方が、検体相手の仕事より向いていると思ったからです。その上で、訪問看護ステーションの経営をしようと思ったのは、「自分の考える看護を追及したかったから」です。 看護師の中には、患者さんに対して敬語を使わなかったりきつい態度取ったりする人もいます。でも、それは違うと思いました。私は、利用者さんやご家族の思いを大事にする看護をしたかったんです。 医療面だけではなく「人生をみる」と言ったらおこがましいですが、人生に関われるような看護をしていきたいと思っています。 訪問する時も常に、「他にもっとできることはないかな?」と考えています。 ーステーション名の「テンハート」には、どんな意味が込められているのでしょうか? 佐渡本: 「テンハート」はもともと「Tender Heart(やさしい心)」という言葉から取った造語なんです。 スタッフにはいつでもやさしい気持ちでいることを意識してもらっています。 また、会社名の「BePlace」も、「Better Place」を短縮した、私たちが作った造語です。 経営理念にもしているように、利用者さんにとっても、ご家族にとっても、働くスタッフにとっても、「すべての人にとってよりよい場所を」という気持ちを込めて名付けました。 利用者さんやご家族から「いてくれてよかった」と思ってもらえるような看護をモットーに、気持ちの部分だけでなく、医療面や身体面でも、信頼してもらえるステーションを目指しています。 「テンハートなら大丈夫」と言ってもらえる地域密着ステーションへ ーステーションを運営する上で、心掛けていることはありますか? 佐渡本: なんでも話しやすい雰囲気を作るようにしています。 なぜなら、雰囲気が悪いと、報告・連絡・相談がスムーズにできなくなってしまうからです。 スタッフ間の年齢差は大きいですが、明るいムードでスタッフ同士が仲良く働けていると思います。 ーテンハートの特徴は、どんなところでしょうか? 佐渡本: 特徴と言えるかわかりませんが、ケアマネジャーさんから「ちょっと難しい方だけど、テンハートさんなら大丈夫だと思って」と電話をいただくことがあります。そういう風に言ってもらえると嬉しいですね。 利用者さんの割合としては、高齢者の方が多いですが、怒りっぽい性格の方や気難しい方など、対応が難しいケースの依頼も多いですね。 ーステーションとして今後、チャレンジしたいことはありますか? 佐渡本: 地域に根付いて、自分たちの理念に共有してくれる仲間と運営していきたいと思っています。 たくさん展開したいという訳ではありませんが、もう1ステーションは名古屋市内で早めに作りたいですね。 あとは、訪問看護ステーション以外にも「すべての人にとってよりよい場所を」提供できるような別事業も展開していきたいと思っています。 合同会社Beplace代表 / テンハート訪問看護ステーション管理者 / 感染管理認定看護師・臨床検査技師 佐渡本琢也 臨床検査技師として勤務する中で、患者と接する仕事に魅力を感じ、看護師の道へ。病院では脳神経外科、消化器外科を経験し、感染管理認定看護師の資格を取得。母を癌でなくした経験から「在宅で看護師ができることが、まだあるのではないか」という思いを持ち、同僚からの誘いをきっかけに愛知県名古屋市にテンハート訪問看護ステーションを立ち上げた。

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