訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント

特集 会員限定
2022年8月30日
2022年8月30日

【セミナーレポート】vol.3 専門家が考える正しいフットケアQ&A ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に実施した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。講師に皮膚科医の高山かおる先生、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、訪問看護の現場における足元のケアについて考えました。セミナーレポート第3回となる今回は、Q&Aセッションの様子をお届けします。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい?▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは?▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて!▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある?▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は?▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない?▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 --> ▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい? 【質問】白癬を患っている利用者さんが多く、厚く、脆くなっている爪を整える場面がよくあります。脆い爪は際限なく削れてしまうのですが、どこまでケアしたらいいのでしょうか? 【回答】高山先生:出血などしない程度であれば、自然に剥離してしまっている部分は削ってしまっても問題ありません。爪が靴下などに引っかからないようにする、隣の指を傷つけるなど危なくないようにするという意識をもってもらうといいと思います。 ▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは? 【質問】肥厚した爪、巻いている爪はどのように除去したらいいですか? 【回答】大場さん:まずはその方が歩けるかどうかで、残す爪の長さを検討してみましょう。歩く方の場合は、痛みが出ないように配慮しつつ、ある程度の長さを保って端から切っていきます。爪が皮膚に食い込んでいる場合はヤスリを使ってください。ただ、巻き爪は長くなればなるほど巻きが強くなるので要注意。あとは炎症が起きていたり、化膿していたりする場合は処置が必要になるので、その見極めも重要です。 高山先生:痛みがなければ、巻き爪であること自体は悪いことではありません。大場さんがおっしゃるとおり、伸びてしまうと先端が丸くなるので、適切な長さに整えることが大切です。すでに痛みを訴えている方の場合は、痛むポイントを探してあげて、そこに念入りにヤスリをかけるのもいいですよね。 大場さん:そうですね。痛みを取り除いてあげるだけでも、歩けるようになりますから。ADLの低下だけは避けたいので、私も歩行に支障が出ないようなケアをすること、自身では対応できないケースは訪問看護師さんにお願いすること徹底しています。 ▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて! 【質問】大場さんが現場で使用している愛用のヤスリを教えてください。 【回答】大場さん:基本的にダイヤモンド平ヤスリを使っています。 高山先生:厚い爪甲も削れますか? 大場さん:はい、ほとんどのケースで削れますよ。煮沸消毒できるので、衛生面を考えてもおすすめです。 ▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある? 【質問】次回の診療までに、訪問看護の現場でやっておくべき白癬の応急処置はどんなものですか? 【回答】高山先生:きれいに洗ってもらえれば十分です。白癬の餌は角質なので、足浴と保湿で角質をなくしてあげれば、症状は進行しにくくなります。なお、ワセリンで白癬が繁殖することはないので、保湿もしっかり行ってください。特別なことをして刺激を与えるより、基本的な処置を徹底してくださいね。 ▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は? 【質問】利用者さんから、まだあまり爪が伸びていない段階で「切ってほしい」とお願いされて判断に迷います。深爪にしてはいけない理由はあるのでしょうか? 【回答】高山先生:足の爪には体重の負荷を支える役割があるため、深爪はNGです。爪を切りすぎたり、斜めに切ったりすると、巻き爪につながってしまいます。また、そもそも適切な爪の長さを知らずに長年深爪にしてしまい、結果巻き爪になってしまっている方も多く見られます。まさに生活習慣病ですね。この利用者さんには、靴下に引っかかるなど不快な状態にならないように、ヤスリのかけかたを教えてあげるといいと思います。 ちなみに、歩行時にきちんと踏み込めている方は、理論的には深爪にはできません。なぜかというと、きちんと指先まで使って踏み込んで歩くためには、硬さのある爪が必要不可欠だからです。足を踏み込むと床反力(足と床の接地部分にかかる反力)が生じますが、必要十分な長さの爪がないと、この床反力が上手く体に伝わりません。つまり深爪にしてしまう方は、きちんと歩けていない可能性も高いと考えられます。 ▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない? 【質問】足底の白癬で皮膚が肥厚している方に対し、足浴時に軽石で削りながら洗い、保湿剤を塗布することを一年半ほど続けています。現在は肥厚部がかなり薄くきれいになりましたが、この方法を続けてもいいでしょうか? 【回答】高山先生:軽石でゴシゴシ削ることには賛成しかねますが、削りすぎにならない程度に、目の細かいヤスリをかけるのはいいと思います。ただ、濡れている足を削ると傷がつく恐れがあるので、風呂場などで行うのは控えてください。削りすぎて逆に皮膚が厚くなってしまう可能性もあります。このケースでは、おそらく保湿剤をしっかり塗っていることが効いているのだと思いますね。 ▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 【質問】爪切りに使う器具の洗浄はどのようにしていますか? 【回答】高山先生:体液がつかなければ、表面の汚れを落として乾かす、つまり除菌すれば十分だと考えています。もちろん、出血が見られたときなどは滅菌が必要ですが。衛生管理の専門家の先生に聞くと、大切なのは毎回同じ工程で洗浄することとおっしゃいますね。そうすることで習慣化でき、洗浄不足になることを防げるので。器具のどこをどうやって何回洗うか、ルールを決めて実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年8月23日
2022年8月23日

【セミナーレポート】vol.2 具体的なケア方法 ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に行われたNsPace(ナースペース)の訪問看護師向けオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。皮膚科専門医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、それぞれの視点から高齢者の足元のケアについてお話をいただきました。セミナーレポート第2回となる今回は、大場マッキー広美さんによる「在宅でのフットケアの実際」をご紹介します。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 ・ケアプランの具体的な記載方法▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ・まずはよく観察する ・爪切りの流れとポイント ・足浴(清拭)のポイント▶ フットケアがもたらす心身へのメリット --> ▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 足や爪のトラブルは、転倒や下肢筋力の低下、ADL・QOLの低下につながるリスクが大変高い重大な問題です。訪問看護師のみなさんにはそのことを理解していただき、ぜひフットケアを看護の一環として積極的にケアに組み込んでほしいと思っています。 具体的なアクションとしては、まず利用者さんの足の状態をよく見て、医師に報告します。その上で、訪問看護指示書にフットケアについてしっかりと記載してもらい、ケアプランに盛り込むといいでしょう。その際、ケアマネージャーやご家族の方々にも、フットケアの必要性や期待される効果を説明してあげてください。 なお、訪問看護ステーションでのフットケアの提供方法については、自費サービスのメニューに組み込むことをご提案しています。 ケアプランの具体的な記載方法 ケアプランの記載方法に決まりはありませんが、私は単に『フットケア』とだけ書くのではなく、足浴や足の清拭、軟膏の塗布、爪切りなど、具体的なアクションの一つひとつを明記するといいと考えています。 ▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ここからは、実際に現場で提供するフットケア、爪切りと足浴(清拭)のノウハウをご紹介していきます。 まずはよく観察する まず、足や爪の状態をチェックする上で注目すべきポイントを細かく確認します。利用者さんの足を見る際は、以下の点に着目してみてください。 ・皮膚や爪の色・爪の長さ、厚さ、形・足の指の状態(伸びた爪で傷がついていないか など)・浮腫の有無・皮膚の温度、乾燥の具合・関節や皮膚の硬さ・脈 とくに爪の長さは要チェック。伸びたまま放置されているケースが多く見受けられます。 爪切りの流れとポイント STEP 1 ゾンデで爪と皮膚の境界線を分ける安全に爪切りを行うためには、ゾンデという細い棒状の器具を使って、まず爪と皮膚の境界線を分けましょう。フリーエッジ(爪床とつながっていない部分)にゾンデを優しく差し込み、しっかりと『切れる部分』を確認してください。このとき、ゾンデで溜まった汚れや角質を掃除すると、境界線を確認しやすくなりますよ。このゾンデを使った事前準備を怠ることで、出血してしまう爪切り事故が起きやすくなります。大きな問題がない爪であれば介護士も切ることができるので、ぜひ介護職の方にもやりかたを指導してあげて、現場でうまく分担できるようにしてみてください。 STEP 2 ニッパーで爪の端から切る爪と皮膚の境界線を確認したら、ニッパーで切っていきます。その際、爪の端から切ることで、短く切りすぎたり皮膚を巻き込んだりといった事故を防げます。なお、爪が厚い、もしくは固い場合は、まずは横からニッパーを入れて切り、次にその先端部分に向かって縦に切ると上手にカットできます。また、爪の長さをどのくらい残すかは、利用者さんの生活によって判断が異なります。歩ける方はある程度の長さをとっておかなければなりませんが、歩かないのであれば短く整えてもいいでしょう。 STEP 3 ヤスリでなめらかに整える次に、ヤスリで爪を整えましょう。ニッパーで切っただけだと角が残り、隣の指を傷つけてしまったり、靴下の繊維に引っかかって痛みが生じたりすることがあります。指で爪に触れて、引っかかりがないくらいを目指してください。また、爪に厚みがある場合は上から削ってもいいと思います。 なお、爪切り後は皮膚の状態をチェックしましょう。長年爪に覆われていた部分の皮膚は弱く、ひどい場合は傷になっていることもあります。爪切り直後はぬるま湯につけただけで皮膚がピリピリすることもあるので、扱いには細心の注意を払ってください。 足浴(清拭)のポイント フットケアにおいて、保清・保湿は重要なポイントです。足浴(清拭)を行い、仕上げに保湿する流れは、ぜひ実践していただきたいと思います。ここで間違えてほしくないのが、単に温かい湯に足をつける『足湯』ではなく、足を洗う『足浴』が必要だということ。清潔保持の観点では、石鹸を使って足の指や趾間まできちんと洗うことが大切です。 ▶ フットケアがもたらす心身へのメリット フットケアには、おそらくみなさんの予想を超えた効果があります。これまで外出できなかった方が少しずつ歩けるようになるといった事例は、決して珍しくありません。巻き爪、陥入爪、むくみなどが改善することで、歩くのが億劫ではなくなるのです。 また、利用者さんとの信頼関係が深まることも大きなメリット。私はこれまで、「今まで足元のケアなんてしてもらったことがない、うれしい」ととても喜んでくださる利用者さんをたくさん見てきました。高齢者の中には、自分の爪は一生このままよくない状態なのだと諦めている方が多いので、爪が短くきれいになるだけで心情に大きな変化があるのです。 利用者さんの身体にも心にもいい影響を与えるフットケア、訪問看護の現場にもっと浸透してほしいと考えています。 次回は、「専門家が考える正しいフットケアQ&A」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年8月16日
2022年8月16日

【セミナーレポート】vol.1 フットケア アセスメント ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、訪問看護師の方に向けて「フットケア・爪のケアのポイント」をご紹介しました。講師は、皮膚科医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。第1回の本記事では、高山先生にお話いただいた「高齢者のフットケア アセスメント」についてまとめます。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ フットケアの重要性 ・足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病▶ 足や爪のトラブルの原因 ・白癬 ・皮膚の老化 ・筋力や関節可動域の低下▶ フットケアに期待される効果 ・足浴の効果は絶大▶ 爪切り難民を救うために必要なこと --> ▶ フットケアの重要性 日本は人生100年時代を迎え、超高齢社会に突入しました。そこで考えなければならないのが、介護を要する年数を短くする方法です。介護を要する年数とは、すなわち経済を圧迫する年数。私たち足育研究会は、国民にのしかかる負担をこれ以上増やさないためにはどうしたらいいか、足元に着目してその解決策を模索しています。なぜなら、足や爪のトラブルは歩行に支障をきたすため。歩けなくなることは、介護が必要になるリスクに直結します。 足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病 足元のトラブルは生活習慣病であり、そのスタートは子ども時代にあります。私は日ごろから子どもたちの足を見ていますが、すでに足趾の変形が認められ、爪のトラブルが発症しているケースは少なくありません。これを放っておくと、加齢に伴い足趾の変形はさらに強まり、爪に不可逆的なトラブルが起こり、重症化します。そうして転倒しやすくなったり、痛みなどが生じて歩けなくなれば、フレイルや寝たきりになるリスクが高まったりもするでしょう。私たちは、この負のスパイラルをできるだけ早く断ち切るべく取り組んでいます。訪問看護師のみなさんにおかれましても、ぜひ足元のトラブルの成り立ちや患者さんが被る不利益を理解し、積極的にケアにあたっていただければと思います。 ▶ 足や爪のトラブルの原因 高齢者の足や爪のトラブルの代表的な原因としては、以下の3つが挙げられます。 白癬 非常に多くの高齢者が罹患している白癬は、爪を悪くする原因になります。爪は、爪母と呼ばれる皮膚に隠れた根元の部位でつくられ、爪床という『爪のベッド』に沿って前へと運ばれて、常に新しいものに置き換わる構造になっています。 そもそも、白癬というのは、足の白癬から始まります。①足の水虫(白癬)を放置してそれが爪に入ると②のような「くさび形」になるなどの変化が生じます。②の状態であれば、まだ爪の形を保ち、爪としての機能も果たせているケースが多いです。しかし、そのまま放置して重症化すると③のように変化して、爪の機能を果たせなくなるほどになります。糖尿病や下肢の末梢動脈疾患を抱えている方、もしくは透析を受けている方などのケースでは、④のような壊疽にもつながります。 皮膚の老化 高齢者の皮膚は、褥瘡をつくりやすい状態にあります。具体的な特徴は以下のようなものです。 【表皮】表皮細胞が減少し、免疫やターンオーバー、皮膚感覚が低下します。また、角層では皮脂の分泌が減り、天然保湿因子が枯渇して、強い乾燥が起こります。これによりバリア機能が低下したり、亀裂が生じたりして、アレルゲンや細菌などが皮膚内部に入りやすくなります。 【真皮】コラーゲンや弾力繊維が減少し、血管に変化が起きます。それが外力に対しての脆弱化を招き、創傷治癒力のさらなる低下、血管の閉塞をもたらします。 【脂肪組織】著明に萎縮します。とくに踵は筋肉がなく、脂肪組織だけで守っているため、ダメージを受けやすくなります。 筋力や関節可動域の低下 関節可動域が低下することで通常の歩行ができなくなり、皮膚や爪に過度な、もしくは不適切な負荷がかかって、指先を傷めたり爪が変形したりします。私たち足育研究会の調査では、巻き爪は足趾間力の低下がもたらしているというデータも得られました。 また、膝や股関節の可動域の低下、さらには筋力の低下によって座り方も変化します。大腿部をそろえて座ることができなくなり、足がパカッと開いてしまうのです。すると、踵の外側に強い圧力がかかり、褥瘡が現れやすくなります。 このように足や爪のトラブルの背景には、皮膚や関節、筋肉の変化など、さまざまな要因があります。これ以外にも、靴の問題なども深く関係してきます。こうした全身的な老化現象、生活習慣の果てにあるのが、高齢者の足の問題なのです。 先ほども少し触れたとおり、問題の発端は子ども時代にさかのぼります。柔らかい足で合わない靴を履いたり、運動量が不足したり。そして、足のケアが不足した状態も続き、やがては白癬や膝・腰の痛み、糖尿病、脳梗塞などの合併症が起きて、足元のトラブルにたどり着く……足や爪の状態は、その人の人生を色濃く反映しているといえます。 ▶ フットケアに期待される効果 そんな足や爪のトラブルを抱えた高齢者にぜひ行ってあげてほしいのが、フットケアです。肥厚した爪甲のケアは、フレイルやサルコペニアなどの予防につながることがわかっています。歩いても痛みがない状態、靴下などに引っかからない状態に爪を整えてあげることで、下肢機能の低下を改善できるからです。現場では、フットケア後に今まで運動できなかった方が歩き出したというケースはよく見られます。 また、爪白癬を患う要介護者に積極的にフットケアを行ったところ、実施期間中は介護度が上がらなかった、つまりADLを維持できたという研究結果もあります。歩ける期間をできるだけ長くするために、そして歩けない方も安全・安楽・衛生的に過ごすために、フットケアをやらない理由はありません。 足浴の効果は絶大 フットケアの中でぜひ行っていただきたいのが、足浴です。利用者さんに気持ちいいと感じてもらえることはもちろん、皮膚や粘膜の機能と関連のある器官を正常に保って感染を予防できる、筋肉を温めながらマッサージすることで運動効果を得られるなど、さまざまな効果が期待できます。継続的に足浴を実施すると、足関節の背屈可動域が改善するというデータも出ているほどです。足は『感覚臓器』。足浴で触ってあげる、少し動かしてあげることで、正常な感覚を呼び戻してあげてください。 ▶ 爪切り難民を救うために必要なこと このように、高齢者へのフットケアは大変重要であるにもかかわらず、『爪切り難民』は少なくありません。とくに介護を受けておらず、病院にも通っていない方は、多くの場合適切な爪のケアを受けられずにいます。 近年、足育研究会では爪切り難民対策として薬局に専門家を派遣してフットケアを行う取り組みを全国で始めていますが、こちらは要介護予備軍の方々を対象としています。介護を受けている方は自宅や施設で爪切りができることが前提の取り組みです。訪問看護の現場や、高齢者施設などは、当然『患者さんの足を守る場所』であってほしいと考えています。 みなさんには、高齢者の足の衛生や機能を守るという意識をもって、ぜひできる範囲でフットケアに取り組んでいただければと思います。 次回は、「在宅でのフットケアの実際」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

× 会員登録する(無料) ログインはこちら