訪問看護師の働きかた:在宅治験と自費訪問看護

特集
2022年5月17日
2022年5月17日

自費の訪問看護

訪問看護師は保険外のサービスを提供することもあります。このシリーズでは、そんな保険外サービスとして、在宅治験と自費訪問看護を取り上げます。前回は、保険の枠外、利用者自己負担で提供する訪問看護です。 保険外で訪問看護を提供するには 医療保険・介護保険の制度のもとでは、皆さまもよくご存じのとおり、訪問回数の上限や利用限度額が決まっていて、本人が強く希望しても、保険制度が認める対象外であれば訪問看護を利用することはできません。 一方、保険制度の範囲を超えて、自己負担利用での訪問看護も提供している事業所も多くあります。 たとえば、24時間在宅看護が必要な人で夜間のケアに手が足りない、制度内の訪問看護だけではご家族の負担が大きすぎる場合や、旅行や家族の結婚式参列への付き添いなどに、自費サービスが威力を発揮します。 医師による訪問看護指示書 保険外で提供する看護であっても、主治医に訪問看護指示書を書いてもらうことは必須です。これは医療保険・介護保険での訪問看護と同様です。 たとえ医療行為の提供はなく、外出や旅行の付き添いなど療養上のケアだけであっても、医師の指示書は必要です。保険での訪問看護も利用されたうえで自費の訪問看護を利用される場合は、保険の分の指示書と自費の分の指示書を別々に発行してもらいます。 他に注意することとしては、保険での訪問看護と連続した時間で、自費枠の訪問看護を提供してはいけないといった決まりがあります。 旅をしたいご希望をかなえる支援 自費サービスならではの仕事の一つに、旅行への同行があります。 旅行同行の相談を受けると、その方が車いすか、自立歩行がどれくらい可能かを見きわめ、行く先々の交通機関やバリアフリーマップを手に入れることから始まります。 介護タクシーの手配や病院への連絡が特に重要です。万一、救急車に搬送されたときにすぐ診てもらえるよう、かかりつけ医の指示書、旅行先での対応可能な病院への紹介状も書いてもらいます。ご家族にも旅行に行くことで急変することもあると伝え、リスク説明はより慎重に行います。 最近は、バリアフリー、介護に対応しているホテルや旅館も増え、以前より旅行はしやすくなりました。「要介護になっても旅行に行きたい」というニーズは今後も増えそうです。 自費訪問看護のよさ 自費サービスと通常の訪問看護の大きな違いは、患者さん・利用者さんと接することができる時間の長さです。一緒に過ごす時間が長いことで、本人のご要望や、どういうリズムで生活しているのか、ふだんはどんなものを食べているのかなど、保険での提供では見えなかったものを把握することができます。 事業所と利用者さんの契約によりますが、訪問看護師という専門職の仕事ではないとされているような、たとえば車いすでのお散歩、買い物への同行、ご家族の話し相手になったり悩みを伺ったりも、保険外だからこそご希望に応えることができます。 自費訪問看護の料金設定 自費サービスは診療報酬とは違い、独自に価格を設定できますが、診療報酬よりも低い価格設定としている事業所が大半です。 保険制度では、患者・利用者さん本人はかかった金額の一部しか負担せず、残りは保険から支払われます。公費対象の人では全額公費負担のこともあります。保険で訪問看護を利用することは、自己負担分以外は保険から支払われるので、「あなたが利用できるのはここまで」という縛りがあります。 これが、自費で利用する場合は、全額自己負担になります。つまり、1割負担の人であれば、診療報酬と同額の自費サービスを利用すると、「同じ時間なのに10倍高い」ととらえられてしまいます。 保険内で安く訪問看護サービスを利用しなれている人に、いきなり10倍の値段を提示することはなかなか難しいため、自費サービスは、診療報酬よりも低い価格設定にせざるを得ないのだと考えられます。 また、保険診療では、事業所の収入は自己負担+保険からの支払です。看護師の給料もそこから出ます。自費サービスでは、もちろん保険からの支払はなく、患者・利用者さんからの自己負担だけです。入ってくるお金が少なければ、訪問した看護師が受け取る報酬も高くできないのが現状です。 ただ自費サービスは、認められたことしかできない保険サービスとは違い、事業所が価格やサービス内容を設計できる自由度があります。患者・利用者さんのニーズをうまくとらえたサービス提供によって、利益拡大、従業員への還元、地域でのブランド確立など、成功を収めている事業所も少なくありません。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年4月19日
2022年4月19日

在宅治験で活躍が期待されている訪問看護師

訪問看護師は保険外のサービスを提供することもあります。このシリーズでは、そんな保険外サービスとして、在宅治験と自費訪問看護を取り上げます。今回は、在宅治験の紹介です。治験といえば、通院や入院が必要なものでしたが、近年、在宅治験という言葉を目にする機会が増えました。ここに、訪問看護師の活躍が期待されています。 治験とは 医療機関で勤務していると、「治験」にかかわる機会もあると思います。 治験とは、「新薬の候補」を、実際に人に投与して行う臨床試験のことです。厚生労働省の承認を受ける前の、新薬開発の最終段階で行われるもので、健康な人や患者さんに協力していただき、人での効果と安全性を調べるのです。 治験は病院で行われますが、・医療設備が十分に整っていること・責任を持って治験を実施する医師・看護師・薬剤師等が揃っていること・治験の内容を審査する委員会を利用できること・緊急の場合には、ただちに必要な治療・処置が行えることという要件を満たす必要があります。 在宅治験がクローズアップされている背景 病院で行われる治験では、被験者(治験に協力する健康な人や患者さん)は、病院に行く必要がありますし、場合によっては入院も必要になります。 そのため、被験者を見つけることが困難なケースもありますし、治験がなかなか進まないケースもあるのです。さらにコロナ禍では、治験のために通院することや、院内で行われる対面での説明や手続きなどでの、感染リスクも問題になります。 これらのことから、厚生労働省では、被験者の来院に依存しない治験(分散化臨床試験:DCT)を国内で実施できるよう、規制の整備を進めています。 もちろん、医療体制が十分整った環境で、医師・看護師・薬剤師等が責任を持って行うという基本は変わりません。そのうえで、被験者がオンラインで説明を受けることができ、病院に行かず在宅で治験参加ができる、そんなしくみを導入しようとしているのです。 訪問看護師の活躍が期待されている ここで期待されているのが訪問看護師です。 病院で行われる治験と同様に、在宅でも、治験に必要な採血や検査が必要です。被験者の自宅などに伺って、医療行為を行い、健康観察を行うことが必要ということです。これは訪問看護師が、日ごろ行っていることです。 そして、前述の「緊急の場合には、ただちに必要な治療・処置が行えること」という要件ですが、これも、日ごろ一人で患者さん宅を訪問している訪問看護師は日常的に行っていることです。もちろん、在宅ですから病院のようにすべての医療機器が整っているわけではありませんが、訪問看護では診療所や病院の医療者と連携しながら「緊急時の対応」を行っています。この対応力にも期待されているのです。 現在検討されている在宅治験の流れ 在宅治験で訪問看護師を活用するためには、まだまだ規制の緩和が必要ですが、その検討も進められています。 在宅治験の考えかたとしては、被験者宅を、治験医療機関の病室の一つとして位置付けるようなイメージです。訪問看護ステーションで治験のすべてを行うわけではありません。被験者への説明などは治験医療機関の医師が行います。そして治験に必要な治験薬や検査機器は治験会社が準備をします。 訪問看護師は、治験医療機関の医師からの指示で被験者宅を訪問して、投薬や採血、検査や経過観察などを行い、その結果を治験医療機関の医師に報告するという流れになることが想定されています。治験薬を事前に被験者宅に届けておくことなども検討されているようですが、今のところ、訪問前に治験医療機関に治験薬を取りに行くことになるようです。 在宅治験による可能性 在宅治験は、被験者に対しては、来院など治験参加の負担を減らすことで、参加機会を提供できることになります。 治験依頼者は、より短期間で被験者を集積できるため、コスト削減や治験実施期間の短縮につながる可能性があります。 そして、訪問看護師にとっては地域の医療機関との連携強化になりますし、新たな働き方の一つになる可能性もあります。 本格的な導入はまだまだこれからですが、機会があればぜひチャレンジしてみましょう。 記事編集:株式会社メディカ出版

× 会員登録する(無料) ログインはこちら