G03_難病を知る

特集
2021年11月16日
2021年11月16日

大脳皮質基底核変性症

神経系には多くの難病があり、その実態や症状が似通ったものが多く、確定診断が難しいといわれます。大脳皮質基底核変性症も、そうした難病の一つです。 病態 大脳皮質基底核変性症(だいのうひしつきていかくへんせいしょう:CBD)は、その名前のとおり、大脳皮質と、脳の深部にある基底核の神経細胞が壊死し徐々に減少していく疾患です。 そのため、大脳皮質の障害による症状と、筋肉の強張りなど、パーキンソン病に似た症状が一緒に現れます。大脳皮質の障害による症状は、思う通りに手足が動かせないなどです。大脳皮質には、運動を調節する機能があるためです。 また、症状に左右差があることも特徴です。 神経細胞内に、異常化したタウタンパク質が蓄積し、神経細胞の壊死をきたします。根本の発症原因は不明です。アルツハイマー病や進行性核上性麻痺などでも同様の現象がみられます。 近年の研究から、CBDの症状は非常に多彩であることがわかってきています。症状に左右差のないタイプ、進行性核上性麻痺のような症状がみられるタイプ、失語や認知機能障害が主体となるタイプなども報告されています。 疫学 正確な発症頻度はわかっていませんが、推定で人口10万人あたり2~8人程度と、ごくまれな疾患と考えられています。発症年齢は40~80歳代が中心で、平均は60歳代です。発症に男女差はありません。遺伝性も確認されていますがごく一部で、一般的には遺伝はしません。 症状・予後 大脳皮質基底核変性症でまず特徴的なのは、パーキンソン病に似た症状と、大脳皮質障害による症状を併発することです。 パーキンソン様症状 ●筋強剛●動きがゆっくりになる・少なくなる●ジストニア(手足の筋肉の緊張が持続して力が入ったままの状態になる)●手足の振戦(震え)●ミオクローヌス(手足がぴくつく)●進行すると、姿勢保持障害(体のバランスが取りにくく、転倒しやすい) 大脳皮質症状 ●肢節運動失行(単純な動作がスムーズにできず、ぎごちなくなる)●構成失行(描画、立方体の構成など空間的把握が困難になる)●高次脳機能障害(失語、半空間無視など)●他人の手徴候(片側の手が、他人の手のように勝手に動く)●把握反射(手に触れたものを反射的につかむ)●認知機能障害 初期に自覚しやすいのは、片側の手(または足)の動きがぎこちなくなることや、動きの緩慢さなどです。 加えて、症状に左右差がみられる点も特徴です。典型例では、まず片側の手が思うように動かせないなどの症状が出て、それが同じ側の足に広がり、反対側の手足にも進行していきます。画像でみると、大脳の萎縮の程度にも左右差があります。 進行すると、構音障害、嚥下障害、眼球運動障害がみられることもあります。 予後は悪く、発症から5~10年ほどで寝たきりになり、誤嚥性肺炎や、寝たきりに伴う全身衰弱が死因の多くを占めます。 治療・管理など 治療のポイントとしては、生命を脅かす重大な合併症、たとえば転倒・骨折や誤嚥性肺炎の予防や治療が中心となります。 在宅のCBD患者で特に注意したい点があります。CBDは、病期の早い段階から高次脳機能障害も進行し、認知症に近い位置づけとなります。そのために、胃瘻造設の適応になりづらい、といったことが課題になり得ます。 ですから、早期からの意思決定支援が、より重要だといえます。 リハビリテーションのポイント できるだけ長く身体機能やADLを維持できるように、症状に応じて行います。運動療法では、パーキンソン病や進行性核上性麻痺に準じてリハビリが計画されます。 ●筋力の維持のための運動●病状の進行につれ体が固くなるため、緩和するためのストレッチ●動きのぎこちなさを改善する目的での訓練●拘縮を防ぐための関節可動域訓練●嚥下機能低下がある場合は、嚥下機能訓練の検討や、食形態の見直しを考慮する●言語障害がある場合は、言語訓練を検討し、コミュニケーション方法を考慮する●転倒しやすいため、環境を観察し、手すりの設置など対策を検討する●けが防止の環境整備(家具の角を保護材で覆う、物を整理するなど)●左右の手足に症状の差があるため、補助具も有効 など 看護の観察ポイント ●ADLや身体機能の変化●日常生活への支障●転倒の頻度や状況などの確認●家庭環境の転倒リスク●嚥下機能の変化●ADLやコミュニケーション状態、精神状態の変化●半側空間無視の徴候(食卓上の同じ側の食べ物を必ず残すなど)の有無●家族や介護職とコミュニケーションがとれているか●認知症を疑う症状出現の有無●家族の身体的・精神的負担の程度 など ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 ○難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『大脳皮質基底核変性症(指定難病7)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/142○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け) 』『大脳皮質基底核変性症(指定難病7)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/291○「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会『大脳皮質基底核変性症』『認知症疾患診療ガイドライン2017』東京,医学書院,2017,289-94.

特集
2021年11月9日
2021年11月9日

脊髄小脳変性症

脊髄小脳変性症とは、小脳を中心とした神経系の障害によって、運動失調症をきたす複数の疾患を、まとめて指す呼び方です。 病態 脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)とは、単一の疾患名ではなく、主に小脳の障害による運動失調症をきたす疾患の総称です。例えば、多系統萎縮症の一部に、運動失調症を呈するものがあり、それらは脊髄小脳変性症に分類されます。 小脳失調とは 小脳は、平衡感覚や運動、姿勢を制御しています。姿勢、手足の動きのバランスをとる、体中の複数部位の動きが協調するよう同時にコントロールする、といった運動調節機能を担っています。 小脳が障害されると、小脳失調が現れます。小脳失調とは、スムーズな動きができなくなり、歩行時にふらつく、手が震える、ろれつが回らないなどの症状です。 小脳失調があっても、その原因が特定の要因によるもの(脳梗塞・脳出血や脳腫瘍、感染症、自己免疫疾患、栄養素欠乏、薬剤性など)は、脊髄小脳変性症とは呼びません。 脊髄小脳変性症には、小脳失調だけではなく、脊髄病変もしくは錐体路障害がある場合もあります。 疫学 脊髄小脳変性症の患者数は全国で3万人超と推定されています。 脊髄小脳変性症は、遺伝性のものとそうでないものに大きく分けられます。全体の3分の2が、遺伝性ではない脊髄小脳変性症(孤発性)です。多系統萎縮症と、皮質性小脳萎縮症の2つが、孤発性脊髄小脳萎縮症です。 残り3分の1が遺伝性の疾患で、代表的なものにマシャド・ジョセフ病(SCA3)や、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)などがあります。遺伝性の脊髄小脳変性症では、多くの疾患で、原因となる遺伝子が明らかになっています。 受給者証所持者数 2019年度末時点での、脊髄小脳変性症の受給者証所持者数は約2.7万人です。そのうち、70歳以上が約1.4万人と、過半数を占めています。(※1)なお、制度上、脊髄小脳変性症と多系統萎縮症とは、別の指定難病として認定されています。 症状・予後 脊髄小脳変性症の代表的な症状には、立ち上がりや歩行時にふらつく、手を動かそうとすると震えてうまく使えない、舌がもつれてうまく話せないといったものがあります。体は動かせるのですが、いくつもの動きを協調させることが困難になり、スムーズな動きができなくなるためです。 小脳失調よりも、足の突っ張りや歩行障害などの症状が目立つ、脊髄病変がある疾患もあります。脊髄後索病変があると末梢神経障害の合併、大脳基底核に病変があるとパーキンソン症状や不随意運動の合併がみられます。このような病型は多系統障害型と呼ばれます。 脊髄小脳変性症の予後は疾患によりかなり異なりますが、症状の進行は非常に緩やかで、急激に悪化することはありません。疾患によっては、進行すると嚥下障害や呼吸や血圧の調節障害などが現れることがありますが、多くの場合はコミュニケーションをとることは十分できます。 治療法 疾患により治療法は変わります。症状に応じて対症療法が行われます。小脳失調に対しては、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)製剤などが使用されます。また、足の突っ張りなどの神経症状には筋弛緩薬が使用される場合もあります。 小脳失調を中心とする脊髄小脳変性症では、集中的なリハビリテーションもバランスや歩行の改善に効果があるとされています。 リハビリテーションのポイント ●環境整備や福祉用具の検討など、症状や生活習慣に合わせた対策をとる●本人の歩行能力とバランス能力に応じたプログラムを計画する●基本動作訓練と組み合わせ、ADLに関連した作業療法も検討する●嚥下障害に対し、食形態や食事姿勢、食器の見直しなども含めて摂食嚥下リハビリを検討する など 看護の観察ポイント ●小脳失調以外は患者によって症状が異なるため、疾患名や症状の見通し、ADLへの影響などを、医師に確認する●転倒予防策など環境整備の状況を確認する●どのくらいの頻度・どんな状況で転倒するのか確認する●日常生活やセルフケアに支障をきたす症状の有無を確認する●症状の変化を確認する●患者が、家族・介護職など周囲と意思疎通を十分に図れているかを確認する●患者・家族が不安やストレスを抱えていないかを確認する ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 ※1 厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病.令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.○難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4879○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4880○「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018』東京,南江堂,2018,297p.

特集
2021年11月2日
2021年11月2日

球脊髄性筋萎縮症

男性にだけ発病する遺伝性の難病です。筋肉を動かすための神経細胞が死滅し、筋萎縮が現れるのが特徴で、日本には3,000人ほどの患者がいるとみられています。 病態 球脊髄性筋萎縮症(きゅうせきずいせいきんいしゅくしょう:SBMA)は、男性だけに発病する遺伝性の神経筋変性疾患です。別名、ケネディ病、ケネディ・オルター・スン症候群ともいわれます。 球脊髄性筋萎縮症の原因は、男性ホルモン(アンドロゲン)の受容体を構成するタンパク質の遺伝子異常です。変異したアンドロゲン受容体がうまく分解されずに神経細胞内に蓄積し、細胞を壊死させると考えられています。女性は、この遺伝子変異を持っていても発症しません。男性ホルモンが関与するためと考えられています。 球脊髄性筋萎縮症では、脳幹や脊髄にある筋肉を動かすための神経細胞(下位運動ニューロン)が徐々に死滅し、神経が接続している筋肉も萎縮するため、顔面や舌、四肢の筋力低下、筋萎縮が現れます。 原因となる遺伝子は、性染色体のX染色体上にあるため、父親である患者からY染色体を受け継ぐ男児には遺伝子変異は伝わりません。一方、X染色体を受け継ぐ女児は、100%の確率で保因者となります。保因者となった女性からは、50%の確率で子どもに遺伝子変異が受け継がれます。 疫学 男性のみに発病し、発症頻度は人口10万人に1~2人といわれています。日本国内の患者数は2,000~3,000人程度と推定されています。(※1)2019年度末現在、受給者証所有者数は約1,500人です。特に30~60歳の発症が多く、50~60歳代で受給者証所有者が多くなっています。(※2) 症状・予後 顔面や舌、四肢の筋力低下、筋萎縮などの症状がゆっくりと進行し、嚥下障害や呼吸機能低下が起こります。最初に筋力の低下に気づくことが多いのですが、その前に手が細かく震える、筋肉がつるといった症状を経験することがあります。 症状は、球麻痺によるものや、筋力低下が主です。具体的には、しゃべりにくい、むせる、飲み込みが悪くなるなど嚥下障害、顔がぴくつく、手足の筋肉がやせて力が入らないといったものがあります。筋力低下は、体幹に近い筋肉で強く現れることが多いため、特に、立ち上がり動作や歩行が不安定になりがちです。 また、軽度ですが、アンドロゲンの作用が低下するため、女性化乳房、睾丸萎縮、女性様皮膚変化などが生じることもあります。 そのほか、耐糖能異常や脂質異常症、肝機能異常、ブルガダ症候群などの合併がみられることもあります。 一般的な経過では発症から10年ほどで嚥下障害が目立つようになり、15年ほどで車いす生活に至ります。 治療法 根本的な治療法はまだありません。男性ホルモンが、変異したアンドロゲン受容体に作用することで進行を促すため、男性ホルモンの分泌を抑える薬が進行抑制目的に使用されます。通院が可能な状態であれば、ロボットスーツによる歩行運動処置が、保険診療の対象になる場合があります。 リハビリのポイント ●症状の進行に応じて、運動療法を実施し、手足の筋力低下抑制をはかる●嚥下機能の低下に対して、食形態を工夫する●嚥下訓練などを行う 看護の観察ポイント ●症状の変化、転倒しやすくなっていないかを観察する●むせる、飲み込みにくいなど、嚥下障害の有無・変化を観察する●食形態と嚥下機能を確認し、必要時は食形態について助言する●コミュニケーションに問題が生じていないかを観察する●車いすやベッドにいる時間が長い場合は、褥瘡など皮膚の症状・変化を観察する●家族の介護力をアセスメントするなど ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け) 球脊髄性筋萎縮症(指定難病1)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/73※2 厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病 令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01. ○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)球脊髄性筋萎縮症(指定難病1)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/234○「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会『神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009』東京,医学書院,2009,184p.○日本医学会『医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン』https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf

特集
2021年10月26日
2021年10月26日

ハンチントン病

舞踏のような不随意運動があることから、以前は「ハンチントン舞踏病」と呼ばれていた遺伝性の難病です。30歳代以降の発症が主ですが、幼児期に発症する場合もあります。 病態 ハンチントン病は遺伝性の神経変性疾患です。主な症状は、舞踏運動を中心とする運動症状と、精神症状です。以前はハンチントン舞踏病と呼ばれていましたが、主症状は舞踏運動だけではないため、名称が改められました。 ハンチントン病は常染色体優性遺伝様式の疾患です。 遺伝子は対になって存在していますが、親から受け継いだ遺伝子のどちらかにハンチントン病の遺伝子変異があれば発病します。 疾患にかかわる遺伝子は、50%の確率で子どもに伝わります。 そのため、患者の両親どちらかもハンチントン病を発病していることが大半です。家族の中に患者がいる場合、子や兄弟姉妹にも保有者がいる可能性があります。 子どもは親に比べて若い年齢で発病する傾向があり、子どもが親より先に発症する例もみられます。 遺伝子検査が保険診療の対象ですが、安易な遺伝子診断は避けなければなりません。ときには、子どもの遺伝子診断が、発症していない親の発症前診断となってしまいます。関連学会の指針では、「治療法がない成人発症の遺伝性疾患の遺伝子診断については、事前の十分なカウンセリングにより、本人の自発的意思の確認が必須」であり、かつ「検査結果告知後の継続的な心理的支援が不可欠」としています。(※1) 疫学 ハンチントン病の有病率は日本人では人口10万人あたり0.7人と推定されています。(※2)2019年度末現在、ハンチントン病での受給者証所有者数は約900人です。(※3)有病率に男女差はないのですが、人種により異なる傾向があり、有病率はコーカソイドでは高く、アジア人・アフリカ人で低くなっています。 好発年齢は30~50歳ですが、発症年齢は幼児から高齢者まで多様です。20歳以下で発症した場合は、「若年型ハンチントン病」と呼ばれます。若年発症では一般的に症状が重く、速く進行します。 症状・予後 症状は大きく、▷運動症状(不随意運動、運動の持続障害)▷精神症状(感情障害、認知機能障害) ── に分けられます。 症状は次第に進行します。寝たきりになると全介助が必要です。罹病期間は15~20年ほどです。ただし、患者によって症状やその程度はかなり違います。家族でも症状は一様ではありません。 不随意運動 舞踏運動を中心とした不随意運動が現れます。舞踏運動は、意思に関係なく、不規則で細かく速い動きが、四肢や顔面に生じます。 ほかにも、ジストニア(不随意に力が入る)、ミオクローヌス(筋肉がぴくぴくする)などの不随意運動もみられます。 発症早期には巧緻障害として現れ、症状が進むと、嚥下障害や構音・構語障害に進行します。 運動の持続障害 運動の持続障害は、同じ動作を継続することができなくなる症状です。手に持った物を落とす、転ぶなど、日常動作に支障をきたす原因になります。症状が進行するとやがて寝たきりとなります。 感情障害 感情が不安定になる、怒りっぽくなるなどの性格の変化や、何かにこだわり、同じことを繰り返すなど、行動に変化が起こることがあります。不眠やうつなどの感情障害がみられ、自殺企図にも注意が必要です。 一方、暴言や暴力で家族の負担が大きくなることもあります。その場合は速やかな介入が必要です。施設入所なども視野に入れ、多職種を交えて検討します。 認知機能障害 初期には認知機能障害は目立たず、徐々に現れます。アルツハイマー病とは違って記憶障害は軽度で、計画を立てて実行する機能の障害(遂行障害)が中心です。 若年型ハンチントン病では、初期から運動症状が現れるのは3分の1程度で、精神症状や認知機能障害がみられます。てんかん発作の合併が多いのも若年型の特徴です。 治療法 根本的な治療法はなく、不随意運動と精神症状への対症療法が柱になります。 リハビリのポイント ●病状の進行に伴い、活動量が低下するため二次的な運動機能低下が懸念される。予防目的の運動療法を検討する●精神症状や認知機能低下に対しては作業療法が有効な場合がある●状態に合った福祉用具の導入を提案する●車いすでは不随意運動のため滑り落ちることがあるので、座位保持の方法など、状態に合った使用法を助言する 看護の観察ポイント ●運動症状・精神症状により、日常生活・社会生活に問題が生じることがある。早めに課題をキャッチし、多職種で連携し予防および対応策を検討する●症状や程度の変化を観察する●今後の症状を予測し、福祉用具やサービスなどの導入の必要性を前もって検討する●転倒による外傷の有無を観察する●外傷を予防する対策を実施する●食事時の、食物の詰め込みや、嚥下障害などの有無を観察する●上記のような食事時のリスクに対し、必要な介入または助言を行う●体重減少ややせが目立っていないかを観察し、エネルギーを補う必要性をアセスメントする●皮膚の状態を観察する●暴言や暴力などで家族が疲弊していないか、家庭介護が継続できる状況かを観察する ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会『遺伝子診断の目的と概要 神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009』 東京,医学書院,2009,4-8.※2  難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)ハンチントン病(指定難病8)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/175※3  厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病 令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01. ○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)ハンチントン病(指定難病8)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/318○Huntington病の診断,治療,療養の手引きガイドライン作成委員会『Huntington病の診断,治療,療養の手引き』神経治療学 37(1),2020,68-83.○神経変性疾患領域における基盤的調査研究班『ハンチントン病と生きる:よりよい療養のために』Ver.2.2017.http://plaza.umin.ac.jp/~neuro2/huntington.pdf○日本医学会『医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン』https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf

特集
2021年9月21日
2021年9月21日

進行性核上性麻痺(PSP)

パーキンソン病とよく似た症状がみられる難病です。高齢になってからの発症が大半です。さまざまな亜型があることが近年わかってきました。 病態 進行性核上性麻痺(PSP)は、脳の大脳基底核や脳幹、小脳などさまざまな場所の神経細胞が減少する疾患です。神経細胞などへの異常タウタンパクの蓄積が、神経症状を起こす原因と考えられています。根本の発症原因はわかっていません。初期に、歩行障害や動作緩慢など、パーキンソン病と似た症状がみられます。 疫学 中年期以降、主に50歳代以降に発症します。有病率は人口10万人あたり10~20人程度と推測されています(※1)。20年前よりも有病率は高くなっており、新たな臨床病型が明らかになってきたこと、高齢者の増加、周知が進んだことなどが背景として考えられています。性別による発症の男女差については報告によって異なり、一定の見解は得られていません。最近の平均発症年齢は70歳代と高齢化しています。大多数は遺伝性ではありません。 病型 近年、PSPのなかにも、さまざまな病型があることがわかってきました。そのため、典型例(RS)と他の病型(亜型)が区別されるようになりました。 ●リチャードソン症候群(RS)最も典型的で頻度が高い病型。姿勢保持障害や転倒などの運動症状と、非運動症状の認知機能障害が主にみられる。早期から転倒が多いことが特徴。 ●パーキンソン病型PSP(PSP-P)RS型の次に多い。初期は、振戦・無動などパーキンソン病と似た症状が長くみられ、転倒や認知機能障害の出現が遅い。運動症状が抗パーキンソン病薬で緩和される。 ●純粋無動症型PSP(PSP-PAGF)無動の症状、すくみ足が先行する。進行は遅い。 そのほか、失行・失語が主症状の病型や、認知機能の症状のみが出る病型など、いくつかの病型があることが明らかになっています。 症状 易転倒、眼球運動障害、認知機能障害など、さまざまな症状が現れます。以下はRS型の症状を中心に説明します。 ●運動症状初期に現れることが多いのが、易転倒、すくみ足、姿勢保持障害です。病状の進行とともに、体幹や頸部がこわばり、頸部後屈がみられます。眼球運動が障害され、特に下方を見ることが困難になります。眼球運動障害は発症2~3年後に出現することが多く、最初は上下の方向の障害で、進行すると左右方向の動きも障害されます。 ●非運動症状認知機能の障害は、多くは発症から1~2年後に出現します。初期から、目の前にある物に手を伸ばしてつかむ動作が特徴的です。転倒・転落につながるため、環境整備に注意を払う必要があります。危険に対する判断力や注意力が低下し、状況判断ができずに行動してしまうこともあります。 構音障害などさまざまな言語障害のほか、嚥下障害もみられ、中期以降は誤嚥性肺炎にも注意が必要です。 治療法 根本的な治療法はまだなく、対症療法とリハビリテーションを併用します。動作緩慢や筋肉の緊張など運動症状に抗パーキンソン病薬が使用されますが、効果は限定的・一時的です。 リハビリのポイント ●発症初期から長期的にかかわり、障害に応じたリハビリを実施していく●頸部や体幹のストレッチ、筋力の維持、バランスをとる訓練●嚥下訓練●言語訓練●目の前にあるものをつかむといった行動特性をふまえ、転倒予防のため室内環境を整備する●嚥下障害が進行すると経管栄養法の導入も検討される。本人の判断力低下で意思確認が困難になる前に、本人の意向やQOLなどについて話をしておく 看護の観察ポイント ●症状の変化、その程度●転倒の頻度、けがの有無●療養環境に転倒リスクとなるものがないこと●家具の角への緩衝材、保護帽などの対策本人の目に見えるところに気を引くものが置かれていないこと●余裕を持ってトイレに誘導する●視野に入っていない範囲の把握・対応はできているか●嚥下障害の有無●食事量●本人と家族・本人と支援者とのコミュニケーション●ベッドにいる時間が長い場合、褥瘡など皮膚の変化の有無●座位などで過ごす時間をとれているか●家族の介護力●本人 ・家族が不安やストレスを抱えていないか など ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 進行性核上性麻痺(PSP)診療ガイドライン2020作成委員会編(2020)『進行性核上性麻痺(PSP)診療ガイドライン2020』,神経治療学,37(3), pp.435-93.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/37/3/37_435/_pdf/-char/ja ・難病情報センター『進行性核上性麻痺(指定難病5) 病気の解説(一般利用者向け)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4114 ・平成28年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「神経変性疾患に関する調査研究」班(2017)『進行性核上性麻痺(PSP ) ケアマニュアルVer.4』http://pspcbdjapan.org/index.htm/want_to_learn/download/

特集
2021年9月14日
2021年9月14日

パーキンソン病

難病を知る 発症しても手厚いケアがあれば在宅生活が可能なパーキンソン病。高齢者の100人に1人の割合で発症する、決して珍しい疾患ではありませんが、いまだ根治療法が解明されていない難病の一つです。 病態 中脳の黒質には、神経伝達物質のドパミンを作る神経細胞があります。パーキンソン病は、この神経細胞の減少によりドパミンが不足し、さまざまな症状が起こる難病です。 ドパミンの働きは、運動機能に関与する線条体にあるドパミン受容体に結合し、その興奮を抑えます。一方、ドパミンと拮抗する働きをするアセチルコリンは、ドパミン受容体で神経を興奮させる役割を担っています。ドパミンとアセチルコリンは、互いにバランスを取り合うため、ドパミンが減少すると、アセチルコリンの作用が過剰になってしまいます。パーキンソン病の治療で、抗コリン薬が使用されるのはそのためです。 なお、「パーキンソン症候群」は、進行性核上性麻痺や多系統萎縮症、薬剤性など、パーキンソン病と似た症状を示す、異なる疾患を指します。 疫学 パーキンソン病は50歳以上で発症することがほとんどで、加齢とともに発症頻度は上がります。40歳以下での発症は非常に少なく、「若年性パーキンソン病」と呼ばれます。有病率は10万人あたり100~150人と推定されていますが、60歳以上になると100人に1人とその割合が増加します。パーキンソン病の大半は遺伝性ではありませんが、遺伝性のものも5~10%ほどみられます。 症状 パーキンソン病は、運動症状として、振戦や筋強剛、無動、姿勢反射障害が知られています。 ●振戦静止時に、手が細かく震える症状が特徴的です。初発の症状として最も多くみられます。●筋強剛筋肉が緊張してこわばり、他動的に関節を動かすときに抵抗が増強します。●無動細かい動作がしにくい症状を指します。表情が乏しくなる(仮面様顔貌)、書字が小さくなる、すくみ足などが、無動の症状です。●姿勢反射障害全身のバランスを保ちにくく転倒しやすくなります。前傾姿勢になりやすく、小刻み歩行・突進歩行など歩行障害として現れる場合もあります。 これらが代表的な運動症状です。 一方、非運動症状として、 ●睡眠障害(昼間の過眠、むずむず脚症候群など)●便秘●頻尿、排尿困難●起立性低血圧●発汗異常●嗅覚の低下●痛み●うつ といった、自律神経障害や精神障害もみられることがあります。 パーキンソン病のうち難病指定の対象は、H・ヤール分類で3~5度、かつ、生活機能障害度が2~3度の患者に限定されます。 パーキンソン病は進行性ですが、そのスピードは個人差があります。治療を適切に行えば、発症後10年程度は通常の生活を送れます。平均余命もほぼ変わりません。 治療法 根治療法ではありませんが、薬物療法と手術療法があります。薬物療法は、ドパミンの補充が基本です。ドパミン前駆体であるL-ドパ、ドパミン受容体刺激薬などが用いられます。L-ドパの長期間投与を継続している経過において、薬の効く時間が短くなり、突然動けなくなるなど症状の日内変動が起こる(ウェアリング・オフ現象)場合があるので、薬の調節が課題になります。そのほか、不足したドパミンとのバランスをとるために、アセチルコリンの作用を抑える抗コリン薬も用いられます。 手術療法は、薬を使っても症状のコントロールが難しい場合などに選択されます。脳内に電極を埋め、電気刺激により神経細胞の興奮を抑える手術が主流です。 リハビリのポイント ●リハビリにより、症状の改善やQOLの向上が期待できるほか、患者本人が参加できるという意味で意欲を引き出すことにもつながる●ストレッチングや関節可動域の訓練、歩行訓練、立位・バランス訓練、筋力訓練、ホームエクササイズなどの運動療法は、身体機能やバランス、歩行速度などの改善に有効●言語訓練や嚥下訓練では、発声や嚥下の改善効果が期待できる 看護の観察ポイント ●症状やその程度に変化はないか●症状の日内変動が出ていないか●適切に服薬ができているか●薬の副作用が出ていないか●転倒していないか●家庭環境に転倒のリスクがないか●日常生活やセルフケアに支障をきたしていないか●体を動かしたり、ベッドから起き上がったりする時間は取れているか●構音障害によりコミュニケーションに問題が生じていないか●排尿障害が出ていないか●嚥下障害や誤嚥がないか●家族の介護力は十分か●患者、家族が不安やストレスを抱えていないか 次回は進行性核上性麻痺について解説します。  ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】・難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け) パーキンソン病(指定難病6)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/169・「パーキンソン病診療ガイドライン」作成委員会編(2018)『パーキンソン病診療ガイドライン2018』医学書院.・井上智子ほか編(2016)『疾患別看護過程+病態関連図』第3版、医学書院.

特集
2021年9月7日
2021年9月7日

亜急性硬化性全脳炎

難病を知る 亜急性硬化性全脳炎は、麻疹に感染後、長い潜伏期間を経て発症する難病です。幼児~学童期に発症する予後不良の病ですが、麻疹ワクチンの接種が進み、患者数は減少しています。 病態 亜急性硬化性全脳炎(あきゅうせいこうかせいぜんのうえん:SSPE)は、変異した麻疹ウイルスによる遅発性の感染症です。麻疹にかかってから、数年から十数年の潜伏期間を経て発症します。 麻疹にかかり治癒した後、脳内に持続感染した麻疹ウイルスの変異株(SSPEウイルスとも呼ばれる)が脳炎を引き起こします。発症後は、数か月から数年で神経症状が進行していき、予後は不良です。 好発年齢は5~14歳です。2歳未満の子どもや免疫機能が低下している人が、麻疹ウイルスに感染した場合に、発症するリスクが高いとされています。(※1)なお、SSPEが人にうつることはありません。遺伝性もありません。 疫学 現在、国内の患者数は150人程度と推測されています。国内のデータでは麻疹罹患者約8,000人に1人の発症だったとの調査がありますが、近年はもっと多いという報告もあります。(※1)SSPEの受給者証所持者数は、2019年末時点で73人、年代別にみると20~30歳代が中心です。(※2)ワクチンの接種率の向上に伴って麻疹の罹患が減り、今後は新規の発症はかなり少ないと見込まれます。 症状・予後 発症後の経過は比較的定型的で、4期に分類されています(Jabbourの分類)。ただし、経過は必ずしも一様ではなく、急激に症状が進む劇症型や、10年以上の経過をとる緩徐進行型、少数ながら歩行可能な状態に改善する例もあります。病期が進むにつれ、経口摂取困難や自律神経障害、胃食道逆流、呼吸障害などの合併症が現れるため、重症度に応じた対応が求められます。 Ⅰ期 比較的軽度の精神面・行動面の変化がⅠ期に分類されます。具体的には、成績低下や記銘力の低下、落ち着きがなくなる、ささいなことで不機嫌になる(易刺激性)、挑戦的な行動をとるなどの性格の変化、周囲に無関心になるなどの症状があり、緩やかに進行します。けいれん発作や、立てない・歩けないなど、運動面の変化がみられることもあります。 Ⅱ期 けいれん発作や運動機能低下、不随意運動などが出てきます。周期的なミオクローヌス(体の一部がピクッと動く)が、頭部から始まり体幹や四肢にまで起こるようになるのが特徴的です。筋緊張亢進、全身のけいれんや失立、振戦などの不随意運動も出現します。 Ⅲ期 不随意運動や筋緊張亢進が増し、運動機能低下がさらに進み、座位をとることも困難になります。臥床状態で、後弓反張(手足が伸び体が弓なりに反る)が多くなります。自律神経の異常も進行します。顔面紅潮や蒼白、チアノーゼを伴う異常な発汗や、不規則な発熱など自律神経症状が出現します。加えて、摂食・嚥下が困難になってくるため、経管栄養法の導入も検討されます。意識障害が進み、徐々に昏睡に至ります。 Ⅳ期 ミオクローヌスや筋緊張亢進は目立たなくなり、眼球が不規則に動く、病的な笑い・泣きなどの反応、音への驚愕反応などがみられます。覚醒時には目をあけますが、昏睡状態にあり自発的に言葉を発しません(無言症)。筋強直や呼吸異常のために、人工呼吸管理が必要になります。 治療法 根治的な治療法はまだありませんが、免疫賦活薬と抗ウイルス薬の併用療法が用いられます。またほかに、研究段階の治療も試みられています。治療に加えて、病期や重症度に応じて対症療法が必要になります。 リハビリのポイント 関節可動域や運動機能を評価し、必要に応じて筋緊張を緩和させる理学療法を行う歩行や座位保持などが難しくなっていくため、残存機能を生かした動作、福祉用具などの活用を提案する 看護の観察ポイント 症状の変化を経時的に観察する現在~近く予測される症状に応じて、医師やケアマネジャーと連携し、タイムリーに必要な介助につなげる誤嚥や食事後の胃食道逆流などに留意し、食事中~後の状態を確認する排尿・排便状況を確認する息苦しさなど呼吸症状を確認する家族の状況(介護疲労の有無など)を確認する ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班『亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)診療ガイドライン2020』http://prion.umin.jp/guideline/pdf/guideline_SSPE2020.pdf※2 厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病 令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450027&tstat=000001031469&cycle=8&tclass1=000001148807&tclass2=000001148808&tclass3=000001148810&stat_infid=000032045204&tclass4val=0・難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)亜急性硬化性全脳炎(SSPE)(指定難病24)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/42

特集
2021年8月31日
2021年8月31日

脊髄性筋萎縮症

脊髄性筋萎縮症/難病を知る 今回は、発症する年齢によってさまざまなタイプに分類され、予後も異なる脊髄性筋萎縮症について解説します。ALSとの違いを理解する必要があります。 病態 脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう:SMA)は、進行性で筋力低下や筋萎縮が起こる運動ニューロンの疾患です。 運動ニューロンのうち、上位運動ニューロンは、脳の大脳皮質運動野から出た指令を、脳幹や脊髄に伝えます。下位運動ニューロンは、脳幹や脊髄に伝わった指令を、末端の筋肉に伝達します。SMAは、脊髄の細胞の変性により、下位運動ニューロンが障害される疾患です。 よく知られる筋萎縮性側索硬化症(ALS)も、運動ニューロンの障害が原因です。ALSは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの、両方が障害される疾患です。 幼児期に発症するSMAの多くは、遺伝性の要因が主です。それに対して、成人期の発症例では遺伝子変異がない例が多く、複数の要因がかかわっていると考えられています。 疫学 SMAはI~Ⅳ型に分類されます。Ⅲ・Ⅳ型では生命予後は良好です。それぞれの特徴は以下のとおりです(個人差があります)。 I型(重症型、ウェルドニッヒ・ホフマン病) ●出生直後から生後6か月ごろまでに発症●急激に運動機能の低下が進行する●筋緊張の著明な低下●支えなしに座位をとれない●奇異呼吸(吸気時に胸部がへこみ呼気時に膨らむ)●舌の線維束性収縮(舌の細かい震え)●嚥下障害(経管栄養療法が必要)●呼吸筋の筋力低下(人工呼吸器が必要) Ⅱ型(中間型、デュボビッツ病) ●1歳6か月ごろまでに発症●座位は保てるが、支えなしに起立や歩行ができない●舌の線維束性収縮、手指の振戦●成長にしたがって関節拘縮と側彎が生じる Ⅲ型(軽症型、クーゲルベルグ・ウェランダー病) ●1歳6か月以降に発症●よく転ぶ、歩けない、立てない●小児期以前に発症した場合、側彎がみられる Ⅳ型(成人期以降発症) ●成人期から老年期にかけて発症●軽度の筋力低下●発症年齢が遅いほど進行は緩やか●認知機能低下や呼吸器の症状はみられない 治療・管理など 症状に合わせた対症療法を行います。Ⅰ・Ⅱ型では嚥下障害がみられるため、経管栄養療法が選択されることがあります。呼吸不全には、マスクによる非侵襲的陽圧換気(NPPV)も有効ですが、Ⅰ型ではほぼ全例で気管切開下陽圧換気(TPPV)が必要になります。 以前は上記のような対症療法のみでしたが、最近ではSMAの病因となる遺伝子の作用発現を抑制する遺伝子治療薬も登場しています。 Ⅰ~Ⅳのどの型であっても、筋力低下や関節拘縮に対するリハビリテーションが有効です。また、必要に応じ、装具導入を検討する必要があります。 リハビリのポイント ●筋力低下や関節拘縮を評価し、理学療法を計画する。必要ならば装具の導入も検討する●呼吸障害に対してNPPVやTPPVが選択される●嚥下障害では嚥下の補助も検討する●車いすを選択するときは上肢の筋力も評価する。小児では上肢の筋力が弱いため、電動車いすが適していることがある●側彎がある場合は手術が選択されることもある 看護のポイント ●患者により症状・重症度はさまざまなので、それぞれに合わせた対症療法を行う●座位保持、起立、歩行の状態や転びやすさなど、運動機能を観察する●栄養状態、嚥下困難や哺乳困難がないか、観察する●呼吸状態の変化を観察する●寝たきりの場合は、褥瘡の有無等、皮膚状態を確認する など 次回は亜急性硬化性全脳炎について解説します。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 厚生労働省『令和元年度衛生行政報告例 統計表 年度報 難病・小児慢性特定疾病』2021-03-01https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450027&tstat=000001031469&cycle=8&tclass1=000001148807&tclass2=000001148808&tclass3=000001148810&stat_infid=000032045204&tclass4val=0・難病情報センター『脊髄性筋萎縮症(指定難病3) 病気の解説(一般利用者向け)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/135・国立精神・神経医療研究センター『脊髄性筋萎縮症』https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease28.html

特集
2021年8月10日
2021年8月10日

重症筋無力症(MG)

「難病を知る」シリーズ、第2回は、近年、有病率が増えている重症筋無力症(MG)です。 病態 重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう:MG)は、筋力の低下を主な症状とする自己免疫疾患です。遺伝性ではありません。 骨格筋の収縮は、アセチルコリン(ACh)の働きが関与しています。神経と筋とのつなぎ目の部分で、AChが神経終末から放出され、筋肉側にあるACh受容体にAChが結合することで、筋収縮が起こります。 MGでは、ACh受容体などを攻撃する異常な自己抗体が生じます。その抗体がAChの結合などを阻害し、筋収縮が妨げられる結果、筋力低下につながります。 なぜ、そのような自己抗体が作られるのか、原因はよくわかっていません。ACh受容体抗体のある人では胸腺腫などの合併も多く、胸腺のかかわりも疑われています。 疫学  2018年の全国疫学調査では患者数は約2.9万人で、人口10万人あたりの有病率は23.1人でした。2006年の調査結果と比べると、有病率は約2倍に増えています(難病情報センター調べ)。 男性よりも女性に多い疾患です(男女比1:1.7)。好発年齢は5歳未満と、女性では30~50歳代、男性では50~60歳代です。近年は高齢での発症(後期発症)が増加しています。 症状・予後 運動の継続ですぐに力が入らなくなり(易疲労性)、休息することで回復するのが特徴です。症状は日内変動し、夕方に症状が悪化しがちです。 初期には、まぶたが下がる(眼瞼下垂)、ものが二重に見える(複視)といった、眼症状の出現がよくみられます。 力が入らず持ったものをよく落とす、階段を上るときに脚がだるい、頸が前に下がるなど四肢や頸部の筋力低下、発語の障害(構音障害)や嚥下障害、咀嚼障害、また顔面筋力の低下や呼吸困難などがみられることもあります。 症状の出かたにより、眼瞼下垂や複視など眼症状のみが現れるタイプ(眼筋型)と、四肢の筋力にも症状が及ぶ(全身型)に分類されることがあります。重症度を示す指標であるMGFA分類では、眼筋型はⅠ、全身型はⅡ~Ⅴです。眼筋型から全身型に移行することもあります。 全身型では、急激な呼吸状態の悪化(クリーゼ)に注意が必要です。クリーゼの誘因は、感染症や手術、薬物、疲労などです。重篤な場合は人工呼吸器が必要になりますが、生命予後には影響はありません。 MGの長期予後は、免疫療法の普及により大きく改善しました。寛解率は2割未満ですが、生活や仕事に支障がない程度まで改善する例が5割以上に達しています。その一方で、あまり改善がみられないケースも1割ほどあります。 治療法 MGは自己免疫疾患なので、ステロイドや免疫抑制薬を用いた免疫療法が基本です。特に全身型の治療では免疫療法が中心となります。ただ、免疫療法でステロイド剤の長期投与は副作用がQOLを悪化させるため、早期からの免疫療法で生活に支障をきたす症状は短期間で改善させ、維持量を少量に抑えることが目指されます。 そのほか対症療法として、神経筋接合部のAChの濃度を高めることで神経から筋肉の信号量を増やす、コリンエステラーゼ阻害薬が補助的に用いられます。胸腺腫の合併のある人などでは、手術で胸腺を摘出することもあります。全身型で、これらの治療法で効果がみられない場合は、抗体製剤が用いられることもあります。 一方、症状が重篤な場合や、急激な増悪時は、自己抗体を除去する血液浄化療法や、免疫グロブリンを大量に投与する方法なども用いられます。 看護の観察ポイント ●筋力低下や眼症状など症状の変化 ●日常生活やセルフケアの実施に支障をきたしていないか ●転倒していないか ●構音障害によりコミュニケーションに問題が生じていないか ●嚥下障害や食事動作による筋疲労で、食事内容・量に影響が出ていないか ●適切に服薬ができているか ●口から唾があふれる、頭を支えられず首が垂れる、呼吸時に分泌物でごろごろと音がするなどの症状がないか ●患者さん、家族が不安やストレスを抱えていないか 次回は脊髄性筋萎縮症について解説します。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】 東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版  【参考】 ・難病情報センター『重症筋無力症(指定難病11) 病気の解説(一般利用者向け)』 https://www.nanbyou.or.jp/entry/120 ・日本神経学会『重症筋無力症診療2014』 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/mg.html ・井上智子ほか編(2016)『疾患別看護過程 第3版』,医学書院

特集
2021年8月3日
2021年8月3日

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

在宅で暮らす指定難病の方の支援は、訪問看護の重要な使命の一つです。今回から、訪問看護が必要とされることの多い難病について、最低限知っておきたい病態・疫学と、看護のポイントを解説します。第1回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)です。 病態 筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう:ALS)は、運動ニューロンが障害されることで起こる、進行性の疾患です。随意筋への指令伝達が障害されるため、全身の筋肉(上肢・下肢、舌、のど、呼吸筋など)が徐々にやせ、筋力が衰えていきます。 運動ニューロンのうち、上位運動ニューロンは、大脳皮質運動野から出た指令を脳幹や脊髄に伝えます。下位運動ニューロンは、脳幹や脊髄に伝わった指令を、末端の筋肉に伝達します。 ALSでは、上位と下位、両方の運動ニューロンが変性・消失し、指令が伝わらなくなることで、筋力低下や筋萎縮が進みます。原因はまだ解明されていません。 疫学 2019年度末時点でのALSの受給者証所持者数は1万人弱です。中年以降で発症が増加し、60〜70歳代が最多です(※1)。男性に多く、女性の1.3~1.4倍の有病率です。 ALSは多くの場合は遺伝しません。ただし、全体の5~10%で家族内での発症があります(家族性ALS)。 症状・予後 手足の筋力低下や、筋萎縮、球麻痺による言語障害・嚥下障害、呼吸筋麻痺による呼吸障害などが、進行性で現れます。 初期症状では手指を動かしにくい、腕の力が弱くなる、足がつっぱる、転倒しやすくなるといった四肢の症状が主体で、そこから全身に広がっていくパターンが典型的です。しかし、最初に進行性球麻痺(構音障害や嚥下障害など)がみられる例や、呼吸障害が出る例、認知症を伴う例などもあり、発症パターンはさまざまです。 全身の筋肉に比較的速く症状が広がり、最終的には呼吸筋麻痺が生じ、人工呼吸器を使わない場合の生命予後は発症後2~5年です。一方、人工呼吸器を用いない状態で発症から10年以上の生存例もあり、経過も個人差の大きい疾患です。 なお、病状が進んでも、視力や聴力、体の感覚などは比較的保たれる傾向があります。眼球運動は残りやすいため、眼球の動きを通じたコミュニケーション方法が活用できることも多いです。 治療・管理など ALSに対しては、神経細胞の障害を抑制し、進行を遅らせる薬が用いられますが、根本的な治療法はありません。そのため、対症療法が主体となります。 対症療法では、機能維持や障害を補う動作訓練などリハビリテーションと、リハビリテーションを実施できる栄養状態を評価する「リハビリテーション栄養」の考えかたに基づく介入が推奨されます。 栄養状態は、代謝亢進が目立つ初期には体重減少をできるだけ抑え、エネルギー消費が減少していく進行期にはエネルギー過剰とならないよう計画します。嚥下機能などに伴い、食形態の見直しや栄養療法の導入なども必要になります。 どんな病態でも同様ですが、消化管瘻や人工呼吸器の導入に際しては、基本的には本人の意思が優先されます。早期から多職種がかかわり、意思決定を支援する必要があります。 嚥下障害 残存機能を生かすリハビリや摂食方法、食形態の工夫などを行います。病態の進行をよく観察し、状況により、経管栄養法(消化管瘻や経鼻栄養など)が検討される場合があります。 呼吸障害 呼吸筋の訓練や排痰法の指導などを行うことがあります。呼吸障害が進んだ場合、人工呼吸療法による呼吸管理を検討します。人工呼吸療法には、マスクを用いる非侵襲的陽圧換気(NPPV)と、気管切開下陽圧換気(TPPV)があります。 コミュニケーション障害 発声や構音などが障害されると、コミュニケーションも阻害されます。とくに、コミュニケーションの阻害は、意思決定に際して困難を生じることが予想されるので、早い時点から検討と具体化を進める必要があります。残された機能を生かし、筆談や指文字、文字盤のほか、自分で動かせる部位を利用した意思伝達装置が用いられます。 リハビリのポイント ●早期からの関節拘縮や筋萎縮などによる痛みの予防・改善などに、ストレッチや、関節可動域を維持するリハビリが有効 ●軽度~中等度の筋力低下では、筋疲労をきたさない適度の負荷量で、筋力増強訓練も可能(月単位・週単位で筋力が低下していく病態を適切にとらえながら継続実行していくことは容易ではなく、とても重要なポイント) ●病状の進行に伴い、体位変換や、車いすでの座位保持など、生活の支援内容やその方法を随時変更・検討する ●福祉用具や補助具の導入などでは、本人の状態や生活への希望をふまえることはもちろん、刻々と変わる状態に合わせ、タイムリーな選定を支援する ●嚥下障害や呼吸障害、構音障害に対するリハビリ、動作のアドバイスを行う など 看護の観察ポイント 訪問時の「現在」で観察すべきこと、週〜月単位で把握すべきことがあることに留意しましょう。今の状態だけでなく、変化の有無とその様子を継続してみていけることは、訪問看護の強みといえます。 ●日常生活に支障をきたしていないか ●転倒しやすくなっていないか ●目立った体重減少がないか ●食事や水分が十分摂取できているか ●排便コントロールができているか ●むせや飲み込みにくさなど嚥下障害を疑わせる症状が出ていないか ●構音や発声などでコミュニケーションが阻害されていないか ●ふさぎ込む、不安を訴えるなど精神状態に変化がないか ●不眠の症状が出ていないか ●家族の身体的・精神的負担の程度 など 次回は重症筋無力症について解説します。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】 東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版  【参考】 ※1 厚生労働省『令和元年度衛生行政報告例 統計表 年度報 難病・小児慢性特定疾病』2021-03-01 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450027&tstat=000001031469&cycle=8&tclass1=000001148807&tclass2=000001148808&tclass3=000001148810&stat_infid=000032045204&tclass4val=0 ・日本神経学会『筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013』 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/als2013_index.html ・難病情報センター『筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2) 病気の解説(一般利用者向け)』 https://www.nanbyou.or.jp/entry/52 ・難病情報センター『筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2) 診断・治療指針(医療従事者向け)』 https://www.nanbyou.or.jp/entry/214 ・一般社団法人日本ALS協会『治療の進め方』 http://alsjapan.org/how_to_cure-summary/ ・井上智子ほか編(2016)『疾患別看護過程 第3版』,医学書院

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