H01_労務管理ABC

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2021年7月13日
2021年7月13日

第1回 訪問看護ステーションの「働き方改革」/[その2]新型コロナウイルス感染症他の災害対策:事業継続のために

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 令和3年度介護報酬改定で感染症・災害対策の強化が義務化されました。職員を守り、地域の利用者を守り続けられる、災害や感染症にも負けない訪問看護ステーションが求められています。 ●ここがポイント!・令和3年度介護報酬改定で感染症・災害対策の強化が義務化された。・国が提供するツールを活用して、効率よくBCPを作成しよう!・ステーション内だけでなく、他のステーションや事業所とも協働し、いざというときの連携体制をとれるようにしよう! 最近の自然災害・感染症にはどんなものがある? 2020年初頭から私たちの生活を脅かし続けている新型コロナウイルス感染症。最近では変異株が流行ってきているということもあり、1日でも早い収束が望まれるところです。 私たちの生活を脅かしているのは、新型コロナウイルス感染症だけではありません。最近の自然災害を見てみましょう。 2017年 7月 福岡県と大分県で集中豪雨。死者行方不明者40人以上2018年 6月 大阪府北部を震源とする震度6弱の地震2018年 6月~8月 東日本・西日本に記録的な猛暑2018年 7月 広島県、岡山県、愛媛県などに集中豪雨。死亡者200人以上2018年 9月 北海道胆振東部で震度7の地震。約295万戸が停電に2019年 8月 九州北部で長時間にわたる集中豪雨。観測史上1位の記録を更新した地域も2019年 9月 関東地方で過去最強クラスの台風(台風15号)2019年 10月 関東地方・甲信地方・東北地方などで記録的な大雨2020年 7月 熊本県を中心に九州地方や中部地方などに集中豪雨が発生2020年 1月 新型コロナウイルス感染症の拡大 ここ数年だけ見ても、各地で大規模な自然災害、甚大な被害が発生していることがわかります。 令和3年度介護報酬改定で義務化された感染症や災害対策 令和3年度介護報酬改定では、「感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制を構築」することが求められるようになりました。 具体的には、日ごろからの備えと業務継続に向けた取り組みの推進として、次のことが求められます。 ◎感染症対策の強化(※3年の経過措置期間あり)〈目的〉感染症の発生やまん延等に関する取り組みの徹底を求めるため〈義務づけられる取り組み〉委員会の開催、指針の整備、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等 ◎業務継続に向けた取り組みの強化(※3年の経過措置期間あり)〈目的〉感染症や災害が発生した場合でも、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築するため〈義務づけられる取り組み〉業務継続に向けた計画(BCP)等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等 守るべき資源とはどんなもの? 災害や感染症の流行といった自然災害に遭遇しても、地域に必要な看護サービスを止めない、もしくは一時的に止めても再開できる事業所運営が求められます。そして、その看護サービス提供に必要な資源を守ることが重要です。 守るべき資源とは、まず職員。そして、建物・設備、そしてライフライン(電気・ガス・水道・情報通信など)です。 なお、雇用契約を結んだ時点で、ステーションには職員の安全や健康を守る義務(安全配慮義務)が発生し、労働安全衛生法に従い、さまざまな措置を講じる義務があります。 ①安全衛生教育(労働安全衛生法第59条)事業者は労働者に対して、雇入れ時および作業内容の変更時などに、安全衛生教育を実施 ②健康診断(労働安全衛生法第66条)事業者は常時使用する労働者に対して、雇入れ時および1年以内ごとに1回、定期的に健康診断を実施 上記以外にも、感染予防に努めたり、体調不良の職員がいた場合は勤務調整などを行わなければいけません。 最近の自然災害の状況を見てもわかる通り、水害や地震、停電など人命やライフラインに影響が起きるような災害が発生しています。 職員の生命を守るためにも、そして地域で事業継続し、必要な看護を届けるためにも、災害の種類に応じた資源の守り方や事業継続のしかたを考えていきましょう。 まず、業務継続に向けた計画(BCP)等を作成してみよう! まずは、業務継続計画(BCP)を作成してみましょう。厚労省のホームページでは、BCPを作成するための研修動画やガイドライン、ひな形が掲載されています。 ▼厚生労働省HP:介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html 研修動画を見ながら、そしてひな形を活用しながら、ステーションの防災・減災の取り組みの活動の一環として職員の方々と対話をしながら作成していくとよいでしょう。また、地域の訪問看護ステーション連絡協議会などの会議の場で、各地域で想定される自然災害や各ステーションの防災対策、連携方法や情報共有方法などについて話し合い、いざという時の協力関係を結べるようにしておきましょう。 なお、内閣府の防災情報のページから、都道府県ごとに設けている防災に関するホームページにアクセスすることができますので、ぜひご確認ください。 ▼内閣府HP:各自治体防災情報 ホームページ一覧http://www.bousai.go.jp/simulator/list.html 加藤明子 加藤看護師社労士事務所代表看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント 看護師として医療機関に在籍中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。 ▼加藤看護師社労士事務所https://www.kato-nsr.com/ 編集協力:株式会社照林社

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2021年7月6日
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第1回 訪問看護ステーションの「働き方改革」/[その1]訪問看護ステーションで押さえておきたい「働き方改革」

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 「働き方改革」は、働く人たちが個々の事情に応じた多様な働き方を自分で「選択」できるようにするために、国が強力に進めている施策の1つです。働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(いわゆる「働き方改革関連法」)によって、労働基準法などが改正され、2019年4月より順次施行されています。 ●ここがポイント! ・「働き方改革」、まずは「労働時間管理」や「有給休暇管理」から始めてみよう! ・「働き方改革」をサポートしてくれるさまざまなサービスも活用しよう! ・誰でも働き続けたくなる魅力的な職場づくりのために前向きな取り組みとアピールを 働き方改革がめざすもの 日本国内の生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)は1990年代がピークで、それ以降は減少傾向が続いており増加の見込みもないのが現状です。一方で、働く人たちの働き方(働く時間、働く場所、仕事内容など)のニーズの多様化も進んできています。このような状況の中で、働く人一人ひとりがよりよい将来の展望を持てるようにすることをめざして進められているのが「働き方改革」です。 具体的には、「労働時間」「保健」「有給休暇」「賃金」の各項目において、大企業、中小企業別に次の表のようなスケジュールで改革が進められています。ここで言う「中小企業」とは、資本金の額または出資の総額が5000万円以下、または常時使用する労働者の数が100人以下の企業のことを言いますから、訪問看護ステーションはほとんど中小企業になると思われます。 表 働き方改革関連法施行スケジュール 訪問看護ステーションの「働き方改革」のポイント 訪問看護ステーションが取り組むべき「働き方改革のポイント」としては、以下の5つの義務が挙げられます。 ①労働時間の客観的な把握の義務づけ ②時間外労働の上限規制 ③年5日間の年次有給休暇の取得の義務づけ ④同一労働同一賃金 ⑤月60時間を超える残業に対する割増賃金率の引上げ この中でまずは、「労働時間の客観的な把握の義務づけ」「時間外労働の上限規制」や「年5日間の年次有給休暇の取得の義務づけ」への対応を進めていきましょう。 労働時間の把握義務化への罰則はありませんが、従業員の労働時間の把握・管理を怠り、時間外労働の上限規制や年5日間の有給休暇取得義務に違反した場合、法律で罰則が科せられます。 「働き方改革」をサポートしてくれるツールやサービス 「労働時間の客観的な把握の義務づけ」、「時間外労働の上限規制」や「年5日間の年次有給休暇の取得の義務づけ」については、いずれも2019年4月より施行されていますが、施行された当時よりも現在は、働き方改革に対応するための業務運営用のソフトやサービスが改善されています。 例として、「労働時間の客観的な把握の義務づけ」について、簡単に説明しましょう。 労働時間の客観的な把握の義務づけ」への対応策としては、以下のようなことを行う必要があります。 ◎原則として「タイムカードやICカード、パソコンの使用時間の記録」などの客観的な方法で労働時間を把握する。 ◎法律の「労働時間」の考え方に沿って、労働時間を取り扱う。 ◎管理監督者を含む、すべての労働者を対象 こうした「労働時間の客観的な把握の義務づけ」を支援するために、さまざまな業務用ソフトやサービスが開発されています。 例えば、 ・クラウド型勤怠管理システム ・ICタイムカード ・スマホやタブレットで利用できる専用のアプリ このほかに、 ・介護ソフトにタイムカード機能・勤怠管理機能が追加 ・給与計算ソフトにタイムカード機能・勤怠管理機能が追加 ・給与計算ソフトと連携機能をもった無料の勤怠管理アプリ などのサービスが開発・提供されています。 すでにご使用になっている業務運営ソフト(介護ソフトや給与計算ソフトなど)に、勤怠管理や有給休暇管理などの機能が追加されていないか、また、現在使用されている業務運営ソフト以外にも、使いやすかったり、手ごろな価格で利用できる自社に合ったサービスはないか、調べてみてはいかがでしょうか。 「働き方改革」は職場の魅力につながります! さらに最近では、新型コロナウイルス感染症の対応として、テレワークを推進したり、利用者さん宅に直行・直帰を認めているステーションもあります。テレワーク勤務や直行・直帰の問題点としては、職場内のコミュニケーションの機会が減少してしまうことがしばしば挙げられますが、一方でそれを補うような取り組みを進めているステーションは、職員の勤続意欲も高まります。 職場環境の改善を行い、職員が安心して働き続けられる職場づくりを行っているステーションは、人材確保や人材定着にもつながり、そして利用者やご家族の安心感や信頼にもつながるのです。ぜひ前向きに取り組み、アピールしてください。 ** 加藤明子 加藤看護師社労士事務所代表 看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント 看護師として医療機関に在籍中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。  ▼加藤看護師社労士事務所 https://www.kato-nsr.com/ 編集協力:株式会社照林社

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