特集 インタビュー コラム

訪問看護における生活期リハビリテーション

【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
特集 限定

【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そんなセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第3回は、日比先生による「症例を通した日常生活動作の工夫」についての講演の後半をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生 2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 検討症例の基本情報:90歳・男性のBさん▶︎ 困りごと(1) 起き上がりから車椅子への移乗が難しい ・移乗動作を助ける福祉用具 ・適切な車椅子を選んで移乗の負担の軽減を▶︎ 困りごと(2)食べるスピードが遅く、食事中ぼーっとする ・食具の種類と導入の注意点▶︎ 利用者さんの生活動作について助言する際のポイント ▶︎ 検討症例の基本情報:90歳・男性のBさん 90歳の男性Bさんの架空の症例を通して、具体的な生活動作へのアドバイス方法を考えていきましょう。最初にBさんの基本情報をご確認ください。 2症例目:Bさん(90歳/男性)・妻と二人暮らし。・4年前に脳梗塞を発症し、重度片麻痺の後遺症が残っている。・ADL動作は、食事以外は介助が必要。要介護認定は「要介護3」・移動は車椅子で全介助。ベッドで寝ていることが多く、外に出る気はまったく起きない。 そんなBさん、およびその妻が日常で感じているさまざまな困りごとについて順番に見ていきます。 1症例目はこちら>> ▶︎ 困りごと(1) 起き上がりから車椅子への移乗が難しい 最初の困りごとは、起き上がりから車椅子への移乗です。妻は「夫は体が大きいので介助が大変だ」と話し、Bさん本人も「車椅子に乗ると疲れるから、ベッドで寝ていればいい」といいます。寝たきりになるリスクが非常に高い状態ですね。 そこで、起き上がりと移乗の動作についてアドバイスします。それぞれ以下のような手順を踏むと、比較的スムーズに体を動かせるでしょう。 ※黄色のテープを巻いている足は、健康状態が悪い足を表現しています 【起き上がり動作の手順】STEP1:ギャッジアップ座位にするベットに頭を付けたままギャッジアップで上体を起こす。STEP2:高さ調整介助者の腰が深く曲がらないように、ベッドの高さを調整する。STEP3:足を降ろし、上体を起こす下肢を先に降ろし、上体を健康な足側の方向に起き上がらせる。 ※黄色のテープを巻いている足は、健康状態が悪い足を表現しています 【移乗動作の手順】STEP1:座面を上げる立ち上がりやすい高さ(目安は股関節が90度以上になる状態)までベッドを上げる。STEP2:上体を曲げ、臀部を上げるお辞儀をさせるように上体を曲げ、お尻が浮きやすい体勢にして立ち上がる。STEP3:悪い足を固定し、方向転換する悪い足を固定し、健康な足側に重心をかけて方向転換させる。 移乗動作を助ける福祉用具 併せて提案したいのが、移乗動作を助ける福祉用具です。利用者さんが臥位・座位・立位のどの状態から移乗するかによって選定してください。 立つことが可能であれば、L字手すりを設置し、立ち上がりをサポートします。座位の場合は、トランスファーボードや介助用ベルトを使用し、転倒予防や介助負担の軽減を図りましょう。そして座ることも難しい場合は、介助用リフトの導入を検討します。 適切な車椅子を選んで移乗の負担軽減を 移乗の負担を軽減するには、利用者さんに合った車椅子を選ぶことも重要になります。車椅子の選定ポイントは、車椅子の座位姿勢、使用目的、そして移乗動作の介助量です。選定基準を詳しく見ていきましょう。 ・普通型車椅子移乗の介助量が少なく、座位保持が可能な方向け。自走に適している。・モジュラー式車椅子移乗の介助量は中等度で、座位保持が可能な方向け。自走に適している。・リクライニング型車椅子移乗の介助量が大きく、座位保持が困難な方向け。介助用に適している。なお、リクライニング型車椅子はチルト機能があるものがおすすめ。座面から臀部がずれ落ちるのを軽減でき、転倒を予防できる。長い時間座位を保持する場合にも便利。 ▶︎ 困りごと(2) 食べるスピードが遅く、食事中ぼーっとする 続いての困りごとは、食事についてです。妻からは「食べるスピードが遅い。食事中にぼーっとしているのも気になる」と、本人からは「箸が使いにくくて疲れてしまう」という声が聞かれました。 食事動作へのアドバイスをする際には、まず先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期のどの段階に問題があるかを見極めましょう。Bさんの場合は、先行期に問題があるケースになります。 次に、具体的な評価と改善案を考えていきます。例えば「食べるのが遅い」ことには、多くの場合疲労の問題が隠れています。肘つきのある椅子やリクライニング機能のある車椅子に変えたり、一回の食事時間を短くして回数を増やしたりといった工夫をしてみてください。また、「ぼーっとしている」のは傾眠傾向にある可能性があります。覚醒している時間に食事をとるようにすると、介助者の負担を軽減できるかもしれません。 食具の種類と導入の注意点 「普通箸が使いにくい」とお困りの場合には、食具の見直しがおすすめです。利用者さんがどのような動作を難しく感じているかを観察し、以下の基準を参照して合うものを選定してあげてください。 指の曲げ伸ばしが困難な場合 → 自助具箸握り・つまみ動作が困難な場合 → 万能スプーン握りが困難な場合 → 万能カフ 食具の提案で注意してほしいのは、本人が自力でできる動きまでサポートしてしまうものは選ばないこと。過剰に動作を助ける道具を使うと、残存機能を低下させてしまう可能性があります。 ▶︎ 利用者さんの生活動作について助言する際のポイント 私の講演では、疾患や介助量が異なる2つの症例を通して、日常の生活動作や環境設定へのアドバイス方法についてご説明してきました。今回ご紹介した症例に類似するケースに限定せず、助言する際のポイントは大きく3つあります。 1つ目は、生活動作については安全で、誰でも実践できて、かつ習慣化できる内容を提案すること。2つ目は、環境設定は、心身機能の状態に合わせて検討すること。そして3つ目は、福祉用具を選ぶ際は、残存機能を発揮できるものにすることです。 上記に基づいたアドバイスは、きっと利用者さんの社会参加の一歩につながります。ぜひ、明日からの現場で実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

【セミナーレポート】vol.2 具体的なアドバイス方法(1) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
特集 限定

【セミナーレポート】vol.2 具体的なアドバイス方法(1) -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そんなセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第2回は、日比先生による「症例を通した日常生活動作の工夫」についての講演の前半をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 検討症例の基本情報:80歳・女性のAさん▶︎ 困りごと(1) 階段で転びそうになる ・段差があるところで利用できる福祉用具▶︎ 困りごと(2) 便座に座ると立ち上がるのに苦労する▶︎ 困りごと(3) 杖を持つ手や、先に踏み出す足がわからない▶︎ 困りごと(4) 廊下のマットで足を滑らせた▶︎ 困りごと(5) 脱臼が怖くて靴下を履くのが不安 ・脱臼を予防する道具の使用を習慣化するのもおすすめ▶︎ 困りごと(6) 滑るのが怖くて浴槽に入れない ▶︎ 検討症例の基本情報:80歳・女性のAさん 私の講演では、明日から訪問看護の現場で役立ててもらえる「生活動作へのアドバイス方法」について、2つの架空の症例を通してご紹介していきます。 1症例目は、80歳の女性Aさん。最初に、以下Aさんの基本情報をご確認ください。 1症例目:Aさん(80歳/女性)・独居。・2年前に転倒し、大腿骨頸部を骨折。人工股関節術を受けている。・ADL動作は自立。要介護認定は「要支援1」・杖を使えば歩けるが、最近転びやすくなってきたこともあり、外に出る気が起きなくなっている。 そんなAさんが日常で感じているさまざまな困りごとについて、具体的な解決策を考えていきたいと思います。 ▶︎ 困りごと(1) 階段で転びそうになる 最初の困りごとは、転倒のリスクです。Aさんは「新聞をとりに行こうとしたら、玄関の階段でつまずきそうになった」と話します。 そこでアドバイスしたいのが、正しい階段昇降の方法です。まず階段を上るときには、健康な足から踏み出し、続いて悪い足を上げます。健康な足で体を持ち上げましょう。逆に降りるときは、悪い足を先に下ろします。健康な足で体を支えながら踏み出すことで、動きが安定するためです。 この階段での足の動かし方は、「行き(上り)はよいよい(いい足)、帰り(降り)は怖い(悪い足)」と覚えてみてください。 段差があるところで利用できる福祉用具 福祉用具を導入するのも有効な手段です。今回は玄関の階段での転倒リスクが問題になっているため、段差昇降や立位のバランスを安定させる「踏み台」や「玄関用の手すり」が役立つ可能性があります。また、立って靴を履くのが難しいケースや、玄関の上がりかまちが低く、座って靴を履くと立てなくなってしまうケースには、「靴を履くときの椅子」の設置を提案してもいいでしょう。 ▶︎ 困りごと(2) 便座に座ると立ち上がるのに苦労する 続いての困りごとは、トイレでの動作です。Aさんは「便座に座ったら立ち上がるのに苦労した」と話します。 便座からの立ち上がりをラクにするには、便座の位置を高くすることが効果的です。以下のような便座を活用すれば、問題を解消できる可能性があります。 ・設置式洋式便座便座の形状を和式から洋式に変更できるもの・高座便座現状の便座の上に補高便座を設置するもの・昇降便座自動で便座が持ち上がり、立ち上がるときに「お辞儀の体制」をとりやすくしてくれるもの また、トイレでは便座だけでなく扉の種類もチェックしておくことがおすすめです。折戸の扉は開閉に必要なスペースが狭いため、利用者さんの姿勢の移動が少なく、また介助者が一緒に入る空間も確保しやすいです。一方、一般的な片開きドアは開閉スペースが広くなり、扉を開くときに後方へバランスを崩しやすくなったり、介助者が入りにくかったりします。 トイレ動作は日中、夜間ともに頻度がとても高いので、利用者さんがおかれている環境を確認してください。必要に応じて手すりをはじめとした福祉用具の設置や、動作練習をしておくとよいでしょう。 ▶︎ 困りごと(3) 杖を持つ手や、先に踏み出す足がわからない 続いての困りごとは、歩行についてです。Aさんから「杖を持つ手や先に出す足がどちらかわからなくなってしまう」と相談を受けました。 杖を持つのは、健康な足側の手です。そうすることで、健康な足への重心移動がスムーズになり、悪い足が前へ出やすくなります。また、先に踏み出すのは悪い足です。健康な足で重心移動すると踏み出しやすくなるためです。 ▶︎ 困りごと(4) 廊下のマットで足を滑らせた 続いてAさんから「廊下に敷いていたマットで足を滑らせてしまった」という相談がありました。自宅で転倒する代表的な要因としては、マットやスリッパの利用が挙げられます。マットはずれないように工夫する、もしくは取り外す。スリッパはやめて、滑り止めのついた靴下を履くなど、転倒しにくい環境づくりについてぜひアドバイスしてください。 また、コードに足を引っかけて転んでしまうケースもよく見られます。頻繁に移動する場所にはコードを設置しないようにするといいでしょう。 ▶︎ 困りごと(5) 脱臼が怖くて靴下を履くのが不安 次は、更衣動作に関する困りごとです。Aさんは「人工股関節術を受けてから足を深く曲げてはいけないといわれていて、靴下を履くのが怖い」と話します。Aさんのいうとおり、人工股関節術を受けた方は、特定の姿勢をとると脱臼しやすくなります。特に術後6ヵ月までは、筋力低下の影響もあり、脱臼リスクが高くなるので注意が必要です。 では、脱臼しやすい姿勢とは具体的にどんなものでしょうか? 術式によって異なります。 前方侵入法の場合:体をひねって後ろを振り向く姿勢後方侵入法の場合:体を深く曲げる姿勢、足を体の内側に向かってねじる姿勢 なお、利用者さんは自分がどの術式で手術を受けたかわからないことも多いです。そんなときは、手術の傷跡を見て確認しましょう。前方侵入法は大腿部側面に、後方侵入法は臀部に傷跡があります。 脱臼を予防する道具の使用を習慣化するのもおすすめ 利用者さんに脱臼しやすい姿勢をずっと覚えていてもらうことはなかなか難しいので、リスクの低減につながる道具の使用を習慣化することがおすすめです。 例えば、靴下を履くときはソックスエイドを、靴を履くときは長めの靴べらを使う習慣をつければ、体を深く曲げる姿勢を自然と避けられます。 ▶︎ 困りごと(6) 滑るのが怖くて浴槽に入れない 最後の困りごとは、入浴についてです。Aさんは「浴槽で滑るのが怖いので、シャワーで済ませている」と話します。 こうしたケースでは、浴室での立ち上がりを助けたり、転倒を予防したりする用具を提案してみましょう。具体的には以下のような選択肢があります。 ・シャワーチェアー一般的にお風呂で使われている椅子より座面が高く、また肘つきや背もたれがあるので、立ち上がりがラクになる。肘つきや背もたれは手すりがわりにもなる。・バスボード浴槽を座ってまたぐ動作を安全に行える。ただし、設置すると浴槽内が狭くなるため、浴槽に入ってから取り外さなければならない場合も。・すのこ浴室の床に設置することで、床と入り口や浴槽との段差を小さくできる。ただし、扉がすのこに当たって開閉できなくなることがあるので要注意。 また、ぜひアドバイスしてほしいのが浴槽のまたぎ動作についてです。立ってまたぐ場合は、股関節を深く曲げずに済みますが、バランスを崩しやすいというデメリットがあります。一方、座ってまたぐ場合は股関節を深く曲げることになるものの、立位よりバランスが安定しやすくなります。 利用者さんの立位の安定性と、浴室のどこに手すりがあるかといった環境に応じて、そのケースに合った動作を検討してください。 次回は、「vol.3 生活動作への具体的なアドバイス方法(2)」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

【セミナーレポート】vol.1 生活期リハビリの要点 -訪問看護における生活期リハビリテーション-
特集 限定

【セミナーレポート】vol.1 生活期リハビリの要点 -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハビリの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そのセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第1回は、仲村先生による「生活期リハビリのポイントや成果を出すコツ」「訪問看護師と療法士の連携」についての講演をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 「活動」と「参加」の問題へのアプローチが重要▶︎ 「できないこと」よりも「できること」に着目を ・活動・参加の内容の考え方▶︎ 生活期リハビリの具体的な流れとポイント ・ポイント1:活動・参加につながる目標を立てる ・ポイント2:リハビリは本人や家族だけでできる内容にする ・ポイント3:利用者さんの心を揺さぶる提示を意識 ・ポイント4:些細な変化を見逃さない&本人に伝える▶︎ 療法士が望む、生活期リハビリにおける訪問看護師との連携 ▶︎ 「活動」と「参加」の問題へのアプローチが重要 療法士が利用者さんの現在の状況を把握する際に使用する「ICF(国際生活機能分類)」の枠組みをご存じでしょうか。ICFとは、「(1)健康状態」「(2)生活機能(心身機能・身体構造/活動/参加)」「(3)背景因子(環境因子/個人因子)」という互いに関係し合う3つの観点から、対象者の生活機能と障害について分類するものです。 このなかの「(2)生活機能(心身機能・身体構造/活動/参加)」の視点から利用者さんの健康状態を整理すると、以下のような問題点が見えてきます。 ●「心身機能・身体構造(心体の動き)」の問題→麻痺、筋力低下など心身の機能や構造に問題がある状態●「活動」の問題→着替えや食事、排泄、家事動作など「生活に必要な行為」に支障がある状態●「参加」の問題→趣味や地域活動、労働など、本人がもつ「役割」を果たせない状態 「活動」は生活に必要な行為すべてを、「参加」は社会や家庭で役割を果たすことを指します。生活期リハビリを支援するにあたっては、この「活動」と「参加」の問題をいかに改善していくかを常に考えることが重要です。 ▶︎ 「できないこと」よりも「できること」に着目を 「活動」と「参加」にアプローチすることで、心身機能の向上を図ることもできます。なぜなら、心身機能と活動、参加は互いに影響を与え合うものだからです。 このときにポイントとなるのが、「できないこと」にばかり注目するのではなく、「できること」に目を向けること。支援する私たちも利用者さんも「できないこと」ばかりに意識が向いてしまいがちですが、それでは多くの場合うまくいきません。「心身機能に問題がある=実践できる活動や参加がない」ということは決してありません。「今できる活動・参加」を実践して成功体験を重ねれば、自己効力感が向上し、自信が回復してさまざまなことに能動的に挑戦できるようになるはず。そうして、心身機能の回復につながっていくことが期待できます。 活動・参加の内容の考え方 活動・参加に積極的に取り組んでもらうためには、利用者さんの希望に合った内容にすることが大切です。日頃から利用者さん中心のコミュニケーションを重ね、その人の価値観や生活背景を探り、それに基づいた内容を考えてみましょう。例えば「カメラが趣味だ」という利用者さんがいたとします。それだけ聞いて「撮影の練習をしましょう」と提案しても、その方が撮った写真を自慢することが好きだった場合、リハビリはうまくいきません。それよりも、今までに撮った写真について話せるコミュニティーへの参加を検討するほうが、きっと主体的に取り組んでくれるはずです。普段の会話のなかにひそむヒントをぜひ見つけてください。 ▶︎ 生活期リハビリの具体的な流れとポイント 続いて、生活期リハビリの具体的な流れに沿って、内容の決定や利用者さんへの提示などにおけるポイントをご紹介していきます。 ポイント1:活動・参加につながる目標を立てる まずは、利用者さんの課題や現状を整理し、本人が望む活動・参加につながる具体的な目標を立てましょう。例えば、「家族に食事を振る舞えるようにする」「孫を膝に乗せられるようにする」などです。 ポイント2:リハビリは本人や家族だけでできる内容にする そして次に、その目標を達成するためのリハビリ内容を考えていきます。このときのポイントは、療法士がいなくても本人や家族だけでもできるものにすることです。無理なく継続できるような内容にしましょう。 ポイント3:利用者さんの心を揺さぶる提示を意識 リハビリの提示をする際は、「心を揺さぶる伝え方」を意識してください。内容は同じでも、言い方ひとつで利用者さんのモチベーションは大きく変わるものです。 例えば、立ち上がり練習をしてもらいたいとき。「足の筋力が弱いので、立つ練習をしましょう」と伝えるよりも、「30秒つかまり立ちができれば、トイレや着替えがラクになりますよ。まずは10秒立つことから始めてみませんか?」と伝えたほうが、利用者さんのやる気を引き出しやすくなるはずです。 ポイント4:些細な変化を見逃さない&本人に伝える リハビリを継続してもらうには、効果を感じてもらえるようにすることが重要です。利用者さんの変化をよく観察し、言葉にして積極的に伝えましょう。また、療法士だけでなく看護師さんやご家族など、周りのみんなで伝えることもポイント。「前よりもよくなったね!」と声をかけられると、利用者さん本人も自身の変化を実感しやすくなります。 ▶︎ 療法士が望む、生活期リハビリにおける訪問看護師との連携 リハビリでは、PDCAサイクルを回して、常により効果的な形を模索していきます。訪問看護師のみなさんには、ぜひこのサイクルに参加してほしいと考えています。看護師さんの視点から、その方にあった活動と参加はどんなものか、その実現のためにはどんなリスクがあるのか、どんどん意見を出してほしい。また、リハビリの評価についてもぜひ話し合いたいです。そうやって、療法士と看護師さんとで一緒によりよいリハビリをつくっていければと思います。 次回は、日比先生による講演「vol.2 生活動作への具体的なアドバイス方法(1)」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

× 会員登録する(無料) ログインはこちら