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特集
2022年3月1日
2022年3月1日

Spo2(サチュレーション)が低いが「苦しくない」と答える患者への確認ポイント5つ

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第5回は、SpO2が平常時は95%あるのに、90%になっている患者さん。呼吸困難感を尋ねると本人は「苦しくない」……。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 ベッド上で全介助の82歳男性。バイタルサイン測定時にSpO2が90%でした。ふだんは95%ぐらいあり、呼吸困難感について尋ねたのですが、「苦しくない」と言っています。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 SpO2が90%であり、低酸素状態が疑われます。高齢者では呼吸困難の自覚が乏しいことがあるので、客観的データを十分に収集する必要があります。低酸素状態は、▷肺や呼吸の問題 ▷循環の問題 ── が考えられます。 一方、全身的な低酸素状態ではないのに、測定部位の循環障害でSpO2値が低く出る場合があるので、まずは正しく測定できているかの確認から始めましょう。 ここに注目! ●SpO2値でみると、低酸素状態であり、呼吸障害や全身の循環不全が考えられるのでは?●症状がほとんどないことから、末梢のみの循環障害か? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・低酸素に伴う症状(呼吸困難、胸が苦しい感じ、頭痛、頭が重い感じ、ぼーっとする感じ、目の見えにくさ、声の出にくさ、言葉の出ない感じ、不安感、焦燥感、傾眠傾向、など)・肺の感染徴候の確認(のどの痛み、咳、痰、喘鳴、など)・生活への影響(食欲・食事摂取量の低下、活動量・活気の減少) 客観的情報の収集 SpO2測定部位の末梢循環 SpO2が低く出たときの測定部位の指先について、冷感、皮膚の色、圧迫されていないかを確認します。 SpO2を簡便に測定することができるパルスオキシメーターのしくみは、手または足の指にプローブを装着することで、血液の色を検知し、酸素と結びついたヘモグロビンがどの程度存在するかを計算します。循環障害のない(皮膚色の変化のない)指で測定しなければ、正しい値が出ないことがあります。 SpO2が低く出た測定部位が一時的な循環不全だった可能性があれば、加温やマッサージ後に、もう一度測定します。また、ほかの手指、足指で測定してみて値が回復するようなら、全身的な低酸素状態ではないと確認できます。 チアノーゼと冷汗 全身性のチアノーゼ、じっとりとした冷たい汗をかいている場合は、全身の循環障害(ショック状態)が強く疑われます。速やかな対応が必要です。 呼吸数・胸郭拡張の確認 もし低酸素状態であれば、頻呼吸となり、浅速呼吸や努力呼吸になっていることがあります。 平均的な呼吸数は12~20回/分です。必ず呼吸数を確認し、報告しましょう。 胸郭の視診・触診で、呼吸運動が十分に行われているかを確認します。ただし、COPDなど閉塞性の肺疾患のある人は、もともと胸郭が動きにくいので、胸鎖乳突筋や腹筋などの呼吸補助筋の緊張が高まっていないかをチェックすることが役立ちます。 肺音の聴取 努力呼吸のときには呼吸音は増大します。大きく聞こえているからといって、酸素を十分に取り込めているわけではないので注意してください。呼吸音の消失や減弱、代償性の増強、肺胞音が聞かれるべき部位で気管支呼吸音のような強い音が聞かれる気管支呼吸音化をチェックします。 副雑音は正常では聞かれない音です。副雑音があるようなら、肺胞や気管支に何らかの異常があると判断できます。 脈拍・血圧測定 呼吸機能が原因の低酸素の場合、末梢へ酸素供給を行うために脈拍が速くなり、血圧は高くなります。低酸素状態が悪化すると血圧は低下します。 報告のポイント ・正しく測定したSpO2の値とその経過・バイタルサイン・呼吸形態や肺音聴取の結果から、呼吸器障害の推測・全身の循環障害の徴候 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定
【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定
特集
2024年2月27日
2024年2月27日

【トリプル改定 超速報】2024年度診療報酬改定で訪問看護はどうなる?

2024年度は診療・介護・障害福祉の報酬・基準のトリプル改定。訪問看護は3分野にまたがることが多いだけに、早期にポイントを押さえ、対処にのぞむ必要があります。本記事では、診療報酬上の訪問看護に関係する改定の速報を取り上げます。 診療報酬改定率は+0.88%、施行は6月から 2024年度の診療報酬全体の改定率は、医療・看護従事者の処遇改善といった課題への対応の必要性を受け、+0.88%(薬価等は薬価+材料価格で▲1.00%)と、前回2022年度改定の+0.43%を上回りました。この+0.88%のうち、看護職員や病院薬剤師などの処遇改善については2024・2025年度のベースアップのための特例的な対応分として+0.61%が含まれています。 もう1つ、今回の診療報酬改定全般で注意したいのは、改定時期です。医療DXの推進にともない、医療機関や薬局、システムベンダに集中する改定時の業務負荷を軽減するため、これまで4月だった改定時期が6月へと2ヵ月ずれ込むことになりました。 この6月という改定時期については、介護報酬上でも訪問看護をはじめとした医療系サービスに適用されているので注意しましょう。 人材確保・働き方改革の推進が重点課題に 今回の診療報酬改定の重要テーマの1つは、将来的な労働力人口の減少もにらんだ人材確保・働き方改革等の推進です。 訪問看護では、診療報酬上で24時間対応体制の確保が評価されていますが、従事者にとっては大きな負担が生じがちです。そこで、24時間対応体制加算において「24時間対応体制における看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制が整備されていること」を評価する新区分が誕生します。具体的な体制整備として、「夜間対応した翌日の勤務間隔の確保」や「ICT、AI、IoT等の活用による業務負担の軽減」などの対応が求められます。 24時間対応にかかる連絡相談については、一定要件を満たせば、訪問看護ステーションの看護師・保健師以外でも対応可能になりました。 複数のステーション管理者の兼務が可能に 人員確保が困難な状況下では、訪問看護の質を落とさずに管理者の兼務を可能にできるかというテーマも浮上しています。 訪問看護の管理者は、現行では「同時に他の指定訪問看護ステーション等を管理することは認められない」が原則です。例外規定はありますが、管理者の責務の点であいまいさが残ります。 そこで、適切な兼務が可能になるよう、管理者にかかる規定が見直されました。具体的には、上記の「原則不可」の規定を削除した上で、例外規定について以下のように改めています。 (1)同一の指定訪問看護事業者によって設置された他の事業所、施設に従事すること(現行の「同一敷地内」という規定は削除)(2)上記(1)に従事の際も、本体事業所の利用者のサービス提供の場面で生じる事象を適時・適切に把握できること (3)職員および業務に関して、一元的な管理・指揮命令に支障が生じないこと など 訪問看護でも「医療DX情報」の活用を評価 2つめの大きなテーマが医療DXの推進です。この医療DXを進める上で重視されるのが、オンライン資格確認等システムや電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスの活用です。 訪問看護においても、これらの情報を取得・活用することで質の高い看護サービスを提供した場合の報酬上の評価が誕生しました。それが「訪問看護医療DX情報活用加算」です。要件としては、電子資格確認を行なう体制を整えた上で、その情報の取得・活用によって訪問看護を提供する旨を、事業所内やウェブサイト上に掲示することが求められます。 なお、医療DXの一環として、2024年6月より訪問看護レセプトのオンライン請求がスタートします。この改革を踏まえ、訪問看護指示書等では、原則として主たる傷病名において「傷病名コード」を記載することになりました。 利用者にとって分かりやすい看護提供を 前項で「ウェブサイト上の掲示」という規定が登場しましたが、今改定では、訪問看護を提供する際の「重要事項」についても、原則としてウェブサイト上の掲示が求められます。 これは国のデジタル原則にもとづいた施策で、利用者が事業所の情報を適時適切に閲覧できることにより、分かりやすい医療・看護を実現する環境を整備する目的もあります。ちなみに、介護サービス基準でも同様の規定が設けられています。 この「分かりやすい医療・看護の実現」というテーマに沿った改定に、医療機関・訪問看護ステーションにおける明細書の無料発行の義務化があります。ただし、すでに発行が義務化されている領収証で、個別項目ごとの金額等の記載が求められていることから、現在の領収証を「領収証兼明細書」とします(一定の経過措置あり)。 訪問看護の機能強化に向け評価の厳格化も 3つめの大きなテーマが、訪問看護の機能強化です。この場合の機能強化というのは、多様化する利用者や地域ニーズに対し、質の高い効果的なケアが適切に提供できているかを評価することです。 対象となったのは、訪問看護基本療養費に上乗せされる「訪問看護管理療養費」です。訪問看護管理療養費については、安全な提供体制が整備されていることが要件ですが、ここに新たな指標にもとづいた区分けが行われました。 例えば、同一建物居住者の割合や、厚労省が示す特掲診療科の施設基準別表(第7・8)に掲げる利用者への訪問看護の実績が問われます。要件が厳しくなっている点に注意が必要でしょう。 利用者ニーズに応じた評価のあり方へ その他、「評価が厳しくなった」という点では、緊急訪問看護加算でも月あたりの提供日数に応じた報酬の区分けが行われました。 一方で、利用者のニーズに応じて、集中的な資源投入への評価も見られます。例えば、医療ニーズの高い利用者の退院支援という点では、訪問看護管理療養費にかかる退院支援指導加算において、退院支援指導の長時間訪問の算定方法が拡大されました。具体的には、複数回の訪問の合計時間も評価対象となります。 また、訪問看護基本療養費の乳幼児加算において、超重症児(準超重症児を含む)や、やはり特掲診療科の施設基準別表(第7・8)に掲げるケースでの評価が引き上げられています。 訪問看護外だが、注目したい在宅療養の項目 訪問看護に直接かかわる項目ではありませんが、在宅療養に関連するということで、在宅療養指導料の見直しにも注目しましょう。在宅療養を進める上で必要となる患者への指導を評価した報酬で、訪問看護にとってその指導内容は押さえるべきポイントです。 注目したいのは、この在宅療養指導料の対象に、退院直後の慢性心不全の患者が加わったことです。訪問看護としても、慢性心不全の利用者へのサービス提供は特に高度な配慮が必要です。医師の指示書において、今改定を機に慢性心不全の患者に関する詳細な指示が加わる可能性を頭に入れておきましょう。 ※本記事は、2024年2月13日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2023).「令和6年度診療報酬改定の改定率等について」https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001180683.pdf2024/2/13閲覧〇厚生労働省(2024).「個別改定項目(その3)について」https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001206366.pdf2024/2/13閲覧

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訪問看護に医療保険が適用される条件は?介護保険との違いも解説
訪問看護に医療保険が適用される条件は?介護保険との違いも解説
特集
2023年9月19日
2023年9月19日

訪問看護に医療保険が適用される条件は?介護保険との違いも解説

訪問看護で適用される保険は、医療保険と介護保険です。医療保険は、病気やけがをしたときにかかる治療費の一部をカバーしてくれる保険で、介護保険は介護の費用負担を軽減してくれる保険です。 訪問看護の場合、利用者さんの年齢や状態などによって適用される保険が変わってきます。改めて医療保険と介護保険との違いや、それぞれの保険が適用される際の条件を確認しましょう。 医療保険と介護保険の適用条件 医療保険と介護保険の適用条件の違いをまとめると、以下のようになります。 それぞれ、もう少し詳しく見ていきましょう。 医療保険の場合 医療保険では、以下の年齢や条件で区分を設けています。 40歳未満(0~39歳)の方40歳以上~65歳未満で16特定疾病(※1)以外の方40歳以上~65歳未満で介護保険第2号被保険者(※2)ではない方65歳以上で要支援・要介護の認定を受けていない方 ※1 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」※2 介護保険第2号被保険者…40歳以上65歳未満の健保組合、全国健康保険協会、市町村国保などの医療保険加入者 医師によって訪問看護の必要があると判断された40歳未満の方や、16特定疾病以外の40歳以上65歳未満の方、要支援・要介護の認定を受けていない65歳以上の方が、基本的に医療保険の適用となります。ただし、要支援・要介護の認定を受けていても、「厚生労働大臣が定める疾患等」(19の疾病と1つの状態)に該当する場合は、医療保険の適用です。また、特別訪問看護指示書が出た場合も医療保険を利用できます。 介護保険の場合 介護保険の年齢区分も、医療保険と同様に40歳以上65歳未満、65歳以上となっていますが、介護保険の適用条件は次のとおりです。 40歳以上~65歳未満の第2号被保険者で16特定疾病の方65歳以上の第1号被保険者で要支援・要介護認定を受けている方(第1号被保険者) 原則として、医療保険と介護保険を併用することはできません。厚生労働大臣が定める「厚生労働大臣が定める疾患等」に当てはまる場合や、特別訪問看護指示書が出た場合は医療保険になります。 訪問看護で医療保険が優先されるケースは? 先述したように、厚生労働大臣が定める19の疾病と1つの状態に当てはまった場合や、特別訪問看護指示書が出た場合は医療保険が優先されます。仮に要支援や要介護の認定を受けている場合でも、医療保険が優先になるため注意しましょう。 「厚生労働大臣が定める19の疾病と1つの状態」 末期の悪性腫瘍多発性硬化症重症筋無力症スモン筋萎縮性側索硬化症脊髄小脳変性症ハンチントン病進行性筋ジストロフィー症パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ三以上であって生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る。))多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症及びシャイ・ドレーガー症候群)プリオン病亜急性硬化性全脳炎ライソゾーム病副腎白質ジストロフィー脊髄性筋萎縮症球脊髄性筋萎縮症慢性炎症性脱髄性多発神経炎後天性免疫不全症候群頸髄損傷人工呼吸器を使用している状態 医療保険と介護保険の利用条件と保険料 利用条件の違い 医療保険と介護保険では、以下のとおり利用条件の違いがあります。 ■医療保険と介護保険の利用条件の違い  医療保険介護保険支給限度額上限なし上限あり利用回数週3回まで制限なし利用時間1回30~90分20分未満、30分未満、30分以上60分未満、60分以上90分未満の中から選べる 大きな違いは、「月の支給限度額」の有無でしょう。医療保険には限度額が設定されていませんが、利用し放題にならないよう、次の条件で利用する決まりになっています。 医師に必要性を認められれば、1日1回30~90分、週3回まで利用可能厚生労働大臣が定める19の疾病と1つの状態に該当した場合や、特別訪問看護指示書が出た場合は、1日2~3回、かつ週4日以上利用可能 介護保険で訪問看護を利用する場合は、利用回数に制限はありません。ただし、支給限度額に上限があるため、限度額の範囲内で収まるように訪問看護を利用する必要があるのです。訪問看護以外にも介護保険を使ったサービスを利用するケースが多いため、結果的に訪問看護の利用は週1~2回に抑えられることが多いでしょう。 保険料の算出方法の違い また、保険料の算出方法も異なります。 医療保険の場合、以下の合計により報酬単位を算出します。1単位当たりの料金は、全国一律で10円です。 訪問看護基本療養費(週当たりの訪問日数に応じて変動)訪問看護管理療養費(月の初日と2日目以降で金額が異なる)各種加算(緊急訪問看護加算、難病等複数回訪問看護加算、長時間訪問加算 など) 介護保険の場合、介護度や訪問時間、各種加算(退院時共同指導加算、夜間・早朝加算、サービス提供体制強化加算など)により報酬単位数を算出します。1単位当たりの料金は、地域区分によって変動します。 訪問に入るまでの流れの違い 医療保険の場合、主治医や近くの訪問看護ステーションに相談し、必要性が認められれば訪問看護の利用が可能です。しかし、介護保険の場合はまず要介護の認定を受ける必要があるため、要介護認定の申請をしなければなりません。すでに要介護の認定を受けている場合は、担当のケアマネジャーに相談します。 その後は、医療保険・介護保険のどちらも主治医から訪問看護指示書により指示を受けます。医療保険の場合は、訪問看護ステーションやかかりつけ医などに相談するケースが多く、介護保険の場合は担当のケアマネジャーがコーディネートするケースが多いです。 * * * 訪問看護の利用において、医療保険と介護保険のどちらが適用されるかは、利用者さんの状況によって異なります。改めてそれぞれの基本的な適用条件を確認しましょう。 また、利用者さんの病状や状況、年齢は変化するため、変化に応じて保険の見直しが必要になります。質問されることもあるので、きちんと理解しておくことが大切です。 執筆:柿野 俊弥監修:川島 峻監修者プロフィール:医師、医学博士。横浜市立大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒業。虎の門病院、東大病院心臓呼吸器外科などで勤務ののち、Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital留学。帰国後、新宿アイランド内科クリニック院長として幅広い世代に対して内科疾患、予防医療を中心に診療している。呼吸器専門医、胸部外科専門医会員、呼吸器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医。編集:株式会社パンタグラフ 【参考】○厚生労働省「訪問看護のしくみ」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000123638.pdf(2023/6/20閲覧)〇公益財団法人 日本訪問看護財団「厚生労働大臣が定める疾病等について」https://www.jvnf.or.jp/shippei100420.pdf(2023/6/20閲覧)

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特集
2022年5月31日
2022年5月31日

「昨日の夜から排尿がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第11回は、ふだんは朝に排尿があるのに、昨夜から今朝まで排尿がない患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 おむつを使用して排泄している90歳男性。ふだんは朝に排尿があるにもかかわらず、昨日の夜から、朝までおむつに排尿がみられません。 あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 尿が出ていない場合は、①尿の生成量が少なく、膀胱に尿がほとんど貯留していない(乏尿・無尿) ②尿の生成ができていて膀胱に貯留していても排出できない(尿閉) ── が考えられます。 ①乏尿では、▷脱水や嘔吐、発熱、心臓のポンプ能力の低下などで腎血流量が減少して尿の生成ができない ▷腎機能そのものに障害がある ▷尿路結石や腫瘍の浸潤により尿管が閉塞し、膀胱に尿がたまらない状態 ── などが考えられます。 ②尿閉は、膀胱よりも下位の障害、神経因性膀胱や前立腺肥大、尿道狭窄により起こるものです。患者さんの苦痛が大きく、放置しておくと尿貯留が上行性に広がり、水腎症や腎盂腎炎などを引き起こす恐れがあります。 乏尿(無尿)と尿閉では対処方法がまったく違いますので、これらが区別できるような情報を収集し、報告しましょう。 ここに注目! ●乏尿(無尿)により排尿がないのではないか?●尿閉により排尿がないのではないか? 乏尿(無尿)のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿路結石や腫瘍による激しい疼痛、腰部や背部に放散するような痛み・乏尿の原因となる循環血流量の減少を招く心不全のアセスメント、脱水の症状を確認する 乏尿(無尿)のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 乏尿の基準は400mL/日以下とされています。一回排尿量が150mLとすると、排尿回数では3回/日以下では注意が必要となります。最終排尿からの時間で換算すると、単純計算では8時間以上間隔が空くと要注意です。 ただし、ホルモンや血流量の関係で、日中は排尿間隔が長く、夜間には短くなるので、いつもの排尿時刻や回数と比較してください。 腎機能が保たれているのに尿量が少ない場合は、尿が濃くなります。最終排尿の色や臭気、いつもとの違いを確認してください。 脈拍・血圧測定 腎臓への血液循環が低下している状態では乏尿になりますので、血圧の低下、脈拍の低下がないかを確認します。 体温測定 高体温になると、不感蒸泄の増加で脱水状態となり、乏尿をきたす可能性があります。 身体への水分貯留のアセスメント 循環障害や腎障害では、全身性の浮腫があらわれます。顔面や全身の腫脹、重力がかかる部位の圧痕を確認します。水分出納を計算し、できれば体重もチェックできるとよいでしょう。 尿閉のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿閉の症状(尿意、激しい尿意、腹部膨満感、腹痛、強い焦燥感や不安感、冷汗、など)・尿閉の原因(前立腺肥大、尿線が細い、残尿がある、脳血管疾患や脊髄疾患等、神経因性膀胱となる要因、など) 尿閉のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 最終排尿時刻を確認し、どれくらいの時間出ていないのか、排泄できずに貯留している尿量を見積もります。また、ふだんの排尿時に、尿線が細い、排尿に時間がかかる、出きらない感覚がなかったかを確認します。 脈拍・血圧測定 痛みや尿が排出できない苦痛で、血圧や脈拍が上昇することがあります。意識レベルの低い高齢者や認知症の患者さんの場合には、苦痛の有無をバイタルサインから推測してください。 膀胱内の尿貯留の確認 膀胱は、正常であれば充満しても恥骨結合内部にとどまり、腹壁から視診・触診することはできません。 尿閉などで貯留量が多くなった場合は、下腹部が膨満し、硬く触れます。打診すると濁音が聞かれます。 腎臓の叩打診 背部の肋骨の下縁くらいに手を置き、その手の上を叩きます。両側行います。 尿路結石や尿路の狭窄では、叩打診をした場合に響くような痛みを感じることがあります。 カテーテルを挿入しての尿排出の確認 医師の指示を得て行いましょう。カテーテルを挿入する経路に狭窄や閉塞がある可能性があるので、なるべく細いカテーテルを用いること、違和感があった場合は速やかに挿入をやめて、医師に相談することが必要です。 報告のポイント ・最終排尿時刻と尿の性状、本人の訴え・乏尿または、尿閉の可能性があると判断したアセスメント結果 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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特集 会員限定
2022年1月6日
2022年1月6日

【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア -原因とアセスメントについて-

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。セミナーの様子を全3回に分けてお伝えします。1回目の今回は、浮腫の基本についてご紹介します。 【講師】岩橋 知美ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 【目次】1.浮腫のメカニズム2.浮腫の種類とその原因3.浮腫のアセスメント --> 浮腫のメカニズム 血液は、心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓と循環します。浮腫との関連を考えるうえで鍵となるのが「毛細血管」。動脈側の毛細血管から出た水分は「間質液(組織間液)」として酸素や栄養を細胞に運び、二酸化炭素や老廃物を受け取って静脈側の毛細血管へと再吸収されます。1日あたりの「間質液(組織間液)」量は約20L。そのうち約80~90%(16~18L)は「毛細血管」に再吸収され、残り約10~20%(2~4L)は「毛細リンパ管」に吸収されリンパ液になります。この「毛細リンパ管」は心臓の拍動の力を受けておらず、周囲の筋肉や呼吸、腸の動きや血管の拍動などの力を借りて動いています。血液は循環するのに対して、リンパ系の流れは一方向。毛細リンパ管は皮膚のすぐ下から始まっていて、毛細リンパ管→集合リンパ管→リンパ本幹→左右の鎖骨下静脈と内頸静脈の合流地点(静脈角)へと運ばれるのです。 浮腫は「間質液(組織間液)がなんらかの原因によって、異常に増加・貯留した状態」になることで起こります。 浮腫の種類とその原因 どのようなメカニズムによって起こるのか次第で、浮腫は5つに分けられます。それぞれの浮腫とかかわりが深い疾患などについてみていきます。 毛細血管内圧上昇による浮腫 毛細血管内圧が上昇する原因として、以下の疾患との関連が考えられます。・DVTや静脈瘤などの静脈弁機能不全・心不全・腎不全また、特定の薬を飲むことや加齢によっても血管内圧は上昇し、浮腫の原因になります。具体的には以下です。・薬剤性浮腫・高齢者の下肢下垂による下腿浮腫など 膠質浸透圧低下による浮腫 タンパク質によって起こる浮腫です。タンパク質には水を吸収する働きがありますが、アルブミン濃度が低下すると水を引き込む力が弱くなり、間質に浮腫が出やすくなります。・肝硬変・肝不全・ネフローゼ症候群などとの関連が考えられ、・栄養失調によっても膠質浸透圧低下が起こります。 血管透過性亢進による浮腫 体内で炎症が起きることによって、プロスタグランジンなどの炎症性物質が合成されて起こりやすくなるのが透過性の亢進です。原因として考えられるのは、・炎症・アレルギー・火傷などです。 リンパ管機能障害による浮腫 リンパの流れが悪くなることで起こる浮腫。その原因としては以下のようなケースが考えられます。・リンパ節郭清術後・悪性腫瘍リンパ節転移・悪性リンパ腫・甲状腺機能低下症 組織圧低下による浮腫 皮膚の弾力が落ちることによって組織圧が低下します。その結果、皮膚の薄いところ(顔面、眼瞼、足背、外陰部など)に浮腫が生じやすくなります。高齢者に起こりやすい傾向です。 浮腫のアセスメント 在宅医療における浮腫ケアでは、利用者の方にとっての優先順位を考えると同時に、利用者本人のニーズにあわせたアプローチが必要です。その前提として、利用者・利用者家族との十分なコミュニケーションにより、浮腫の理解とニーズを評価する必要があります。 ここでは、アセスメントにおいて注目すべき点をご説明します。 既往歴の確認 悪化原因となる基礎疾患を理解するために有効です。悪性腫瘍の場合は、まずリンパ浮腫を疑います。 ✓ 心臓、腎臓、肝臓、内分泌(甲状腺)疾患✓ 悪性腫瘍  手術の有無、化学療法・放射線治療を行っているかについて確認します。✓ 内服薬、アレルギー  薬剤性の浮腫の可能性を探ります。 全身状態の観察 輸液がある場合は尿量に対して過剰輸液がないか、また、炎症の疑いがないかなどについて確認します。浮腫の圧迫療法を想定している場合は、知覚神経障害がないかどうかの事前確認も重要です。 ✓ 水分出納  尿量変化がある場合は、腎疾患を疑います。✓ 発熱、発汗、疼痛  炎症を疑います。✓ 知覚、神経障害の有無  浮腫の圧迫療法を想定し、神経への湿潤について事前に確認します。✓ 体重増加  脂肪細胞が増加すると浮腫の原因になるため、肥満の方の場合減量を指導することもあります。✓ 食欲不振、下痢、嘔吐  タンパク質の損失や、カリウム、ビタミンB₁不足を疑います。✓ 動悸、呼吸困難、起座呼吸  心疾患がないかどうかを確認します。✓ 運動機能  筋肉の衰えによってポンプ機能が落ちていないかどうかを確認します。 浮腫が起こりやすい生活をしていないか ✓ 長時間の下腿下垂がないか✓ 運動不足になっていないか という点について確認します。高齢者の場合は介護状況についても確認します。 浮腫の状態 ✓ 浮腫範囲  全身or局所、顔・四肢・体幹・生殖器への出現の有無、抹消or中枢、という視点から確認します。✓ 出現はいつからなのか✓ 出現の速さは急激か緩徐か  静脈系の場合は急激に起こるケースが多いです。✓ 持続性、一過性、日内変動の有無  心不全の場合は夕方に浮腫がひどくなる場合があります。 皮膚の状態 浮腫のケアが行えない状態ではないか? という点について事前に確認を行います。 ✓ 蜂窩織炎(色調、熱感)、創傷の有無(褥瘡、潰瘍)、リンパ小疱、リンパ漏など✓ 圧痕テスト、皮膚の硬さ(シュテンマサイン、肥厚テスト) 環境の確認 ✓ 患者、家族の浮腫への理解度とケアの希望✓ 家族協力の有無 サイズ測定 増大と減少をみるために測定していきます。 臨床検査 ✓ 血液検査  D-ダイマー、CRP、白血球数、貧血、アルブミンを確認します。✓ 静脈ドップラースキャン✓ 腹部超音波  肝転移や腹水の有無を確認します。✓ CTスキャン  下大、上大静脈の近位部に血栓が起こっていないかどうかを確認します。 次回は「在宅看護で行う浮腫ケアの基本」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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血行障害 対策&予防
血行障害 対策&予防
特集
2023年10月17日
2023年10月17日

血行障害とは?血行不良や血流障害との違いから症状・原因・対処法まで解説

身体の冷えや不規則な生活などによって血液が流れにくくなります。その結果、肩こりや関節痛、冷え、むくみなどの不調が起こるほか、心筋梗塞や脳梗塞といった生命に関わる病気のリスクが高まります。 本記事では、血行障害がどのような状態を指すのかを解説するとともに、血行不良や血流障害との違い、症状、原因、対処法などについて詳しくご紹介します。 訪問看護における利用者さんのアセスメントはもちろん、ご自身の体調管理にもお役立てください。 血行障害・血行不良・血流障害の違い 血行障害と血行不良、血流障害は、しばしば同じ状態を指す言葉として扱われています。 血行と血流の定義は以下のとおりです。 血行……身体に血が巡ること血流……血液が血管を流れること つまり、血行障害と血行不良は、身体に血液が正常に巡ることができなくなっている状態です。血流障害は、血管内に血液がうまく流れない状態を指します。 血流障害が起きている状態では身体に血液がうまく巡らなくなるため、血行障害・血行不良・血流障害はほぼ同じ意味といえるでしょう。 本記事では、血行障害と血行不良、血流障害は同じものとして扱い、症状や起こりえる病気、対処法などについて解説します。 血行障害の症状 血行障害が起きると身体にさまざまな不調が現れます。 肩こり・関節痛 血行障害が起きている状態では、筋肉が負荷を受けたときに発生する疲労物質が特定の部位に溜まり、炎症や筋肉の緊張を引き起こします。その結果、重い頭を支える首や肩、身体の軸となる腰などを中心に、全身に痛みやこりなどが現れます。 冷え 血液は、体温調節に関与しています。血行障害があると、心臓から遠く離れた手足に血液が十分に届かなくなり、冷えが起こります。手足のような末梢部は血管が細いため、ただでさえ血流が滞りやすい部位です。また、全身が冷えると頭痛やめまい、下腹部の痛みなどが現れるほか、感染症にかかりやすくなります。 むくみ 血行障害によって下半身の血液の流れが滞ると、血液中の水分が血管の外ににじみ出ることでむくみが生じます。足が大きくむくむことで靴のサイズが合わなくなったり、靴ずれが起きたりします。 血行障害の原因 血行障害は複数の要因が重なって生じます。それぞれの要因について詳しく見ていきましょう。 運動不足 軽いむくみや少し冷える程度の症状は、運動不足の方によく見られます。運動不足の方は筋肉量が少ないため、筋肉が収縮するときに血液を押し上げる「筋ポンプ作用」が弱くなります。その結果、全身への血流が不足して、むくみや冷えなどの症状が現れます。 不規則な食生活 食事の回数が少なく、1回でカロリーを過剰に摂取する食生活は肥満につながります。肥満になると、血行が悪くなる糖尿病や脂質異常症、高血圧症などのリスクが高まります。また、これらの病気は動脈硬化を促すため、不規則な食生活は血行障害の要因といえるでしょう。 身体の冷え 身体が冷えると末梢部まで血液が届きにくくなります。その結果、冷えやむくみといった血行障害による症状が現れます。 動脈硬化 動脈硬化とは、動脈の血管の弾力性が失われて硬くなることです。動脈硬化にはいくつかの種類がありますが、一般的に動脈硬化といえば、血管壁にお粥のような粥腫(アテローム)が作られる「粥状動脈硬化(アテローム性動脈硬化)」を指します。粥状動脈硬化が起きると、血管の内腔が狭くなることで血行障害が生じます。 血行障害によって起こりえる病気 血行障害が起きると、次のような病気・症状が生じるリスクが高まります。 閉塞性動脈硬化症 閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化によって血管の内腔が狭くなったり詰まったりすることで血行障害が起きる疾患です。手足の冷えやしびれなどが現れ、進行すると筋肉に痛みが生じます。血行障害がさらに進行すると歩行中に足が痛くなり、歩けなくなることもあります。 狭心症 心臓への血行が悪くなると、心臓に酸素や栄養が十分に供給されなくなります。こうして起きる疾患を虚血性心疾患といい、狭心症や心筋梗塞などが挙げられます。 狭心症は、動脈硬化や血栓などによって心臓の血管が細くなり、血行障害が生じることで心臓への血流が不足した状態です。胸の痛みに加え、左腕、左肩、顎などの圧迫感が生じます。 心筋梗塞 心筋梗塞は、冠動脈が詰まることで心臓への血液の流入が極端に少なくなるか、まったくなくなってしまい、心臓の筋肉が壊死する疾患です。胸の痛みや冷や汗、吐き気、嘔吐、呼吸困難などが生じます。 脳梗塞 脳梗塞は、内頚動脈や椎骨動脈などの血管が詰まったり狭くなったりして、脳に十分な血液が供給されなくなる疾患です。身体の片側の麻痺や失語、意識障害などが現れます。 潰瘍・壊死 血行障害によって、酸素や栄養が細胞に供給されなくなると、その部分に潰瘍や壊死が生じる恐れがあります。例えば、糖尿病患者が血糖コントロールが不良な場合、下肢への血行障害が生じて潰瘍や壊死が起こります。 血行障害の対処法 単なる運動不足や身体を冷やすことで起きている血行障害であれば、生活習慣の改善や身体を冷やさないことで対処できるかもしれません。しかし、動脈硬化による血行障害が生じている場合は医療機関で治療が必要です。血行障害の症状が現れている場合は、まずは医療機関を受診しましょう。 血行障害の対処法は原因や状況で大きく異なります。医療機関での治療法と日常における対応方法についてご紹介します。 薬物療法 動脈硬化が起きている場合は、血管拡張薬や抗凝固、抗血小板薬などを使用することがあります。使用する薬は、患者の状態や動脈硬化の程度などで異なります。 生活習慣の改善 肩こりや冷え、むくみなどが起きている場合は、規則正しい睡眠習慣や食生活、適度な運動、ストレスケアなどから始めましょう。動脈硬化が起きている場合も、生活習慣の改善を医師に指導されます。 身体を冷やさない 身体が冷えると血流が滞りやすくなるため、エアコンや衣類などで適温を保つようにしましょう。ただし、エアコンの過剰な使用は自律神経のバランスが崩れることで疲労や肩こり、むくみなどを悪化させる恐れがあります。 * * * 血行障害は、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞といった生命に関わる病気のリスクが高まるため、少しでも気になったら医師に相談しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07384.html2023/7/17閲覧〇一般社団法人日本ペインクリニック学会「血行障害性疼痛」https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_kekkou.html2023/7/17閲覧

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寒暖差疲労対策&予防
寒暖差疲労対策&予防
特集
2023年10月3日
2023年10月3日

寒暖差疲労とは?症状・セルフチェック・原因・対処法・予防法

朝方・日中・夜間の気温差が大きい季節の変わり目には、寒暖差疲労が起きることがあります。疲労は寒暖差によるものだけではなく、さまざまな疾患によって起きている可能性もあるため、慎重な判断が求められます。 本記事では、寒暖差疲労の症状からセルフチェックの方法、原因、メカニズム、セルフチェック、対処法、予防法まで詳しく解説します。訪問看護において利用者さんのアセスメントに活かすことはもちろん、ご自身が体調不良になったときのためにぜひご一読ください。 寒暖差疲労とは 寒暖差疲労は、気温差によって身体の機能を調節する自律神経が働きすぎて、エネルギーを消費してしまうために起こる症状のことです。主な症状は、疲労感やめまい、食欲不振などです。1日の最高気温と最低気温との差が7度以上ある日や、前日との気温差が7度以上ある日に症状が現れやすいでしょう。疲労は、体力の消耗や精神的なストレス、自律神経や甲状腺の病気など、さまざまな原因でも起こります。寒暖差が激しい時期に疲労が起きた際は、寒暖差疲労も可能性のひとつとして考えましょう。 寒暖差疲労の症状・セルフチェック 寒暖差疲労では、疲労感のほかにも、肩こりや腰痛、頭痛、めまい、不眠、食欲不振、便秘や下痢、イライラ、冷え、むくみなど、さまざまな症状が現れます。次の項目に当てはまる方は、寒暖差疲労が起こりやすいでしょう。 暑さや寒さが人よりも苦手に感じるエアコンで体調が悪くなりやすい顔や全身がほてりやすい自分だけが寒かったり暑かったりすることが多い寒暖差が大きいと、頭痛や肩こり、めまい、関節痛などさまざまな症状が現れる季節の変わり目に体調を崩しやすい冷え性がある温度が変わらない環境に長時間いることが多い身体がむくみやすい ただし、上記はあくまでも傾向である上に、必ずしも寒暖差疲労によるものとは限りません。安易な自己判断は重大な病気を見逃す原因となるため、症状が続く場合は医師に相談しましょう。 寒暖差疲労の原因・メカニズム 寒暖差疲労に大きく関わるといわれているのが自律神経です。改めて基本的な知識をおさらいしておきましょう。 自律神経は、身体を活発に動かすときに働く「交感神経」と、身体を休めるときに働く「副交感神経」で成り立っています。この2つの神経がバランスを取りながら、呼吸や体温、心拍、消化、代謝、排尿・排便などの生命活動に欠かせない機能をコントロールしています。 例えば、体温を調整する際は、骨格筋を収縮させることで熱を生み出します。このときに症状として表れるのが「震え」です。また、血管の収縮を促すことで筋肉を硬くして体温を上げます。さらに、発汗によって体温を下げることも自律神経の働きによるものです。 交感神経と副交感神経が急激に切り替わると臓器に負担がかかるため、ゆっくりと切り替えなければなりません。しかし、寒暖差が大きい日は、この自律神経の働きが1日の中で何度も急激に切り替わるため、臓器に大きな負担がかかって不調を誘発します。 寒暖差疲労が起きやすいシーン 寒暖差疲労は、その名のとおり寒暖差が大きい日に起こります。寒暖差疲労が起きやすいシーンについてご紹介します。 季節の変わり目 春や秋は朝晩の気温差が大きく、寒暖差疲労が起こりやすい季節です。朝晩は肌寒くても昼間は暖かいため、服装の調整が難しくなります。その結果、体感温度を一定に保つことができず、寒暖差疲労が起こります。 エアコンの利用 エアコンを使用する場合、室内と室外の温度差が大きくなります。訪問看護の現場では、利用者さんの体調管理のためにエアコンを使用していることが多いでしょう。このような環境では、リビングから廊下や外に出たときの寒暖差が大きくなるため、寒暖差疲労に警戒が必要です。 屋外での活動 山登りやキャンプなどのアウトドア活動では、日中や平地は暑くても夜間や山頂は冷え込むことがあります。また、訪問看護の現場では、家の中から外に出るときに気温の変化が生じるため、適切な服装に着替えることが大切です。 旅行 旅行先でも寒暖差に注意が必要です。冬の温暖な地域から寒冷地への旅行、夏の涼しい地域から暑い地域への旅行などでは、気候の変化によって寒暖差疲労が誘発されます。旅行中は体調管理を心がけるとともに、行き先に適した服装を準備しましょう。 寒暖差疲労の対処法 寒暖差疲労が起きた際は、寒暖差による自律神経の過剰な働きを正常化させるために、次の対処法を実践しましょう。 身体を温める 寒いときは、血管が表面近くにある、首元や肩甲間部、内腿をカイロやホットタオルなどで温めましょう。ただし、身体を温める行為である運動を行う際は外してください。 運動を習慣づける 自律神経のバランスが崩れにくい身体づくりのために、適度な運動を習慣づけましょう。一定のリズムで15~30分程度の運動を習慣づけることで、身体の筋肉が増えて自律神経のバランスが乱れにくくなります。 また、ゆっくりと3分歩いて、3分早歩きを繰り返すのを15~30程度続けるのもよいでしょう。この場合、1分につき60~80歩を目安とし、呼吸は2秒で吸って4秒で吐くのを繰り返します。 首と肩の筋肉の緊張を緩める 首と肩の筋肉をストレッチすると、筋肉の緊張が緩んで副交感神経が優位になり、自律神経のバランスが整いやすくなります。 両手を後頭部に添えて、顔をうつむけることで首の後ろを伸ばしましょう。続いて、ゆっくりと上を向いて首の前を伸ばし、左右にゆっくりと倒して首の横を伸ばします。最後に肩甲骨の周りや腰、背中、太ももの裏、ふくらはぎを伸ばしてください。 寒暖差疲労の予防法 寒暖差疲労を予防するために、日頃から次のような行動を心がけましょう。 規則正しい生活を心がける 規則正しい生活リズムを作ることは、自律神経のバランスを整えるために重要です。 睡眠時間は7時間程度を目安とし、夜23時から朝6時の間は寝ているようにしましょう。太陽に当たることで、良質な睡眠を促すセロトニンが増加するため、日中はなるべく外出することが大切です。ただし、夏場は熱中症の心配があるため、外出時間帯や外出先などを考慮しなければなりません。 食事については1日3食、栄養バランスの取れた食事を心がけてください。 冷たい飲み物を控える 冷たい飲み物は臓器を冷やすため、寒暖差疲労の悪化につながる恐れがあります。暑いときに冷たい飲み物を飲むと急激に体温が低下するため、自律神経のバランスが崩れるとともに臓器に大きな負担がかかります。 冷たい飲み物を控えるとともに、身体を温める根菜類や温かい飲み物などを取りましょう。 冷暖房器具に頼りすぎない 冷暖房器具に頼ると自律神経が働く機会が減少することで、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくできなくなります。食事や服装、運動などで体温を調節できる場合は、そのほうがよいでしょう。 ただし、夏の熱中症対策には冷房が推奨されており、冬に室温が18℃未満になると、高血圧をはじめとした健康被害が生じるリスクがあります。適正に使用しましょう。 入浴で汗をかくようにする 入浴すると、身体が温まるだけではなく、リラックス効果によって副交感神経が優位になります。なるべく毎日入浴しましょう。 38~40℃程度の湯に15~20分程度つかることが基本ですが、利用者さんの疾患によっては温度と入浴時間、入浴方法に調整が必要です。 * * * 寒暖差疲労は、寒暖差が大きい季節の変わり目やエアコンを過剰に使用しているときなどに起こりやすいものです。今回、解説した内容を自身の体調管理と利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇一般社団法人半田市医師会「今月のテーマ 寒暖差疲労」(2018年11月)https://www.handa-center.jp/medical/facility/pdf/20181120.pdf2023/7/17閲覧

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コラム
2021年8月31日
2021年8月31日

私はALSを発症して6年になる40歳の医師です

enjoy! ALS 『enjoy! ALS』では、ALS患者として在宅療養をしながら、現在も診療を行っている現役の医師が、ALSに関するpositiveな情報をお届けします。 まず簡単に自己紹介を 私はALSという病気を発症して6年になる40歳の医師です。もともと、大学病院で皮膚科医として勤務しながら、医学部と看護学部で皮膚科の講義を行なったり、『毛包幹細胞』について研究したりしていました。2015年に研究のため、アメリカのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に留学したのですが、同年の7月にALSを発症して帰国してきました。帰国後は、さまざまな検査や治療をしながら、同僚のサポートのもと大学病院で医師として診療を続けていました。徐々に手が動かなくなっていったため、カルテは音声入力で記録。歩けなくなったため、電動車いすで通勤……など工夫をしていましたが、発声が困難になってしまったため、2019年の3月に退職しました。 その後は自宅で、皮膚科医として遠隔診療をしながら、現在に至るまで在宅加療を続けています。診療の対象は、離島など皮膚科医のいない地域の患者さんや、私のように在宅療養しており皮膚科医の診察を受けられない患者さんで、iPadで画像や問診票を見て診療する形です。 このたび、お世話になっている訪問看護師さんから、「NsPaceでコラムを書いてみないか?」というお話をいただきました。すぐに「やります」と答えました。自分で言うのもなんですが、私は医師で、若年発症のALSという、かなりまれな患者です。発症してから国内外問わずさまざまな論文を読んでALSに関する知識を深めてきましたし、工夫をこらして快適な生活環境を作ってきました。 その中で強く感じたのは、「世の中にはALSに関してnegativeな情報が多すぎる!!」ということ。 あふれるnegativeな情報 ALSと診断された患者やその家族、それにかかわる看護師や介護士が、まずインターネットなどでALSを調べると、 “ALSは進行性の神経難病で、徐々に全身の筋肉が動かなくなっていき、治療法はなく、発症してからの平均余命は2〜5年” そんな乾いた文字だけが針のように突き刺さってきます。それは、今までのALS患者の症状や経過をただ統計学的にまとめて、羅列しただけ。 そういう私も約20年前、医学部生だったころに神経内科の授業でそう習いました。なんてつらくて、無慈悲な病気なんだと思い、絶対になりたくない病気ランキングワースト3には必ず入っていました。その当時はまさか自分がなるなんて思ってもおらず、ただ他人ごとのように授業を聞いていたものです。 つらい・残酷なだけの病気なのか しかし、そんな文字からは、現場の生の声は、入ってこないのです! 確かにALSは今でも治療法はありませんが、私が医学部生の時代とは違い、病態はわかってきています。運動ニューロンの中にTDP-43という異常なタンパク質が蓄積して、それが細胞死を引き起こしているということです。なんでTDP-43が蓄積するのか? どうすればそれを除去できるのか? それがわかれば根本的な治療につながってくるのですが、そこはまだ時間はかかりそうです。 しかし、ALS患者を取り巻く環境は劇的に進歩してきています!特にコミュニケーションツールの発展は目覚ましいものがあります。私は2021年2月に気管切開+声門閉鎖手術をしたため、声は出せず、目と口、足が少し動くくらいです。でもそれだけ動けば、できることが山ほどあります。歯のわずかな動きでiPadを操作して、皮膚科医として月100〜300人の患者さんを診察しているし、YouTubeやNetflixなども見ることができます。また、iPadに赤外線リモコンを記憶させて、テレビをはじめ、エアコンや扇風機など、さまざまな家電を操作することができます。目の動きだけで文字盤など何も使わずに会話することができるし(後々紹介します!)、目の動きだけでパソコンを操作して、大学で講義をする時のPowerPointスライドを作っています。ほかにもできることはたくさんあるし、やりたいこともたくさんあって、毎日時間が足りません。 ALSと前向きに向き合っていく人たちへ 私は日々充実して本当に楽しく過ごしています。 多くの人は、「ALSは、いろいろなことができなくなっていく、つらくて残酷な病気」ととらえていますが、「わずかな動きと工夫しだいで、いろいろなことができる可能性に満ちた病気」です!ALSと前向きに向き合っていく、患者とその家族、周りの医療スタッフに、ただただpositiveで有益な情報を伝えたくて、このコラムのタイトルをつけました。『enjoy! ALS』 **コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版

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訪問看護の褥瘡ケア
訪問看護の褥瘡ケア
特集 会員限定
2023年5月9日
2023年5月9日

写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編

2023年2月10日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「写真事例で解説!訪問看護の褥瘡ケア」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師としてお迎えし、褥瘡の評価やケアのポイントについて、実際の事例を交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、「DESIGN-R2020」(※1)に基づく評価の方法や、注意すべき褥瘡の特徴とケア方法などをご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表赤十字病院や複数の訪問看護ステーションにて勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマに関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。  「DESIGN-R2020」の評価方法 「DESIGN-R2020」は、病院でも訪問看護の現場でも使用されている、褥瘡状態の評価スケールです。 ▼DESIGN-R2020(一般社団法人日本褥瘡学会)http://www.jspu.org/jpn/member/pdf/design-r2020.pdf 最初は、深さ(Depth)・滲出液(Exudate)・大きさ(Size)・炎症と感染(Inflammation/Infection)・肉芽組織(Granulation)・壊死組織(Necrotic tissue)・ポケット(Pocket)の頭文字をとった「DESIGN」という評価スケールからスタートしました。その後、評価をつけるという意味のレーティング(Rating)の頭文字をとって「DESIGN-R」に進化し、2020年には現在の「DESIGN-R2020」になっています。 「DESIGN-R2020」は、褥瘡の状態を0〜66点で採点する方式で、合計点数が大きいほど重症度が高くなります。また、各項目の文字での評価では、大文字は重症、小文字は軽症という決まりです。 ちなみに、褥瘡を黒色期・黄色期・赤色期・白色期という創面の色で分類(色調分類)する考え方もありますが、これを「DESIGN-R2020」に照らし合わせると上記のようになります。 合計点数を下げていく、そして小文字にしていくことが、「DESIGN-R2020」における基本の考え方です。具体的には壊死組織を除去し、肉芽を増殖させて、創を小さくするという流れで創部の治癒を促していきます。 「DESIGN-R2020」の変更点 「DESIGN-R2020」では、「深さ」と「炎症・感染」の項目がそれぞれ以下のように変更されました。 深部損傷褥瘡(DTI)の追加 深さの項目に、「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」が追加されました。表記は「DDTI」とし、ハイフンをつけてE(滲出液)以降の評点を続けます。(表記例)DDTI-E6s6I3G5N3P6:29点 こちらは、「DESIGN-R2020」の評価(d1~DU)と「NPIAP分類(深達度分類)」をまとめた資料です。「DESIGN-R2020」における「DDTI」は、NPIAP分類では「DTI(SDTI)疑い」にあたります。 では、DTI疑いとは具体的にどのような状態なのでしょうか。DTIは、皮下組織よりも深いところの組織の損傷が疑われる急性期褥瘡のことを指します。深さの項目では、真皮までの損傷なのか、皮下組織より深い損傷なのかを評価しますが、DTIは見ただけでは損傷があるかどうかの判断が困難です。短期間で悪化する褥瘡として注意しておきましょう。 上記のスライドはDTIの例を2つ挙げたもので、左のケースは5日間で、右のケースは10日間で状態が悪化しています。 臨界的定着(3C)の追加 炎症・感染の項目には、大文字のIのところに「臨界的定着疑い(3C)」という基準が追加されました。 3C(臨界的定着疑い)の褥瘡の特徴としては、滲出液が多く、創面がぬめっています。過剰な滲出液の影響により創周囲は浸軟し、肉芽はあるけれど、ぶよぶよとしていて非常に脆弱です。数週間や数ヵ月、何年経っても改善しないという例もあります。 臨界的定着疑いのある褥瘡の感染リスク 臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)の疑いがある褥瘡は、炎症兆候が見られなくても創面には細菌が付着しており、実は感染を起こす一歩手前の危険な状態。一刻も早く改善に向けた対応が必要です。 臨界的定着疑いのある創面は、滲出液が多くなります。過剰な滲出液により創周囲が浸軟すると、褥瘡はさらに治癒が遅延します。また、慢性的な圧迫や摩擦、ずれが加わると、周囲の皮膚が肥厚していきます。そして、創部の辺縁部が内側に巻き込んでしまい、いよいよ治りにくい状態になってしまいます。 創面に存在するバイオフィルム バイオフィルムとは微生物が固着して形成されるコミュニティで、白血球や消毒に対するバリアをつくって、傷を治りにくくします。健常者は細菌に対する抵抗力がありますが、全身状態が低下していたり、低栄養であったりして抵抗力が落ちている利用者さんの場合は、臨界的定着になりやすく、難治性創傷につながるのです。難治性創傷の6〜9割には、このバイオフィルムが存在するといわれています。 感染を起こしている褥瘡のコントロール 感染を起こしている褥瘡は、適切な治療が行われないと、敗血症を引き起こし、死に至る可能性があります。そのため、できるだけ早く感染を抑えることが重要です。 上のスライドの左の傷をご覧ください。このように感染を起こし、また壊死組織で覆われている傷では、皮下組織が傷んで創周囲にポケットを形成している可能性もあります。以下は局所ケアのポイントです。 ・抗菌作用のある薬を使って局所ケアを行う。・創面の密閉をせず、マイクロクライメット(※2)の管理を行う。・圧迫、摩擦、ずれを回避できる超低圧保持のエアマットを使用し、頭側挙上を行っている場合はその時間をきちんと管理をして、体圧分散・除圧を徹底する。・創部は、微温湯(水道水や生理食塩水)で十分な圧力をかけて洗浄する。・創周囲は、皮膚洗浄剤を用いて洗浄し、皮膚に付着した細菌を減少させる。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。※2 マイクロクライメット:皮膚局所の温度・湿度 >>後編に続く写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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特集 会員限定
2022年8月16日
2022年8月16日

【セミナーレポート】vol.1 フットケア アセスメント ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、訪問看護師の方に向けて「フットケア・爪のケアのポイント」をご紹介しました。講師は、皮膚科医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。第1回の本記事では、高山先生にお話いただいた「高齢者のフットケア アセスメント」についてまとめます。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ フットケアの重要性 ・足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病▶ 足や爪のトラブルの原因 ・白癬 ・皮膚の老化 ・筋力や関節可動域の低下▶ フットケアに期待される効果 ・足浴の効果は絶大▶ 爪切り難民を救うために必要なこと --> ▶ フットケアの重要性 日本は人生100年時代を迎え、超高齢社会に突入しました。そこで考えなければならないのが、介護を要する年数を短くする方法です。介護を要する年数とは、すなわち経済を圧迫する年数。私たち足育研究会は、国民にのしかかる負担をこれ以上増やさないためにはどうしたらいいか、足元に着目してその解決策を模索しています。なぜなら、足や爪のトラブルは歩行に支障をきたすため。歩けなくなることは、介護が必要になるリスクに直結します。 足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病 足元のトラブルは生活習慣病であり、そのスタートは子ども時代にあります。私は日ごろから子どもたちの足を見ていますが、すでに足趾の変形が認められ、爪のトラブルが発症しているケースは少なくありません。これを放っておくと、加齢に伴い足趾の変形はさらに強まり、爪に不可逆的なトラブルが起こり、重症化します。そうして転倒しやすくなったり、痛みなどが生じて歩けなくなれば、フレイルや寝たきりになるリスクが高まったりもするでしょう。私たちは、この負のスパイラルをできるだけ早く断ち切るべく取り組んでいます。訪問看護師のみなさんにおかれましても、ぜひ足元のトラブルの成り立ちや患者さんが被る不利益を理解し、積極的にケアにあたっていただければと思います。 ▶ 足や爪のトラブルの原因 高齢者の足や爪のトラブルの代表的な原因としては、以下の3つが挙げられます。 白癬 非常に多くの高齢者が罹患している白癬は、爪を悪くする原因になります。爪は、爪母と呼ばれる皮膚に隠れた根元の部位でつくられ、爪床という『爪のベッド』に沿って前へと運ばれて、常に新しいものに置き換わる構造になっています。 そもそも、白癬というのは、足の白癬から始まります。①足の水虫(白癬)を放置してそれが爪に入ると②のような「くさび形」になるなどの変化が生じます。②の状態であれば、まだ爪の形を保ち、爪としての機能も果たせているケースが多いです。しかし、そのまま放置して重症化すると③のように変化して、爪の機能を果たせなくなるほどになります。糖尿病や下肢の末梢動脈疾患を抱えている方、もしくは透析を受けている方などのケースでは、④のような壊疽にもつながります。 皮膚の老化 高齢者の皮膚は、褥瘡をつくりやすい状態にあります。具体的な特徴は以下のようなものです。 【表皮】表皮細胞が減少し、免疫やターンオーバー、皮膚感覚が低下します。また、角層では皮脂の分泌が減り、天然保湿因子が枯渇して、強い乾燥が起こります。これによりバリア機能が低下したり、亀裂が生じたりして、アレルゲンや細菌などが皮膚内部に入りやすくなります。 【真皮】コラーゲンや弾力繊維が減少し、血管に変化が起きます。それが外力に対しての脆弱化を招き、創傷治癒力のさらなる低下、血管の閉塞をもたらします。 【脂肪組織】著明に萎縮します。とくに踵は筋肉がなく、脂肪組織だけで守っているため、ダメージを受けやすくなります。 筋力や関節可動域の低下 関節可動域が低下することで通常の歩行ができなくなり、皮膚や爪に過度な、もしくは不適切な負荷がかかって、指先を傷めたり爪が変形したりします。私たち足育研究会の調査では、巻き爪は足趾間力の低下がもたらしているというデータも得られました。 また、膝や股関節の可動域の低下、さらには筋力の低下によって座り方も変化します。大腿部をそろえて座ることができなくなり、足がパカッと開いてしまうのです。すると、踵の外側に強い圧力がかかり、褥瘡が現れやすくなります。 このように足や爪のトラブルの背景には、皮膚や関節、筋肉の変化など、さまざまな要因があります。これ以外にも、靴の問題なども深く関係してきます。こうした全身的な老化現象、生活習慣の果てにあるのが、高齢者の足の問題なのです。 先ほども少し触れたとおり、問題の発端は子ども時代にさかのぼります。柔らかい足で合わない靴を履いたり、運動量が不足したり。そして、足のケアが不足した状態も続き、やがては白癬や膝・腰の痛み、糖尿病、脳梗塞などの合併症が起きて、足元のトラブルにたどり着く……足や爪の状態は、その人の人生を色濃く反映しているといえます。 ▶ フットケアに期待される効果 そんな足や爪のトラブルを抱えた高齢者にぜひ行ってあげてほしいのが、フットケアです。肥厚した爪甲のケアは、フレイルやサルコペニアなどの予防につながることがわかっています。歩いても痛みがない状態、靴下などに引っかからない状態に爪を整えてあげることで、下肢機能の低下を改善できるからです。現場では、フットケア後に今まで運動できなかった方が歩き出したというケースはよく見られます。 また、爪白癬を患う要介護者に積極的にフットケアを行ったところ、実施期間中は介護度が上がらなかった、つまりADLを維持できたという研究結果もあります。歩ける期間をできるだけ長くするために、そして歩けない方も安全・安楽・衛生的に過ごすために、フットケアをやらない理由はありません。 足浴の効果は絶大 フットケアの中でぜひ行っていただきたいのが、足浴です。利用者さんに気持ちいいと感じてもらえることはもちろん、皮膚や粘膜の機能と関連のある器官を正常に保って感染を予防できる、筋肉を温めながらマッサージすることで運動効果を得られるなど、さまざまな効果が期待できます。継続的に足浴を実施すると、足関節の背屈可動域が改善するというデータも出ているほどです。足は『感覚臓器』。足浴で触ってあげる、少し動かしてあげることで、正常な感覚を呼び戻してあげてください。 ▶ 爪切り難民を救うために必要なこと このように、高齢者へのフットケアは大変重要であるにもかかわらず、『爪切り難民』は少なくありません。とくに介護を受けておらず、病院にも通っていない方は、多くの場合適切な爪のケアを受けられずにいます。 近年、足育研究会では爪切り難民対策として薬局に専門家を派遣してフットケアを行う取り組みを全国で始めていますが、こちらは要介護予備軍の方々を対象としています。介護を受けている方は自宅や施設で爪切りができることが前提の取り組みです。訪問看護の現場や、高齢者施設などは、当然『患者さんの足を守る場所』であってほしいと考えています。 みなさんには、高齢者の足の衛生や機能を守るという意識をもって、ぜひできる範囲でフットケアに取り組んでいただければと思います。 次回は、「在宅でのフットケアの実際」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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