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腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際
腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際
特集
2025年12月2日
2025年12月2日

腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際

腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は患者さんの自宅で行う治療のため、医療者の直接介入が限られ、合併症やトラブルへの対応が本人や支援者の判断に委ねられることが少なくありません。そのため、訪問看護師が定期的に介入し、問題を早期に把握・対応することがPD療法の安定継続においてきわめて重要です。今回は、PDの代表的なトラブルと訪問時に実施できることを解説します。 腹膜透析(PD)における代表的なトラブル PDの代表的なトラブルには、腹膜炎、カテーテル関連感染、注液・排液の異常、体液量の異常、操作エラー・コンプライアンス低下が挙げられます。順に解説していきます。 PD腹膜炎(PD peritonitis) PD療法離脱の主要原因で、さらに生命予後にも影響しうる最も重大な合併症の1つです。排液混濁が典型的な所見で、腹痛、発熱、悪心・嘔吐を伴うこともあります。 診断には排液の細胞数と細菌培養など病院での検査が必要であり、在宅と病院の速やかな連携が早期の治療開始につながります。原因は手技不良による細菌感染やカテーテル関連感染(出口部感染・皮下トンネル感染)からの波及、腸管由来の内因性感染があり、感染経路によって病原微生物も異なり迅速かつ正確な診断が重要です。表1に腹膜炎の診断基準を示します。 表1 腹膜炎の診断基準 項目内容診断のポイント排液混濁米のとぎ汁状に排液が白濁することが特徴。腹膜炎が強い場合、血性排液となることもある迅速な診断のために、すぐに排液白血球数と好中球割合、培養検査を行う排液白血球数排液検査で白血球数100/μL以上、かつ好中球50%以上を占める新鮮な排液を用い、採取後迅速に検査を行う排液培養検査排液のグラム染色や培養検査で細菌や真菌を検出するグラム染色で迅速診断、培養検査で確定診断を行い、薬剤感受性検査も実施する腹痛や圧痛腹痛を伴うこともあるが、軽微あるいは無症状のことも多い自覚症状の頻度は低く、ほかの基準と総合的に腹膜炎を診断する カテーテル関連感染(出口部感染、皮下トンネル感染) 出口部感染は、出口部の発赤、腫脹、膿性浸出液、圧痛、発熱などを認める場合に強く疑われます。特に膿性浸出液が持続したり、皮下トンネルに波及している場合には、腹膜炎のリスクが上昇します。出口部の評価として「CAPD出口部スコア」があります(表2)。 表2 CAPD出口部スコア 項目0点1点2点腫脹なし<0.5cm 出口部のみ>0.5cm and/or トンネル部痂皮なし<0.5cm>0.5cm発赤なし<0.5cm>0.5cm疼痛なし軽度重度排膿なし漿液性膿性 4点以上を出口部感染と判断するCAPD:Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis、連続携行式腹膜透析文献1を参考に作成 注液・排液の異常 排液が困難であったり、注液時に抵抗感がある場合、カテーテル位置異常や腸管癒着、フィブリン閉塞などが原因として考えられます。注液・排液不良があるとPD療法が継続できないため、速やかな対応が必要になります。便秘もカテーテル位置異常や排液不良の原因となるため、日々の便通管理も重要です。 体液量の異常 体重増加、浮腫、血圧上昇は体液過剰の最初の兆候で、進行すると胸水貯留や呼吸困難をきたし、緊急対応が必要となる危険があります。反対に除水過剰による脱水、それによる低血圧、倦怠感も見逃してはなりません。 操作エラー・コンプライアンス低下 キャップの閉め忘れや不足のチューブ破損を含めた無菌的操作の手技エラーは腹膜炎を引き起こします。また、日々のPD療法が計画通り遵守されない場合は、十分な溶質除去ができず、電解質異常が悪化する恐れがあります。 訪問時における看護師の対応 感染兆候を認めたら速やかに医師に連絡 訪問時に排液の色調・透明度を確認します。混濁がある場合は腹膜炎の可能性があるため、患者さんの腹部症状や体温などの観察と合わせ、速やかに主治医への連絡が必要です。出口部や皮下トンネル部は視診・触診により発赤、腫脹、圧痛や浸出液の有無を確認します。特に膿性浸出液は感染症の重要な所見です。主治医に早期に相談して培養検体の採取を行います。 注液・排液状態を確認し原因に応じ対処 排液不良(出が悪い)はカテーテル位置異常の可能性があるため、体位変換(座位→側臥位での排液)や、軽い腹部マッサージ、深呼吸などを行い、排液状態の変化を確認します。排液不良が持続する場合は速やかに主治医に相談してください。 注液に抵抗がある場合は、カテーテルがフィブリンで閉塞している可能性があります。透析バッグを加圧し透析液の圧入で改善する場合もありますが、改善しない際は、同じく主治医へ報告してください。 便秘が排液不良の原因となることもあり、排便状況の聴取も大切です。 バイタルサイン・体重・浮腫を評価 体重とその変化、血圧・脈拍・SpO₂の測定、下肢浮腫の有無で体液バランスの異常を推察できます。体重増加や浮腫の悪化があれば、除水量や食事内容などから原因を推測して指導を行ったり、透析条件の見直しの必要性について主治医と相談したりすることもあります。 手技の観察、必要に応じて再指導 患者さんの実際の手技(注液・排液操作)を観察し、無菌的操作が遵守されているか、接続・切断操作が正しいかを確認します。問題があれば、その場で指導を行い、必要に応じて主治医や病院看護師に教育用の資料を提供してもらい、再指導計画について相談をしてください。 精神的サポートで治療継続を支援訪問時に日常生活の不安や抑うつ傾向を訴える患者さんもいます。傾聴と共感を基本とした関わりが重要です。治療継続のモチベーションを維持するため、小さな成功体験の共有やPD療法の意義の再確認も効果的と考えています。 訪問看護の意義と今後の展望 PD患者さんの在宅療養の質を維持・向上させる上で、訪問看護の果たす役割は極めて大きくなっています。単なる観察だけでなく、「異常の予兆の察知」「緊急時の初動対応」「治療継続の支援」という多面的機能が求められています。 近年ではICTを活用した遠隔支援やAIを活用した意思決定支援ツールも登場し、訪問看護師の在宅での判断支援を強化する環境も整いつつあります。 今後は、訪問看護師がPDの専門性を高め、PDチームの主要メンバーとして積極的に治療管理に参画する体制の構築が不可欠です。その結果、病院内外での多職種連携が強化され、患者さん一人ひとりに合わせた柔軟な個別支援の提供が可能となり、PD療法の継続性と安全性が高まっていくものと考えます。 * * * PD療法の支援に活用できる「訪問看護師用チェックリスト」をご用意しました。各チェック項目に基づいて、評価や対応内容を記録できるようになっています。また、本記事でご紹介した「腹膜炎の診断基準」や「CAPD出口部スコア」もあわせてご確認いただけますので、日々のケアにぜひお役立てください。>>訪問看護師用チェックリスト ~在宅腹膜透析の安定継続のために~  執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。編集:株式会社照林社 【参考文献】○Schaefer F,Klaus G,Müller-Wiefel DE,et al:Intermittent versus continuous intraperitoneal glycopeptide/ceftazidime treatment in children with peritoneal dialysis-associated peritonitis. The Mid-European Pediatric Peritoneal Dialysis Study Group(MEPPS).J Am Soc Nephrol 1999;10(1):136-145.○日本透析医学会学術委員会腹膜透析ガイドライン改訂ワーキンググループ 編:腹膜透析ガイドライン2019.医学図書出版,東京,2019.

忘れられない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】
忘れられない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年12月2日
2025年12月2日

忘れられない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護師の仕事は、人との出会いの連続です。「みんなの訪問看護アワード2023」に寄せられた投稿から、そうした出会いの中で、今でも忘れることができない利用者さんやご家族に関わるエピソードを4つご紹介します。 「ラブレターと、家で叶った2人の外出」 健やかなる時も病めるときも…。夫婦になる際の誓いの言葉を、最後まで行動で示す夫婦愛に感動するエピソードです。 仲良し夫婦の妻が入院。お見舞いに制限ある中、夫は「あなたが家にいなくて寂しい。元気になって帰ってきてください」と手紙を送る。入院中に胃ろう造設。手技が定着しないまま退院。訪問看護とリハが関わる。訪問看護師の指導で夫は胃ろうの手技をマスター。リハでの離床・移乗練習も行い、車いすで近所の公園に外出。2人で桜を見て満面の笑顔。妻はその後しばらくしてご逝去されたが、夫は最期をともに過ごせて安堵した表情がとても印象的でした。 2023年2月投稿 「最期の直前に電話してくださって眠るように旅立たれたAさん」 最期まで自分の生き方を全うした利用者さんが印象に残るエピソードです。 奥様が他界されてからは、独居のAさん。心不全で在宅酸素療法、尿道留置カテーテルを挿入している90代の方。今まで緊急訪問や救急搬送での入退院がたびたびありました。独居生活も厳しくその都度話し合いを重ねてきましたが主治医にはどうか自宅で看取ってくださいと懇願しておられました。Aさんは亡くなる当日の朝ご飯も食べ、ヘルパーさんに調子悪いので昼来て欲しいと言われました。午後看護師につらいので来てほしいと電話があり30分後に駆けつけました。携帯電話を握りしめまるで眠っておられるように安らかな最期でした。私たちの心配をよそに、きれいに安らかに旅立たれたAさん。最期まで希望を持って生き抜いたAさん。言葉で言い表せないことを教えていただきました。 2022年12月投稿 「白いごはんが食べたい」 大切な思い出は疾患を凌駕する原動力にもなると思い知らされるエピソードです。 アルツハイマー型認知症、脳梗塞後の80代女性で、娘さんと仲の良い方だった。こちらの言っていることは理解できていたが、自ら主体的に動くことはなく文字通りされるがままの様子だった。入院先の病院では食べる力はあるものの、食べることをやめていたのか食事がまったく進まなかったようである。娘さんから女性は畑仕事が好きだったこと、仕事に向かう旦那さんには両手に収まらない程の大きなオニギリを作って仕事に送り出していたことを聞き、自宅でゆっくり関われば食べる力を取り戻すと信じ、娘さんと一緒に食事を口元に運び続けた。訪問を続けたある日。「白いごはんが食べたい」と、その女性ははっきりと口にした。そのうちに表情が戻り、箸を使って食事を食べるようになった。あの日、驚き娘さんと顔を見合わせ、手を叩いて喜んだことは今でも忘れられない。 2023年2月投稿 「2人の時間を今も内緒にしていること。」 前向きに笑顔で疾患に立ち向かうことを約束した二人だからこそ、儚くも代えがたい大切な時間をつくれたのかもしれませんね。 訪問看護1年目(26歳)、初めての癌末期自宅での看取りでした。(70代女性)先輩と2人で同行訪問して、利用者様からいただいた初めての言葉は「あなたもっと笑いなさい。こっちはこういう状況でただでさえ暗くなるのに余計暗くなるわ」と。訪問が初めてな上、利用者様に言われた言葉は重く訪問する度に私自身気まずい想いでした。その後は訪問にも慣れ、プライベートな話を沢山し笑い合いました。(私の恋愛や仕事、利用者様の若い時の話等)ある時は、利用者様の旦那様に関しての愚痴や感謝していること。ある時は当時流行っていた加工アプリで一緒に写真を撮ったり、マニキュアを塗ったりと病院では考えられない看護をしていたと当時は思いました。最期が近くなってお酒好きということもあり、ご本人様希望で、往診医、先輩、利用者様家族皆でお酒を飲みながら晩酌をしました。それから2週間程で息を引き取りました。あれから数年経ちましたが今でも1番印象に残っている利用者様で、たまに写真を見返し嫌なことがあった時は当時を思い出し活力をいただいています。 2023年2月投稿 いつまでも心の中に生きる姿 「人生で印象的だった場面を思い出してください」。そう言われて思い出すことができる出来事はどのくらいあるでしょう。訪問看護師は、人の感情が大きく揺れ動く場面に遭遇する機会が多い仕事。ぜひ、一つひとつの出会いを大事にしていきたいものですね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子  2026年1月23日(金)17時まで「第4回 みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!↓

高額療養費制度 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
高額療養費制度 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
特集
2025年11月25日
2025年11月25日

高額療養費制度 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

高額療養費制度は、医療費が高額になり、患者さんの経済的負担が大きくなる状況を防ぐための重要な制度ですが、内容が複雑で分かりにくい点があります。今回は、同制度の基本的な知識や訪問看護におけるレセプト処理に関する注意点について解説します。 ※本記事は、2025年4月時点の情報をもとに構成しています。 高額療養費制度とは 高額療養費制度は、患者さんが支払う医療費が一定の限度額を超えた場合に、その超過分を保険者が負担してくれる制度です(図1)。本来の自己負担額に対し、高額療養費として払い戻しを受けられるため、患者さんの負担が際限なく増えないしくみになっています。金銭的な理由で治療を中断することがないようにするのが高額療養費制度なのです。 訪問看護の場合、訪問回数が多くなれば、当然患者さんの自己負担は増えます。ターミナル期であれば毎日訪問することもあるため、訪問看護療養費(医療保険)の請求額が数十万円を超えてしまうケースもあります。患者さんの自己負担額が3割であってもかなり重い負担といえます。このような状況で、高額療養費制度がどのように患者さんを支援するのかを理解しておくことが重要です。 図1 高額療養費制度のしくみと自己負担上限額の考え方例)70歳以上、年収約370~770万円の場合(3割負担)  高額療養費制度と年齢区分 高額療養費制度は、年齢や所得に応じて負担限度額が異なります。年齢区分別に制度内容を説明します。 70歳未満の場合(表1) 70歳未満の患者さんの場合、自己負担額は所得区分(ア~オ)に応じて異なります。例えば、所得区分「ア」の場合、自己負担限度額は252,600円で、その後は医療費の1%が負担されます。具体的には、所得区分ごとに上限額が設定されており、表1に示すように、自己負担額が段階的に減少します。 なお、表内の「多数該当」については後ほど説明します。 表1 70歳未満の上限額 *1 標準報酬月額とは被保険者が受け取る給与の総支給額のこと*2 報酬月額とは一定の幅で1から50等級が区分されている。報酬月額の票により保険料が定められている。 70歳以上75歳未満の場合(表2) 70歳以上75歳未満の患者さんは、現役並み所得者(現役並みⅠ・Ⅱ・Ⅲ、一般所得、低所得)や一般所得者、低所得者で区分が分かれます。例えば、一般所得者の自己負担限度額は18,000円で、低所得者は8,000円です。 表2 70歳以上75歳未満の上限額 75歳以上の場合(表3) 75歳以上の患者さんは、基本的に70歳以上75歳未満の場合と同じですが、「一般所得」がⅠとⅡに分かれます。一般所得Ⅰは1割負担、Ⅱが2割負担です。 表3 75歳以上の上限額 高額療養費は月単位で負担軽減 高額療養費は月単位で自己負担額が軽減されます。また、さらに負担を軽減する「多数該当」と「世帯合算」というしくみがあります。 多数該当:12ヵ月の間に3回以上高額療養費の支給があった場合、4回目以降の自己負担額がさらに下がる制度。 世帯合算:同じ医療保険に加入している家族が、同じ月にそれぞれの自己負担額が21,000円以上の場合、自己負担額が下がる制度。 訪問看護におけるレセプト処理の注意点 訪問看護ステーションで「高額療養費」と聞いて思い浮かぶのは、レセプト(請求)についてではないでしょうか。レセプトの「特記事項」欄や「負担金額」欄の記載ミスが原因で、レセプトが返戻となってしまうことがあります。訪問看護ステーションで導入しているシステムによっては、これらの欄を手動で入力しなければならないため、返戻となるケースが少なくないかもしれません。 高額療養費に関わるレセプトの記載では、特記事項欄に記載が必要な場合に何を記載しなければならないのかを押さえておきましょう。 高額療養費については「限度額適用認定証」を提示され、高額療養費が現物支給された場合に、「特記事項欄に対象となる区分を記載すること」と覚えておいてください。特記事項欄には、この記事の表1~3に示した「26区ア~30区オ」のいずれかを入力します。ただし、75歳以上のみ「一般Ⅰ」と「一般Ⅱ」が「41区カ」と「42区キ」になります。 また、70歳以上75歳未満、75歳以上の「30区オ(低所得者)」の場合は、「備考」欄に「低所得Ⅰ」または「低所得Ⅱ」の記載が必要です。 高額療養費制度のこれから 2025年に高額療養費の負担上限額の引き上げが国会で議論されましたが、いったん見送りとなりました。国民医療費の増加が社会保障費の大きな負担となっている現状において、患者さんの自己負担の増加が受診の抑制につながる可能性があるとの指摘もあります。今後も高額療養費制度については議論が重ねられると思いますので、制度変更について注視していく必要があります。   執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある編集:株式会社照林社 【参考文献】○厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から).https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf2025/4/17閲覧

信頼&絆エピソード【つたえたい訪問看護の話】
信頼&絆エピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年11月25日
2025年11月25日

信頼&絆エピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護は利用者さんやそのご家族、医療・介護従事者などたくさんの方々と関わり合いがあるため、多様な人間関係や人間模様が存在します。「みんなの訪問看護アワード2023」から、訪問看護の絆にまつわるエピソードを5つご紹介したいと思います。 「これからもよろしく」 互いに訪問看護に携わるご夫婦の、夫から妻へのメッセージ。夫婦で支え合う二人の絆を強く感じるエピソードです。 私の妻は、私が代表を務める訪問看護ステーションの管理者です。向上心の高い彼女は一昨年、「私は訪問看護認定看護師の勉強がしたい」と言い出しました。うちは福岡ですが、私は「どうせ勉強するならば東京に行って学びなさい」と、つい言ってしまいました。彼女は勇んで聖路加国際大学で学びました。彼女が東京に滞在しながらの実習期間中は大変でした。毎日の生活はもとより、小4息子の遠足のお弁当作りや誕生日の食事の準備の時は台所でうなってしまいました。しかし本当に大変なのは彼女の方で、事例レポートや発表プレゼン作成など、質が高く内容の濃い勉強に自問自答し、時には目を潤ませながら一生懸命に取り組んでいる姿は「すごい」の一言でした。正直お互い苦しかったけれど、リモートで東京と結んで息子の誕生日のお祝いが出来たことは家族の癒しになった良い思い出です。妻へ、「認定看護師試験合格おめでとう。これからも一緒に頑張ろう。」 2023年1月投稿 「Hさんについて」 所作一つから愛情が溢れ出ているのが伝わり、利用者さんとその息子さんの親子の絆の強さが垣間見えるエピソードです。 Hさんは看多機開設当時から利用されていた方で、物知りでお話上手。「何事も感謝、感謝ですよ」が口癖の方。重い病気が見つかり、息子さんが仕事を辞めご自宅で介護することになった。一時期ショートステイされていた時に面会に来られても、どこかぎこちなく他人行儀に見え、介護経験のない息子さんが最後まで続けられるのだろうかとスタッフ皆が案じていた。ある日の夕方の訪問。その日は心無い利用者の言動に心が沈み、「利用者に寄り添うとは、看護とは、介護とは。」自問自答していた。お部屋に入るとHさんが静かに微笑まれていた。排尿介助の場面で「お母さん僕の肩につかまって」と息子さん。Hさんは細く痩せた腕を息子さんの肩に回した。息子さんはしっかり大地のように優しく、Hさんを抱きかかえていた。訪問を終え外に出る。街灯の灯が眩しい。何か元気をもらった気がした。親子の絆。信頼と愛情。その後、息子さんは立派にご自宅でHさんを看取られた。 2023年1月投稿 「看護を超えた、心のつながり」 職業人としては、利用者さんには公平で適切な距離感を保つことが必要である一方、感情や気持ちはそう割り切れない、人間らしさを感じるエピソードです。 脳腫瘍のIさんの訪問看護を開始して、1年半が経ちました。シャワー浴を実施していましたが、徐々にADLは低下していき、訪問看護で実施することが難しくなっていきました。自分たちよりも大きな男性の移乗や更衣を全介助で行うのは正直大変でしたが、元気な奥様と息を合わせて行うシャワー浴はわたしにとってはとても楽しみな時間でした。訪問中に、これまでのお二人のお話や、ちょっとした世間話などをすることも楽しみに訪問をしていました。しかし、ある時、シャワー浴がいよいよ安全に実施できないということで、訪問入浴導入が決定しました。訪問看護は状態観察で30分訪問を実施することになりました。何度目かの30分訪問を実施した時、奥様が話しました。「訪問が30分になってしまい、みんなが、急いで帰ってしまう様子が寂しい、これまで通り60分の訪問というわけにはいかないだろうか」と。それを聞いた時、看護を提供する者として、正解かは分かりませんが、私も、同じ気持ちですと、心の中で伝えました。看護は、誰しもに公平でなければならないと思います。ですが、看護師も人間です。こんな風に、心が繋がることもあるんだなぁと、実感した瞬間でした。 2023年2月投稿 「絶対に守る!」 新型コロナウイルスの蔓延により、本来必要であった看護や介護の手が届けることができない状況下でのリアルなエピソードです。夫婦の絆だけではなく、訪問看護師への強い信頼があったからこそ為し得た看護です。 新型コロナウイルスが蔓延したため、とても気を付けていましたが、介護者である奥様が感染してしまいました。本人でなくても介護者が陽性の場合、ヘルパーさん、訪問入浴、デイケア、ショートステイも断られました。神経難病で寝たきり、気管支瘻で吸引も必要、経管栄養、尿留置カテーテル、浣腸も毎日必要でした。ご主人の介護をどうしよう…と、奥様が泣かれました。訪問看護で毎日訪問することにしました。防護服を着て、最後の時間に訪問し、保清と排便処置を主に、ケア時の注意、立ち位置から消毒、換気まで細かく指導し、奥様と「絶対移さない!」を合言葉に頑張りました。症状はなくても奥様が心配で精神的に参ってしまわれ、1日ごとに抗原検査しました。奥様の発熱から最終10日目も陰性で万歳しました。「奥様凄いことです」。褒めて差し上げると、ご本人様は、強ばった身体で一生懸命頷いて笑顔を作って、ポロポロと涙を流されました。一番緊張して、奥様の体調も心配されてたんだと気付かされ感動しました。 2023年1月投稿 「事務さんの仕事はご利用者様への支援に繋がっている。」 勤めていると当たり前になりがちかも知れませんが、同じ職場のスタッフ同士でも信頼や絆があってこそ、良いサービスを届けることができるのだと気付くメッセージです。 いつも事業所でさまざまな業務をこなしてくれる事務さん。事務さんが請求業務を行ってくれるから、会社が成り立ちます。事務さんが医療機関へ訪問看護指示書を手配してくれるから私たちはご利用者様へサービスを届けることができます。事務さんが労務的な手続きを行ってくれるから、私たちは健康保険証で医療機関を受診できたり、保育園の入園申請が行えます。私たちが安心してご利用者様へケアを届けることができるのは、事務さんのバックアップがあるからです。事務さんがいるからご利用者様は安心してケアを受けることができ、ご自宅で過ごすことができています。事務さんの仕事はご利用者様へのケアに繋がっています。事務さん本当にありがとう。 2023年2月投稿 医療や介護のベースには思いやりを 家族間、スタッフ間、訪問看護師と利用者間とさまざまな間柄でのエピソードでしたが、苦労がある中でもお互いの絆を感じるものでした。相手への思いやりを持っているから築けた絆なのでしょう。医療や介護も常に人が関わる仕事。信頼や絆を築いていくためにも、日頃の接遇やコミュニケーションなどに配慮するとともに、相手への気遣いや思いやりを忘れないようにしていきたいものですね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子  2026年1月23日(金)17時まで「第4回 みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!↓

エンバーミングの手順とは? 専門的な処置について解説
エンバーミングの手順とは? 専門的な処置について解説
コラム
2025年11月18日
2025年11月18日

エンバーミングの手順とは? 専門的な処置について解説

エンバーミングには、大きく分けると「防腐」「消毒」「修復・化粧」の3つの目的があります。今回は、これらの目的のために、実際にどのような処置が行われているのか、現役のエンバーマーである牛渡一帆氏に解説していただきます。 エンバーミングの手順 エンバーミングは、体内・体外、両方からのアプローチによってご遺体の状態を安定させ、感染症に対する安全な環境をつくり、お姿を整える処置です。エンバーマーは、こうした処置を通じて、ご遺族が安心して最後のお別れに向き合うことができるよう支援しています。 エンバーミングは、大まかにまとめると次のような手順で行われます。 1. ご遺体の施設への受け入れ、必要書類やお預かり品の確認2. ご遺体体表の汚れの洗浄・消毒および状態確認3. 薬液の調合4. 表情の整え5. 血管の剖出6. 薬液の注入・排血7. 胸水や腹水、体腔内残渣物などの吸引8. 体腔内への薬液充填9. 各所切開部の縫合10. 全身の洗浄・洗髪11. 治療痕や点滴痕などの処置12. 着せ替え13. 表情の再調整・メイク14. ヘアセット15. 布団への安置または納棺 通常、処置に要する時間はおおよそ3時間ですが、ご遺族の要望や故人の体格、身体の状態によっては時間が前後したり、処置内容が追加されたりする場合もあります。広範囲にわたる損壊や欠損などがある場合では、丸一日お預かりすることもあります。 次に、エンバーミングの専門的な処置について詳しく解説していきます。 ご遺体に対する専門的な処置の実際 薬液の注入・排血 通常、生体では体内に取り込まれた酸素や栄養、水分は、動脈血によって全身の組織に運ばれ、各臓器で代謝や処理が行われます。そして、その過程で生じる二酸化炭素や老廃物、余分な水分は静脈血によって回収され、最終的に呼気や便、尿として体外へ排出されます。エンバーミングでは、この脈管の機能を利用し、動脈からの薬液注入と静脈からの血液排出(排血)を行います。 動脈を流れる薬液は、組織に作用し、防腐や消毒、血色をよくするといった効果を与え、静脈に入ると、残留している血液とともに老廃物や余分な水分など、腐敗の元になるものと混ざり合って流れていきます。 しかし、生体と違い代謝機能が失われているご遺体は、自力で不要な物質を体外へ排出することができません。したがって、静脈の一部を開放し、直接体外へ排血する必要があります。 薬液の注入に使用する動脈には、基本的に頸部や上腕、大腿にある血管を選択し、左右いずれか一側、または複数の箇所を切開します。排血には右内頸静脈を使用することが多いです。ただし、血流が滞るような障害(動脈硬化や血栓など)がみられる場合は、該当箇所に皮下注射で薬液を直接注入したり、皮膚に塗布して浸透させたりする方法をとることもあります。 血管の剖出と切開部の縫合 上記で述べた動脈と静脈を取り出すために、血管を覆っている疎性結合組織や脂肪組織を取り除く必要があります。この作業は解剖で行う「剖出」と同じです。該当箇所に2~3cmほどの切開を行い、血管を剖出します。薬液の注入と排血が完了した後は、最終的に切開部を縫合し、テープや修復用ワックスなどで目立たないように隠します。 胸水や腹水、体腔内残渣物などの吸引と薬液充填 さらに、脈管からでは対応しきれない部位にある胸水や腹水、胃の内容物、尿、便などを吸引します。腹部に1cm程度の穴を開けて、体腔内に残った腐敗要因となる物質を除去します。吸引後は、同じ場所から直接薬液を体腔内に充填します。 なお、エンバーミングで使用する薬液には、特殊なケースにも対応できるよう、さまざまな種類があります。状況に応じて、最適な薬液をそのつど選択しています。  組織の保湿や水分補給効果がある薬液 脱水や乾燥を促す薬液 やつれてしまった部位に組織の代わりとして充填する薬液 欠損箇所を補うためのワックス など 最後に、全身を洗浄します。 ここまでの処置は、あくまで「ご遺体の保全」を目的とした、エンバーミングならではの内容ですが、エンバーマーの仕事はそれだけではありません。 着せ替えや表情の再調整、ヘアセット われわれエンバーマーが、ご遺族と接することができる時間はあまり長くはありませんが、その中でできる限り、ご遺族の要望や故人への想い、エンバーミングに期待していることなどを教えていただきます。その情報に基づいて、故人の表情や髪型を整えたり、衣装の着付け、ひげや爪の手入れ、化粧を施したりします。 そのため、エンバーミングのご依頼時には、故人についての具体的な情報のご提供をお願いしています。 エンバーミングの依頼に必要なもの エンバーミングを依頼する際は、「死亡診断書(検案書)のコピー」と「エンバーミング依頼書」(以下、依頼書)の2点が必要です。また、故人に着せたい衣装や生前の写真、場合によっては入れ歯やウィッグ、アクセサリーなどをお預かりすることもあります。 依頼書には、ご遺族の要望を記入する欄があり、表情の整え方、ひげ剃りの要・不要、髪型、服の着せ方、メイクの希望などをご記入いただきます。内容によっては、高度な修復が必要になることもあります。 なお、依頼書には、2親等以内のご遺族による署名が求められます。 ご家族が立ち会えないからこそ依頼書が必要 エンバーミングでは、先述したような外科的な処置に加えて、ホルマリンを始めとする医薬用外劇物の使用を伴います。また、死亡診断書に記載された死因だけでは分からない、何かしらの感染症に故人が罹患している可能性もあります。こういったことを考慮し、エンバーミングは曝露対策や感染防御、故人のプライバシーに最大限配慮された「エンバーミングセンター」という専門の施設で行われます。 またエンバーミングは「日本遺体衛生保全協会」の認定資格を持つ専門のエンバーマーが実施するものであり、原則としてご遺族を含む第三者が立ち会うことはできません。 このような事情から、故人のお姿をご遺族の希望に近づけるためにも、依頼書の質問にお答えいただくようにお願いしています。 最後に エンバーミングの依頼は、特別な場合に限られたものではありません。最近では、「できるだけゆっくりと故人と過ごす時間をとりたい」「冷たくて重たそうなドライアイスをあの人の身体に乗せるのはかわいそう」「病気でやつれた顔を元気な頃のようにきれいにしたい」といった想いから、エンバーミングに価値を感じて依頼されるケースも増えています。 エンバーミングの一番の目的は、故人のお身体の状態を安定させることによって、ご遺族が安心して最後のお別れに向き合えるように時間を確保することだと考えています。そして、「大切な人の死」という現実を受け入れ、気持ちの整理をするための時間と場を提供するグリーフサポートの一環であると考えます。 担当するエンバーマーは、責任をもって、書類や写真を参考にしながら、目の前のお身体に向き合います。最後の時間に、ご家族が「大切な人にどのような姿でいてほしいか」「故人はご家族とどのようなお姿でお別れしたいか」を想像しながら、エンバーミングの処置を行っているのです。  執筆:牛渡 一帆(うしわた かずほ)株式会社ジーエスアイ エンバーミングセンター長一般社団法人日本遺体衛生保全協会(IFSA) 認定エンバーマー、スーパーバイザー一般社団法人グリーフサポート研究所認定 グリーフサポートバディ2011年にIFSAのエンバーマーに認定。2012年に株式会社ジーエスアイに入社。2020年、厚生労働行政推進調査事業費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「遺体における新型コロナウイルスの感染性に関する評価研究」に参加。エンバーミングの普及に努める。編集:株式会社照林社

一人じゃない訪問看護——「関わりの深さ」が私を変えた~ナーシングステーションナッセケアベイス宝塚・粟田さんにインタビュー~
一人じゃない訪問看護——「関わりの深さ」が私を変えた~ナーシングステーションナッセケアベイス宝塚・粟田さんにインタビュー~
インタビュー
2025年11月18日
2025年11月18日

一人じゃない訪問看護——「関わりの深さ」が私を変えた~ナーシングステーションナッセケアベイス宝塚・粟田さんにインタビュー~

【PR】この記事はNsPace Careerナビ編集部が取材・編集しています。 病棟勤務で理想の看護とのギャップに悩んだ粟田さんは、「もっと関わりたい」という想いから訪問看護の道へ。 未経験からの挑戦に不安を抱えながらも、「ナーシングステーションナッセケアベイス宝塚」のチームに支えられ、安心して成長を重ねました。 生活に深く寄り添うケアを通して、看護観が「治療」から「暮らしの支援」へと変化。 今はこの場所で、自分らしい看護の形を見つけながら、訪問看護の魅力を実感しています。 「人と向き合いたい」と看護師を志すも、理想と現実に揺れた病棟時代 「もっと患者さまと関わりたいのに、時間が足りない」。 粟田さんが看護師としてキャリアをスタートしたのは、急性期病棟でした。常に時間に追われる日々。申し送りや点滴、処置といった業務が立て込み、患者さんと一対一でじっくり向き合う余裕がなかったといいます。 「“その人らしく生きることを支えたい”と思って看護師になったのに、現場ではその思いを叶えられない。理想と現実のギャップに、少しずつ気持ちが追いつかなくなっていました」 そうしたなかで芽生えたのが、「もっと深く関われるケアはないか」という想い。そんな折に出会ったのが訪問看護という選択肢でした。 訪問看護との出会い——“怖さ”を超えて踏み出した一歩 「ひとりで判断しなきゃいけない——」。 訪問看護と聞いたとき、まず浮かんだのはその不安でした。一人で現場に向かい、状況判断を任されるというプレッシャーは、病棟勤務とはまったく違う世界のように思えたといいます。 「正直、最初はすごく怖かったです。でも、ナーシングステーションナッセケアベイス宝塚に入ってみると、そのイメージはすぐに覆されました」 困ったときはすぐに周囲に連絡が取れる体制、施設内の訪問看護だから声かけや相談の気軽さ、そして何より、同行訪問やカンファレンスを通じた“誰かとつながっている”感覚。 「誰かが必ず見守ってくれている——その安心感があったから、少しずつ不安は薄れていきました」 未経験からの挑戦だった訪問看護。けれど、“ひとりじゃない”という支えが、粟田さんの新たなキャリアを力強く後押ししました。 穏やかに話す姿が印象的な訪問看護師の粟田さん 利用者様と「生活」を共にするなかで変わった看護観 無機質になりがちな病室とは異なり、訪問先の利用者様の部屋には、その人ならではの風景が広がっている。部屋の家具や趣味の品、ご家族との距離感——それらすべてが、利用者様の「生活そのもの」でした。 「こんなに“その人のこと”が見えるんだと、衝撃を受けました」 生活の中に入っていくからこそ見える、体調の変化や心理的な動き。病院とは違い、“その日、その場所”で判断しながらケアを組み立てていく面白さもありました。 「体調を見ながら、外気浴のためにお散歩したり、鑑賞会やイベントでは普段見ることができない表情を発見できたりします。ヘルパーやリハビリのスタッフ共に、利用者様の好きな音楽、仕事のこと、家族の話を共有できるのもやりがいのひとつです」 医療行為だけでなく、“その人らしい時間”を支える。訪問看護に携わるなかで、粟田さんの看護観は「暮らしのパートナー」へと、大きく変わっていきました。 今、粟田さんが大切にすること——“チーム”と“自分らしさ”の両立 理学療法士でもある施設長の才さんは「ナーシングステーションナッセケアベイス宝塚」を、「三方良しを追求する」という理念を掲げ、利用者様(ご家族様)・地域・職員の良しを追求する職場であると話します。 「精神的にも経済的にも充実度を大事にしたいと思っています。やりがいも大事で、食事支援はこだわっていて。“最期まで自分らしく生きる”をテーマにしています。ありふれた言葉ですが、人生完了の瞬間と考えています。人生を全うできたと思えるように、多職種での強みを集めて願望をかなえるようにしていきたいのです」 看護師、介護士、理学療法士、言語聴覚士といった多職種の協力体制も整っており、それぞれが専門性を活かしてチームで支える仕組みが機能しています。 特にパティシエの経験があり、現在は言語聴覚士として勤務している職員が作る、嚥下に配慮したスイーツは好評だそう。毎月メニューを変えて利用者様に楽しんでいただいている。夏には施設内で“居酒屋”を提供し、季節感や日々の刺激になるようなイベントも計画されているそうです。 「少しでも好きなものを召し上がっていただけるよう、スタッフみんなで連携しています」 多彩な役割が集まって作るチームは、ケアの可能性を無限大にできる。 「カンファレンスで共有しておくと、誰かが急に行けなくても他の誰かがカバーできる。“私じゃなきゃ分からない”ではなく、“誰でも対応できる”ように整えることができる。それってすごいことですね」 また、育児との両立を支える柔軟な文化も、粟田さんにとって大切なポイント。 「子どもの行事があるときなど、チームで協力し合える雰囲気があるのがありがたい。“お互いさま”の文化ですね」 訪問看護を始めて、2年目を迎えた今——。 「不安もあったけど、すぐに相談できるスタッフとの距離の近さが魅力で。毎日、先輩の知識や技術が勉強になるし、成長を実感できるのが嬉しい。訪問看護を迷っている方がいたら、まずは見に来てみてほしい」 そう穏やかに語る粟田さんの表情には、「看護師としての原点を取り戻せた」確かな充実感がにじんでいました。 「やりがいをもって成長したい」という方とぜひ働きたい!と話す施設長の才さん インタビュアーより 粟田さんの語り口には、誠実さと温かさが滲んでいました。 「怖い」と感じていた訪問看護が、今では「最も自分らしくいられる場所」になった——その変化は、これから訪問看護を検討する多くの看護師の方々に、安心と希望を届けてくれるはずです。 利用者様の日常に静かに寄り添い、時には家族のように、またある時は人生の伴走者として関わっていく。そんな訪問看護の姿勢に、私たちも深く心を動かされました。 「ひとりで訪問する」という言葉の印象とは裏腹に、実際には常に誰かとつながりながら働いているという実感がある——その現場の温度感が、粟田さんの表情や言葉の端々から伝わってきました。 訪問看護の魅力は、現場で働く人自身の声を通じてこそ、よりリアルに、そして説得力をもって伝わります。このインタビュー記事が、「訪問看護って、いいかも」と感じるきっかけになればと願っています。 事業所概要 事業所名: ナーシングステーションナッセケアベイス宝塚 所在地: 〒665-0033 兵庫県宝塚市伊孑志1-8-45 アクセス:阪急今津線「逆瀬川駅」徒歩3分 訪問エリア:自社施設内のみ 運営方針:ナーシングステーションナッセケアベイス宝塚は、パーキンソン病をはじめとする神経難病やがん末期の方々に対し、専門的な看護・介護を提供する施設です。 私たちが最も大切にしているのは、「最期まで自分らしく生きる」こと。その人がその人らしく、尊厳を持って暮らせるよう、医療・介護・リハビリが一体となったケアを実践しています。 施設には看護師・介護士が24時間365日常駐し、夜間も安心して過ごせる医療体制を整えています。また、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリハビリ職との連携により、週5日の個別・集団リハビリを提供。身体機能の維持と生活の質の向上をサポートしています。 さらに、パーキンソン病やターミナルケアに精通した専門医との密な連携により、高度な医療的ニーズにも対応。スタッフ一人ひとりが専門性を高められる教育体制を整え、安心・安全で温かみのあるケアを追求しています。 通勤アクセスにも優れた立地にあり、働きやすさと専門性の両立を目指す看護師の方にとって、やりがいと成長を実感できる職場です。 事業所紹介ページ: https://ns-pace-career.com/facilities/16679 NsPace Career 記事提供:NsPace Careerナビ編集部 NsPace Careerナビでは、今回の記事のほかにも多数の事業所情報や役立つコンテンツを掲載しています。ご興味のある方はぜひこちらもご覧ください。 サイト: https://ns-pace-career.com/media/

開催間近!学術集会長 藤野泰平氏 特別インタビュー【第15回日本在宅看護学会学術集会 11/29&30開催】
開催間近!学術集会長 藤野泰平氏 特別インタビュー【第15回日本在宅看護学会学術集会 11/29&30開催】
インタビュー
2025年11月11日
2025年11月11日

開催間近!学術集会長 藤野泰平氏 特別インタビュー【第15回日本在宅看護学会学術集会 11/29&30開催】

2025年11月29日(土)・30日(日)に、ウインクあいち(愛知県/JR名古屋駅より徒歩5分)にて「第15回日本在宅看護学会学術集会」が開催されます。テーマは、「訪問看護と社会インフラ~医療・ケアを地域の当たり前に~」。開催が目前に迫る中、学術集会長の藤野 泰平さんに、地域での暮らしを支え続ける訪問看護の意義や、社会インフラとしての可能性についてお話をうかがいました。 >>関連記事11月29日&30日開催!第15回日本在宅看護学会学術集会 見どころ紹介見どころやシンポジウムの紹介もされています。 藤野 泰平さん第15回日本在宅看護学会学術集会 学術集会長 名古屋市立大学看護学部卒業後、聖路加国際病院に入職。訪問診療クリニック、訪問看護ステーションの勤務を経て、2014年11月に株式会社デザインケア・みんなのかかりつけ訪問看護ステーションを設立。日本看護管理学会 看護の適正評価に関する検討委員会副委員長、一般社団法人日本男性看護師会 共同代表、オマハシステムジャパン理事、東京大学、慶應義塾大学非常勤講師などを歴任。 訪問看護を「社会インフラ」として考える ―前回の記事で、瀬戸内海の島で生まれたことがきっかけで訪問看護を「社会インフラ」と表現するようになったと教えていただきました。経緯について、もう少し詳しく教えてください。 はい。私が生まれ育った島では、「住みたい場所で暮らしたい」という願いが病気をきっかけに叶わなくなったり、緊急対応が間に合わず命に関わる事態になったりすることがありました。私自身も、家族として大きな無力感を覚えた経験があります。訪問看護や救急医療が十分でない地域では、日常生活や生き方にさまざまな制約が生じやすいことを実感したんです。 電気・ガス・水道と同じように、医療やケアが当たり前に届く社会をつくりたい――。この想いが、私の原点です。そして、「家族やペット、友人などと年を重ね、住み慣れた場所で日々穏やかに過ごしたい」という多くの人の願いに、医療や福祉がきちんと応えられる社会を実現したいと思っています。 ―そのために、訪問看護ができることは何でしょうか。 医療や介護は、当事者にならなければ実感しづらいものですよね。 例えば、私はこれまで「娘に迷惑をかけたくない」と施設に入った方が「娘に会いたい」と涙を流す姿や、亡くなった後にご家族が「母は幸せだったのでしょうか」「私は親孝行できたのでしょうか」と悔やむ姿などを何度も見てきました。「本当にこれでよかったのか」という後悔は、心に深く残るものです。 訪問看護の出発点は、利用者さんの「どう生きたいか」「どんな暮らしを望むのか」という声に丁寧に耳を傾け、受け止めることだと私は考えています。 そして、訪問看護師は日々多くの「最期」に立ち会います。その経験を通して得た声や気づきを地域で生きる人たちに伝えながら、「どうすればより良い最期を迎えられるか」「どう生きていけるか」という未来を描いていく。そうやって、まちの中で人と人との思いをつなぐことこそが、訪問看護という仕事の大切な一面なのだと、私は考えています。 ―藤野さんは、どのように「伝える」活動をされているのでしょうか。 例えば、書籍の執筆やホームページでのケア症例事例集の公開などを行っています。医療やケア、「生きる」ことに関する情報を、市民の方々へ還元していきたいと思っています。 人生の歩みや病気との向き合い方など、その方の「物語」がみえるケア症例事例集。(みんなのかかりつけ訪問看護ステーションHPより) 社会のしくみをより良くしていくために ―藤野さんは、幅広くご活動をされていますが、具体的な活動内容や、その背景にある想いについて教えてください。 まずは、なんといっても訪問看護事業です。世界的には、地域でのプライマリ・ケアを基盤に、生活に根ざした支援を重視する国が多い一方、日本では病院中心の体制が長く続いており、看護職の多くが病院に勤務しています。しかし、人が実際に生活するのは病院ではなく自宅です。生活の場で支える存在がもっと必要だと考えて訪問看護を始めました。スタッフが長く安心して働ける環境を整えることが、地域支援の持続可能性を保つことにもつながると考え、教育のオンライン化やオンコール専用コールセンターの設置などにも取り組んでいます。 また、学会活動にも力を入れています。今回は日本在宅看護学会の学術集会長を担当していますが、日本看護管理学会や日本在宅連合学会などでも委員会に参加し、さまざまな職種の方と協働して、社会のしくみをよりよく動かすための議論や提案を行っています。 医療や介護の現場は、「診療報酬」「介護報酬」という制度のもとで成り立っています。制度をどの方向に動かすのが望ましいのかを考える上で、学会は非常に有効なチャネルです。職種の枠を超え、仲間たちとともに、「社会にとってより良い形とは何か」について、議論を重ねながら社会をリードしていく。そんな役割を担えたらと考えています。 そのほか、ケアの質を見える化する「オマハシステム」や、看護職の多様なキャリアを支援する「日本男性看護師会」など、いくつかの団体や企業活動を通じて、看護のしくみづくりや社会的な基盤づくりにも携わっています。データやDXを活用して、社会全体を少しでも早く、より良い方向へと変えていけるよう、仲間と力を合わせて活動を続けています。 未来をつくるために意識したいこと ―今回の学術集会の運営にあたり、特に意識されたポイントについて教えていただけますか。 意識したのは、「未来をどうつくっていくか」ということです。今回の学術集会では、主に以下の3つを柱に据えました。 人づくり:未来を担う世代を育てる 社会を支えていくためには、「人づくり」がとても大切だと感じています。これは、法人の中で人材を育成するという狭い話ではありません。病院も在宅も大学も含めて、どのように人を育てていくかを考える。そこにこそ、学会が果たせる役割があると思うんです。生産性:力を発揮できる環境づくり 日本の一人あたり労働生産性は、主要国と比べて十分に高くはありません。裏を返せば「伸びしろが大きい」ということでもあります。人口減少が進む中でも、働く環境の整備やDXの推進によって、より多くの人が力を発揮できるようになれば、医療や福祉を含む社会全体の活力を高めていけると考えています。想像力:多様な人々の暮らしを想像する 社会の未来を考える上で、想像する力は欠かせません。医療者にとっても重要な力だと思っています。例えば、子どもを亡くした親の気持ち、仕事に失敗して家にこもる人の孤独、災害に遭った方々の日々などをどれだけ想像できるかが、行動を起こす上での鍵になります。遠く離れた国の子どもたちの現実を自分ごととして捉えるのは難しいのは、無関心なのではなく、単に経験の差や情報の届き方が影響している側面もあると思います。利用者さんの心に触れる経験を通じて、「自分たちの未来はどうあってほしいのか」「どんな社会にしていきたいのか」を想像する。その想像力をもとに、当事者意識を持って未来を考えていく。この学術集会が、そのきっかけになれば嬉しいと思っています。 視野を広げ、つながりを知り、自分を主語に語る ―若手看護師をはじめ、あまり学術集会に参加したことがない方へのアドバイスやメッセージがあれば教えてください。 臨床で働く中では、どうしても自分にできないことや職場の空気に意識が向きがちです。しかし、実際には世界はもっと広がっています。自分が大切にしている価値観やこだわりが認められなくても、別の場所では評価されることがある。広い視野を持つことは、一歩を踏み出す勇気につながることを、私自身も実感しています。 また、「自分たちの仕事がどこで、どのように、つながっているのか」を知ることも大切です。多種多様な立場の人の試行錯誤を知ることは、大きな学びになります。現場で一生懸命取り組むことが、退院後の患者さんの人生に影響を与えることもあります。その影響が、やがて家族や地域へと広がっていくことだってあるでしょう。こうしたつながりを実感できるのが、看護の醍醐味だと思っています。 そして、学術集会の場などで誰かと話すときは、「自分を主語に語ること」です。「『私は』こう思った」「『私は』困った」と、自分の言葉で表現すると良いと思います。明確な正解はありませんし、同じ出来事でも、背景や経験によって受け取り方は違います。自分を主語にすることで、「それいいね」という共感や、「こう考えてみたら?」という助言が生まれ、次の一歩につながるのです。皆さんには、さまざまな人の話を聞きながら、「自分にとっての意味」を感じ取ってほしいと思います。 ―最後に、学術集会の具体的なまわり方に関して、アドバイスをお願いします。 学会やセッションでは、ぜひ自分が興味を持ったテーマの場に足を運んでください。今の自分が求めていることは、きっとその中にあります。また、少し勇気がいるかもしれませんが、終わった後に登壇者等に「少しお話ししてもいいですか?」と声をかけてみてください。それだけで人生が大きく変わることもあります。自分の仕事に誇りを持てるきっかけになるかもしれません。 そして、11月29日(土)17時からの懇親会も、肩の力を抜いて語り合える貴重な時間だと思っています。第14回学術集会の懇親会も多くの若い方が参加してくださり、「あの話に共感しました」「こんな苦労がありました」といった会話が自然に生まれました。そんな何気ない交流が、自分を磨くきっかけになります。ぜひ積極的に参加して、声をかけてください。私もその場にいますので、話しかけてもらえれば、どんな質問にもできる限りお答えします。 そうした「有機的な出会い」の中で、一緒に未来をより良くしていく仲間として、互いに成長していけたらと思います。 2025年11月29日(土)、30日(日)開催の「第15回日本在宅看護学会学術集会」にご参加希望の方は、学術集会ウェブサイトよりご登録ください。また、学術集会の1日目終了後(17時~)には、懇親会も開催されます。ぜひあわせてご参加ください。・学術集会への登録はこちら第15回日本在宅看護学会学術集会 ウェブサイト・懇親会の情報はこちら 11/29・30開催「第15回日本在宅看護学会学術集会」に協賛!懇親会も開催 編集:NsPace編集部 【参考】〇プライマリ・ケア連合学会「プライマリ・ケアとは」https://www.primarycare-japan.com/about.htm2025/11/5閲覧〇厚生労働行政推進調査事業.筑波大学附属病院 総合診療・プライマリ・ケア推進事業報告書「わが国の総合診療はどうあるべきか 第4部 総合診療に関する国際比較」https://soshin.pcmed-tsukuba.jp/education/report/pdf/04_001.pdf2025/11/5閲覧〇厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況に関する 参考資料」(令和5年5月29日)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001101182.pdf2025/11/5閲覧〇厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/24/dl/gaikyo.pdf2025/11/5閲覧〇公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2024」https://www.jpc-net.jp/research/list/comparison.html?utm_source=chatgpt.com2025/11/5閲覧

皮膚トラブルのアセスメント 疥癬の見極めと対応【セミナーレポート後編】
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2025年11月11日
2025年11月11日

皮膚トラブルのアセスメント 疥癬の見極めと対応【セミナーレポート後編】

2025年7月25日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「写真で解説!皮膚トラブルのアセスメント」を開催。皮膚科専門医である袋 秀平先生を講師にお招きし、訪問看護の現場で役立つ皮膚トラブルのアセスメントについて学びました。 セミナーレポート後編では、疥癬の基礎知識や対応方法をメインにご紹介します。 ※約70分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら皮膚トラブルのアセスメント 視診のコツと真菌症【セミナーレポート前編】>>袋先生の連載記事はこちら【多数の症例写真で解説】皮膚症状シリーズ記事一覧 【講師】袋 秀平 先生日本皮膚科学会 専門医/ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学 医学部を卒業。1999 年にふくろ皮膚科クリニックを開業して以降、長らく在宅医療に取り組む。日本褥瘡学会監事(前在宅担当理事)、日本フットケア・足病医学会 在宅医療委員長、神奈川県皮膚科医会 副会長など、さまざまな学会で主要な役職に就き、知識の共有や医療の発展に尽力している。 ステロイド外用薬の基礎知識 ステロイド外用薬(塗り薬)は、抗炎症作用の強さによって5段階に分類されます。 strongest(I群)クロベタゾールプロピオン酸は別格に強い薬なので、やむを得ない場合にだけ使うと考えてください。very strong(II群)ややひどい湿疹によく使われます。顔にはおすすめしません。strong(III群)一般に使われている薬です。薬局で売られている薬の多くはstrongに該当します。moderate(IV群)、weak(V群)通常の湿疹に処方されることが多い薬です。 ステロイド外用薬の副作用として皮膚の菲薄化(皮膚が薄くなること)があるので、長期使用には注意が必要です。 >>関連記事ステロイド外用薬について症例とともに詳しく解説しております。湿疹皮膚炎とは? 種類や症状、改善方法が分かる【多数の症例写真で解説】 疥癬とは 疥癬は、ヒゼンダニが皮膚に寄生することによって発症します。症状の特徴は激しい痒みで、利用者さんが「夜も眠れないくらい痒い」と訴えたら、疥癬を疑う必要があります。なお、痒みの原因はダニに噛まれることではなく、その死骸や卵、糞などにアレルギー反応を起こすことです。 皮膚症状としては、首から下に結節や「疥癬トンネル(以下トンネル)」が見られます。結節にも表面にトンネルがあることが多く、肉眼で観察できるケースも珍しくありません。 >>関連記事疥癬とは? 特徴や症状、感染予防策を正しく知ろう【多数の症例写真で解説】 診断 血液では診断できないので、虫や卵の存在を証明することが必要です。在宅では、病変部の組織を眼科用のハサミをはじめとした器具で採取し、持ち帰って顕微鏡で検査する方法が一般的。また最近では、ダーモスコピーという機材を使って証明するのも有効な手段とされています。 写真(左):結節にみられた疥癬トンネル(ダーモスコピーにて撮影)写真(右):このトンネルから検出したヒゼンダニの虫体と虫卵ふくろ皮膚科クリニック症例 上の写真は、ダーモスコピーでトンネルを見つけ、その部分を顕微鏡で見た様子です。産みたての卵は無構造に見えますが、時間が経ったものは中に虫の姿が見えます。 治療 かつて、疥癬の治療にはγ-BHCやイオウの入浴剤が使われてきました。しかし、γ-BHC は毒性の強さから2010年の法律改正で人体への使用は禁止に。イオウ入浴剤も現在は発売中止となっています。またクロタミトンも、かぶれのリスクがあることから、最近は以前ほど使われなくなりました。 そんな中、2006年には内服薬「イベルメクチン」が、2014年には外用薬「フェノトリン」が使えるようになり、疥癬の治療は格段に進歩しています。 イベルメクチン1日1回、体重に合わせた量を空腹時に内服します。1週間後に2回目の内服を行いますが、それだけでは再発例が非常に多いので、最低でも3回の内服がおすすめです。フェノトリンフェノトリンはイベルメクチンを投与できない生後2ヵ月未満の乳児や妊婦、授乳婦にも使用できるので、困ったときは選択するとよいでしょう。ただし、イベルメクチンとフェノトリンの併用は、角化型疥癬にのみに許されている地域もあります。保険適用の可否と併せて確認が必要です。 角化型疥癬とは 角化型疥癬とは重症型の疥癬で、名前のとおり角化が特徴です。通常疥癬との違いは、寄生された宿主人間の免疫力に影響を受ける点。同じヒゼンダニによる感染ですが、免疫力が低いと重症化します。 角化型疥癬になると、手や足などの摩擦が生じやすい箇所に、灰白色や黄白色の厚い鱗屑が付着します。通常疥癬は首から下にのみ発症するのに対し、角化型疥癬は頭や耳にも見られます。爪に入ると、爪が肥厚、混濁して崩壊する場合もあり、爪白癬との鑑別が必要です。 ふくろ皮膚科クリニック症例 上記のa)とb)は同じ方で、内科疾患による免疫低下が見られます。顔や頭、耳もガサガサしている状態です。c)の方は湿疹と誤診をされ、ステロイド外用が長期間行われていました。 ふくろ皮膚科クリニック症例 上の写真は、c)の方の手のひらの角化した部分を取り顕微鏡で見た様子。1つの顕微鏡の視野にこれほど多くの虫や卵が見つかるのは、重症型だけです。 なお角化型疥癬では、全身性疾患や誤ったステロイド外用の継続によって免疫力の低下が起きているため、虫が爆発的に増加します。一方で、免疫低下によってアレルギーが起きにくくなり、痒みを感じにくい場合もあります。早期発見に努めたい疾患です。 現場で実践したい対策 ヒゼンダニは、人の皮膚から離れると2〜3時間で死滅し、室温でも48時間を超えて生存できないとされています。50℃では10分で完全に死滅するため、洗濯に熱湯を用いる必要はありません。 こうした性質をふまえ、疥癬の感染予防には、日本皮膚科学会が示すガイドラインに沿った対応が推奨されています。介護する家族や介護スタッフが疥癬を発症し、本人が気づかないまま感染源となるケースもあるため、周囲も含めた感染リスクに注意し、適切な対策を行う必要があります。 角化型疥癬の場合は厳重な対応が求められますが、ガイドラインにおいて通常疥癬では以下3点の対策が基本とされています。 1. 手洗いを励行する2. 診察室や検査室ではディスポーザブルシーツを使用し、患者ごとに必ず交換する3. 洗濯物を運ぶ際は落屑が飛び散らないようポリ袋などに入れる 雑魚寝状態であれば、同居者や友人などの予防治療を検討しますが、個室隔離や殺虫剤散布は不要です。 疥癬が発生した際に慌てることのないよう、以上の内容をふまえ、施設であらかじめ対策マニュアルを作成しておくことをおすすめします。 * * * 今回ご紹介した内容は、NsPace(ナースペース)に掲載されている私の連載記事でも触れています。併せてご覧いただき、日々のアセスメントにお役立ていただければ幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇日本皮膚科学会.疥癬診療ガイドライン策定委員会:疥癬診療ガイドライン(第3版),日皮会誌,125(11), 2023-2048, 2015 

皮膚トラブルのアセスメント 視診のコツと真菌症【セミナーレポート前編】
皮膚トラブルのアセスメント 視診のコツと真菌症【セミナーレポート前編】
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2025年11月4日
2025年11月4日

皮膚トラブルのアセスメント 視診のコツと真菌症【セミナーレポート前編】

2025年7月25日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナーのテーマは、皮膚トラブルのアセスメント。25年以上にわたり在宅医療に取り組む皮膚科専門医である袋 秀平先生に、訪問看護師が知っておきたい皮膚トラブルのアセスメントに必要な知識を教えていただきました。 セミナーレポート前編では、皮膚症状の見方や真菌症(白癬)の情報をまとめます。 ※約70分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】袋 秀平 先生日本皮膚科学会 専門医/ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学 医学部を卒業。1999年にふくろ皮膚科クリニックを開業して以降、長らく在宅医療に取り組む。日本褥瘡学会 監事(前在宅担当理事)、日本フットケア・足病医学会 在宅医療委員長、神奈川県皮膚科医会 副会長など、さまざまな学会で主要な役職に就き、知識の共有や医療の発展に尽力している。 皮膚症状を「みる」 「スナップ・ダイアグノーシス(一発診断、一瞥診断)」という言葉がありますが、皮膚科においては「目でみる」こと、特に「形態(皮膚科においては発疹)覚」と「色覚」がとても重要です。 今回は、実践で役立てやすいようわかりやすさを重視し、 「皮膚面にあるもの」「皮膚面より隆起しているもの」「皮膚面より陥凹しているもの」「発疹の上に乗っているもの」の順に分類して、発疹と色の判別方法を見ていきます。 >>関連記事皮膚症状の見方や医師への報告のしかたについては、以下の記事もご覧ください。訪問看護で皮疹を発見 もう迷わない医師への皮膚症状の伝え方【多数の症例写真で解説】 (1)皮膚面にあるもの 皮膚面にあるものとは、色の変化を指します。代表的なものとして 血管拡張 紅斑 紫斑 白斑 色素斑 などがあります。病変部の色を正しく識別することで、どのような病態を反映しているかを判断し、適切な対処方法を明確にしていきます。色の変化で重要なのは、「紅斑」と「紫斑」でしょう。 写真(左)紅斑:圧迫にて色が消退する 写真(右)紫斑:圧迫しても色が消退しないふくろ皮膚科クリニック症例 ガラスやアクリルなどの透明な板で病変部を圧迫し、色が消える、または薄くなれば紅斑。変化しなければ紫斑です。紅斑は真皮浅層で血管が拡張したり、充血したりしているので、圧迫すると一時的に血管から血液が圧排されて色が消退します。 一方の紫斑は、真皮または皮下組織に出血しているため、圧迫しても色は消えません。紫斑であれば血管の障害や血液に問題があることが推測されます。皮疹を区別することで、病態も想像できることになります。 (2)皮膚面より隆起しているもの 皮膚面より隆起しているものとしては以下のようなものが挙げられます。 丘疹 結節 水疱 膿疱 嚢疱 膨疹 写真(左):丘疹 写真(右):結節ふくろ皮膚科クリニック症例 炎症をはじめとしたトラブルによって細胞や液性成分が増加し、体積が増えて皮膚が盛り上がったものは「丘疹」です。直径1センチを超える丘疹は「結節」、さらに大きいものは「腫瘤」と呼ばれ、腫瘤の多くは腫瘍性です。 写真(左・中央):水疱 写真(右):膿疱ふくろ皮膚科クリニック症例 内部に液体成分が貯留しているものは「水疱」か「膿疱」です。写真左は単純ヘルペスで、中央は水疱性類天疱瘡(すいほうせいるいてんぽうそう)。右のように、内容液に好中球が集まってきたものは膿疱で、細菌がいない無菌性膿疱の場合もあります。 こちらの写真は、患者さんが「水疱ができました」と言って見せてくれたものです。しかし実際には水が溜まっておらず、この場合は水疱ではなく結節と判断することができます。 膨疹(ぼうしん)ふくろ皮膚科クリニック症例 次に、皮膚が盛り上がりとして見られるのが「膨疹」です。主に真皮に見られる一過性の浮腫であり、患者さんが「水疱」と表現することも少なくありません。ただし患者さんは皮疹の種類を区別できないため、訴えをそのまま鵜呑みにせず、観察によって正しく判断することが重要です。膨疹は多くの場合、蕁麻疹の際に認められる症状です。 (3)皮膚面より陥凹しているもの 皮膚面より陥凹しているものとしては、 萎縮 びらん 潰瘍 亀裂 などが挙げられます。 ふくろ皮膚科クリニック症例 このうち「びらん(写真左)」は表皮が欠損している状態を指し、欠損がさらに真皮まで及ぶ場合を「潰瘍(写真右)」と呼びます。 (4)発疹の上に乗っているもの 次に発疹の上に乗っているものです。主に 鱗屑(りんせつ) 痂皮(かひ) 浸軟 が挙げられます。 ふくろ皮膚科クリニック症例 鱗屑とは、角化あるいは不全角化した角層が皮膚表面に付着している状態を指します。これが皮膚から離れ、剥がれ落ちたものを「落屑(らくせつ)」と呼びます。 一般に「フケ」といわれるのは、頭部の鱗屑や落屑にあたります。また「垢」は、落屑に皮脂などの分泌物が混じったものと定義されています。これらは区別して理解する必要があります。 ふくろ皮膚科クリニック症例 痂皮(写真左)は、一般に「かさぶた」と呼ばれるものです。分泌物が乾燥し、角質とともに皮膚表面に付着している状態を指します。つまり、痂皮が形成されているということは、皮膚表面が障害され、滲出液や出血が生じていることを意味します。なお、写真右のように血液が固まって形成されたものは「血痂(けっか)」といいます。 ふくろ皮膚科クリニック症例 表皮と角質の水分量が増加してふやけて見える状態は「浸軟」といいます。左の写真は、鱗屑の解説で紹介した白癬の患者さんのもので、中央部が浸軟しています。 また、中央の写真のように、褥瘡の潰瘍部の周囲が浸軟することもよくあり、これは TIME コンセプトの Mで問題となります。滲出液の状態が適切でなく、過湿潤の状態にあると判断されます。 右の写真は、足底のウイルス性疣贅(いわゆるイボ)にサリチル酸ワセリンを貼った後の状態です。 真菌症(白癬)とは 真菌症は、文字どおり真菌(カビ)が原因で起きる疾患です。真皮までの炎症にとどまる「浅在性真菌症」と、より深い部分に達する「深在性真菌症」とがありますが、今回は白癬による浅在性真菌症についてお話しします。 >>関連記事真菌症とは? フットケアにも活かせる知識【多数の症例写真で解説】 診断と治療 真菌症の診断は、まず視診で疑い、ついで病変部に真菌の存在を証明することが重要です。 これによって初めて真菌症と確定診断されます。 治療には抗真菌薬を用いますが、診断確定前に使用するのは避けていただきたいです。抗真菌薬で改善しなかった場合に、「そもそも真菌がいなかったのか」「薬が中途半端に効いているのか」などの判断が困難になるためです。 過去には、褥瘡の表面に白い膜が出現し、真菌を検査することなく「真菌が原因だろう」と考え抗真菌薬を外用した例が報告されています。しかし、これは正しい診断・治療のアプローチとはいえません。 >>関連記事「診断を確定してから抗真菌薬を使用する」という考え方は、失禁関連皮膚炎(IAD)の対応にも共通しています。治療指針を示したアルゴリズムは以下の記事で確認できますので併せてご覧ください。IAD(失禁関連皮膚炎)とは? 鑑別が必要な疾患も紹介【多数の症例写真で解説】 部位別の特徴や治療法 【足白癬】 ふくろ皮膚科クリニック症例 上の写真は、足白癬の典型例です。指の間の「趾間型」、水疱が目立つ「水疱型」、角化がメインとなる「角化型」に分類できます。 検査では、病変部の組織を顕微鏡で確認します。写真の赤丸で囲われた箇所を採取すると、真菌が検出されやすいです。 治療では、病変部だけでなく両足全体に外用を行うのが原則。外用薬の量は、世界標準の「フィンガー・ティップ・ユニット(FTU)」(大人の手のひら2枚分の面積に対し人差し指の末節分の長さをチューブから押し出した外用薬(0.5グラムに相当)を使用)に基づいて調整してください。なお、FTUの概念は、ステロイドをはじめとした他の外用薬にも適用できます。 【体部白癬】 体部白癬は境界鮮明・堤防状隆起・中心治癒傾向という特徴を持つふくろ皮膚科クリニック症例 足(足白癬)、頭(頭部白癬)、手(手白癬)、鼡径部(股部白癬)にできる白癬はそれぞれ固有の名前がありますが、それ以外にできた場合は一般に体部白癬としてまとめてしまいます。体部白癬では、白癬菌は周囲に向かって皮膚を侵していきます。 写真にあるとおり、辺縁部の炎症が強く、堤防状に隆起しており、その境界は明瞭。中心部は治ったように見えます。そのため、「境界鮮明」「堤防状隆起」「中心治癒傾向」という3つの言葉で特徴を表現します。 【爪白癬】 足爪白癬のさまざまな症状「混濁・肥厚・崩壊」ふくろ皮膚科クリニック症例 爪白癬には、爪が濁る「混濁」、厚くなる「肥厚」、ボロボロになる「崩壊」という特徴があります。これら3つの所見がそろっていれば、爪白癬の可能性が高いといえるでしょう。 エフィナコナゾール外用による足爪白癬の治療経過(70代男性)ふくろ皮膚科クリニック症例 治療には外用薬と内服薬が用いられます。上の写真は、外用薬(エフィナコナゾール)で爪白癬を治療した例です。根元から新しい爪に生え変わり、この方の場合は5ヵ月ぐらいでかなり良くなりました。しかし、外用薬の完全治癒率は20%以下で、継続できる状況であれば1年を目安に使うことになっています。 内服薬は外用薬に比べて治癒率は高いですが、肝機能や腎機能の数値に異常が出たり、併用薬に制限があったりします。そのため、使用の際は血液検査を定期的に行わなければならず、在宅ではハードルが高いかもしれません。しかし、爪白癬の放置は感染の原因になるだけでなく、転倒リスクも高まることが証明されており、治せるうちに治しておきたい疾患です。 次回はステロイド外用薬の基礎知識や疥癬の治療法・対処法について解説します。 >>後編はこちら皮膚トラブルのアセスメント 疥癬の見極めと対応【セミナーレポート後編】>>袋先生の連載記事はこちら【多数の症例写真で解説】皮膚症状シリーズ記事一覧 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇一般社団法人 日本老年医学会. 公益社団法人 全国老人保健施設協会:介護施設内での転倒に関するステートメント(発行日2021年6月11日)

チームで支え合いながら、地域とつながる~エール訪問看護リハビリステーション谷島さん・久保さんにインタビュー~
チームで支え合いながら、地域とつながる~エール訪問看護リハビリステーション谷島さん・久保さんにインタビュー~
インタビュー
2025年11月4日
2025年11月4日

チームで支え合いながら、地域とつながる~エール訪問看護リハビリステーション谷島さん・久保さんにインタビュー~

【PR】この記事はNsPace Careerナビ編集部が取材・編集しています。 30年の病棟経験を経て選んだ「その後の暮らし」への看護 「訪問看護を始めたのは、患者さんが退院した“その後”の暮らしがどうなっているのか、気になったのがきっかけでした」 落ち着いた語り口で、そう話すのは「エール訪問看護リハビリステーション」管理者・谷島薫さん。看護師として30年以上、内科・外科・整形外科・混合病棟・緩和ケアなど、実に幅広い領域を経験してきています。 その中で谷島さんが強く感じたのが、「病院を出た後」の患者さんの姿を知りたいという思いでした。 「病院では、入院中のケアや急性期の対応が中心になります。でも、本当にその方らしく生きていけるのは、自宅に戻ってからの時間なんですよね。『その人の生活にどう関われるのか』という問いが、訪問看護に進むきっかけになったと思います」 エール訪問看護リハビリステーションに入職した当初、谷島さんは現場の看護師として日々の訪問にあたっていました。ですが、その実直な姿勢と確かな経験が買われ、やがて管理者に就任することになります。 「私にとって“管理者”とは、何よりスタッフの健康と安心を守る存在であることが第一です。利用者さんに寄り添ったケアを届けるためには、まずスタッフ自身が心身ともに健やかでなければなりませんから」 その言葉通り、エールではスタッフのスケジュール調整や健康管理にきめ細やかな配慮がなされています。緊急当番で夜間に対応が発生した際は、翌日の午後から勤務にする、もしくは午後は在宅勤務で記録業務に専念する——。そんな柔軟な体制を整えていると言います。 「看護の現場では“その日そのとき”に100%のパフォーマンスを求められます。エールのスタッフは、一人一人がプロとして120%、時には200%のパフォーマンスで利用者様に接しています。だからこそ、疲労や不安を溜め込まないように、できる限りの支援はしたいと考えています」 谷島さんの語る言葉の端々には、看護師という職業への深い理解と、仲間への信頼がにじみます。 支え合い、成長し合う——“誰も一人にしない”チームの力 訪問看護と聞くと、「一人で現場に出て孤独そう」「困ったときに相談できる相手がいないのでは」といった不安を感じる方も多いかもしれません。しかし、エール訪問看護リハビリステーションはその“孤立”とは無縁のチーム体制を築いています。 「確かに、訪問中は基本的に一人。でも、ステーションに戻れば、必ず誰かがいて話せる。『それで合っていたよ』『次はこうしたらいいかもね』と、自然と会話が生まれる場所なんです」 そうした文化を支えているのが、毎日の朝夕の申し送りと月2回の症例カンファレンス。看護師とリハビリスタッフが一体となり、情報共有と対話を通じてチーム全体でのケアの質を高めています。 「〇〇さんといえば、この対応だよね、と全員がわかる状態が理想。利用者さんの情報を“誰かだけ”が知っているということがないようにしています」 また、新人教育においても、チームの“支え合い文化”は徹底されている。プリセプター制度のもと、入職初期には経験者が同行訪問を行いながら実践的な学びをサポート。さらに、管理者・代表との定期面談によって不安や疑問を拾い上げ、フォローにつなげる仕組みがあります。 「訪問看護が初めての方も多いので、“できて当たり前”という前提では接しません。“玄関では靴を揃えてから入室しましょう”という在宅ならではの接遇から、丁寧に教えています」 新人の1日の訪問件数は最大でも4件までに設定されており、利用者との信頼関係を築くことと、記録業務にゆとりを持って取り組むことの両立を大切にしています。 「教える側も、自分が初めて訪問に出たときの緊張感や不安をちゃんと覚えています。だからこそ、“大丈夫だよ、みんなそうだったよ”と言ってあげられる人が多いんです」 エールのスタッフが互いを思いやりながら日々を過ごしている理由——それは単なる職場のルールではなく、“支え合う空気”がごく自然に根づいているからなのです。 和やかな雰囲気で申し送りをするスタッフの皆さん 地域とつながる訪問看護——寸劇も、顔の見える連携も 「ケアマネ役で舞台に立ちましたよ。セリフが長くて、練習も大変だったけど、楽しかったですね」 そう語る谷島さんの顔には、思わず笑みがこぼれていました。 これは、豊島区の東部医療介護事業所学習交流会における出来事。地域住民や他事業所との連携を目的としたイベントで、エール訪問看護は、訪問歯科のチームと一緒に寸劇を行ったそうです。 「“ああ、こういうシーンあるよね”って、見ていた方々が笑ってくださったんです。医療や介護をちょっと身近に感じていただけたら、それだけで十分価値があると思っています」 この寸劇への参加は単なる余興ではない。エールが大切にする「地域との顔の見える関係づくり」を、まさに体現した活動です。 谷島さんによると、医師会・訪問介護・ケアマネ・訪問入浴など、多職種との横のつながりは、地域包括支援センターを起点に日常的に行われています。 「例えば、Aさんに関する情報を、ケアマネ・リハ・ヘルパーと共有して、“何か変化あった?”って聞き合える関係性があるだけで、支援の精度がぐんと上がるんですよね」 そのために重要なのが、電話やメールだけに頼らない「顔を合わせたコミュニケーション」。エールでは可能な限り現地での会議や同行訪問を通じて、相手と直接話す機会を大切にしています。 そうした取り組みにより、地域の方々からの信頼が厚くなり、「最近では、新規の利用者さんからのご依頼も増えているんです」と実績に繋がっていることを話してくださいました。 また、こうした連携を支えているのが、現場スタッフだけでなく、代表取締役・久保愛子さんの存在。久保さんは代表取締役でありながら、スタッフと一緒に訪問を行い、何より現場の理解を重要視。医療者として何ができるかを経営の立場で考えています。 「私も学習交流会に顔を出して、地域の皆さんとの繋がりを大切にしているんです。谷島さんが長いセリフを頑張って演じてくださって大盛況でした。新人教育の定期面談も入るようにし、スタッフの生の声をしっかりと聞きたいと考えています。」 久保さんのその言葉には、経営者としての目線と、現場を支える“応援者”としての気持ちが重なっていました。 利用者さんのお宅へ向かう谷島さん 『無理なく、楽しく働ける場所』を目指して 谷島さんに「訪問看護のいちばんの魅力は何ですか?」と聞くと、少し考えてから、こう答えてくれた。 「“自分の看護”ができること、ですかね。利用者さんと30分なり1時間なり、途切れずに向き合えるんです。『ちょっと待っててくださいね』がない。あれって実は、すごく大きな違いなんですよ」 病棟では次々に来るコール、処置、時間との戦い——。それらがない空間で、自分のペースで、その人の暮らしや想いを汲みながら看護を組み立てる自由さと責任。その両方が訪問看護の醍醐味なのだと話されます。 とはいえ、「自由」は孤独を伴いやすい。だからこそ、エールでは「一人で悩ませない」体制が何よりも重視されています。 「“訪問先で、これでよかったのかな?”と感じたとき、ステーションに戻ってすぐに誰かに聞ける。『それで合ってたよ、大丈夫』って言ってもらえる。それだけで、すごく安心できるんですよね」 そして、エールが目指しているのは、「誰もが無理なく、楽しく働ける場所」であること。 「うちは、無理してがんばる人を増やすのではなく、その人らしく働ける形を一緒に探していくステーションです。職種の垣根もなくて、リハさんとも自然に相談し合えるんです」 “この職場でなら、長く働けそう”——  そう感じてもらえるような環境づくりを、スタッフ全員で少しずつ積み上げてきたのだそうです。 今後について尋ねると、谷島さんは「個々の看護師が自分の“武器”を持って、地域医療に貢献できるようになれたら」と語られました。 「得意なこと、関心のあることを深めて、それぞれの強みを活かす。そうして“この町の看護、すごくいいね”って言われるようになれたら嬉しいですね」 そして最後に、求職者の方へのメッセージをお願いすると、谷島さんは、少し照れながらこう語ってくれました。 「“訪問看護って、一人で全部こなさないといけないんじゃないか”って不安に思われる方もいるかもしれません。でも、うちには『一人じゃない』と実感できるチームがあります。ステーションに戻れば、誰かが『おかえり』って言ってくれる。そんな場所です」 すると、ここで久保代表が明るい声でひとこと—— 「ほんと、それがエールのいいところです!ツーショット写真、絶対載せてくださいね(笑)」 この職場には、経験の豊かさだけでなく、人と人との間にあるやさしい信頼が根づいていた。 インタビュアーより インタビュー中、谷島さんは一貫して穏やかで落ち着いた口調でした。しかし、ステーションの話、スタッフの話になると、言葉が自然と熱を帯びていくのが印象的でした。 「その後の生活に寄り添う」という訪問看護の本質に、30年の経験を経て真摯に向き合っておられる谷島さん。理念を「言葉」で語るだけでなく、「仕組み」や「日常のふるまい」として体現している姿が印象に残っています。 また、インタビューの途中から随所でコメントしてくださった久保代表の存在も大きく、ステーション全体に漂う温かい空気感の背景には、現場と経営がフラットに関わる関係性があるのだと感じました。 “自分が幸せであることが、良い看護につながる”——  この理念を、一過性のスローガンではなく、日々の行動に落とし込んでいる現場でした。 事業所概要 事業所名:エール訪問看護リハビリステーション 所在地:東京都豊島区南大塚2‐29‐9サンレックス203 運営法人:株式会社ダイシン 事業所紹介ページ: https://ns-pace-career.com/facilities/16374 NsPace Career 記事提供:NsPace Careerナビ編集部 NsPace Careerナビでは、今回の記事のほかにも多数の事業所情報や役立つコンテンツを掲載しています。ご興味のある方はぜひこちらもご覧ください。サイト: https://ns-pace-career.com/media/

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